蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 116 (242. 243.)

242.

"Pāṇātipāto vadha-cheda-bandhanaṃ

殺生     打擲・切断・破壊

theyyaṃ musā-vādo nikatī vañcanāni ca

窃盗    虚言    詐欺  欺瞞  又

ajjhena-kujjaṃ para-dāra-sevanā,

邪曲の習得    他の妻への親近

es'āma-gandho, na hi maṃsa-bhojanaṃ.

是が/生臭    否 実に 肉食が

(「殺生、打擲、切断、破壊、窃盗、虚言、詐欺、また欺瞞、邪曲の習得、他の妻への親近、これが生臭なり。実に肉食に非ず。)

「生き物を殺すこと、打ち、切断し、縛ること、盗むこと、嘘をつくこと、詐欺、だますこと、邪曲を学習すること、他人の妻に親近すること、──これがなまぐさである。肉食することが〈なまぐさい〉のではない。 

 pāṇātipāto: pāṇātipāta の nom. sg. m.

  pāṇātipāta: [pāṇa-atipāta*1] 殺生

   pāṇa: m. [pa-an*2-a] 生物, 有情, 生類, 生命

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*3

    √an(a): 呼吸する, 動き回る, 生きる

    -a: 名詞・形容詞を形成する*4

   atipāta: [ati-pat*5-a] たおすこと, 伐つこと

    ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*6

    √pat(a): 落ちる, 飛ぶ, 沈む, (地獄に)堕ちる

 vadha-cheda-bandhanaṃ: vadha-cheda-bandhana の nom. sg.

  vadha: m. [vadh-a] 打擲, 殺生, 破壊

   √vadh: 打つ, 殺す, 破壊する

  cheda: m. [chid*7-a] 切断, 破壊, 簡略論

   √chid(a): [Sk. ched] 二つに分ける, 切る, 分割する

  bandhana: n. [bandh-ana] 縛, 捕縛, 結縛, 拘束, 接目, 結節

   √bandh(a): 縛

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*8

 theyyaṃ: theyya の nom. sg.

  theyya: n. 盗心, 像盗, ぬすみ

 musā-vādo: musā-vāda の nom. sg.

  musā-vāda: 妄語, 妄言, 虚誑語

   musā: adv. 偽りて, 妄, 虚妄に

   vāda: m. [vad*9-a] 説, 語, 論

 nikatī: nikati の nom. pl.*10

  nikati: f. [nikata*11-i] 詐欺, 偽瞞

   nikata: a. [ni-kata] 欺かれたる, だまされた

    ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*12

    kata: [karoti の pp.]*13 なされたる, 為作せる, 行作の

     karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*14 なす, 行う, 作る

   -i: 女性名詞を形成する

 vañcanāni: vañcana の nom. pl.

  vañcana: n. [vañc-ana] 欺瞞, だまし, いつわり, 虚偽

   √vañc(u): 欺瞞

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*15

 ajjhena-kujjaṃ: ajjhena-kujja の nom. sg. n.

  ajjhena: =ajjhayana  n. [adhi-i*16-na] 研究, 学習, 習得

   adhi-: pref. 上に, ついて, 増上*17

   √i: 行く, 得達する

   -na: 名詞を形成する*18

  kujja: =khujja  a. せむしの, 背のまがった, 曲った, 邪曲の

 para-dāra-sevanā: nom. sg.

  para: a. [par-a] 他の, 彼方の, 上の

   √par(a): [Sk. pṝ] 持ち越す, 渡す, (他所に)達する, 達成する, 能う

  dāra: m. 妻, 若い女

  sevanā: f. [sev-anā] 親近, 依付

   √sev: 仕える, 追う, 楽しむ, 護衛する

   -anā: -ana の女性形.  名詞・形容詞を形成する*19

 es'āma-gandho: esa*20 + āma-gandho

  esa: eta の nom. sg. m.*21

   eta: pron. a. これ, それ

  āma-gandho: āma-gandha の nom. sg.

