217.
Sīla-dassana-sampannaṃ, dhamm'aṭṭhaṃ sacca-vedinaṃ,
戒と見とを具足せる 法義を 真理を知れる
attano kammakubbānaṃ, taṃ jano kurute piyaṃ.
己れの 業を/為せる 其に 人々は 作す 愛を
(戒と見とを具足し、法義と真理を知り、己れの業を為せる者、その者に人々は愛を作(な)す。)
徳行と見識とをそなえ、法(のり)にしたがって生き、真実を語り、自分のなすべきことを行なう人は、人々から愛される。
sīla-dassana-sampannaṃ: sīla-dassana-sampanna の acc. sg. m.
sīla: n. [sīl-a] 戒, 戒行, 習慣, 道徳
√sīl(a): [Sk. śīl] 瞑想する, 熟慮する, 帰依する, 行ずる
-a: 名詞・形容詞を形成する*1
dassana-sampanna: 見具足
dassana: n. [<das] 見, 見ること
√das(i): [Sk. dṛś] 見る
sampanna: a. [sampajjati の pp.]*2 具足せる, 成就せる
sampajjati: [saṃ-pajjati] 起る, なる, 成功す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*3
pajjati: [√pad(a)]*4 歩く, 行く; 落ちる
dhamm'aṭṭhaṃ: dhamm'aṭṭha の acc. sg. m.
dhamm'aṭṭha: [dhamma*5-attha] 法住, 住法者, 裁判官
dhamma: [dhar*6-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*7
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
sacca-vedinaṃ: sacca-vedin の acc. sg. m.*8
sacca: n. [sat-ya*9] 真実, 諦, 真理
√sat: 存在, 真実, 高貴, 尊敬に値する, 賢なる
-ya: 中性名詞を形成する*10
vedin: a. [vid*11-in] 知ある, 知者
√vid(a): 知る
-in: 所有形容詞を形成する*12
attano: attan の gen. sg.*13
attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体
kammakubbānaṃ: kammaṃ*14 + kubbānaṃ
kammaṃ: kamma の acc. sg.
kamma: n. [kar*15-ma] 業, 行為, 作業, 家業, 羯磨, 儀式
√kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*16
kubbānaṃ: karoti の ppr. mid. sg. n.*17
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ] なす, 行う, 作る
taṃ: ta の acc. sg. m.*18
ta: pron. それ
jano: jana の nom. sg.
jana: m. [jan-a] 人, 人々
√jan(a): 生まれる, つくられる
kurute: karoti の mid.*19
piyaṃ: piya の acc. sg. m.
piya: a. 愛, 可愛の, 所愛
218.
Chanda-jāto anakkhāte manasā ca phuṭo siyā,
志欲を生ぜる 不説に 意により 又 充てる たるべき
kāmesu ca appaṭibaddha-citto uddhaṃ-soto ti vuccati.
諸愛欲に 又 心の執せざる 流れを上れる と 言はる
(不説に志欲を生じ、また意の充てる者たるべき、また諸愛欲に心の執せざる者は、流れを上る者と言はる。)
ことばで説き得ないもの(=ニルヴァーナ)に達しようとする志を起し、意(おもい)はみたされ、諸の愛欲に心の礙(さまた)げられることのない人は、〈流れを上(のぼ)る者〉とよばれる。
chanda-jāto: chanda-jāta の nom. sg. m.
chanda: m. 欲, 志欲, 意欲
jāta: a. [janati の pp.]*20 生ぜる, 発生の, 生起の
janati: [√jan(a)] 生ずる, 産む
anakkhāte: anakkhāta の loc. sg. m.
anakkhāta: a. n. [an-akkhāta] 不説の, 涅槃
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では anとなる
akkhāta: akkhāti の pp.*21
akkhāti: [ā-khā*22] 告げる, 話す
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*23
√khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く
manasā: manas の ins. sg.*24
manas: n. [man-as] 意, 心
√man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る
-as: 名詞を形成する*25
phuṭo: phuṭa の nom. sg. m.
phuta: a. [pharati の pp.] 遍満せる, 浸透せる, 拡がった, ゆきわたった, 充満せる
pharati: [√phar(a), Sk. sphar] 遍満する, ゆきわたる, ひろがる
siyā: atthi の opt.*26 あるであろう, あれかし
atthi: [√as(a)]*27 ある, 存在する
kāmesu: kāma の loc. pl.
kāma: m. n. [kam*28-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲す, 楽しむ
appaṭibaddha-citto: appaṭibaddha-citta の nom. sg. m.
appaṭibaddha: a- + paṭibaddha*29
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
paṭibaddha: a. [paṭibandhati の pp.]*30 結ばれたる, 執着せる
paṭibandhati: [paṭi-bandhati] 抑止す, 拒絶す
paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*31
bandhati: [√badh(a)]*32 縛る, 結ぶ
citta: n. [<cit] 心
√cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂
uddhaṃ-soto: uddhaṃ-sota の nom. sg. m.
uddhaṃ-sota: 上流
uddhaṃ: adv. [uddha の acc.]*33 上に, 後に, 高く, 上方に
uddha: a. 上の
sota: m. n. [su*34-ta] 流, 流水, 流口
√su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る
-ta: 名詞を形成する*35
ti: ind. [iti の略] と, かく
vuccati: [√vac の pass.] *36 言われる
√vac: 言う, 話す