蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 135 (304. 305.)

304.

Dūre santo pakāsenti, himavanto va pabbato,

遠くで 善なるは 輝かしむ 雪ある の如く 山

asant'ettha na dissanti, rattiṃ khittā yathā sarā.

不善なる/ここで 否 見らる 夜に 放たれたる の如く 矢

(善なる者は遠くに於て輝く(己れを輝かしむ)。雪ある山の如く。不善なる者はここに於て見らること無し。夜に放たれたる矢の如く。)

善き人々は遠くにいても輝く、──雪を頂く高山のように。善からぬ人々は近くにいても見えない、──夜陰に放たれた矢のように。

 dūre: dūra の loc. sg. m.

  dūra: a. 遠き, 遠隔の

 santo: sant の nom. sg. m.*1

  sant: a. [atthi の ppr.]*2 ありつつ, 存在の; 善なる

 pakāsenti: pakāseti の pl.

  pakāseti: [pakāsati の caus.]*3 説明す, 明らかにす, 知らせる

   pakāsati: [pa-kās] 輝やく, 明らかとなる, 知られる

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*4

    √kās(u): [Sk. kāś] 輝く, 現われる

 himavanto: himavant の nom. sg.*5

  himavant: m. [hima-vant] 雪山, ヒマラヤ山

   hima: n. 雪, 氷

   -vant: 名詞・所有形容詞を形成する*6

 va: =iva  indecl. 如く

 pabbato: pabbata の nom. sg.

  pabbata: m. 山, 山岳, 山の住人

 asant'ettha: asanto*7 + ettha

  asanto: asant の nom. sg. m.

   asant: =asat  a. [a-sant] 存在しない, 所有しない, 不実の, 不善の, 不真の

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

  ettha: adv. ここに

 na: adv. なし

 dissanti: dissati の pl.

  dissati: [√dis]*8 見える, 見られる

 rattiṃ: adv. [ratti の acc.]*9 夜に

  ratti: f. 夜

 khittā: khitta の nom. pl. m.

  khitta: a. [khipati の pp.]*10 投げられたる, 捨てられたる, 混乱せる

   khipati: [√khip(a), Sk. kṣip] 投ぐ, 捨つ, 混乱さす

 yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

  ya: pron. rel. 所のもの

  -thā: 副詞を形成する*11

 sarā: sara の nom. pl.

  sara: m. 葦(あし), 矢

 

305.

Ek'āsanaṃ eka-seyyaṃ eko caramatandito,

独り坐し   独り臥し  独り 行じある/懈怠無き

eko damayamattānaṃ van'ante ramito siyā.

独り 御しある/己れを  林の辺で 楽しめる たるべし

(独り坐し、独り臥し、独り行じある懈怠無き者、独り己れを御しあり、林の辺(ほとり)で楽しめる者たるべし。)

ひとり坐し、ひとり臥し、ひとり歩み、なおざりになることなく、わが身をととのえて、林のなかでひとり楽しめ。

 ek'āsanaṃ: ek'āsana の acc. sg.*12

  ek'āsana: eka*13 + āsana

   eka: a. num. 一, 一つ, 或る

   āsana: n. [ās-ana] 坐具, 坐所, 座

    √ās(a): 坐す, 座

    -ana: 名詞・形容詞を形成する*14

 seyyaṃ: seyyā の acc. sg.*15

  seyyā: f. 臥床, 寝床, 臥具, 臥法, 横臥

 eko: eka の nom. sg. m.

 caramatandito: caramatandita の nom. sg. m.

  caramatandita: caraṃ*16 + atandita

   caraṃ: carati の ppr. nom. sg. m.*17

    carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

   atandita: a. [a-tandita] 倦怠なき, 活動的な, 努力する

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

    tandita: a. [√tand の pp.]*18 倦怠の, 懶惰の

     √tand: 寛ぐ

 damayamattānaṃ: damayaṃ*19+ attānaṃ

  damayaṃ: damayati の ppr. nom. sg. m.*20

   damayati: =dameti  [dammati の caus.]*21 調御す, ならす, 練訓す

    dammati: [√dam(u)] ならされる, おとなしくなる

  attānaṃ: attan の acc. sg.*22

   attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体

 van'ante: van'anta の loc. sg.

  van'anta: vana*23 + anta

   vana: n. 林; 欲林, 欲望

   anta: m. 終極, 目的, 極限, 辺, 極端

 ramito: ramita の nom. sg. m.

  ramita: a. [ramati の pp.]*24 楽しめる, 喜ベる

   ramati: [√ram(u)] 楽しむ, 喜ぶ

 siyā: atthi の opt.*25  あるであろう, あれかし

  atthi: [√as(a)]*26 ある, 存在する