蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 12 (30-32.)

30.

Ninnañca thalañca pūrayanto mahā-megho pāvassi tāvadeva,

低地を/又 高地を/又 充たし乍ら  大雲が  雨を降らしき 直ちに

sutvā devassa vassato imamatthaṃ Dhaniyo abhāsatha:

聞きて 神の 雨の降りある 是を/事を ダニヤが 言ひき

(直ちに大雲が低地と高地とをみたしながら雨を降らしき。神の雨の降りあるこのことを聞きてダニヤが言ひき。)

 忽ちに大雲が現われて、雨を降らし、低地と丘とをみたした。神が雨を降らすのを聞いて、ダニヤは次のことを語った。

 ninnañca: ninnaṃ*1 + ca

  ninnaṃ: ninna の acc. sg.

   ninna: a. [<ni-nam の略か] 下向の, 傾ける, 低き, 低地

    ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *2

    √nam(u): 礼拝する, 辞儀する, 曲げる, 屈する

  ca: conj. と, そして, また

 thalañca: thalaṃ + ca

  thalaṃ: thala の acc. sg.

   thala: n. [thal-a] 陸, 陸地, 乾地, 高地

    √thal(a): [Sk. sthal] しっかりと立つ

    -a: 名詞・形容詞を形成する*3

 pūrayanto: pūreti の ppr. nom. sg. m.*4

  pūreti: [pūrati の caus.]*5 充たす, 充満さす

   pūrati: [√pūr(a), Sk. pṝ] 充つ, 充満す

 mahā-megho: mahā-megha の nom. sg. m.

  mahā-megha: 大雲, 大雨

   mahā: =mahant  a. 大なる, 偉大の

   megha: m. 雨雲, 雲

 pāvassi: pavassati の aor.*6

  pavassati: [pa-vassati] 降雨す, ふりそそぐ

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*7

   vassati: [√vass(a), Sk. vṛṣ] 雨ふる, 降る, そそぐ

 tāvadeva: tāva + d*8 + eva  直ちに

  tāva: adv. それだけ, それ程, まず

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意

 sutvā: suṇāti の ger.*9

  suṇāti: [√su, Sk. śru]*10 聞く, 聴く

 devassa: deva の gen. sg.

  deva: m. 天, 神, 王. 天皇, 陛下

 vassato: vassati の ppr. nom. sg. m.*11

  vassati: [√vass(a), Sk. vṛṣ] 雨ふる, 降る, そそぐ

 imamatthaṃ: imaṃ*12 + atthaṃ

  imaṃ: ayaṃ の acc. sg. m.*13

   ayaṃ: pron. これ, この

  atthaṃ: attha の acc. sg. m.

   attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

    √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

 Dhaniyo: Dhaniya の nom. sg. m.

  Dhaniya: ダニヤ (人名)

 abhāsatha: bhāsati の aor.*14

  bhāsati: [√bhās(u), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う; 照る, 輝やく

 

31.

"Lābhā vata no anappakā, ye mayaṃ bhagavantaṃ addasāma,

得は 実に 我等の 少なからざる 所の物 我等は  世尊に  見えき

saraṇaṃ taṃ upema, cakkhumasatthā no hohi tuvammahā-muni.

帰依が  君に 到りき 眼ある大師  我等の たり給へ 君/大牟尼よ

(我らは世尊に見(まみ)えしが、その我らの得たるところは実に少なからざるなり。我らは君に帰依しき。我らの眼ある大師となり給へ。大牟尼たる君よ。)

 「われらは尊き師にお目にかかりましたが、われらの得たところは実に大きいのです。眼ある方よ。われらはあなたに帰依いたします。あなたはわれらの師となってください。大いなる聖者よ。

 lābhā: lābha の nom. pl.

  lābha: m. [labh*15-a] 得, 利, 利得, 利養

   √labh(a): 得る

 vata: adv. 実に

 no: ahaṃ の gen. pl.*16

 anappakā: anappaka の nom. pl. m.

  anappaka: a. [an-appaka] 少なからざる, 多くの

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   appaka: a. [appa-ka] 少き, 微細の

    appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細

    ka-: 動作主名詞・形容詞を形成する*17

 ye: ya の nom. pl. m.*18

  ya: pron. rel. 所のもの

 mayaṃ: ahaṃ の nom. pl.*19

  ahaṃ: pron. 私は, 私が

 bhagavantaṃ: bhagavant の acc. sg.*20

  bhagavant: m. [bhaga-vant] 世尊, 薄伽梵, 仏

   bhaga: m. [bhaj*21-a] 幸運, 福運

    √bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕

   -vant: 所有形容詞を形成する*22

 addasāma: dassati の aor. 1pl.*23

  dassati: [√das(i), Sk. dṛś]*24 見る, 認める, 理解す

 saraṇaṃ: saraṇa の nom. sg.

  saraṇa: n. [sar-ana] 帰依, 帰依所, 隠家

   √sar(a): [Sk. smṛ] 喜ばせる, まもる, 生きる

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*25

 taṃ: tvaṃ の acc. sg.*26

  tvaṃ: 汝, 君

 upema: upeti の 1pl.*27

  upeti: [upa*28-eti] 近づく, 到る

   upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*29

   eti: [√i]*30 行く

 cakkhumasatthā: cakkhumā*31 + satthā

  cakkhumā: cakkhumant の nom. sg. m.*32

   cakkhumant: a. [cakkhu-mant] 眼ある, 具眼者

    cakkhu: n. 眼, 目

    -mant: =mat  所有形容詞を形成する*33

  satthā: satthar の nom. sg.*34

   satthar: m. 師, 大師, 教師, 教主

 hohi: hoti の imper. 2sg.*35

  hoti: =bhavati  [√hū]*36 ある, 存在する

 tuvammahā-muni: tuvaṃ*37 + mahā-muni

  tuvaṃ: =tvaṃ 汝, 君  nom. sg.

  mahā-muni: 大牟尼

   mahā: =mahant  a. 大なる, 偉大の

   muni: m. [mun-i] 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人

    √mun(a): [Sk. muṇ] 誓約

    -i: 名詞・形容詞を形成する*38

 

32.

