蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 68 (146. 147.)

11. Jarā-vagga 老いること (老ひの章)

 jarā: f. [jar-ā] 老, 老衰

  √jar(a): [Sk. jṝ] 老い

  : 女性名詞を形成する*1

 vagga: m. 群, 品, 章

 

146.

Ko nu hāso kim ānando niccaṃ pajjalite sati,

何か 否か 笑ひ 何か 喜び  常に 燃へたる に於て

andha-kārena onaddhā padīpaṃ na gavesatha.

暗黒により  覆はれたる 燈明を 否 求む

(何が笑ひであろうか、何が喜びであろうか、常に燃へてあるに於て。暗黒に覆はれたる汝らは燈明を求むること無し。)

何の笑いがあろうか。何の歓びがあろうか?──世間は常に燃え立っているのに──。汝らは暗黒に覆われている。どうして燈明を求めないのか?

 ko: ka の nom. sg. m.

  ka: pron. interr. 誰? 何?

 nu: adv. かどうか

 hāso: hāsa の nom. sg.

  hāsa: m. [has*2-a] 笑い, 戯笑, 喜び, 嬉戯

   √has(a): 笑い

   -a: 名詞・形容詞を形成する*3

 kim: ka の nom. sg. n.*4

 ānando: ānanda の nom. sg.

  ānanda: m. [ā-nanda] 歓喜, 喜び

   ā-: pref. prep. まで, から, 此方へ

   nanda: [nand-a] 歓喜, 喜び

    √nand(a): 歓喜

 niccaṃ: adv. [nicca の acc.]*5 常に

  nicca: a. 常の, 常住の

 pajjalite: pajjalita の loc. sg.

  pajjalita: a. [pajjalati の pp.]*6 燃えたる, 熾然の

   pajjalati: [pa-jalati*7] かがやく, もえる, 熾然す

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意

    jalati: [√jal(a), Sk. jval] 燃ゆ, 輝やく

 sati: sat の loc. sg. n.*8  ありつつあるにおいて, 存在する時

  sat: =sant  a. [atthi の ppr.]*9 ありつつ, 存在の; 善なる

   atthi: [√as(a)]*10 ある, 存在する

 andha-kārena: andha-kāra の ins. sg.

  andha-kāra: 暗黒

   andha: a. [andh-a] 盲目の, 暗愚の

    √andh(a): 盲目

   kāra: m. [kar*11-a] 行為, 所作; 字, 文字; 作者

    √kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す

 onaddhā: onaddha の nom. pl. m.

  onaddha: a. [onandhati の pp.]*12 縛された, 結ぼれたる, 覆われたる

   onandhati: [o-nandhati<nah] 結ぶ, 覆う

    o-: =ava-  pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*13

 padīpaṃ: padīpa の acc. sg.

  padīpa: m. [pa-dīpa] 光, 燈, 燈明, 燈火

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*14

   dīpa: m. [dīp-a] 燈, 燈火, 燈明

    √dīp(a): 輝く, 燃え上がる, 照らされる

 na: adv. なし

 gavesatha: gavesati の 2pl.*15

  gavesati: [gava*16-esati] 求める, 探す, 追求す

   gava: =go  m. 牛, 牡牛

   esati: [ā-iṣ*17] 求む, 探す, 努力す

 

147.

Passa citta-kataṃ bimbaṃ, aru-kāyaṃ samussitaṃ,

見よ  飾られたる  身体を  瘡身を  合成されたる

āturaṃ bahu-saṅkappaṃ, yassa n'atthi dhuvaṃ ṭhiti.

病める   思念多き   所のもの 無し 堅固なる 止住は

(見よ、飾られたる身体を、合成されたる瘡身を。病み、思念多く、それに堅固なる止住のあること無し。)

見よ、粉飾された形体を!(それは)傷だらけの身体であって、いろいろのものが集まっただけである。病いに悩み、意欲ばかり多くて、堅固でなく、安住していない。

 passa: passati の imper. 2sg.*18

  passati: [√pas(a), Sk. paś]*19 見る; 見出す, 知る

 citta-kataṃ: citta-kata の acc. sg. n.

  citta-kata: 飾られたる

   citta: n. [<cit] 心

    √cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂

   kata: [karoti の pp.]*20  なされたる, 為作せる, 行作の

    karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*21 なす, 行う, 作る

 bimbaṃ: bimba の acc. sg.

  bimba: n. 影, 影像, 像, 身体; ビンバ果, 瓜類

 aru-kāyaṃ: aru-kāya の acc. sg.

  aru-kāya: 瘡身, 穢身

   aru: n. 傷, 瘡

   kāya: m. 身, 身体, 集まり

 samussitaṃ: samussita の acc. sg. m.

  samussita: a. [samusseti の pp.]*22 挙げたる, 合成の, 高挙の, 高慢の, 高き

   samusseti: [saṃ*23-usseti] 挙げる, 大言壮語す

    saṃ-: pref. 共に, 正しく, 集まる, 同じ, 強意*24

    usseti: [ud-si]*25 直立す, 起立す, 上る

     ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*26

     √si: [Sk. śri] 行く

 āturaṃ: ātura の acc. sg. m.

  ātura: a. 苦悩せる, 病める

 bahu-saṅkappaṃ: bahu-saṅkappa の acc. sg. m.

  bahu: a. 多くの, 多の

  saṅkappa: m. [saṃ*27-kapp-a] 思惟, 思念, 思

   √kapp(a): [Sk. kṛp] 思う

 yassa: ya の gen. sg. m.*28

  ya: pron. rel. 所のもの

 n'atthi: na*29 + atthi

  atthi: [√as(a)]*30 ある, 存在する

 dhuvaṃ: dhuva の nom. sg. n.

  dhuva: a. 常の, 常恒の, 恒久の, 堅固の

 ṭhiti: f. [cf. tiṭṭhati] 住, 止住  nom. sg.

  tiṭṭhati: [√thā, Sk. sthā]*31 立つ, 住立す, 止まる, 存続す