蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 89 (178-180.)

178.

Sudiṭṭhaṃ  vata no ajja suppabhātaṃ suhuṭṭhitaṃ,

よく見られたる 実に 我等に 今日 よく輝ける よく奮起せる

yaṃ addasāma sambuddhaṃ ogha-tiṇṇamanāsavaṃ.

所の  見ゑけり  正覚者に   暴流を越えたる/無漏なる

(実に今日、よく輝きよく奮起せる者は我らによりよく見られたり。暴流を越え無漏なる正覚者に我らは見(まみ)けり。)

今日われらは美しい〔太陽〕を見、美しく晴れた朝に逢い、気もちよく起き上がった。激流をのり超え、煩悩の汚れのなくなった〈覚った人〉にわれらは見えたからである。

 sudiṭṭhaṃ: sudiṭṭha の nom. sg. n.

  sudiṭṭha: a. [su-diṭṭha] 善く見られた

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   diṭṭha: a. [dissati の pp.]*1 見られたる, 見, 所見

    dissati: [√dis(a)]*2 見える, 見られる

 vata: adv. 実に

 no: ahaṃ の instr. pl.*3

  ahaṃ: pron. 私は, 私が

 ajja: adv. 今日, 現在

 suppabhātaṃ: suppabhāta の nom. sg. n.

  suppabhāta: a. [su-pabhāta*4] よく夜が明けた, 全く明るくなった

   pabhāta: a. n. [pabhāti の pp.]*5 かがやける, 暁天の; 暁天, 早朝

    pabhāti: [pa-bhāti] かがやく, 光る, 照る

     bhāti: [√bhā] 輝く, 現われる

 suhuṭṭhitaṃ: suhuṭṭhita の nom. sg. n.

  suhuṭṭhita: a. [su-uṭṭhita*6] よく現起せる, よく起き上れる

   uṭṭhita: a. [uṭṭhahati の pp. ]*7 起立せる, 奮起せる

    uṭṭhahati: =uṭṭhāti, uttiṭṭhati  [ud-thā*8]*9 起き上る, 奮起す

     ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*10

     √ṭhā: [Sk. ṣṭhā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる

 yaṃ: ya の acc. sg. m.*11

  ya: pron. rel. 所のもの

 addasāma: dassati の aor. 1pl.*12

  dassati: [√das(i), Sk. dṛś]*13 見る, 認める, 理解す

 sambuddhaṃ: sambuddha の acc. sg. m.

  sambuddha: a. m. [sambujjhati の pp.]*14  よく覚れる, 正覚者, 等覚者

   sambujjhati: [saṃ*15-bujjhati] よく覚る, 正覚す

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*16

    bujjhati: =bodhati  [√budh(a)]*17 覚る, 目覚む

 ogha-tiṇṇamanāsavaṃ: ogha-tiṇṇaṃ*18 + anāsavaṃ

  ogha-tiṇṇaṃ: ogha-tiṇṇa の acc. sg. m.

   ogha-tiṇṇa: 暴流を越えたる, 暴流を渡れる

    ogha: m. 暴流, 流, 洪水

    tiṇṇa: a. [tarati の pp.]*19 渡れる, 度脱せる, 超えたる

     tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る

  anāsavaṃ: anāsava の acc. sg. m.

   anāsava: a. [an-āsava] 漏なき, 無漏の

    an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

    āsava: m. [ā-su-a*20] 漏, 流漏, 煩悩, 酒

     ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*21

     √su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る

     -a: 名詞・形容詞を形成する*22

 

179.

Ime dasa-satā yakkhā iddhimanto yasassino

是等  千の  神霊共は 神通力ある 誉れある

sabbe taṃ saraṇaṃ yanti, tvaṃ no satthā anuttaro.

皆  其の 帰依に 至る  君は 我等の 師 無上の

(神通力あり誉れあるこれら千の神霊どもは、皆その帰依に至る。君は我らの無上の師なり。)

これらの千の神霊どもは、神通力あり、誉れたかきものどもであるが、かれらはすべてあなたに帰依します。あなたはわれらの無上の師であります。

 ime: ayaṃ の nom. pl.*23

  ayaṃ: pron. これ, この

 dasa-satā: dasa-sata の nom. pl.

  dasa-sata: 十百 = 一千

   dasa: num. 十

   sata: num. n. a. 百, 多くの

 yakkhā: yakkha の nom. pl.

  yakkha: m. 夜叉, 薬叉, 鬼神; 人

 iddhimanto: iddhimant の nom. sg.

  iddhimant: a. [iddhi-mant] 神変を有せる

   iddhi: f. 神通, 神変

   -mant: =mat  所有形容詞を形成する*24

 yasassino: yasassin の nom. pl. m.*25

  yasassin: a. [yasas-in] 有名な, 名声ある

   yasas: n. 名称, 称誉, 名声

   -in: 所有形容詞を形成する*26

 sabbe: sabba の nom. pl. m.*27

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

 taṃ: ta の acc. sg. m.*28

  ta: pron. それ

 saraṇaṃ: saraṇa の acc. sg.

