蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

身近な社会主義と共産主義

 「ノルマ」はロシア語で、シベリア抑留から引き揚げてきた人々によって伝えられた言葉。たとえば上場企業が四半期ごとに成果を求められるのは事実上のノルマであろう。計画経済を実現するにはノルマの達成が必要になり、旧ソ連ではノルマを達成できなかった場合、強制労働収容所送りになるなどの厳しい罰則があったため、数字をごまかしたり、賄賂を使うなどの対策がとられた。このように社会主義は腐敗を招く。

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 米国のように成果主義をとる国では、実績をあげて行けば給与もよくなるし地位も上がって行くことが動因となり、やる気も出て活力を生む。逆に成果を出せなければ減給されたり、解雇されたりするという負の動因もあるが、このような後ろ向きな気持ちで働く者は少ないであろう。社会主義体制でも、ノルマを達成したときにはそれなりにご褒美はあったようだが、何といっても重い罰則から逃れたいという負の動因が強く働く。そのため、誰もが消極的に働き、業務の質は上がらず、人々から活力を奪う。旧ソ連を訪れた人の話を読むと、とにかく街に活気がないと書いている。このような体制では生産性は上がらず、絶えず物不足に悩むことになる。そして社会のどこにも自治権は認められないため官僚機構は肥大化し、貧しさに拍車をかけた。

 また共産党一党独裁中央集権専制支配体制である共産主義国では密告が奨励され、密告者には報奨も支払われた。国民は互いに思想や行動を監視し合い、親が子を、子が親を密告することもあった。そうすることが正義であると認識していたようだ。このような不信社会の中で身の安全をはかるために、ひたすら共産党や権力者への忠誠を誓い、これが人々への統制を強めた。

 共産主義化した国では共産主義のイデオロギーだけが認められ、それまでの古い価値観や歴史、伝統、文化、そして宗教は否定される。たとえば日本でいえば小泉八雲のような存在はNGであり、彼は単なるオカルト好きの変なガイジンさんとして扱われなければならない。そして旧思想の影響を受けさせないため子供たちは親から引き離され、集団生活の中で共産主義思想を植えつけられた。共産化以前に国家を築き上げてきた先人たちを尊敬し、その時代の先達たちの偉業を讃えるということもない。左翼思想が蔓延した米国では、公立学校に通う生徒の約半数は自分の親を軽蔑するようになるという。若い世代の中にはベビーブーム世代の人々を「ブーマー」と呼んでバカにする者もいる。

 そして共産党は国家に優越するものとされ、すべては党の支配下に置かれる。共産主義国で要求される忠誠とは国家への忠誠ではなく党への忠誠である。共産主義国においては神ではなく共産党が絶対的な存在であり、法律が党を拘束することはなく、法はあくまでも支配のための道具で、つまり「法の支配」は無く、「法による支配」がなされる。法治国家では恣意的な法の執行は認められないが、共産主義国ではそれは当たり前のことであり、スターリンが行なった大粛清による死者数は八百万から一千万ともいわれる。

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 フランス革命は中産階級(ブルジョア)が主導したものであったが、世界初の労働者階級(プロレタリアート)を中心とした革命(プロレタリア革命)であったロシア革命においては、下層市民の不満や怒りや憎しみやルサンチマンを煽り立て、中産階級や富農(クラーク)を襲わせた。

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 そして何といっても共産主義国では私有財産は認められない。すべては党の私物であり、そこに住み共産党によって支配される人々は、いわば家畜のようなものである。

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 以上のようなことを身近なものとして感じるかどうかは人それぞれであろうが、まったく身に覚えがないという人も、今では珍しいのではないだろうか。