蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 129 (288. 289.)

288.

Na santi puttā tāṇāya, na pitā n'āpi bandhavā,

否 あり 子供等が 救護の為 否 父 否/と雖も 親族等

antaken'ādhipannassa n'atthi ñātīsu tāṇatā.

死により/捉えられたるに 否/あり 親族の内に 救護は

(助けらる子供らのあること無し。父や親族と雖も助けたること無し。死に捉えられたる者には親族の内にも助けたる者のあること無し。)

子も救うことができない。父も親戚もまた救うことができない。死に捉えられた者を、親族も救い得る能力がない。

 na: adv. なし

 santi: atthi の pl.*1

  atthi: [√as(a)]*2 ある, 存在する

 puttā: putta の nom. pl.

  putta: m. 子, 子息; 男児

 tāṇāya: tāṇa の dat. sg.*3

  tāṇa: n. 救護所, 避難処, 救護, 庇護

 pitā: pitar の nom. sg.*4

  pitar: m. 父, 父祖

 n'āpi: na + api*5

  api: adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 bandhavā: bandhava の nom. pl.

  bandhava: m. [bandhu*6-a] 親族, 親戚, 親類; 関係者

   bandhu: m. [bandh-u] 親族, 親戚, 親類, 縁者

    √bandh(a): 縛る

    -u: 名詞・形容詞を形成する*7

   -a: 名詞・形容詞を形成する*8

 antaken'ādhipannassa: antakena + adhipannassa*9

  antakena: antaka の ins. sg.

   antaka: m. [anta-ka] 死神, 死魔, 悪魔

    anta: m. 終極, 目的, 極限, 辺, 極端

    -ka: 名詞・形容詞を形成する*10

  adhipannassa: adhipanna の dat. sg. m.

   adhipanna: a. [adhi-panna] 入りたる, 捉えられたる

    adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*11

    panna: a. [√pajjati の pp.]*12 落ちたる, おろした, 倒した

     pajjati: [√pad(a)]*13 歩く, 行く

 n'atthi: na*14 + atthi

 ñātīsu: ñāti の loc. pl.

  ñāti: f. [ñā-ti] 親族, 親類, 親里

   √ñā: 知る

   -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*15

 tāṇatā: f. [tāṇa-tā] 救護, 庇護  nom. sg.

  tāṇa: n. 救護所, 避難処, 救護, 庇護

  -tā: 女性抽象名詞を形成する*16

 

289.

Etamattha-vasaṃ ñatvā paṇḍito sīla-saṃvuto,

是を/道理を    知りて 賢者は 戒をまもれる

nibbāna-gamanaṃ maggaṃ khippameva visodhaye.

涅槃に到ることを   道を   速やかに/唯 清めしむべし

(戒をまもれる賢者はこの道理を知りて、涅槃に到る道をただ速やかに清めしむべし。)

心ある人はこの道理を知って、戒律をまもり、すみやかにニルヴァーナに至る途を清くせよ。

 etamattha-vasaṃ: etaṃ*17 + attha-vasaṃ

  etaṃ: eta の acc. sg. m.*18

   eta: pron. a. これ, それ

  attha-vasaṃ: attha-vasa の acc. sg.

   attha-vasa: m. n. 道理, 義理, 義利, 義趣, 利益, 因由

    attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

     √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

     -a: 名詞・形容詞を形成する*19

    vasa: m. n. 自在, 力, 権力, 影響

 ñatvā: ñā*20 の ger.*21

 paṇḍito: paṇḍita の nom. sg.

  paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者

 sīla-saṃvuto: sīla-saṃvuta の nom. sg. m.

  sīla: n. [sīl-a] 戒, 戒行, 習慣, 道徳

   √sīl(a): [Sk. śīl] 瞑想する, 熟慮する, 帰依する, 行ずる

  saṃvuta: a. [saṃ-vu の pp.]*22 防護せる, 制御せる; 閉じたる, 結べる

   saṃ-: pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*23

   √vu: [Sk. vṛ] 抑制する, まもる

 nibbāna-gamanaṃ: nibbāna-gamana の acc. sg. m.

  nibbāna: n. [ni-vā*24-na] 涅槃, 寂滅

   ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *25

   √: 行く, 吹く, 香る

   -na: 名詞を形成する*26

  gamana: n. [gam-ana] 行くこと, 歩行, 旅行

   √gam(u): 行く

   -ana: 派生名詞・形容詞を形成する*27

 maggaṃ: magga の acc. sg.

  magga: m. [magg-a] 道, 道路, 正道

   √magg(a): [Sk. mṛg] 探し求める, 追跡する

 khippameva: khippaṃ*28 + eva

  khippaṃ: adv. [khippa の acc.]*29 急速に

   khippa: a. n. [khip*30-a] 急速なる; 投網

    √khip(a): [Sk. kṣip] 投げる, 打つ, (腕や脚を)素早く動かす

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, 強意

 visodhaye: visodhayati の opt.*31

  visodhayati: =visodheti  [visujjhati の caus.]*32 清める, 浄化す

   visujjhati: [vi-sujjhati] 清まる, 清くなる

    vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*33

    sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*34 浄まる, 清まる