137.
Tadamināpi jānātha, yathā me'daṃ nidassanaṃ;
其を/是より/又 知れ 如くに 我による/是 示現
caṇḍāla-putto sopāko Mātaṅgo iti vissuto.
旃陀羅の子息は 犬殺しは マータンガが と 著名の
(またそをこれより知れ。我によるこの示現の如くに。旃陀羅の子にして犬殺しのマータンガという者は、世によく知られたるなり。)
わたくしは次にこの実例を示すが、これによってわが説示を知れ。チャンダーラ族の子で犬殺しのマータンガという人は、世に知られて令名の高い人であった。
tadamināpi: tad + aminā + api*1
tad: ta の acc. sg. n.*2
ta: pron. それ
aminā: =iminā ayaṃ の instr. sg.*3
ayaṃ: pron. これ, この
api: adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも
jānātha: jānāti の imper. 2pl.*4
jānāti: [√jā]*5 知る
yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し
ya: pron. rel. 所のもの
-thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*6
me'daṃ: me + idaṃ*7
me: ahaṃ の instr. sg.*8
ahaṃ: pron. 私は, 私が
idaṃ: ayaṃ の nom. sg. n.*9
nidassanaṃ: nidassana の nom. sg.
nidassana: n. [ni-dassana] 示現, 顕現, 特徴
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*10
dassana: n. [<das] 見, 見ること
√das(i): [Sk. dṛś] 見る
caṇḍāla-putto: caṇḍāla-putta の nom. sg.
caṇḍāla: 旃陀羅, 賎民
putta: m. 子, 子息; 男児
sopāko: sopāka の nom. sg.
sopāka: m. 犬殺し, 賎民
Mātaṅgo: Mātaṅga の nom. sg.
mātaṅga: m. 象; 下層民; 植物名
iti: indecl. かく, ~と, とて
vissuto: vissuta の nom. sg. m.
vissuta: a. [vi-suta*11] 有名な, 高名の, 著名の, 博聞の
vi-: 語根の意味を強調する*12
suta: a. n. [suṇāti の pp.]*13 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞
suṇāti: [√su, Sk. śru]*14 聞く, 聴く
138.
So yasaṃ paramaṃ patto Mātaṅgo yaṃ sudullabhaṃ,
其は 名声を 最上の 得たる マータンガは 所の 極めて得難き
āgacchuṃ tass'upaṭṭhānaṃ khattiyā brāhmaṇā bahū.
来けり 其に/奉仕に 王族等が 婆羅門等が 多くの
(そのマータンガは極めて得難き最上の名声を得たるなり。多くの王族や婆羅門がそれに奉仕に来けり。)
かれマータンガはまことに得がたい最上の名誉を得た。多くの王族やバラモンたちはかれのところに来て奉仕した。
so: ta の nom. sg. m.*15 それは, 彼は
yasaṃ: yasa の acc. sg.
yasa: n. 名称, 称誉, 名声
paramaṃ: parama の acc. sg. n.
parama: a. [para の最上級] 最高の, 最上の, 最勝の, 第一の
para: a. 他の, 彼方の, 上の
patto: patta の nom. sg.
patta: a. [pāpuṇāti の pp.]*16 已得の, 得たる, 得達の
pāpuṇāti: [pa*17-āp]*18 得る, 達す, 到達す
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19
√āp(a): 行き渡る, 漲る, 得る
yaṃ: ya の acc. sg. m.*20
sudullabhaṃ: sudullabha の acc. sg. m.
sudullabha: su- + dullabha
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
dullabha: a. [du-labha*21] 得難き
du-: pref. 悪き, 難き
labha: a. [labh-a] 得る
√labh(a): 得る
-a: 名詞・形容詞を形成する*22
āgacchuṃ: āgacchati の aor. pl.*23
āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る
ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*24
gacchati: [√gam(u)]*25 行く
tass'upaṭṭhānaṃ: tassa*26 + upaṭṭhānaṃ
tassa: ta の dat. sg. m.*27
upaṭṭhānaṃ: upaṭṭhāna の acc. sg.*28
upaṭṭhāna: n. [upa-thā*29-na] 奉仕, 給仕, 隨侍, 看病, 現起
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*30
√thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる
-na: 名詞を形成する*31
khattiyā: khattiya の nom. pl.
khattiya: m. カツテイヤ, 剎帝利, 王族
brāhmaṇā: brāhmaṇa の nom. pl.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
bahū: bahu の nom. pl. n.*32
bahu: a. 多くの, 多の
139.
