蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 2 (4-6.)

4.

Yo mānamudabbadhī asesaṃ

所の 驕慢を/破壊す 余す事無く 

naḷa-setuṃ va sudubbalaṃ mahogho,

葦の橋を  如く 極めて弱き 大暴流が

so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.

其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の

(大暴流が極めて弱き葦の橋を破壊する如く、驕慢を余すこと無く破壊し尽くせるその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯せる前の皮を捨つる如く。)

激流が弱々しい葦の橋を壊すように、すっかり驕慢を滅ぼし尽した修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。

 yo: ya の nom. sg. m.*1

  ya: pron. rel. 所のもの

 mānamudabbadhī: mānaṃ*2 + udabbadhī

  mānaṃ: māna の acc. sg.

   māna: m. [man*3-a] 慢, 慢心, 憍慢

    √man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る

    -a: 名詞・形容詞を形成する*4

  udabbadhī: =udabbadhi  [ud-abbadhi] ubbadhati の aor. sg.*5

   ubbadhati: [ud-vadhati] 殺す, 破壞す

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*6

    vadhati: [√vadh] 殺す, 殺害す, 打つ

 asesaṃ: adv. [asesa の acc.]*7 余すことなく

  asesa: a- + sesa

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   sesa: m. [sis*8-a] 残余, 余り

    √sis(a): [Sk. śiṣ] 傷つける, 区別する, 残しておく, 節約する

 naḷa-setuṃ: naḷa-setu の acc. sg.

  naḷa-setu: 葦の堤

   naḷa: =nala  m. 葦, 芦, あし

   setu: m. 橋

 va: [iva の略] indecl. 如く

 sudubbalaṃ: sudubbala の acc. sg. m.

  sudubbala: a. [su-dubbala] 極めて弱き

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   dubbala: a. [du-bala] 弱き, 薄弱の

    du-: =dur-  pref. 悪き, 難き

    bala: a. n. 強き; 力, 威力, 軍隊

 mahogho: mahogha の nom. sg.

  mahogha: mahā*9 + ogha

   mahā: =mahant  a. 大なる, 偉大の

   ogha: m. 暴流, 流, 洪水

 so: ta の nom. sg. m.*10 それは, 彼は

  ta: pron. それ

 bhikkhu: m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者  nom. sg.

  √bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食

  -u: 名詞・形容詞を形成する*11

 jahāti: =jahati  [√hā]*12 捨つ, 断ず

 ora-pāraṃ: ora-pāra の acc. sg.

  ora: a. [o- (=ava-) の比較級] 低き, 劣れる, 卑近の, 此岸の

   o-: =ava-  pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*13

  pāra: n. a. [para*14-a] 彼岸, 彼方, 他の

   para: a. 他の, 彼方の, 上の

 urago: uraga の nom. sg. m.

 jiṇṇamiva: jiṇṇaṃ*15 + iva

  jiṇṇaṃ: jiṇṇa の acc. sg. n.

   jiṇṇa: a. [jīrati の pp.]*16 老いたる, 老衰せる, 枯朽の

    jīrati: =jīrayati  [√jīr(a)] 老ゆ, 老衰す, 亡ぶ; 消化す

 tacaṃ: taca の acc. sg.

  taca: n. 皮, 皮膚, 深皮, 樹皮, 皮材

 purāṇaṃ: pura の gen. pl. n.*17

  pura: a. 前の, 前方の

 

5.

Yo n'ajjhagamā bhavesu sāraṃ vicinaṃ pupphamiva udumbaresu,

所の 否/得り 諸存在に於て 堅実を 探しある 花を/如く 無花果の間に

so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.

其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の

(無花果(いちじく)の林の内に花を探す如く、諸の生存に於て堅固さを認むること無きその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯せる前の皮を捨つる如く。)

無花果の樹の林の中に花を探し求めても得られないように、諸々の生存状態のうちに堅固なものを見出さない修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。

 n'ajjhagamā: na*18 + ajjhagamā

  na: adv. なし

  ajjhagamā: [adhi*19-agamā] adhigacchati の aor. 2sg.*20

   adhigacchati: [adhi-gacchati] 到達す, 証得す

    adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*21

    gacchati: [√gam(u)]*22 行く

 bhavesu: bhava の loc. pl.

  bhava: m. [bhū-a*23] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福

   √bhū: ある, 存す

 sāraṃ: sāra の acc. sg.

  sāra: m. 堅実, 真実, 真髄, 核, 核心, 樹心, 心材, 堅材

 vicinaṃ: vicināti の ppr. nom. sg. m.*24

  vicināti: =vicinati  [vi-cināti] 簡別す, 集める, 調査す, 考察す

   vi-: 語根の意味を強調する*25

   cināti: [√ci]*26 積む, 集む

 pupphamiva: pupphaṃ*27 + iva

  pupphaṃ: puppha の acc. sg.

   puppha: n. 花, 華; 月華, 月経

  iva: indecl. 如く

 udumbaresu: udumbara の loc. pl.

  udumbara: m. 優曇婆羅, 優曇華, 無花果, いちじく

 

6.

Yass'antarato na santi kopa iti-bhavābhavatañca vītivatto,

所の/内に   否 あり 忿が 斯くあるかあらざるを/又 超越せる

so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.

其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の

(内に怒りのあること無く、また斯くあるかあらざることを超越せるその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯せる前の皮を捨つる如く。)

内に怒ることなく、世の栄枯盛衰を超越した修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。

 Yass'antarato: Yassa*28 + antarato

  yassa: ya の gen. sg. m.*29

   ya: pron. rel. 所のもの

  antarato: adv. [antara の abl.*30]*31 内に

   antara: a. n. prep. 内の, 中間の; 機会, 中間, 障碍

 santi: atthi の pl.*32

  atthi: [√as(a)]*33 ある, 存在する

 kopa: m. [kup*34-a] 忿恨, 憤怒, 怒気

  √kup(a): 忿怒

 iti-bhavābhavatañca: iti-bhavābhavataṃ*35 + ca

  iti: indecl. かく, ~と, とて

  bhavābhavataṃ: bhava-abhavataṃ*36

   abhavataṃ: a- + bhavataṃ

    bhavataṃ: bhavati の ppr. acc. sg. m.*37

     bhavati: [√bhū]*38 ある, 存在する

 vītivatto: vītivatta の nom. sg. m.

  vītivatta: a. [vi-ati*39-vat の pp.] 越えた, 超越した, 過ぎた, 経過した

   vi-: 語根の意味を強調する*40

   ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*41

   √vat(u): [Sk. vṛt] 存す