284.
"Isayo pubbakā āsuṃ saññat'attā tapassino,
仙人等は 昔の 也けり 自制せる 苦行せる
pañca kāma-guṇe hitvā attadatthamacārisuṃ.
五の 欲の類を 捨てて 己が義を/行じけり
(昔の仙人らは己れを制し苦行せる者らなりけり。五つの欲の類ひを捨てて己が義を行じけり。)
昔の仙人たちは自己をつつしむ苦行者であった。彼らは五種の欲望の対象をすてて、自己の(真実の)理想を行なった。
isayo: isi の nom. pl.*1
isi: m. [is-i] 仙, 仙人, 仙者, 仏, 聖者
√is(i): [Sk. ṛṣ] 行く
-i: 名詞・形容詞を形成する*2
pubbakā: pubbaka の nom. pl. m.
pubbaka: =pubba a. 以前の, 昔の
āsuṃ: atthi の aor. pl.*3
atthi: [√as(a)]*4 ある, 存在する
saññat'attā: saññat'atta の nom. pl. m.
saññat'atta: [saññata*5-atta] 自制の
saññata: =saṃyata a. [saṃyamati の pp.]*6 抑制せる, 制御せる, 自制せる
saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す
saṃ-: pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*7
yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す
atta: =attan m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体
tapassino: tapassin の nom. pl. m.*8
tapassin: =tāpasa a. m. [tapas-in] 苦行者
tapas: m. [tap-as] 苦行, 鍛練
√tap(a): 熱する, 温める, 苦しめる, 苦痛
-as: 名詞を形成する*9
pañca: num. a. 五
kāma-guṇe: kāma-guṇa の acc. pl. m.
kāma-guṇa: 妙欲, [五]種欲
kāma: m. n. [kam*10-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲す, 楽しむ
-a: 名詞・形容詞を形成する*11
guṇa: m. 重, 種, 種類
hitvā: =hitvāna [jahāti の ger.]*12 捨断して, 捨てて, 棄てて
jahāti: =jahati [√hā]*13 捨つ, 断ず
attadatthamacārisuṃ: attadatthaṃ*14 + acārisuṃ
attadatthaṃ: attadattha の acc. sg.
attadattha: atta + d*15 + attha
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
acārisuṃ: carati の aor. pl.*16
carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く
285.
Na pasū brāhmaṇān'āsuṃ, na hiraññaṃ na dhāniyaṃ,
否 家畜は 婆羅門に/ありけり 否 黄金が 否 穀物が
sajjhāya-dhana-dhaññ'āsuṃ, brahmaṃ nidhimapālayuṃ.
読誦を財穀とせる/也けり 梵天を 宝蔵を/守りけり
(婆羅門に家畜のあること無く、黄金も無く、穀物のあること無かりけり。読誦を財穀とし、梵天を宝蔵として守りけり。)
バラモンたちには家畜もなかったし、黄金もなかったし、穀物もなかった。しかしかれらはヴェーダ読誦を財宝ともなし、穀物ともなし、ブラフマンを倉として守っていた。
na: adv. なし
pasū: pasu の nom. pl.*17
pasu: m. 家畜, 獣, 牛馬
brāhmaṇān'āsuṃ: brāhmaṇānaṃ*18 + āsuṃ
brāhmaṇānaṃ: brāhmaṇa の dat. pl.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
hiraññaṃ: hirañña の nom. sg.
hirañña: n. 金, 黄金, 金貨, 貨幣
dhāniyaṃ: dhāniya の nom. sg.
dhāniya: =dhañña n. [dhana*19-iya] 穀物
dhana: n. [dhan-a] 財, 財物, 財産
√dhan(a): 実る
-iya: 抽象名詞を形成する*20
sajjhāya-dhana-dhaññ'āsuṃ: sajjhāya-dhana-dhañña*21 + āsuṃ
sajjhāya: m. [saṃ-jhā-ya] 読誦, 誦経, 読経, 学習, 研究
√jhā: =jhe 考える, 熟慮する, 瞑想する
-ya: 中性名詞を形成する*22
dhana-dhañña: 財穀
dhañña: n. [dhan-ya*23] 穀物
brahmaṃ: brahmā の acc. sg.
brahmā: m. a. 梵, 梵天, 梵王; 梵=如来; 梵者, 婆羅門; 尊貴の, 神聖の
nidhimapālayuṃ: nidhiṃ*24 + apālayuṃ
nidhiṃ: nidhi の acc. sg.
nidhi: f. [ni-dhā*25-i] 伏蔵, 宝蔵, 財宝
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*26
√dhā: 置く, 布す, 制圧する, つかむ
apālayuṃ: pāleti の aor. pl.*27
pāleti: [pāl の caus.]*28 守る, 護る
√pāl(a): 守護
286.
Yaṃ nesaṃ pakataṃ āsi dvāra-bhattaṃ upaṭṭhitaṃ
所の 其等に 調ぜられたる ありけり 戸口の食物を 置かれたる
saddhā-pakatamesānaṃ dātave tadamaññisuṃ.
信を以て調ぜられたる/是等に 施さむと 然思ひけり
(それらのために調ぜられ置かれてありける、信をもて調ぜられたる戸口の食物をこれらに施さむと彼の者共は然(しか)思ひけり。)
かれらのために調理せられ家の戸口に置かれた食物、すなわち信仰心をこめて調理せられた食物、を求める(バラモンたち)に与えようと、かれら(信徒は)考えていた。
yaṃ: ya の acc. sg. m.*29
ya: pron. rel. 所のもの
nesaṃ: =tesaṃ*30
tesaṃ: ta の dat. pl. m.*31
ta: pron. それ
pakataṃ: pakata の acc. sg. m.
pakata: a. [pa-kata] 作されたる, 作られた, 自然になした, 自然の
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*32
kata: [karoti の pp.]*33 なされたる, 為作せる, 行作の
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*34 なす, 行う, 作る
āsi: atthi の aor. sg.*35
dvāra-bhattaṃ: dvāra-bhatta の acc. sg.
dvāra: n. 門, 戸
bhatta: n. a. [bhaj の pp.]*36 食, 食事
√bhaj(a): 料理
upaṭṭhitaṃ: upaṭṭhita の acc. sg. n.
upaṭṭhita: a. [upaṭṭhāti の pp.]*37 供えられたる, 用意された, 現起せる, 現前せる
upaṭṭhāti: [upa-thā*38] 現われる, 起る
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*39
√thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる
saddhā-pakatamesānaṃ: saddhā-pakataṃ*40 + esānaṃ
saddhā-pakataṃ: saddhā-pakata の acc. sg.
saddhā-pakata: 信によりてなされた, 信施
saddhā: f. [śrad-dhā] 信, 信仰, 信心, 信用
śrad-: 真実, 信仰
√dhā: 持す
esānaṃ: eta の dat. pl. n.*41
eta: pron. a. これ, それ
dātave: dadāti の inf.*42
dadāti: [√dā]*43 与える, 施す
tadamaññisuṃ: ta + d*44 + amaññisuṃ
amaññisuṃ: maññati の aor. pl.*45
maññati: [√man]*46 考える, 思う, 思量す