11. Jarā-vagga 老いること (老ひの章)
jarā: f. [jar-ā] 老, 老衰
√jar(a): [Sk. jṝ] 老い
-ā: 女性名詞を形成する*1
vagga: m. 群, 品, 章
146.
Ko nu hāso kim ānando niccaṃ pajjalite sati,
何か 否か 笑ひ 何か 喜び 常に 燃へたる に於て
andha-kārena onaddhā padīpaṃ na gavesatha.
暗黒により 覆はれたる 燈明を 否 求む
(何が笑ひであろうか、何が喜びであろうか、常に燃へてあるに於て。暗黒に覆はれたる汝らは燈明を求むること無し。)
何の笑いがあろうか。何の歓びがあろうか?──世間は常に燃え立っているのに──。汝らは暗黒に覆われている。どうして燈明を求めないのか?
ko: ka の nom. sg. m.
ka: pron. interr. 誰? 何?
nu: adv. かどうか
hāso: hāsa の nom. sg.
hāsa: m. [has*2-a] 笑い, 戯笑, 喜び, 嬉戯
√has(a): 笑い
-a: 名詞・形容詞を形成する*3
kim: ka の nom. sg. n.*4
ānando: ānanda の nom. sg.
ānanda: m. [ā-nanda] 歓喜, 喜び
ā-: pref. prep. まで, から, 此方へ
nanda: [nand-a] 歓喜, 喜び
√nand(a): 歓喜
niccaṃ: adv. [nicca の acc.]*5 常に
nicca: a. 常の, 常住の
pajjalite: pajjalita の loc. sg.
pajjalita: a. [pajjalati の pp.]*6 燃えたる, 熾然の
pajjalati: [pa-jalati*7] かがやく, もえる, 熾然す
pa-: pref. 前に, 先に, 強意
jalati: [√jal(a), Sk. jval] 燃ゆ, 輝やく
sati: sat の loc. sg. n.*8 ありつつあるにおいて, 存在する時
sat: =sant a. [atthi の ppr.]*9 ありつつ, 存在の; 善なる
atthi: [√as(a)]*10 ある, 存在する
andha-kārena: andha-kāra の ins. sg.
andha-kāra: 暗黒
andha: a. [andh-a] 盲目の, 暗愚の
√andh(a): 盲目
kāra: m. [kar*11-a] 行為, 所作; 字, 文字; 作者
√kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す
onaddhā: onaddha の nom. pl. m.
onaddha: a. [onandhati の pp.]*12 縛された, 結ぼれたる, 覆われたる
onandhati: [o-nandhati<nah] 結ぶ, 覆う
o-: =ava- pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*13
padīpaṃ: padīpa の acc. sg.
padīpa: m. [pa-dīpa] 光, 燈, 燈明, 燈火
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*14
dīpa: m. [dīp-a] 燈, 燈火, 燈明
√dīp(a): 輝く, 燃え上がる, 照らされる
na: adv. なし
gavesatha: gavesati の 2pl.*15
gavesati: [gava*16-esati] 求める, 探す, 追求す
gava: =go m. 牛, 牡牛
esati: [ā-iṣ*17] 求む, 探す, 努力す
147.
Passa citta-kataṃ bimbaṃ, aru-kāyaṃ samussitaṃ,
見よ 飾られたる 身体を 瘡身を 合成されたる
āturaṃ bahu-saṅkappaṃ, yassa n'atthi dhuvaṃ ṭhiti.
病める 思念多き 所のもの 無し 堅固なる 止住は
(見よ、飾られたる身体を、合成されたる瘡身を。病み、思念多く、それに堅固なる止住のあること無し。)
見よ、粉飾された形体を!(それは)傷だらけの身体であって、いろいろのものが集まっただけである。病いに悩み、意欲ばかり多くて、堅固でなく、安住していない。
passa: passati の imper. 2sg.*18
passati: [√pas(a), Sk. paś]*19 見る; 見出す, 知る
citta-kataṃ: citta-kata の acc. sg. n.
citta-kata: 飾られたる
citta: n. [<cit] 心
√cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂
kata: [karoti の pp.]*20 なされたる, 為作せる, 行作の
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*21 なす, 行う, 作る
bimbaṃ: bimba の acc. sg.
bimba: n. 影, 影像, 像, 身体; ビンバ果, 瓜類
aru-kāyaṃ: aru-kāya の acc. sg.
aru-kāya: 瘡身, 穢身
aru: n. 傷, 瘡
kāya: m. 身, 身体, 集まり
samussitaṃ: samussita の acc. sg. m.
samussita: a. [samusseti の pp.]*22 挙げたる, 合成の, 高挙の, 高慢の, 高き
samusseti: [saṃ*23-usseti] 挙げる, 大言壮語す
saṃ-: pref. 共に, 正しく, 集まる, 同じ, 強意*24
usseti: [ud-si]*25 直立す, 起立す, 上る
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*26
√si: [Sk. śri] 行く
āturaṃ: ātura の acc. sg. m.
ātura: a. 苦悩せる, 病める
bahu-saṅkappaṃ: bahu-saṅkappa の acc. sg. m.
bahu: a. 多くの, 多の
saṅkappa: m. [saṃ*27-kapp-a] 思惟, 思念, 思
√kapp(a): [Sk. kṛp] 思う
yassa: ya の gen. sg. m.*28
ya: pron. rel. 所のもの
n'atthi: na*29 + atthi
atthi: [√as(a)]*30 ある, 存在する
dhuvaṃ: dhuva の nom. sg. n.
dhuva: a. 常の, 常恒の, 恒久の, 堅固の
ṭhiti: f. [cf. tiṭṭhati] 住, 止住 nom. sg.
tiṭṭhati: [√thā, Sk. sthā]*31 立つ, 住立す, 止まる, 存続す