蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 61 (113-115.)

113.

"Iti h'etaṃ vijānāma, ekādasamo so parābhavo,

斯く 実に/是を 了知す 第十一の 其は 破滅

dvādasamaṃ bhagavā brūhi, kimparābhavato mukhaṃ."

第十二を    世尊は 説き給へ 何か/破滅への  門は

(「実に我らは斯くの如くこれを了知す。そは第十一の破滅なり。世尊は第十二を説き給へ。破滅への門は何か」)

「よくわかりました。おっしゃるとおりです。これが第十一の破滅です。先生! 第十二のものを説いてください。破滅への道は何ですか?」

 iti: indecl. かく, ~と, とて

 h’etaṃ: hi*1 + etaṃ

  hi: adv. conj. 実に; 何となれば

  etaṃ: eta の acc. sg. n.*2

   eta: pron. a. これ, それ

 vijānāma: vijānāti の 1pl.

  vijānāti: [vi-jānāti] 了知す, 了別す, 識知す

   vi-: 語根の意味を強調する*3

   jānāti: [√jā]*4 知る

 ekādasamo: ekādasama の nom. m.*5

  ekādasama: a. [ekādasa-ma] 第十一

   ekādasa: num. [eka*6-dasa] 十一

    eka: a. num. 一, 一つ, 或る

    dasa: num. 十

   -ma: 序数を形成する*7

 parābhavo: parābhava の nom. sg.

  parābhava: m. [parā-bhava] 敗北, 敗亡

 dvādasamaṃ: dvādasama の acc. m.*8

  dvādasama: a. [dvādasa-ma] 第十二

   dvādasa: num. [dvi-dasa] 十二

    dvi: num. 二

 bhagavā: bhagavat の nom. sg.*9

  bhagavat: =bhagavant  m. [bhaga-vat] 世尊, 薄伽梵, 仏

   bhaga: m. [bhaj*10-a] 幸運, 福運

    √bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕

    -a: 名詞・形容詞を形成する*11

 brūhi: brūti の imper. 2sg.*12

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 kimparābhavato: kiṃ*13 +parābhavato

  kiṃ: ka の nom. sg. n.*14 何, いかに, いかなる

   ka: pron. inter. 誰? 何?

  parābhavato: parābhavat の dat. sg.*15

   parābhavat: m. [parā-bhū-at*16] 敗北, 敗亡

    √bhū: ある, 存す

    -at: =-ant  名詞・形容詞を形成する

 mukhaṃ: mukha の nom. sg.

  mukha: n. 口, 入口, 門; 顔, 面, 前面; 頂点

 

114.

"Appa-bhogo mahā-taṇho khattiye jāyate kule,

 財少なき   渇欲の大なる 王族に 生まる 家に

so ca rajjaṃ patthayati, tam parābhavato mukhaṃ.

其が 又 王位を  欲す  其は  破滅への  門

(「財少なくして渇欲の大なる者が王族の家に生まる。またそが王位を欲す。そは破滅への門なり。)

「クシャトリア(王族)の家に生まれた人が、材料が少ないのに欲望が大きくて、この世で王位を獲ようと欲するならば、これは破滅への門である。

 appa-bhogo: appa-bhoga の nom. sg. m.

  appa-bhoga: 少財, 貧しき

   appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細

   bhoga: m. [bhuj*17-a] 受用, 富, 財, 財物, 貨財, 俸禄

    √bhuj(a): 食べる, 享受する, 楽しむ, 所有する

    -a: 名詞・形容詞を形成する*18

 mahā-taṇho: mahā-taṇhā の nom. sg. m.

  mahā: =mahant  a. 大なる, 偉大の

  taṇhā: f. [Sk. tṛṣṇā] 渇愛, 愛, 愛欲

   tṛṣṇā: 渇き; 欲望, 貪欲

 khattiye: khattiya の loc. sg.

  khattiya: m. カツテイヤ, 剎帝利, 王族

 jāyate: jāyati の mid. sg.*19

  jāyati: [√jā]*20 生まれる, 再生する

 kule: kula の loc. sg.

  kula: n. [kul-a] 家, 良家, 族姓

   √kul(a); 蓄積する, 親族となる

 so: ta の nom. sg. m.*21 それは, 彼は

  ta: pron. それ

 ca: conj. と, そして, また

 rajjaṃ: rajja の acc. sg.

  rajja: n. [rāj-a*22] 王たること, 王国, 王位, 王権, 統治, 政権

   rāj(a): 輝く, 統治する, 首領である

 patthayati: =pattheti  [pa*23-atth]*24 欲求す, 希求す, 望む

  pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*25

  √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

 

115.

Ete parābhave loke paṇḍito samavekkhiya,

是等の 破滅を 世の 賢者は  観じて

ariyo dassana-sampanno, sa lokaṃ bhajate sivan" ti

聖なる   見者は    其は 世に 親しむ 幸福なる と

(世に於てこれらの破滅を賢者は観じたる後、聖なる見者は、そは幸福なる世に親しむ」と。)

世の中にはこのような破滅のあることを考察して、賢者・すぐれた人は真理を見て、幸せな世界を体得する。」

 ete: eta の acc. pl. m.*26

  eta: pron. a. これ, それ

 parābhave: parābhava の acc. pl.

 loke: loka の loc. sg.

  loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界

 samavekkhiya: samavekkhati の ger.*27

  samavekkhati: [saṃ*28-avekkhati] 観察す, 考察す

   saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*29

   avekkhati: [ava-ikkhati*30] 観察する, 見る

    ava-: =o-  pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*31

    ikkhati: [√ikkh(a), Sk. īkṣ] 見る

 ariyo: ariya の nom. sg. m.

  ariya: a. m. 聖なる, 神聖なる, 尊貴の, 聖者

 dassana-sampanno: dassana-sampanna の nom. sg. m.

  dassana-sampanna: 見具足

   dassana: n. [<das] 見, 見ること

    √das(i): [Sk. dṛś] 見る

   sampanna: a. [sampajjati の pp.]*32 具足せる, 成就せる

    sampajjati: [saṃ-pajjati] 起る, なる, 成功す

     pajjati: [√pad(a)]*33 歩く, 行く; 落ちる

 sa: =so  ta の nom. sg. m.*34

 lokaṃ: loka の acc. sg.

 bhajate: bhajati の mid. sg.*35

  bhajati: [√bhaj(a)] 親近す, 奉仕す

   √bhaj(a): 共有する, 配る, 分ける

 sivan: =sivaṃ*36  siva の acc. sg.

  siva: a. n. m. 吉祥の, 幸福の; 幸福, 吉祥; シグ神, シグ神の崇拝者

 ti: ind. [iti の略] と, かく