蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 71 (137-139.)

137.

Tadamināpi jānātha, yathā me'daṃ nidassanaṃ;

其を/是より/又 知れ 如くに 我による/是 示現

caṇḍāla-putto sopāko Mātaṅgo iti vissuto.

旃陀羅の子息は 犬殺しは マータンガが と 著名の

(またそをこれより知れ。我によるこの示現の如くに。旃陀羅の子にして犬殺しのマータンガという者は、世によく知られたるなり。)

わたくしは次にこの実例を示すが、これによってわが説示を知れ。チャンダーラ族の子で犬殺しのマータンガという人は、世に知られて令名の高い人であった。

 tadamināpi: tad + aminā + api*1

  tad: ta の acc. sg. n.*2

   ta: pron. それ

  aminā: =iminā  ayaṃ の instr. sg.*3

   ayaṃ: pron. これ, この

  api: adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 jānātha: jānāti の imper. 2pl.*4

  jānāti: [√jā]*5 知る

 yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

  ya: pron. rel. 所のもの

  -thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*6

 me'daṃ: me + idaṃ*7

  me: ahaṃ の instr. sg.*8

   ahaṃ: pron. 私は, 私が

  idaṃ: ayaṃ の nom. sg. n.*9

 nidassanaṃ: nidassana の nom. sg.

  nidassana: n. [ni-dassana] 示現, 顕現, 特徴

   ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*10

   dassana: n. [<das] 見, 見ること

    √das(i): [Sk. dṛś] 見る

 caṇḍāla-putto: caṇḍāla-putta の nom. sg.

  caṇḍāla: 旃陀羅, 賎民

  putta: m. 子, 子息; 男児

 sopāko: sopāka の nom. sg.

  sopāka: m. 犬殺し, 賎民

 Mātaṅgo: Mātaṅga の nom. sg.

  mātaṅga: m. 象; 下層民; 植物名

 iti: indecl. かく, ~と, とて

 vissuto: vissuta の nom. sg. m.

  vissuta: a. [vi-suta*11] 有名な, 高名の, 著名の, 博聞の

   vi-: 語根の意味を強調する*12

   suta: a. n. [suṇāti の pp.]*13 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞

    suṇāti: [√su, Sk. śru]*14 聞く, 聴く

 

138.

So yasaṃ paramaṃ patto Mātaṅgo yaṃ sudullabhaṃ,

其は 名声を 最上の 得たる マータンガは 所の 極めて得難き

āgacchuṃ tass'upaṭṭhānaṃ khattiyā brāhmaṇā bahū.

来けり    其に/奉仕に   王族等が 婆羅門等が 多くの

(そのマータンガは極めて得難き最上の名声を得たるなり。多くの王族や婆羅門がそれに奉仕に来けり。)

かれマータンガはまことに得がたい最上の名誉を得た。多くの王族やバラモンたちはかれのところに来て奉仕した。

 so: ta の nom. sg. m.*15 それは, 彼は

 yasaṃ: yasa の acc. sg.

  yasa: n. 名称, 称誉, 名声

 paramaṃ: parama の acc. sg. n.

  parama: a. [para の最上級] 最高の, 最上の, 最勝の, 第一の

   para: a. 他の, 彼方の, 上の

 patto: patta の nom. sg.

  patta: a. [pāpuṇāti の pp.]*16 已得の, 得たる, 得達の

   pāpuṇāti: [pa*17-āp]*18 得る, 達す, 到達す

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19

    √āp(a): 行き渡る, 漲る, 得る

 yaṃ: ya の acc. sg. m.*20

 sudullabhaṃ: sudullabha の acc. sg. m.

  sudullabha: su- + dullabha

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   dullabha: a. [du-labha*21] 得難き

    du-: pref. 悪き, 難き

    labha: a. [labh-a] 得る

     √labh(a): 得る

     -a: 名詞・形容詞を形成する*22

 āgacchuṃ: āgacchati の aor. pl.*23

  āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る

   ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*24

   gacchati: [√gam(u)]*25 行く

 tass'upaṭṭhānaṃ: tassa*26 + upaṭṭhānaṃ

  tassa: ta の dat. sg. m.*27

  upaṭṭhānaṃ: upaṭṭhāna の acc. sg.*28

   upaṭṭhāna: n. [upa-thā*29-na] 奉仕, 給仕, 隨侍, 看病, 現起

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*30

    √thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる

    -na: 名詞を形成する*31

 khattiyā: khattiya の nom. pl.

  khattiya: m. カツテイヤ, 剎帝利, 王族

 brāhmaṇā: brāhmaṇa の nom. pl.

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 bahū: bahu の nom. pl. n.*32

  bahu: a. 多くの, 多の

 

139.

So deva-yānamāruyha, virajaṃ so mahā-pathaṃ,

其は  天道を/登りて   離塵の 其は 大道を

kāma-rāgaṃ virājetvā brahma-lok'ūpago ahu,

欲楽を    離貪せる  梵天界に到れる  ありけり

na naṃ jāti nivāresi brahma-lok'ūpapattiyā.