   āma-gandha: なまぐさ, 臭穢

    āma: a. なまの, 加工しない

    gandha: m. 香, 芳香, 薫香, 香料

 na: adv. なし

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 maṃsa-bhojanaṃ: maṃsa-bhojana の nom. sg.

  maṃsa: n. 肉, 鳥獣の肉

  bhojana: n. [bhuj*22-ana] 食物, 食, 飲食

   √bhuj(a): 食べる, 享受する, 楽しむ, 所有する

 

243.

Ye idha kāmesu asaññatā janā

所の 此界に 欲楽を 制せざる 者等

rasesu giddhā asucīka-missitā

味を 貪求せる 不浄に交はれる

natthika-diṭṭhi visamā durannayā, 

虚無見の    不正の  従ひ難き

es'āma-gandho, na hi maṃsa-bhojanaṃ.

是が/生臭    否 実に 肉食が

(この世で欲楽を制すること無く、味を貪り求め、不浄に交はり、虚無の見を持ち、不正にして従ひ難き者ら、これが生臭なり。実に肉食に非ず。)

この世において欲望を制することなく、美味を貪り、不浄の(邪悪な)生活をまじえ、虚無論をいだき、不正の行いをなし、頑迷な人々、──これがなまぐさである。肉食することが〈なまぐさい〉のではない。

 ye: ya の nom. pl. m.*23

  ya: pron. rel. 所のもの

 idha: =idhaṃ  adv. ここに, 此界に

 kāmesu: kāma の loc. pl.

  kāma: m. n. [kam*24-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

   √kam(u): 欲す, 楽しむ

 asaññatā: asaññata の nom. pl. m.

  asaññata: a. [a-saññata] 無制御の, 無抑制の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   saññata: =saṃyata  a. [saṃyamati の pp.]*25 抑制せる, 制御せる, 自制せる

    saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す

     saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*26

     yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す

 janā: jana の nom. pl.

  jana: m. [jan-a] 人, 人々

   √jan(a): 生れる, つくられる

 rasesu: rasa の loc. pl.

  rasa: m. [ras-a] 味, 食味, 汁, 液; 作用, 実質

   √ras(a): 味わう, 楽しむ

 giddhā: giddha の nom. pl. m.

  giddha: a. [gijjhati の pp.]*27 貪求せる

   gijjhati: [√gidh(u), Sk. gṛdh]*28 貪求す, 欲求す

 asucīka-missitā: asucīka-missita の nom. pl. m.

  asucīka: =asucika  a. [asuci*29-ka] 不浄なる

   asuci: a. [a-suci] 不浄の

    suci: a. n. [suc-i] 浄き, 清浄の, 清浄

     √suc(a): [Sk. śuc] 清浄

     -i: 名詞・形容詞を形成する*30

   -ka: 名詞・形容詞を形成する*31

  missita: a. [misseti の pp.]*32 混合せる, 複合の

   misseti: [miss の caus.]*33 まぜる, 結合さす, 交尾さす

    √miss(a): [Sk. miśr] 混合, 複合, 結合, 付加

 natthika-diṭṭhi: 非有見, 虚無論

  natthika: a. [na*34-attha*35-ika] 非有の, 無の, 虚無論者

   attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

    √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

   -ika: 名詞・形容詞を形成する*36

  diṭṭhi: f. [dis-ti*37] 見, 見解, 意見, 特に謬見

   √dis(a): [Sk. dṛś] 見る, 見なす, 見られる, 見える

   -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*38

 visamā: visama の nom. pl. m.

  visama: a. n. [vi-sama] 不等の, 不正の, 非理の, 異様の, 険難の

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*39

   sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき

 durannayā: durannaya の nom. pl. m.

  durannaya: a. [du-annaya*40] 尋ね難き, 従い難き

   du-: pref. 悪き, 難き

   annaya: =anvaya 

    anvaya: n. [anu*41-i*42-a] 随行, 類句, 推比

     anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*43