蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 176 (395. 396.)

395.

Paṃsu-kūla-dharaṃ jantuṃ, kisaṃ dhamani-santhataṃ,

糞掃衣を持せる     人を  痩せたる  血管の広がれる

ekaṃ vanasmiṃ jhāyantaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

独り  林に於て  禅定せる  そを/我は 言ふ 婆羅門と

(糞掃衣をまとひ、痩せて血管が現れ、独り林に於て禅定せるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

糞掃衣(ふんぞうえ)をまとい、痩せて、血管があらわれ、ひとり林の中にあって瞑想する人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 paṃsu-kūla-dharaṃ: paṃsu-kūla-dhara の acc. sg. m.

  paṃsu-kūla: 糞掃衣, 弊衣, 塵堆衣

   paṃsu: m. 塵, 塵垢, 塵土, 汚物

   kūla: n. 斜面, 土手, 堤防

  dhara: a. [dhar-a] 持てる, 保持せる

   √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

   -a: 名詞・形容詞を形成する*1

 jantuṃ: jantu の acc. sg.

  jantu: m. [jan-tu] 人, 有情

   √jan(a): 生まれる, つくられる

   -tu: 名詞を形成する*2

 kisaṃ: kisa の acc. sg. m.

  kisa: a. 痩せたる, 憔悴した

 dhamani-santhataṃ: dhamani-santhata の acc. sg. m.

  dhamani: f. 血管, 静脈

  santhata: a. n. [santharati の pp.]*3 広布せる, 拡げた, 覆える, 有隔の; 敷物, 臥具

   santharati: [saṃ*4-thar] 広げる, 敷く

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*5

    √thar(a): [Sk. stṛ] 広げる, 覆う

 ekaṃ: adv. [eka の acc.]*6 独りで

  eka: a. num. 一, 一つ, 或る

 vanasmiṃ: vana の loc. sg.

  vana: n. 林; 欲林, 欲望

 jhāyantaṃ: jhāyanta の acc. sg. m.

  jhāyanta: jhāyati の ppr.*7

   jhāyati: [√jhā, Sk. dhyai] 静慮す, 禅定をなす, 思念す*8

 tamahaṃ: taṃ*9 + ahaṃ  nom. sg.

  taṃ: ta の acc. sg. m.*10

   ta: pron. それ

  ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*11

 brūmi: brūti の 1sg.*12

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 

396.

Na cāhaṃ brāhmaṇaṃ brūmi, yonijaṃ matti-sambhavaṃ,

否 又/我は  婆羅門と 言ふ 胎より生れたる 母より生れたる

bho-vādī nāma so hoti, sace hoti sakiñcano,

君よと言ふ者 名を そは 也 もし 也 有所有の

akiñcanaṃ anādānaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

無所有の  無執著なるを そを/我は 言ふ 婆羅門と

(また我は、胎より生れ、母より生れたるを婆羅門とは言はず。もし有所有ならば、そは名を君よと言ふ者と言ふなり。無所有にして無執著なるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

われは、(バラモン女の)胎から生れ(バラモン女の)母から生れた人をバラモンと呼ぶのではない。かれは「〈きみよ〉といって呼びかける者」といわれる。かれは何か所有物の思いにとらわれている。無一物であって執著のない人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 na: adv. なし

 cāhaṃ: ca + ahaṃ*13

  ca: conj. と, そして, また

 yonijaṃ: yonija の acc. sg. m.

  yonija: a. [yoni-ja] 胎より生まれたる

   yoni: f. 胎, 子宮, 生; 起源, 原因

   -ja: a. suffix [<jan] 生ぜる*14

 matti-sambhavaṃ: matti-sambhava の acc. sg.

  matti-sambhava: 母から生まれた, 母系の

   matti: f. [=mātu<mātar] 母

   sambhava: m. [saṃ-bhava] 発生, 生起, 生成

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*15

    bhava: m. [<bhū] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福

     √bhū: ある, 存す

 bho-vādī: bho-vādin の nom. sg. m.*16

  bho-vādin: 君よと言う者, バラモン

   bho: interj. [bhavant の voc.] 君よ, 友よ. [バラモンが相互に用いる, 同僚または目下の者への呼称,目上の者に対しては bhante を用いる]

    bhavant: pron. [<bhavati] 尊, 尊師, 尊者, 勝存者

     bhavati: [√bhū]*17 ある, 存在する

   vādin: a. [vāda*18-in] 説者, 主張者, 論師

    vāda: m. [vad*19-a] 説, 語, 論

    -in: 所有形容詞を形成する*20

 nāma: n. 名  acc. sg.*21

 so: ta の nom. sg. m.*22 それは, 彼は

 hoti: =bhavati  [√hū] ある, 存在する*23

 sace: conj. もし

 sakiñcano: sakiñcana の nom. sg. m.

  sakiñcana: a. [sa-kiñcana] 有所得, 有執著の, 何物かを有する

   sa: =saha  prep. 共に, 有する, 同じ

   kiñcana: =kiñci  a. n. 何か, 何ものか, 障碍, 障*24

 akiñcanaṃ: akiñcana の acc. sg. m.

  akiñcana: a. [a-kiñcana] 無所有の, 何物もなき

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

 anādānaṃ: anādāna の acc. sg. m.

  anādāna: n. [an-ādāna] 無取, 無取著

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   ādāna: n. [ā-dā-ana*25] 取, 執取, 取著

    ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*26

    √: 施与

    -ana: 名詞・形容詞を形成する*27