367.
Sabbaso nāma-rūpasmiṃ yassa n'atthi mamāyitaṃ,
全く 名色に於て 所の者 否/あり 我が物と為す
asatā ca na socati, sa ve bhikkhū ti vuccati.
無きが故に 又 否 憂う 其は 実に 比丘 と 言はる
(名色に於て聊(いささ)かも我が物と為すことの無く、されど有ること無きが故に憂ふること無き者、そは実に比丘と言はる。)
名称と形について「わがもの」という思いが全く存在しないで、何ものも無いからとて憂えることの無い人、──彼こそ〈修行僧〉と呼ばれる。
sabbaso: adv. [sabba の abl.] あまねく
sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの
nāma-rūpasmiṃ: nāma-rūpa の loc. sg.
nāma-rūpa: 名色
nāma: n. 名 a. ~という名の
rūpa: n. 色, 物質, 肉体, 形相, 容姿, 像, 相, 画, 人形
yassa: ya の gen. sg. m.*1
ya: pron. rel. 所のもの
n'atthi: na*2 + atthi
na: adv. なし
atthi: [√as(a)]*3 ある, 存在する
mamāyitaṃ: mamāyita の nom. sg. n.
mamāyita: a. n. [mamāyati の pp.] 我所執せる; 我所執, 我所見
mamāyati: [mama の denom.*4] わがものとする, 我所執をなす
mama: pron. [ahaṃ の dat., gen.]*5 私の, 私のもの, 我所
ahaṃ: pron. 私は, 私が nom. sg.*6
asatā: asat の ins. sg. n.*7
asat: =asant a. [a-sat] 存在しない, 所有しない, 不実の, 不善の, 不真の
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
sat: =sant a. [atthi の ppr.]*8 ありつつ, 存在の; 善なる
atthi: [√as(a)]*9 ある, 存在する
ca: conj. と, そして, また
na: adv. なし
socati: [√suc(a), Sk. śuc]*10 愁う, うれう, 悲しむ
sa: =so ta の nom. sg. m.*11
ta: pron. それ
ve: adv. 実に
bhikkhū: =bhikkhu m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者 nom. sg.
√bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食
-u: 名詞・形容詞を形成する*12
ti: ind. [iti の略] と, かく
vuccati: [√vac の pass.]*13 言われる
√vac(a): 言う, 話す
368.
Mettā-vihārī yo bhikkhu, pasanno buddha-sāsane,
慈しみに住す 所の者 比丘は 喜べる 仏の教へを
adhigacche padaṃ santaṃ saṅkhār'ūpasamaṃ sukhaṃ.
到達すべし 境地に 寂静の 行の静まれる 安楽なる
(慈しみに住し仏の教えを喜べる比丘は、行の静まり安楽なる寂静の境地に到達すべし。)
仏の教へを喜び、慈しみに住する修行僧は、動く形成作用の静まった、安楽な、静けさの境地に到達するであろう。
mettā-vihārī: mettā-vihārin の nom. sg. m.*14
mettā-vihārin: 慈住者
metta: =mettā a. n. [<mitta] 友情ある, 慈
mitta: m. n. 友, 友人, 朋友
vihārin: a. [vi-har*15-in] 住者, 住ある
vi-: 語根の意味を強調する*16
√har(a): ある, 存在す
-in: 所有形容詞を形成する*17
yo: ya の nom. sg. m.
pasanno: pasanna の nom. sg. m.
pasanna: a. [pasīdati の pp.]*18 明浄の, 澄浄の, 浄信ある, 已信の, 喜べる
pasīdati: [pa-sīdati] 浄まる, 喜ぶ, 信ずる
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19
sīdati: [√sad(a)]*20 沈む, 没す
buddha-sāsane: buddha-sāsana の loc. sg.*21
sāsana: n. [sās-ana] 教, 教説, 信書, 使書, 通牒
√sās(a): [Sk. śās] 教諭, 教導
-ana: 名詞・形容詞を形成する*22
adhigacche: adhigacchati の opt.*23
adhigacchati: [adhi-gacchati] 到達す, 証得す
adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*24
gacchati: [√gam(u)]*25 行く
padaṃ: pada の acc. sg.
pada: n. [pad-a] 足; 足跡, 歩; 句, 語法; 場所
√pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道
-a: 名詞・形容詞を形成する*26
santaṃ: santa の acc. sg. n.
santa: a. [sammati の pp.]*27 寂静の, 寂止の, 寂者
sammati: [√sam(u), Sk. śam]*28 静まる, 寂止す, 休息す, 住む
saṅkhār'ūpasamaṃ: saṅkhār'ūpasama の acc. sg.
saṅkhār'ūpasama: saṅkhāra + upasama*29
saṅkhāra: m. [saṃ*30-kar*31-a] 行, 為作(行為とその習慣力), 形成力, 現象
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*32
√kar(a): [Sk. kṛ] なす, 作す, 作る
upasama: m. [upa-sama] 寂静, 寂止, 休息, 止息
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*33
sama: m. [sam-a] 寂, 静, 平静
√sam(u): [Sk. śam] 平安, 静寂
sukhaṃ: sukha の acc. sg. n.
sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福
√sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる
*1:『実用パーリ語文法』関係代名詞 312. ya の曲用
*4:denominative 名詞形容詞由来動詞
*7:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)