蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 162 (367. 368.)

367.

Sabbaso nāma-rūpasmiṃ yassa n'atthi mamāyitaṃ,

全く    名色に於て   所の者 否/あり 我が物と為す

asatā  ca na socati, sa ve bhikkhū ti vuccati.

無きが故に 又 否 憂う 其は 実に 比丘 と 言はる

(名色に於て聊(いささ)かも我が物と為すことの無く、されど有ること無きが故に憂ふること無き者、そは実に比丘と言はる。)

名称と形について「わがもの」という思いが全く存在しないで、何ものも無いからとて憂えることの無い人、──彼こそ〈修行僧〉と呼ばれる。

 sabbaso: adv. [sabba の abl.] あまねく

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

 nāma-rūpasmiṃ: nāma-rūpa の loc. sg.

  nāma-rūpa: 名色

   nāma: n. 名  a. ~という名の

   rūpa: n. 色, 物質, 肉体, 形相, 容姿, 像, 相, 画, 人形

 yassa: ya の gen. sg. m.*1

  ya: pron. rel. 所のもの

 n'atthi: na*2 + atthi

  na: adv. なし

  atthi: [√as(a)]*3 ある, 存在する

 mamāyitaṃ: mamāyita の nom. sg. n.

  mamāyita: a. n. [mamāyati の pp.] 我所執せる; 我所執, 我所見

   mamāyati: [mama の denom.*4] わがものとする, 我所執をなす

    mama: pron. [ahaṃ の dat., gen.]*5 私の, 私のもの, 我所

     ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*6

 asatā: asat の ins. sg. n.*7

  asat: =asant  a. [a-sat] 存在しない, 所有しない, 不実の, 不善の, 不真の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   sat: =sant  a. [atthi の ppr.]*8 ありつつ, 存在の; 善なる

    atthi: [√as(a)]*9 ある, 存在する

 ca: conj. と, そして, また

 na: adv. なし

 socati: [√suc(a), Sk. śuc]*10 愁う, うれう, 悲しむ

 sa: =so  ta の nom. sg. m.*11

  ta: pron. それ

 ve: adv. 実に

 bhikkhū: =bhikkhu  m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者  nom. sg.

  √bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食

  -u: 名詞・形容詞を形成する*12

 ti: ind. [iti の略] と, かく

 vuccati: [√vac の pass.]*13 言われる

  √vac(a): 言う, 話す

 

368.

Mettā-vihārī yo bhikkhu, pasanno buddha-sāsane,

慈しみに住す 所の者 比丘は 喜べる  仏の教へを

adhigacche padaṃ santaṃ saṅkhār'ūpasamaṃ sukhaṃ.

到達すべし  境地に 寂静の   行の静まれる   安楽なる

(慈しみに住し仏の教えを喜べる比丘は、行の静まり安楽なる寂静の境地に到達すべし。)

仏の教へを喜び、慈しみに住する修行僧は、動く形成作用の静まった、安楽な、静けさの境地に到達するであろう。

 mettā-vihārī: mettā-vihārin の nom. sg. m.*14

  mettā-vihārin: 慈住者

   metta: =mettā  a. n. [<mitta] 友情ある, 慈

    mitta: m. n. 友, 友人, 朋友

   vihārin: a. [vi-har*15-in] 住者, 住ある

    vi-: 語根の意味を強調する*16

    har(a): ある, 存在す

    -in: 所有形容詞を形成する*17

 yo: ya の nom. sg. m.

 pasanno: pasanna の nom. sg. m.

  pasanna: a. [pasīdati の pp.]*18 明浄の, 澄浄の, 浄信ある, 已信の, 喜べる

   pasīdati: [pa-sīdati] 浄まる, 喜ぶ, 信ずる

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19

    sīdati: [√sad(a)]*20 沈む, 没す

 buddha-sāsane: buddha-sāsana の loc. sg.*21

  sāsana: n. [sās-ana] 教, 教説, 信書, 使書, 通牒

   √sās(a): [Sk. śās] 教諭, 教導

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*22

 adhigacche: adhigacchati の opt.*23

  adhigacchati: [adhi-gacchati] 到達す, 証得す

   adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*24

   gacchati: [√gam(u)]*25 行く

 padaṃ: pada の acc. sg.

  pada: n.  [pad-a] 足; 足跡, 歩; 句, 語法; 場所

   √pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道

   -a: 名詞・形容詞を形成する*26

 santaṃ: santa の acc. sg. n.

  santa: a. [sammati の pp.]*27 寂静の, 寂止の, 寂者

   sammati: [√sam(u), Sk. śam]*28 静まる, 寂止す, 休息す, 住む

 saṅkhār'ūpasamaṃ: saṅkhār'ūpasama の acc. sg.

  saṅkhār'ūpasama: saṅkhāra + upasama*29

   saṅkhāra: m. [saṃ*30-kar*31-a] 行, 為作(行為とその習慣力), 形成力, 現象

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*32

    √kar(a): [Sk. kṛ] なす, 作す, 作る

   upasama: m. [upa-sama] 寂静, 寂止, 休息, 止息

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*33

    sama: m. [sam-a] 寂, 静, 平静

     √sam(u): [Sk. śam] 平安, 静寂

 sukhaṃ: sukha の acc. sg. n.

  sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福

   √sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる