395.
Paṃsu-kūla-dharaṃ jantuṃ, kisaṃ dhamani-santhataṃ,
糞掃衣を持せる 人を 痩せたる 血管の広がれる
ekaṃ vanasmiṃ jhāyantaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
独り 林に於て 禅定せる そを/我は 言ふ 婆羅門と
(糞掃衣をまとひ、痩せて血管が現れ、独り林に於て禅定せるを、そを我は婆羅門と言ふ。)
糞掃衣(ふんぞうえ)をまとい、痩せて、血管があらわれ、ひとり林の中にあって瞑想する人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
paṃsu-kūla-dharaṃ: paṃsu-kūla-dhara の acc. sg. m.
paṃsu-kūla: 糞掃衣, 弊衣, 塵堆衣
paṃsu: m. 塵, 塵垢, 塵土, 汚物
kūla: n. 斜面, 土手, 堤防
dhara: a. [dhar-a] 持てる, 保持せる
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-a: 名詞・形容詞を形成する*1
jantuṃ: jantu の acc. sg.
jantu: m. [jan-tu] 人, 有情
√jan(a): 生まれる, つくられる
-tu: 名詞を形成する*2
kisaṃ: kisa の acc. sg. m.
kisa: a. 痩せたる, 憔悴した
dhamani-santhataṃ: dhamani-santhata の acc. sg. m.
dhamani: f. 血管, 静脈
santhata: a. n. [santharati の pp.]*3 広布せる, 拡げた, 覆える, 有隔の; 敷物, 臥具
santharati: [saṃ*4-thar] 広げる, 敷く
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*5
√thar(a): [Sk. stṛ] 広げる, 覆う
ekaṃ: adv. [eka の acc.]*6 独りで
eka: a. num. 一, 一つ, 或る
vanasmiṃ: vana の loc. sg.
vana: n. 林; 欲林, 欲望
jhāyantaṃ: jhāyanta の acc. sg. m.
jhāyanta: jhāyati の ppr.*7
jhāyati: [√jhā, Sk. dhyai] 静慮す, 禅定をなす, 思念す*8
tamahaṃ: taṃ*9 + ahaṃ nom. sg.
taṃ: ta の acc. sg. m.*10
ta: pron. それ
ahaṃ: pron. 私は, 私が nom. sg.*11
brūmi: brūti の 1sg.*12
brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる
brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
396.
Na cāhaṃ brāhmaṇaṃ brūmi, yonijaṃ matti-sambhavaṃ,
否 又/我は 婆羅門と 言ふ 胎より生れたる 母より生れたる
bho-vādī nāma so hoti, sace hoti sakiñcano,
君よと言ふ者 名を そは 也 もし 也 有所有の
akiñcanaṃ anādānaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
無所有の 無執著なるを そを/我は 言ふ 婆羅門と
(また我は、胎より生れ、母より生れたるを婆羅門とは言はず。もし有所有ならば、そは名を君よと言ふ者と言ふなり。無所有にして無執著なるを、そを我は婆羅門と言ふ。)
われは、(バラモン女の)胎から生れ(バラモン女の)母から生れた人をバラモンと呼ぶのではない。かれは「〈きみよ〉といって呼びかける者」といわれる。かれは何か所有物の思いにとらわれている。無一物であって執著のない人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
na: adv. なし
cāhaṃ: ca + ahaṃ*13
ca: conj. と, そして, また
yonijaṃ: yonija の acc. sg. m.
yonija: a. [yoni-ja] 胎より生まれたる
yoni: f. 胎, 子宮, 生; 起源, 原因
-ja: a. suffix [<jan] 生ぜる*14
matti-sambhavaṃ: matti-sambhava の acc. sg.
matti-sambhava: 母から生まれた, 母系の
matti: f. [=mātu<mātar] 母
sambhava: m. [saṃ-bhava] 発生, 生起, 生成
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*15
bhava: m. [<bhū] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福
√bhū: ある, 存す
bho-vādī: bho-vādin の nom. sg. m.*16
bho-vādin: 君よと言う者, バラモン
bho: interj. [bhavant の voc.] 君よ, 友よ. [バラモンが相互に用いる, 同僚または目下の者への呼称,目上の者に対しては bhante を用いる]
bhavant: pron. [<bhavati] 尊, 尊師, 尊者, 勝存者
bhavati: [√bhū]*17 ある, 存在する
vādin: a. [vāda*18-in] 説者, 主張者, 論師
vāda: m. [vad*19-a] 説, 語, 論
-in: 所有形容詞を形成する*20
nāma: n. 名 acc. sg.*21
so: ta の nom. sg. m.*22 それは, 彼は
hoti: =bhavati [√hū] ある, 存在する*23
sace: conj. もし
sakiñcano: sakiñcana の nom. sg. m.
sakiñcana: a. [sa-kiñcana] 有所得, 有執著の, 何物かを有する
sa: =saha prep. 共に, 有する, 同じ
kiñcana: =kiñci a. n. 何か, 何ものか, 障碍, 障*24
akiñcanaṃ: akiñcana の acc. sg. m.
akiñcana: a. [a-kiñcana] 無所有の, 何物もなき
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
anādānaṃ: anādāna の acc. sg. m.
anādāna: n. [an-ādāna] 無取, 無取著
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる
ādāna: n. [ā-dā-ana*25] 取, 執取, 取著
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*26
√dā: 施与