  saraṇa: n. [sar-ana] 帰依, 帰依所, 隠家

   √sar(a): [Sk. smṛ] 喜ばせる, まもる, 生きる

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*29

 yanti: yāti の pl.

  yāti: [√yā] 行く, 至る

 tvaṃ: 汝, 君  nom. sg.

 no: ahaṃ の gen. pl.*30

 satthā: satthar の nom. sg.*31

  satthar: m. [sās-tar*32] 師, 大師, 教師, 教主

   √sās(a): [Sk. śās] 教諭, 教導

   -tar: 動作主名詞を形成する*33

 anuttaro: anuttara の nom. sg. m.

  anuttara: a. [an-uttara] 無上の, より上がない, 最高の, 無上士

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   uttara: a. [udの比較級]*34 より上の, よりすぐれた, 北の, 北方の, 次の

 

180.

Te mayaṃ vicarissāma gāmā gāmaṃ nagā nagaṃ

其の 我等は  歩む  村から 村へ  山から 山へ

namassamānā sambuddhaṃ dhammassa ca sudhammatan" ti.

礼拝しつつ    正覚者を    法の   又  妙法性を   と

(その我らは村から村へ、山から山へめぐり歩むなり。正覚者を、また法の妙なる所以を礼拝しつつ」)

われらは、村から村へ、山から山へ、めぐり歩もう、──覚った人をも、真理のすぐれた所以をも礼拝しつつ。」

 te: ta の nom. pl. m.*35

 mayaṃ: =vayaṃ  ahaṃ の nom. pl.*36

 vicarissāma: vicarati の fut. 1pl.*37

  vicarati: [vi-carati] 伺察す, 遊歩す

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*38

   carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 gāmā: gāma の abl. sg.

  gāma: m. 村, 村落

 gāmaṃ: gāma の acc. sg.

 nagā: naga の abl. sg.

  naga: m. [na-ga] 山

   na: adv. なし

   -ga: [<gam] 主に形容詞を形成する*39

    √gam(u): 行く, 動く, 近づく, 達する

 nagaṃ: naga の acc. sg.

 namassamānā: namassati の ppr. nom. 1pl. m.*40

  namassati: [namas の denom.]*41 礼拝す, 拝む

   namas: n. [nam-as] 南無, 礼拝, 頂礼

    √nam(u): 礼拝する, 辞儀する, 曲げる, 屈する

    -as: 名詞を形成する*42

 dhammassa: dhamma の gen. sg.

  dhamma: [dhar*43-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

   √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

   -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*44

 ca: conj. と, そして, また

 sudhammatan: =sudhammataṃ*45

  sudhammataṃ: sudhammatā の acc. sg.

   sudhammatā: f. [su-dhamma*46-tā] 善法性, 妙法たること

    -tā: 女性抽象名詞を形成する*47

 ti: ind. [iti の略] と, かく

*1:『実用パーリ語文法』受動完了分詞 453.

*2:同上, 第三活用 374.

*3:同上, ahaṃ の曲用 289.

*4:同上, 子音連声 33.

*5:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*6:同上, 子音の挿入 28.

*7:同上, 受動完了分詞 452. (i) 注意

*8:同上, 一般的な同化規則 62.

*9:同上, 現在系統の活用 390. 注意 (c)

*10:同上, 動詞接頭辞 516. ud

*11:同上, 関係代名詞 312.

*12:同上, アオリスト 409.

*13:同上, 第三活用 374.

*14:同上, 受動完了分詞 453.

*15:同上, ニッガヒータ連声 39.

*16:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*17:同上, 第三活用 374.

*18:同上, ニッガヒータ連声 42.

*19:同上, 受動完了分詞 459. 注意

*20:同上, 強調 110.

*21:同上, 動詞接頭辞 516. ā

*22:同上, 一次派生 576. a

*23:同上, 指示代名詞 305.

*24:同上, 二次派生 581. mat/mant

*25:同上, in で終わる形容詞 210.

*26:同上, 二次派生 581. in

*27:sabba の曲用

*28:同上, 指示人称代名詞 292.

*29:同上, 一次派生 ana

*30:同上, ahaṃ の曲用 289.

*31:同上, ar で終わる名詞 163.

*32:同上, s の同化 92.

*33:同上, 一次派生 tar (tā)

*34:同上, 比較級・最上級 238.

*35:同上, 指示人称代名詞 292.

*36:同上, 人称代名詞 289.

*37:同上, 未来系統 432. 433. 

*38:同上, 動詞接頭辞 516. vi

*39:同上, kvi 接尾辞 584. ga

*40:同上, 反射分詞 447.

*41:同上, 第三活用 374.

*42:同上, 一次派生 as

*43:同上, r の同化 80. (iv)

*44:同上, 一次派生 ma

*45:同上, ニッガヒータ連声 39.

*46:同上, 子音連声 33.

*47:同上, 二次派生 581. tā