So deva-yānamāruyha, virajaṃ so mahā-pathaṃ,
其は 天道を/登りて 離塵の 其は 大道を
kāma-rāgaṃ virājetvā brahma-lok'ūpago ahu,
欲楽を 離貪せる 梵天界に到れる ありけり
na naṃ jāti nivāresi brahma-lok'ūpapattiyā.
否 其が 生が 妨ぎけり 梵天界に於ける再生より
(そは天道を、そは離塵の大道を登りて、欲楽を離れ、梵天界に到りけり。その出生が梵天界に於ける再生を妨ぐこと無かりけり。)
かれは神々の道、塵汚れを離れた大道を登って、欲情を離れて、ブラフマン(梵天)の世界に赴いた。(賤しい)生れも、彼がブラフマンの世界に生まれることを妨げなかった。
deva-yānamāruyha: deva-yānaṃ*33 + āruyha
deva-yānaṃ: deva-yāna の acc. sg.
deva-yāna: 天乗, 天車
deva: m. [div*34-a] 天, 神, 王. 天皇, 陛下
√div(u): 輝く, 遊ぶ, 楽しむ
yāna: n. [yā-na] 乗, 乗物
√yā: 行く, 至る
āruyha: āruhati の ger.*35
āruhati: [ā-ruh] 登る
√ruh(a): 登る, 乗る
virajaṃ: viraja の acc. sg. m.
viraja: a. [vi-raja] 離塵の, 塵を離れた
vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*36
raja: n. [raj-a] 塵, 塵垢, 不浄
√raj: 貪, 染
mahā-pathaṃ: mahā-patha の acc. sg.
mahā-patha: 大道
mahā: =mahant a. 大なる, 偉大の
patha: m. [path-a] 道, 路
√path(a): 行く
kāma-rāgaṃ: kāma-rāga の acc. sg. m.
kāma-rāga: 欲貪
kāma: m. n. [kam*37-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲す, 楽しむ
rāga: m. [raj*38-a] 貪, 貪欲, 染; 染色, 色彩
virājetvā: virājeti の ger.*39
virājeti: [virajjati の caus.]*40 貪欲を離れさす, 離貪さす
virajjati: [vi-rajjati] 離貪す, 離染す
rajjati: [rajati の pass.]*41 染著する, 楽しむ
rajati: [√raj, Sk. rañj] 染める
brahma-lok'ūpago: brahma-lok'ūpaga の nom. sg. m.
brahma-lok'ūpaga: brahma-loka + upaga*42
brahma-loka: [brahmā*43-loka] 梵界, 梵天界
brahmā: m. a. 梵, 梵天, 梵王; 梵=如来; 梵者, 婆羅門; 尊貴の, 神聖の
loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界
√lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める
upaga: a. [upa-ga] 到る, 達する, 経験せる, 属せる
-ga: [<gam] 主に形容詞を形成する*44
√gam(u): 行く
ahu: hoti の aor.*45
hoti: =bhavati [√hū]*46 ある, 存在する
naṃ: na の nom. sg. n.*47
na: =ta pron. それ
jāti: f. [ja*48-ti] 生, 誕生, 生れ, 血統, 種類 nom. sg.
√ja: 生れる
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*49
nivāresi: nivāreti の aor.*50
nivāreti: [ni-var の caus.]*51 防ぐ, 遮止す, 防護す
√var(a): [Sk. vṛ] 抑制する, 覆う, 妨げる
brahma-lok'ūpapattiyā: brahma-loka + upapattiyā*52
upapattiyā: upapatti の abl. sg.*53
upapatti: f. [upa-pad*54-ti] 往生, 再生, 転生
√pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道