330.
Ekassa caritaṃ seyyo, n'atthi bāle sahāyatā,
独りの 歩みが よりよき 無し 愚者に 友誼は
eko care na ca pāpāni kayirā,
独り 歩むべし 否 又 悪を 為すべし
appossukko mātaṅg'araññe va nāgo.
求むる事少なき 象林の の如く 象
(独りの歩みがよりよき。愚者に友誼は無し。独り歩むべし。また悪を為すべからず。求むること少なき象の林の象の如く。)
愚かな者を道伴れとするな。独りで行くほうがよい。孤独(ひとり)で歩め。悪いことをするな。求めるところは少なくあれ。──林の中にいる象のように。
ekassa: eka の gen. sg. m.
eka: a. num. 一, 一つ, 或る
caritaṃ: carita の nom. sg. n.
carita: a. n. m. [carati の pp.]*1 所行, 行ぜる, 行, 行為, 行者, 性行者, 性格者
carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く
seyyo: seyya の nom. sg. m.
seyya: a. よりよき, よりすぐれた
n'atthi: na*2 + atthi
na: adv. なし
atthi: [√as(a)]*3 ある, 存在する
bāle: bāla の loc. sg.
bāla: a. 愚なる, 愚痴の, 無知の; 若き, 新しき
sahāyatā: f. [sahāya-tā] 親交, 友情, 友たること nom. sg.
sahāya: m. [saha-i-a*4] 朋友, 仲間, 僚友
saha: prep. pref. 共に, 倶に
√i: 行く
-tā: 女性抽象名詞を形成する*5
eko: eka の nom. sg. m.
care: carati の opt.*6
na: adv. なし
ca: conj. と, そして, また
pāpāni: pāpa の acc. pl.
pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人
kayirā: karoti の opt.*7
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ] なす, 行う, 作る
appossukko: appossukka の nom. sg. m.
appossukka: a. [appa-ussuka*8] 無関心の, 無為の, 不活動の
appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細
ussuka: a. 熱心になる, 貪欲なる
mātaṅg'araññe: mātaṅga*9-arañña の loc. sg.
mātaṅga: m. 象; 下層民; 植物名
arañña: n. 空閑, 阿蘭若, 阿練若, 林野, 閑林, 空関処, 人里はなれた所
331.
Atthamhi jātamhi sukhā sahāyā, tuṭṭhī sukhā yā itarītarena,
事ある時に 生ぜる 楽しき 朋友等は 満足は 楽しき 所のもの あらゆる
puññaṃ sukhaṃ jīvita-saṅkhayamhi,
善は 楽しき 命の滅する時に
sabbassa dukkhassa sukhaṃ pahānaṃ.
全ての 苦の 楽しき 捨断は
(事の生ぜる時、朋友らは楽しく、あらゆることによれる満足は楽しきなり。善は命の滅するときに楽しく、全ての苦の捨断は楽しき。)
事がおこったときに、友だちのあるのは楽しい。(大きかろうとも、小さかろうとも)、どんなことにでも満足するのは楽しい。善いことをしておけば、命の終るときに楽しい。(悪いことをしなかったので)、あらゆる苦しみ(の報い)を除くことは楽しい。
atthamhi: attha の loc. sg.*10
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
-a: 名詞・形容詞を形成する*11
jātamhi: jāta の loc. sg.
jāta: a. [janati の pp.]*12 生ぜる, 発生の, 生起の
janati: [√jan(a)] 生ずる, 産む
sukhā: sukha の nom. sg. f.
sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福
√sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる
sahāyā: sahāya の nom. pl.
tuṭṭhī: =tuṭṭhi: f. [tus-ti*13] 満足, 知足 nom. sg.
√tus(a): [Sk. tuṣ] 好む, 満足する
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*14
yā: ya の nom. sg. f.*15
ya: pron. rel. 所のもの
itarītarena: itarītara の ins. sg.
itarītara: [itara-itara*16] 彼此の, いかなる, あらゆる
itara: a. 他の, 次の
puññaṃ: puñña の nom. sg.
puñña: n. 福, 善, 福徳, 功徳
sukhaṃ: sukha の nom. sg. n.
jīvita-saṅkhayamhi: jīvita-saṅkhaya の loc. sg.*17
jīvita: n. [jīvati の pp.]*18 生命, 命, 壽命, 活命
jīvati: [√jīv(a)] 生きる, 生存する
saṅkhaya: m. [saṃ*19-khaya] 尽滅, 消滅, 滅亡
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*20
khaya: m. [khi-a*21] 尽, 尽滅, 滅尽
√khi: [Sk. kṣi] 消耗, 破壊
sabbassa: sabba の gen. sg. m.
sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの
dukkhassa: dukkha の gen. sg.
dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩
√dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安
pahānaṃ: pahāna の nom. sg.
pahāna: n. [pa-hāna] 捨, 断, 捨断, 捨離
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*22
hāna: n. [hā-na] 退, 退失, 捨棄
√hā: 捨断
-na: 名詞を形成する*23