4.
Yo mānamudabbadhī asesaṃ
所の 驕慢を/破壊す 余す事無く
naḷa-setuṃ va sudubbalaṃ mahogho,
葦の橋を 如く 極めて弱き 大暴流が
so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.
其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の
(大暴流が極めて弱き葦の橋を破壊する如く、驕慢を余すこと無く破壊し尽くせるその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯朽せる前の皮を捨つる如く。)
激流が弱々しい葦の橋を壊すように、すっかり驕慢を滅ぼし尽した修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。
yo: ya の nom. sg. m.*1
ya: pron. rel. 所のもの
mānamudabbadhī: mānaṃ*2 + udabbadhī
mānaṃ: māna の acc. sg.
māna: m. [man*3-a] 慢, 慢心, 憍慢
√man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る
-a: 名詞・形容詞を形成する*4
udabbadhī: =udabbadhi [ud-abbadhi] ubbadhati の aor. sg.*5
ubbadhati: [ud-vadhati] 殺す, 破壞す
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*6
vadhati: [√vadh] 殺す, 殺害す, 打つ
asesaṃ: adv. [asesa の acc.]*7 余すことなく
asesa: a- + sesa
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
sesa: m. [sis*8-a] 残余, 余り
√sis(a): [Sk. śiṣ] 傷つける, 区別する, 残しておく, 節約する
naḷa-setuṃ: naḷa-setu の acc. sg.
naḷa-setu: 葦の堤
naḷa: =nala m. 葦, 芦, あし
setu: m. 橋
va: [iva の略] indecl. 如く
sudubbalaṃ: sudubbala の acc. sg. m.
sudubbala: a. [su-dubbala] 極めて弱き
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
dubbala: a. [du-bala] 弱き, 薄弱の
du-: =dur- pref. 悪き, 難き
bala: a. n. 強き; 力, 威力, 軍隊
mahogho: mahogha の nom. sg.
mahogha: mahā*9 + ogha
mahā: =mahant a. 大なる, 偉大の
ogha: m. 暴流, 流, 洪水
so: ta の nom. sg. m.*10 それは, 彼は
ta: pron. それ
bhikkhu: m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者 nom. sg.
√bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食
-u: 名詞・形容詞を形成する*11
jahāti: =jahati [√hā]*12 捨つ, 断ず
ora-pāraṃ: ora-pāra の acc. sg.
ora: a. [o- (=ava-) の比較級] 低き, 劣れる, 卑近の, 此岸の
o-: =ava- pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*13
pāra: n. a. [para*14-a] 彼岸, 彼方, 他の
para: a. 他の, 彼方の, 上の
urago: uraga の nom. sg. m.
jiṇṇamiva: jiṇṇaṃ*15 + iva
jiṇṇaṃ: jiṇṇa の acc. sg. n.
jiṇṇa: a. [jīrati の pp.]*16 老いたる, 老衰せる, 枯朽の
jīrati: =jīrayati [√jīr(a)] 老ゆ, 老衰す, 亡ぶ; 消化す
tacaṃ: taca の acc. sg.
taca: n. 皮, 皮膚, 深皮, 樹皮, 皮材
purāṇaṃ: pura の gen. pl. n.*17
pura: a. 前の, 前方の
5.
Yo n'ajjhagamā bhavesu sāraṃ vicinaṃ pupphamiva udumbaresu,
所の 否/得り 諸存在に於て 堅実を 探しある 花を/如く 無花果の間に
so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.
其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の
(無花果(いちじく)の林の内に花を探す如く、諸の生存に於て堅固さを認むること無きその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯朽せる前の皮を捨つる如く。)
無花果の樹の林の中に花を探し求めても得られないように、諸々の生存状態のうちに堅固なものを見出さない修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。
n'ajjhagamā: na*18 + ajjhagamā
na: adv. なし
ajjhagamā: [adhi*19-agamā] adhigacchati の aor. 2sg.*20
adhigacchati: [adhi-gacchati] 到達す, 証得す
adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*21
gacchati: [√gam(u)]*22 行く
bhavesu: bhava の loc. pl.
bhava: m. [bhū-a*23] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福
√bhū: ある, 存す
sāraṃ: sāra の acc. sg.
sāra: m. 堅実, 真実, 真髄, 核, 核心, 樹心, 心材, 堅材
vicinaṃ: vicināti の ppr. nom. sg. m.*24
vicināti: =vicinati [vi-cināti] 簡別す, 集める, 調査す, 考察す
vi-: 語根の意味を強調する*25
cināti: [√ci]*26 積む, 集む
pupphamiva: pupphaṃ*27 + iva
pupphaṃ: puppha の acc. sg.
puppha: n. 花, 華; 月華, 月経
iva: indecl. 如く
udumbaresu: udumbara の loc. pl.
udumbara: m. 優曇婆羅, 優曇華, 無花果, いちじく
6.
Yass'antarato na santi kopa iti-bhavābhavatañca vītivatto,
所の/内に 否 あり 忿が 斯くあるかあらざるを/又 超越せる
so bhikkhu jahāti ora-pāraṃ, urago jiṇṇamiva tacaṃ purāṇaṃ.
其は 比丘は 捨つ 此岸と彼岸を 蛇が 枯朽せる/如く 皮を 前の
(内に怒りのあること無く、また斯くあるかあらざることを超越せるその比丘は、此岸と彼岸を捨つ。蛇が枯朽せる前の皮を捨つる如く。)
内に怒ることなく、世の栄枯盛衰を超越した修行者は、この世とかの世をともに捨て去る。──蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。
Yass'antarato: Yassa*28 + antarato
yassa: ya の gen. sg. m.*29
ya: pron. rel. 所のもの
antarato: adv. [antara の abl.*30]*31 内に
antara: a. n. prep. 内の, 中間の; 機会, 中間, 障碍
santi: atthi の pl.*32
atthi: [√as(a)]*33 ある, 存在する
kopa: m. [kup*34-a] 忿恨, 憤怒, 怒気
√kup(a): 忿怒
iti-bhavābhavatañca: iti-bhavābhavataṃ*35 + ca
iti: indecl. かく, ~と, とて
bhavābhavataṃ: bhava-abhavataṃ*36
abhavataṃ: a- + bhavataṃ
bhavataṃ: bhavati の ppr. acc. sg. m.*37
bhavati: [√bhū]*38 ある, 存在する
vītivatto: vītivatta の nom. sg. m.
vītivatta: a. [vi-ati*39-vat の pp.] 越えた, 超越した, 過ぎた, 経過した
vi-: 語根の意味を強調する*40
ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*41
√vat(u): [Sk. vṛt] 存す