蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 126 (282. 283.)

282.

Yogā  ve jāyatī bhūrī, ayogā bhūri-saṅkhayo

瑜伽より 実に 生ず 智慧が 無瑜伽より 智慧の尽滅が

etaṃ dvedhā-pathaṃ ñatvā bhavāya vibhavāya ca,

これを  二種の道を  知りて 有へ  非有へ  又

tath'attānaṃ niveseyya yathā bhūrī pavaḍḍhati.

斯く/己を 確立せしむべし の如くに 智慧が 増す

(実に瑜伽より智慧が生じ、瑜伽無きにより智慧の尽滅が生ず。この智慧の有と非有への二種の道を知りて、智慧の増す如く、斯くの如くに己れを確立せしむべし。)

実に心が統一されたならば、豊かな智慧が生じる。心が統一されないならば、豊かな智慧がほろびる。生ずることとほろびることとのこの二種の道を知って、豊かな智慧が生ずるように自己をととのえよ。

 yogā: yoga の abl. sg.

  yoga: m. [yuj*1-a] 軛, 束縛, 繋縛; 結合, 関係; 瑜伽, 瞑想, 観行, 修行, 努力

   √yuj(a): 結合, 専心, 抑制, 慎み, 観行

   -a: 名詞・形容詞を形成する*2

 ve: adv. 実に

 jāyatī: =jāyati  [janati の pass.]*3 生まれる, 再生する

  janati: [√jan(a)] 生ずる, 産む

 bhūrī: f. 慧, 英智  nom. sg.

 ayogā: ayoga の abl. sg.

  ayoga: a- + yoga

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

 bhūri-saṅkhayo: bhūri-saṅkhaya の nom. sg.

  bhūri-saṅkhaya: bhūrī*4 + saṅkhaya

   saṅkhaya: m. [saṃ*5-khaya] 尽滅, 消滅, 滅亡

    saṃ-: pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*6

    khaya: m. [khi-a*7] 尽, 尽滅, 滅尽

     √khi: [Sk. kṣi] 消耗, 破壊

 etaṃ: eta の acc. sg. m.*8

  eta: pron. a. これ, それ

 dvedhā-pathaṃ: dvedhā-patha の acc. sg.

  dvedhā-patha: 岐路, 疑惑

   dvedhā: =dvidhā  adv. 二種に

   patha: m. [path-a] 道, 路

    √path(a): 行く

 ñatvā: ñā*9 の ger.*10

  ñā: 知る

 bhavāya: bhava の dat. sg.

  bhava: m. [bhū*11-a] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福

   √bhū: ある, 存す

 vibhavāya: vibhava の dat. sg.

  vibhava: m. [vi-bhava] 富, 繁栄, 権勢; 非有, 無有, 虚無

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*12

 tath'attānaṃ: tathā*13 + attānaṃ

  tathā: adv. [ta-thā] かく, その如くに

   ta: pron. それ

   -thā: 副詞を形成する*14

  attānaṃ: attan の acc. sg.*15

   attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体

 niveseyya: niveseti の opt.*16

  niveseti: [nivisati の caus.]*17 入らせる, 住立さす, 確立さす

   nivisati: [ni-vis] 入る, 止まる, 住立す, 執着す

    ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *18

    √vis(a): [Sk. viś] 入る

 yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

  ya: pron. rel. 所のもの

 pavaḍḍhati: [pa-vaḍḍhati] 増大する, 生長す

  pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19

  vaḍḍhati: [√vaḍḍh(a), Sk. vṛdh] 増大する, 増す, 生長す

 

283.

Vanaṃ chindatha, mā rukkhaṃ, vanato jāyate bhayaṃ,

林を   伐れ   勿れ 木を   林より 生ず 危険は

chetvā vanañca vanathañca, nibbanā hotha bhikkhavo.

伐りて 林を/又  林叢を/又  稠林無き たれ 比丘らよ

(林を伐(き)れ、木を伐るなかれ、危険は林より生ず。林と林叢とを伐りて、稠林(ちうりん)無き者らたれ、比丘らよ。)

一つの樹を伐るのではなくて、(煩悩の)林を伐れ。危険は林から生じる。(煩悩の)林とその下生(したば)えとを切って、林(=煩悩)から脱れた者となれ。修行僧らよ。

 vanaṃ: vana の acc. sg.

  vana: n. 林; 欲林, 欲望

 chindatha: chindati の imp. 2pl.*20

  chindati: [√chid]*21 切る, 断つ, 切断す

 : adv. なかれ [禁止, 強い決意, 否定的願望, 未来への危惧, 疑問, 否定等を示す]

 rukkhaṃ: rukkha の acc. sg.

  rukkha: m. 木, 樹木

 vanato: vana の abl. sg.*22

 jāyate: jāyati の mid. sg.*23

 bhayaṃ: bhaya の nom. sg.

  bhaya: n. m. [bhī*24-a] 怖, 怖畏, 恐怖

  √bhī: 恐れ

 chetvā: chindati の ger.*25

 vanañca: vanaṃ*26 + ca

  ca: conj. と, そして, また

 vanathañca: vanathaṃ*27 + ca

  vanathaṃ: vanatha の acc. sg.

   vanatha: m. 林叢, 欲林, 愛林, 欲念

 nibbanā: nibbana の nom. pl.

  nibbana: a. [ni-vana*28] 稠林なき, 欲なき

   ni-: pref. 否, 無

 hotha: hoti の imp. 2pl.*29

  hoti: =bhavati  [√hū]*30 ある, 存在する