蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 116 (260. 261.)

260.

Na tena thero so hoti yen'assa palitaṃ siro,

否 其故に 長老 そは 也 それ故に/この 白髪の 頭

paripakko vayo tassa mogha-jiṇṇo ti vuccati.

旧り果てたる 歳が その 徒らに老ひたる と 言はる

(その白髪の頭の故に、それ故にそは長老たること無し。(ただ)歳が旧(ふ)り果てたる者は、徒(いたづ)らに老ひたる者と言はる。)

頭髪が白くなったからとて〈長老〉なのではない。ただ年をとっただけならば「空しく老いぼれた人」と言われる。

 na: adv. なし

 tena: ta の ins. sg. n.*1  それによって, それ故に

  ta: pron. それ

 thero: thera の nom. sg.

  thera: m. 長老, 上座, 年長

 so: ta の nom. sg. m.*2

 yen'assa: yena + assa*3

  yena: [ya の ins.]*4 それをもって, そこから, ~の所に

   ya: pron. rel. 所のもの

  assa: ayaṃ の gen. sg. m.*5

   ayaṃ: pron. これ, この

 palitaṃ: palita の nom. sg. n.

  palita: =phalita  a. 白髪の, 灰色の

 siro: sira の nom. sg.

  sira: n. m. 頭

 paripakko: paripakka の nom. sg. m.

  paripakka: a. [pari-pakka] 遍熟せる, 消化せる, 毀熟せる

   pari-: pref. 円, 遍ねく, 完全に, 強意. 完全性などを意味する*6

   pakka: a. [pacati の pp.] 熟せる, 煮たる

    pacati: [√pac] 煮る, 炊く, 焼く, 責める

 vayo: vaya の nom. sg.

  vaya: n. m. 時量, 年代 [青年, 壮年, 老年] , 青春

 tassa: ta の gen. sg. m.*7

 mogha-jiṇṇo: mogha-jiṇṇa の nom. sg. m.

  mogha-jiṇṇa: 徒らに老いたる

   mogha: a. 空虚の, 無用の, 愚鈍の

   jiṇṇa: a. [jīrati の pp.]*8 老いたる, 老衰せる, 枯朽の

    jīrati: =jīrayati  [√jīr(a)] 老ゆ, 老衰す, 亡ぶ; 消化す

 ti: ind. [iti の略] と, かく

 vuccati: [√vac の pass.]*9 言われる

 

261.

Yamhi saccañca dhammo ca ahiṃsā saṃyamo damo,

所の者  真/又   法   又  不害  自制  調御 

sa ve vanta-malo dhīro thero ti pavuccati.

そは 実に 吐垢者 賢なる 長老 と 言はる

(されど真あり、また法あり、害すこと無く、自制し、己れを調御せる者、そは実に垢穢を吐きたる者、賢者、長老と言はる。)

誠あり、徳あり、慈しみがあって、傷(そこな)わず、つつしみあり、みずからととのえ、汚れを除き、気をつけている人こそ〈長者〉と呼ばれる。

 yamhi: ya の loc. sg. m.*10

 saccañca: saccaṃ*11 + ca

  saccaṃ: sacca の nom. sg.

   sacca: n. [sat-ya*12] 真実, 諦, 真理

    √sat: 存在, 真実, 高貴, 尊敬に値する, 賢なる

    -ya: 中性名詞を形成する*13

  ca: conj. と, そして, また

 dhammo: dhamma の nom. sg.

  dhamma: [dhar*14-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

   √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

   -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*15

 ahiṃsā: f. [a-hiṃsā] 不害, 無害

  a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

  hiṃsā: f. [hiṃs-ā] 殺, 害

   √hiṃs(a): 害す

   : 女性名詞を形成する*16

 saṃyamo: saṃyama の nom. sg.

  saṃyama: =saññama  m. [saṃ-yam-a] 抑制, 制御, 自制; 節約, 節倹, 物惜しみ

   saṃ-: pref. 共に, 正しく, 集まる, 同じ, 強意*17

   √yam(u): 抑制, 自制

   -a: 名詞・形容詞を形成する*18

 damo: dama の nom. sg.

  dama: n. [dam-a] 調御, 調伏, 訓練

   √dam(u): 飼いならす

 sa: =so  ta の nom. sg. m.

 ve: adv. 実に

 vanta-malo: vanta-mala の nom. sg. m.

  vanta-mala: 吐垢者

   vanta: a. [vamati の pp.]*19 吐きたる, 排除せる, 吐瀉物

    vamati: [√vam(u)] 吐く, 吐瀉す

   mala: n. 垢, 垢穢

 dhīro: dhīra の nom. sg.

  dhīra: a. m. [dhī-ra] 堅固な, 賢き, 賢者, 慧者, 英賢

   √dhī: 智, 知, 理解, 想像, 概念

   -ra: 名詞・形容詞を形成する*20