否 其が 生が 妨ぎけり 梵天界に於ける再生より

(そは天道を、そは離塵の大道を登りて、欲楽を離れ、梵天界に到りけり。その出生が梵天界に於ける再生を妨ぐこと無かりけり。)

かれは神々の道、塵汚れを離れた大道を登って、欲情を離れて、ブラフマン(梵天)の世界に赴いた。(賤しい)生れも、彼がブラフマンの世界に生まれることを妨げなかった。

 deva-yānamāruyha: deva-yānaṃ*33 + āruyha

  deva-yānaṃ: deva-yāna の acc. sg.

   deva-yāna: 天乗, 天車

    deva: m. [div*34-a] 天, 神, 王. 天皇, 陛下

     √div(u): 輝く, 遊ぶ, 楽しむ

    yāna: n. [yā-na] 乗, 乗物

     √: 行く, 至る

  āruyha: āruhati の ger.*35

   āruhati: [ā-ruh] 登る

    √ruh(a): 登る, 乗る

 virajaṃ: viraja の acc. sg. m.

  viraja: a. [vi-raja] 離塵の, 塵を離れた

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*36

   raja: n. [raj-a] 塵, 塵垢, 不浄

    √raj: 貪, 染

 mahā-pathaṃ: mahā-patha の acc. sg.

  mahā-patha: 大道

   mahā: =mahant  a. 大なる, 偉大の

   patha: m. [path-a] 道, 路

    √path(a): 行く

 kāma-rāgaṃ: kāma-rāga の acc. sg. m.

  kāma-rāga: 欲貪

   kāma: m. n. [kam*37-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

    √kam(u): 欲す, 楽しむ

   rāga: m. [raj*38-a] 貪, 貪欲, 染; 染色, 色彩

 virājetvā: virājeti の ger.*39

  virājeti: [virajjati の caus.]*40 貪欲を離れさす, 離貪さす

   virajjati: [vi-rajjati] 離貪す, 離染す

    rajjati: [rajati の pass.]*41 染著する, 楽しむ

     rajati: [√raj, Sk. rañj] 染める

 brahma-lok'ūpago: brahma-lok'ūpaga の nom. sg. m.

  brahma-lok'ūpaga: brahma-loka + upaga*42

   brahma-loka: [brahmā*43-loka] 梵界, 梵天界

    brahmā: m. a. 梵, 梵天, 梵王; 梵=如来; 梵者, 婆羅門; 尊貴の, 神聖の

    loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界

     √lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める

   upaga: a. [upa-ga] 到る, 達する, 経験せる, 属せる

    -ga: [<gam] 主に形容詞を形成する*44

     √gam(u): 行く

 ahu: hoti の aor.*45

  hoti: =bhavati  [√hū]*46 ある, 存在する

 naṃ: na の nom. sg. n.*47

  na: =ta  pron. それ

 jāti: f. [ja*48-ti] 生, 誕生, 生れ, 血統, 種類  nom. sg.

  √ja: 生れる

  -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*49

 nivāresi: nivāreti の aor.*50

  nivāreti: [ni-var の caus.]*51 防ぐ, 遮止す, 防護す

   √var(a): [Sk. vṛ] 抑制する, 覆う, 妨げる

 brahma-lok'ūpapattiyā: brahma-loka + upapattiyā*52

  upapattiyā: upapatti の abl. sg.*53

   upapatti: f. [upa-pad*54-ti] 往生, 再生, 転生

    √pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道

*1:『実用パーリ語文法』母音連声 22.

*2:同上, 指示人称代名詞 294.

*3:同上, 人称代名詞 307.

*4:同上, 現在系統の活用 381.

*5:同上, 第五活用 377.

*6:同上, 代名詞の派生語 347.

*7:同上, 母音連声 18.

*8:同上, ahaṃ の曲用 289.

*9:同上, 指示代名詞 307.

*10:同上, 動詞接頭辞 516. ni

*11:同上, 子音連声 33.

*12:同上, 動詞接頭辞 519.

*13:同上, 受動完了分詞 451.(i)

*14:同上, 第四活用 376.

*15:同上, 指示人称代名詞 292.

*16:同上, 受動完了分詞 453.

*17:同上, 母音連声 17.

*18:同上, 第三活用 376.

*19:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*20:同上, 関係代名詞 312. ya の曲用

*21:同上, 子音連声 33.

*22:同上, 一次派生 576. a

*23:同上, アオリスト 407.

*24:同上, 動詞接頭辞 516. ā 注意

*25:同上, 不規則動詞 404.

*26:同上, 母音連声 17.

*27:同上, 指示人称代名詞 292. 

*28:同上, 格形副詞 532.

*29:同上, 子音連声 33.

*30:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*31:同上, 一次派生 na

*32:同上, u で終わる形容詞 214.

*33:同上, ニッガヒータ連声 42.

*34:同上, 強調 105.

*35:同上, 動名詞 472. (vi)  同左, y の同化 78.

*36:同上, 動詞接頭辞 516. vi

*37:同上, 強調 105.

*38:同上  同左, 派生 572.

*39:同上, 動名詞 471. (vi)

*40:同上, 使役動詞 491. (i)

*41:同上, 受動動詞 483. (iii)

*42:同上, 19.

*43:同上, 母音連声 31.

*44:同上, kvi 接尾辞 584. ga

*45:同上, アオリスト 413.

*46:同上, 不規則動詞 511.

*47:na の曲用

*48:同上, 強調 105.

*49:同上, 一次派生 ti

*50:同上, アオリスト 407.

*51:同上, 使役動詞 492. (i)

*52:同上, 母音連声 19.

*53:同上, i で終わる女性名詞 133.  同左, 奪格 600. (x)

*54:同上, 一般的な同化規則 62.