蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 148 (330. 331.)

330.

Ekassa caritaṃ seyyo, n'atthi bāle sahāyatā,

独りの 歩みが よりよき 無し 愚者に 友誼は

eko care  na ca pāpāni kayirā,

独り 歩むべし 否 又 悪を 為すべし

appossukko mātaṅg'araññe va nāgo.

求むる事少なき  象林の  の如く 象

(独りの歩みがよりよき。愚者に友誼は無し。独り歩むべし。また悪を為すべからず。求むること少なき象の林の象の如く。)

愚かな者を道伴れとするな。独りで行くほうがよい。孤独(ひとり)で歩め。悪いことをするな。求めるところは少なくあれ。──林の中にいる象のように。

 ekassa: eka の gen. sg. m.

  eka: a. num. 一, 一つ, 或る

 caritaṃ: carita の nom. sg. n.

  carita: a. n. m. [carati の pp.]*1 所行, 行ぜる, 行, 行為, 行者, 性行者, 性格者

   carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 seyyo: seyya の nom. sg. m.

  seyya: a. よりよき, よりすぐれた

 n'atthi: na*2 + atthi

  na: adv. なし

  atthi: [√as(a)]*3 ある, 存在する

 bāle: bāla の loc. sg.

  bāla: a. 愚なる, 愚痴の, 無知の; 若き, 新しき

 sahāyatā: f. [sahāya-tā] 親交, 友情, 友たること  nom. sg.

  sahāya: m. [saha-i-a*4] 朋友, 仲間, 僚友

   saha: prep. pref. 共に, 倶に

   √i: 行く

  -tā: 女性抽象名詞を形成する*5

 eko: eka の nom. sg. m.

 care: carati の opt.*6

 na: adv. なし

 ca: conj. と, そして, また

 pāpāni: pāpa の acc. pl.

  pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人

 kayirā: karoti の opt.*7

  karoti: [√kar(a), Sk. kṛ] なす, 行う, 作る

 appossukko: appossukka の nom. sg. m.

  appossukka: a. [appa-ussuka*8] 無関心の, 無為の, 不活動の

   appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細

   ussuka: a. 熱心になる, 貪欲なる

 mātaṅg'araññe: mātaṅga*9-arañña の loc. sg.

  mātaṅga: m. 象; 下層民; 植物名

  arañña: n. 空閑, 阿蘭若, 阿練若, 林野, 閑林, 空関処, 人里はなれた所

 

331.

Atthamhi jātamhi sukhā sahāyā, tuṭṭhī sukhā yā itarītarena,

事ある時に 生ぜる 楽しき 朋友等は 満足は 楽しき 所のもの あらゆる

puññaṃ sukhaṃ jīvita-saṅkhayamhi,

善は   楽しき   命の滅する時に

sabbassa dukkhassa sukhaṃ pahānaṃ.

全ての   苦の   楽しき   捨断は

(事の生ぜる時、朋友らは楽しく、あらゆることによれる満足は楽しきなり。善は命の滅するときに楽しく、全ての苦の捨断は楽しき。)

事がおこったときに、友だちのあるのは楽しい。(大きかろうとも、小さかろうとも)、どんなことにでも満足するのは楽しい。善いことをしておけば、命の終るときに楽しい。(悪いことをしなかったので)、あらゆる苦しみ(の報い)を除くことは楽しい。

 atthamhi: attha の loc. sg.*10

  attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

   √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

   -a: 名詞・形容詞を形成する*11

 jātamhi: jāta の loc. sg.

  jāta: a. [janati の pp.]*12 生ぜる, 発生の, 生起の

   janati: [√jan(a)] 生ずる, 産む

 sukhā: sukha の nom. sg. f.

  sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福

   √sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる

 sahāyā: sahāya の nom. pl.

 tuṭṭhī: =tuṭṭhi: f. [tus-ti*13] 満足, 知足  nom. sg.

  √tus(a): [Sk. tuṣ] 好む, 満足する

  -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*14

 yā: ya の nom. sg. f.*15

  ya: pron. rel. 所のもの

 itarītarena: itarītara の ins. sg.

  itarītara: [itara-itara*16] 彼此の, いかなる, あらゆる

   itara: a. 他の, 次の

 puññaṃ: puñña の nom. sg.

  puñña: n. 福, 善, 福徳, 功徳

 sukhaṃ: sukha の nom. sg. n.

 jīvita-saṅkhayamhi: jīvita-saṅkhaya の loc. sg.*17

  jīvita: n. [jīvati の pp.]*18 生命, 命, 壽命, 活命

   jīvati: [√jīv(a)] 生きる, 生存する

  saṅkhaya: m. [saṃ*19-khaya] 尽滅, 消滅, 滅亡

   saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*20

   khaya: m. [khi-a*21] 尽, 尽滅, 滅尽

    √khi: [Sk. kṣi] 消耗, 破壊

 sabbassa: sabba の gen. sg. m.

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

 dukkhassa: dukkha の gen. sg.

  dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩

   √dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安

 pahānaṃ: pahāna の nom. sg.

  pahāna: n. [pa-hāna] 捨, 断, 捨断, 捨離

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*22

   hāna: n. [hā-na] 退, 退失, 捨棄

    √: 捨断

    -na: 名詞を形成する*23