Gopī ca ahañca assava, brahmacariyaṃ sugate carāmase,

牧牛女は 又 我は/又 従順の  梵行を  善逝の許で 行じさせ給へ

jāti-maraṇassa pāragā dukkhass'anta-karā bhavāmase"

生死の     超越者等 苦の終極を作せる者等 たらせ給へ

(妻と我とは従順なり。幸福なる人のもとで梵行を行じさせ給え。生死を超越し、苦の終極をなせる者らたらせ給へ。」)

妻もわたしもともに従順であります。幸せな人(ブッダ)のもとで清らかな修行を行いましょう。生死の彼岸に達して、苦しみを滅ぼしましょう。」

 gopī: gopa の f.

  gopa: m. 牧牛者

 ahañca: ahaṃ*39 + ca

 assava: a. [ā-su*40-a*41] 忠実の, 従順なる

  ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*42

  √su: [Sk. śru] 聞く

 brahmacariyaṃ: brahmacariya の acc. sg.

  brahmacariya: n. [brahmā*43-cariya] 梵行, 仏道修行; 清浄行, 不婬, 独身生活

   brahmā: m. a. [<brah] 梵, 梵天, 梵王; 梵=如来; 梵者, 婆羅門; 尊貴の, 神聖の

    √brah(a): [Sk. bṛh] 増大, 成長, 拡大

   cariya: n. [cara*44-iya] 行, 行為, 所行

    cara: a. m. [car-a] 歩行の, 密偵, 間諜

     √car(a): 行く, 動く, 彷徨う, 行ず

     -iya: 抽象名詞を形成する*45

 sugate: sugata の loc. sg. m.

  sugata: a. m. [su-gata] よく行ける, 幸福なる; 善逝[如来十号の一]

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   gata: a. [gacchati の pp.]*46 行ける, 達せる, 関係せる; 様子, 姿

    gacchati: [√gam(u)]*47 行く

 carāmase: carati の imper. mid. 1pl.*48

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 jāti-maraṇassa: jāti-maraṇa の gen. sg. m.

  jāti: f. [ja*49-ti] 生, 誕生, 生れ, 血統, 種類

   √ja: 生れる

   -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*50

  maraṇa: n. [<mar] 死

   √mar(a): [Sk. mṛ] 死ぬ, 殺す

 pāragā: pāraga の nom. pl. m.

  pāraga: a. [para*51-ga] 越えたる, 渡りたる

   para: a. 他の, 彼方の, 上の

   -ga: 主に形容詞を形成する*52

 dukkhass'anta-karā: dukkhassa*53 + anta-karā

  dukkhassa: dukkha の gen. sg. m.

   dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩

    √dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安

  anta-karā: anta-kara の nom. pl.

   anta: m. 終極, 目的, 極限, 辺, 極端

   kara: a. m. [kar-a] なす, 作す, 作る, 行う; 手

    √kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す

 bhavāmase: bhavati の imper. mid. 1pl.*54

  bhavati: [√bhū]*55 ある, 存在する

*1:『実用パーリ語文法』ニッガヒータ連声 39.

*2:同上, 動詞接頭辞 516. ni

*3:同上, 二次派生 581. a

*4:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)

*5:同上, 使役動詞 491. (i)

*6:同上, アオリスト 407.

*7:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*8:同上, 子音の挿入 28.

*9:同上, 動名詞 471.

*10:同上, 第四活用 376.

*11:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)

*12:同上, ニッガヒータ連声 42.

*13:同上, 指示代名詞 305.

*14:同上, アオリスト 409.

*15:同上, 強調 105.

*16:同上, ahaṃ の曲用 289.

*17:同上, 一次派生 ka

*18:同上, 関係代名詞 312.

*19:同上, 人称代名詞 289.

*20:同上, vat/vant で終わる名詞 166.

*21:同上, 派生 572.

*22:同上, 二次派生 581. vat/vant

*23:同上, アオリスト 409.

*24:同上, 第三活用 374.

*25:同上, 一次派生 ana

*26:同上, tvaṃ の曲用 290.

*27:同上, 現在系統の活用 381.

*28:同上, 母音連声 17.

*29:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*30:同上, 現在系統の活用 390.

*31:同上, 子音連声 31.

*32:同上, mat/mant で終わる形容詞の曲用 228.

*33:同上, 二次派生 581. mat/mant

*34:同上, ar で終わる名詞 163,

*35:同上, 現在系統の活用 381.  同左, 命令法 616. (ii)

*36:同上, 不規則動詞 511.

*37:同上, ニッガヒータ連声 39.

*38:同上, 一次派生 i

*39:同上, ニッガヒータ連声 39.

*40:同上, 子音連声 35.

*41:同上, 強調 110.

*42:同上, 動詞接頭辞 516. ā

*43:同上, 子音連声 31.

*44:同上, 母音連声 17.

*45:同上, 二次派生 581. iya

*46:同上, 受動完了分詞 456.

*47:同上, 不規則動詞 404.

*48:同上, 現在系統の活用 381.  同左, 命令法 616. (ii)

*49:同上, 強調 105.

*50:同上, 一次派生 ti

*51:同上, 強調 105.

*52:同上, kvi 接尾辞 584. ga

*53:同上, 母音連声 17.

*54:同上, 現在系統の活用 381.  同左, 命令法 616. (ii)

*55:同上, 第一活用 371. (3)