337.
Taṃ vo vadāmi bhaddaṃ vo yāvant'ettha samāgatā,
其を 汝らに 告ぐ 幸が 汝らに 所の/ここに 来集せる
taṇhāya mūlaṃ khaṇatha, usīr'attho va bīraṇaṃ,
渇欲の 根を 掘り出せ 香根を求むる者が 如く 香菜を
mā vo naḷaṃ va soto va māro bhañji punappunaṃ.
勿れ 汝らを 葦を 如く 流水が 如く 魔が 破る 再三再四
(我はこれを汝らに告ぐ。ここに来集せる汝らに幸あれ。渇欲の根を掘り出せ。香根を求むる者が香菜を掘る如く。流水が葦を破る如く、魔が汝らを再三再四と破ることなかれ。)
さあ、みなさんに告げます。──ここに集まったみなさんに幸あれ。欲望の根を掘れ。──(香(かぐわ)しい)ウシーラ根を求める人がビーラナ草を掘るように。葦が激流に砕かれるように、魔にしばしば砕かれてはならない。
taṃ: ta の acc. sg.*1
ta: pron. それ
vo: tvaṃ の acc. pl.*2
tvaṃ: 汝, 君
vadāmi: vadati の 1sg.
vadati: [√vad(a)] 言う, 説く, 告げる
bhaddaṃ: bhadda の nom. sg. n.*3
bhadda: =bhadra a. n. m. [<bhad] 賢き, 吉祥の, 吉瑞; 牛; 矢の一種
√bhad(i): 善, 吉
vo: tvaṃ の gen. pl.*4
yāvant'ettha: yāvanto*5 + ettha
yāvanto: yāvant の nom. sg. m.*6
yāvant: a. [ya*7-vant] 所のそれだけ
ya: pron. rel. 所のもの
-vant: 所有形容詞を形成する*8
ettha: adv. [e-tha*9] ここに
e: eta の 語基*10
eta: pron. a. これ, それ
-tha: 場所を表す副詞を形成する*11
samāgatā: samāgata の nom. pl. m.
samāgata: samāgacchati の pp.*12
samāgacchati: [saṃ*13-āgacchati] 来集す, 到来す, 会合す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*14
āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る
ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*15
gacchati: [√gam(u)]*16 行く
taṇhāya: taṇhā の gen. sg.*17
taṇhā: f. [Sk. tṛṣṇā] 渇愛, 愛, 愛欲
tṛṣṇā: 渇き; 欲望, 貪欲
mūlaṃ: mūla の acc. sg.
mūla: n. 根, 根本, 元金, 代価
khaṇatha: khaṇati の imp. 2pl.*18
khaṇati: [√khan(u)] 掘る, 掘り出す
usīr'attho: usīr'attha の nom. sg. m.
usīr'attha: usīra*19-attha
usīra: m. n. ビーラナ草の根, 香根
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
-a: 名詞・形容詞を形成する*20
va: =iva indecl. 如く
bīraṇaṃ: bīraṇa の acc. sg.
bīraṇa: m. n. 毘羅那, 香草
mā: adv. なかれ [禁止, 強い決意, 否定的願望, 未来への危惧, 疑問, 否定等を示す]
naḷaṃ: naḷa の acc. sg.
naḷa: =nala m. 葦, 芦, あし
soto: sota の nom. sg.
sota: m. n. [su*21-ta] 流, 流水, 流口
√su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る
-ta: 名詞を形成する*22
māro: māra の nom. sg.
māra: m. [mar*23-a] 魔, 悪魔, 魔羅, 魔王, 死神
√mar(a): [Sk. mṛ] 死ぬ, 殺す
bhañji: bhañjati の aor.*24
bhañjati: [√bhañj] 破る, 破壊す
punappunaṃ: adv. [punappuna の 対格]*25 再三再四
punappuna: puna + puna*26
puna: adv. conj. さらに, 再び
338.
Yathā pi mūle anupaddave daḷhe
如く 雖も 根に 危難無き 堅固なる
chinno pi rukkho punareva rūhati,
切られたる 雖も 木は 再び/唯 生長す
evaṃ pi taṇh'ānusaye anūhate
斯く 亦 愛随眠に 根絶されざる
nibbattatī dukkhamidaṃ punappunaṃ.
生ず 苦が/この 再三再四
(たとひ切られたると雖もなほ危難無き堅固なる根に木はただ再び生長する如く、斯くの如くまた根絶されざる愛随眠に、この苦は再三再四と生ず。)
たとえ樹を切っても、もしも頑強な根を断たなければ、樹が再び成長するように、妄執(渇愛)の根源となる潜勢力をほろぼさないならば、この苦しみはくりかえし現われ出る。
yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し
ya: pron. rel. 所のもの
-thā: 副詞を形成する*27
pi: =api indecl. 亦, も亦, 恐らく, 雖も
mūle: mūla の acc. pl.
anupaddave: anupaddava の loc. sg.
anupaddava: a. [an-upaddava] 危難なき, 安全なる
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる
upaddava: m. [upa-dava*28] 禍, 害, 横災, 困厄
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*29
dava: [du-a*30] 火, 熱
√du: 焼く, 苦しめる, 苦しむ, 苦痛を与える, 悲しませる
daḷhe: daḷha の loc. pl.
daḷha: a. 堅固の, 確固たる
chinno: chinna の nom. sg. m.
chinna: a. [chindati の pp.]*31 切断されたる, 切られたる
chindati: [√chid]*32 切る, 断つ, 切断す
rukkho: rukkha の nom. sg.
rukkha: m. 木, 樹木
punareva: puna*33 + eva
puna: adv. conj. さらに, 再び
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, 強意
rūhati: [√ruh(a)] 生長す, 栄える; 治癒す; 影響す
evaṃ: adv. かく, かくの如く
taṇh'ānusaye: taṇh'ānusaya の loc. sg.
taṇh'ānusaya: [taṇhā-anusaya*34] 愛随眠
anusaya: m. [anu-sī-a*35] 随眠, 煩悩, 使
anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで, ~より少なく, ~の結果, ~の下で*36
√sī: [Sk. śī] 臥す, 眠る
anūhate: anūhata の loc. sg.
anūhata: a. [an-ūhata] 根絶されざる, 破壊されざる
ūhata: a. [ūhaññati の pp.]*37 汚されたる, 乱されたる
ūhaññati: [ūhanati の pass.]*38 汚される, 乱される
ūhanati: [ud-hanati] 乱す, 汚す, 切断す, 放出す, 排便す
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*39
hanati: [√han(a)] 殺す, 害す, 破壊す, 打つ
nibbattatī: =nibbattati [ni-vattati*40] 生ずる, 発生す, 生起す
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *41
vattati: [√vat(u), Sk. vṛt] 転ずる, 起こる, 存在する
dukkhamidaṃ: dukkhaṃ*42 + idaṃ
dukkhaṃ: dukkha の nom. sg.
dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩
√dukkh(a): [Sk. duḥkha] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安
idaṃ: ayaṃ の nom. sg. n.*43
ayaṃ: pron. これ, この