187.
Api dibbesu kāmesu, ratiṃ so n'ādhigacchati,
と雖も 天の 欲楽 喜楽に 其は 否/達す
taṇhakkhaya-rato hoti sammā-sambuddha-sāvako.
渇欲の尽滅を楽しめる 也 正等覚者の弟子は
(天の欲楽と雖もそは喜楽に達すること無し。正等覚者の弟子は渇欲の尽滅を楽しめるなり。)
天上の快楽にさえも心楽しまない。正しく覚った人(=仏)の弟子は妄執の消滅を楽しむ。
api: adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも
dibbesu: dibba の loc. pl. m.
dibba: a. 天の, 神の, 天的の
kāmesu: kāma の loc. pl.*1
kāma: m. n. [kam*2-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲す, 楽しむ
-a: 名詞・形容詞を形成する*3
ratiṃ: rati の acc. sg.
rati: f. [ram*4-ti] 楽, 喜楽
√ram(u): 遊ぶ, 喜ぶ
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*5
so: ta の nom. sg. m.*6
ta: pron. それ
n'ādhigacchati: na + adhigacchati*7
na: adv. なし
adhigacchati: [adhi-gacchati] 到達す, 証得す
adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*8
gacchati: [√gam(u)]*9 行く
taṇhakkhaya-rato: taṇhakkhaya-rata の nom. sg. m.
taṇhakkhaya-rata: taṇhā + khaya*10 + rata
taṇhā: f. [Sk. tṛṣṇā] 渇愛, 愛, 愛欲
tṛṣṇā: 渇き; 欲望, 貪欲
khaya: m. [khi-a*11] 尽, 尽滅, 滅尽
√khi: [Sk. kṣi] 消耗, 破壊
rata: a. [ramati の pp. ]*12 楽しめる, 愛好せる
ramati: [√ram(u)] 楽しむ, 喜ぶ
hoti: =bhavati [√hū]*13 ある, 存在する
sammā-sambuddha-sāvako: sammā-sambuddha-sāvaka の nom. sg.
sammā-sambuddha: 正等覚者, 三藐三仏陀
sammā: adv. 正しく, 完全に
sambuddha: a. m. [sambujjhati の pp.]*14 よく覚れる, 正覚者, 等覚者
sambujjhati: [saṃ-bujjhati] よく覚る, 正覚す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*15
bujjhati: =bodhati [√budh(a)]*16 覚る, 目覚む
sāvaka: m. [su-a*17-ka] 声聞, 弟子
√su: [Sk. śru] 聞く
-ka: 名詞・形容詞を形成する*18
188.
Bahuṃ ve saraṇaṃ yanti, pabbatāni vanāni ca,
多くの 実に 非難所に 行く 山々に 林に 又
ārāma-rukkha-cetyāni, manussā bhaya-tajjitā.
遊園や樹木や支提に 人々は 恐怖に脅かされたる
(実に多くの非難所に行く。山々または林、遊園や樹木や支提に。恐怖に脅かされれたる人々は。)
人々は恐怖にかられて、山々、林、園、樹木、霊樹など多くのものにたよろうとする。
bahuṃ: bahu の acc. sg. n.
bahu: a. 多くの, 多の
ve: adv. 実に
saraṇaṃ: saraṇa の acc. sg.
saraṇa: n. [sar-ana] 帰依, 帰依所, 隠家
√sar(a): [Sk. smṛ] 喜ばせる, まもる, 生きる
-ana: 名詞・形容詞を形成する*19
yanti: yāti の pl.
yāti: [√yā] 行く, 達す
pabbatāni: pabbata の acc. pl.
pabbata: (m.) 山, 山岳, 山の住人
vanāni: vana の acc. pl.
vana: n. [van-a] 林; 欲林, 欲望
√van(a): 欲する, 望む, 願う
ca: conj. と, そして, また
ārāma-rukkha-cetyāni: ārāma-rukkha-cetiya の acc. pl.
ārāma: m. [ā-ram*20-a] 園, 園林, 遊園, 公園, 僧園
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*21
rukkha: m. 木, 樹木
cetiya: n. [<ci] 制多, 支提, 塔廟, 霊祠
√ci: 積む, 集む
manussā: manussa の nom. pl.
manussa: m. 人, 人間
bhaya-tajjitā: bhaya-tajjita の nom. pl. m.
bhaya: n. m. [bhī-a*22] 怖, 怖畏, 恐怖
√bhī: 恐怖
tajjita: a. [tajjeti の pp.]*23 おどされた, 恐怖ある
tajjeti: [√tajj の caus.]*24 恐れしむ, おどかす, 叱責す
√tajj(a): [Sk. tarj] 叱責, 威嚇
189.
N'etaṃ kho saraṇaṃ khemaṃ, n'etaṃ saraṇamuttamaṃ,
否/是は 実に 非難所 安穏なる 否/これは 非難所/最上の
n'etaṃ saraṇamāgamma, sabba-dukkhā pamuccati.
否/この 非難所に/来りて 一切苦より 脱す
(実にこれは安穏なる非難所たること無し。これは最上の非難所たること無し。この非難所に来りて、一切苦より脱すること無し。)
しかしこれは安らかなよりどころではない。これは最上のよりどころではない。それらのよりどころによってはあらゆる苦悩から免れることはできない。
n'etaṃ: na*25 + etaṃ
etaṃ: eta の nom. sg. n.*26
eta: pron. a. これ, それ
kho: adv. 実に
saraṇaṃ: saraṇa の nom. sg.
khemaṃ: a. khema の nom. sg. n.
khema: a. n. 安穏なる, 平安の; 安穏 =涅槃
saraṇamuttamaṃ: saraṇamuttama の nom. sg. n.
saraṇamuttama: saraṇaṃ*27 + uttama
uttama: a. [ud の最上級*28] 最上の, 最高の
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*29
etaṃ: eta の acc. sg. n.*30
saraṇamāgamma: saraṇaṃ*31 + āgamma
saraṇaṃ: saraṇa の acc. sg.
āgamma: adv. [āgacchati の ger.]*32 来りて, よりて, 由りて
āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る
gacchati: [√gam(u)]*33 行く
sabba-dukkhā: sabba-dukkha の abl. sg.
sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの
dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩
√dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安
pamuccati: pamuñcati の pass.*34
pamuñcati: [pa-muñcati] 脱す, 解脫す, 出す, 放つ; 捨つ, 自由にす
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*35
muñcati: [√muc(a)]*36 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