7. Vasala Sutta 賤しい人 (賤民の経)
vasala: m. 賎民; 売女
sutta: [Sk. sūtra<siv] 経, 契経, 修多羅[九分教の一]; 戒経, 戒本 [=pāṭimokkha]; 糸, 繩墨
√siv(u): 縫い合わせる, 集める
Evaṃ me sutaṃ:
斯く 我が 所聞は
(我が聞ける所は斯くの如し。)
わたくしが聞いたところによると、──
evaṃ: adv. かく, かくの如く
me: ahaṃ の gen. sg.*1
ahaṃ: pron. 私は, 私が
sutaṃ: suta の nom. sg.
suta: a. n. [suṇāti の pp.]*2 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞
suṇāti: [√su, Sk. śru]*3 聞く, 聴く
Ekaṃ samayaṃ bhagavā Sāvatthiyaṃ viharati Jeta-vane
或る 時 世尊は サーヴァッティーに 住す ジェータ林に
Anātha-piṇḍikassa ārāme. Atha kho bhagavā pubbaṇha-samayaṃ
アナータピンディカの 園に 時に 実に 世尊は 午前に
nivāsetvā patta-cīvaraṃ ādāya Sāvatthiṃ piṇḍāya pāvisi.
内衣を着け 鉢と上衣を 取りて サーヴァッティーに 托鉢に 入りけり
(ある時、世尊はサーヴァッティーのジェータ林、アナータピンディカの園に住す。その時世尊は午前に内衣を着け鉢と上衣を取りて托鉢のためにサーヴァッティーに入りけり。)
あるとき師(ブッダ)は、サーヴァッティーのジェータ林、〈孤独なる人々に食を給する長者〉の園におられた。そのとき師は朝のうちに内衣を着け、鉢と上衣とをたずさえて、托鉢のためにサーヴァッティーに入った。
ekaṃ samayaṃ: adv. 一時, ある時
ekaṃ: adv. [eka の acc. sg. m.*4]*5
eka: a. num. 一, 一つ, 或る
samayaṃ: adv. [samaya の acc. sg. m.]*6
samaya: m. [saṃ*7-i-a*8] 時, 時期, 適時
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*9
√i: 行く, 得達する
-a: 名詞・形容詞を形成する*10
bhagavā: bhagavat の nom. sg.*11
bhagavat: =bhagavant m. [bhaga-vat] 世尊, 薄伽梵, 仏
bhaga: m. [bhaj*12-a] 幸運, 福運
√bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕
-vat: =vant 所有形容詞を形成する*13
Sāvatthiyaṃ: Sāvatthī の loc. sg.*14
Sāvatthī: f. 舎衛城 [コーサラ国の首都]
viharati: [vi-har] 住す, 居住す
vi-: 語根の意味を強調する*15
√har(a): ある, 存在す
Jeta-vane: Jeta-vana の loc. sg.
Jeta-vana: n. 祇陀 (太子) の林, 祇陀林, 祇園
vana: n. [van-a] 林; 欲林, 欲望
√van(a): 欲する, 望む, 願う
Anātha-piṇḍikassa: Anātha-piṇḍika の gen. sg. m.
anātha: a. [a-nātha] 無怙の, 孤独の
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
nātha: m. 主, 守護者, ナータ神, 依怙, 救護
piṇḍika: piṇḍa*16 + -ika
piṇḍa: m. 丸いもの, 球; 団食, 食物; 集団
-ika: 名詞・形容詞を形成する*17
ārāme: ārāma の loc. sg.
ārāma: m. 園, 園林, 遊園, 公園, 僧園
atha kho: そこで, 時に, さて
atha: =atho ind. 時に, また
kho: adv. 実に
pubbaṇha-samayaṃ: adv. [pubbaṇha-samaya の acc.]*18 午前に
pubbaṇha: 午前
samaya: m. [saṃ*19-i-a*20] 時, 時期, 適時
√i: 行く, 得達する
nivāsetvā: nivāseti の ger.*21
nivāseti: [ni-vasati の caus.]*22 着衣す, 内衣を着る
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*23
vasati: [√vas(a)] 着る
patta-cīvaraṃ: patta-cīvara の acc. sg.
patta-cīvara: 鉢と衣
patta: m. n. 鉢, 器
cīvara: n. 衣, 法衣
ādāya: ādāti の ger.*24
ādāti: =ādiyati, ādeti [ā-dā] 取る
ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*25
√dā: 施与
Sāvatthiṃ: Sāvatthī の acc. sg.
piṇḍāya: piṇḍa の dat.*26 托鉢のために
piṇḍa: m. 丸いもの, 球; 団食, 食物; 集団
pāvisi: pavisati の aor.*27
pavisati: [pa-vis] 入る
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*28
√vis(a): [Sk. viś] 入る
Tena kho pana samayena Aggika-bhāradvājassa brāhmaṇassa
其の 実に 然して 時に 火に事ふるバーラドヴァージャの 婆羅門の
nivesane aggi pajjalito hoti āhutī paggahitā.
住居に 火が 灯されたる 也 供物が 手向けられたる
(然して実にその時、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャの住居には、火が灯され、供物が手向けられたるなり。)
そのとき火に事えるバラモン・バーラドヴァージャの住居には、聖火がともされ、供物がそなえられていた。
tena: ta の ins. sg. m.*29 それによって, それ故に, それと共に
ta: pron. それ
kho: adv. 実に
pana: adv. conj. また, 然し, 然るに, 然らば, しかも
samayena: samaya の instr. sg.
Aggika-bhāradvājassa: aggika-bhāradvāja の gen. sg. m.
aggika: a. [aggi-ka] 事火の, 拝火の
aggi: m. [agg-i] 火, 火神, 火天
√agg(a): [Sk. agni] 曲がりくねって動く
-ka: 名詞・形容詞を形成する*30
brāhmaṇassa: brāhmaṇa の gen. sg.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
nivesane: nivesana の loc. sg.
nivesana: n. [ni-vis*31-ana] 居住, 住処
√vis(a): [Sk. viś] 入る
-ana: 名詞・形容詞を形成する*32
pajjalito: pajjalita の nom. sg. m.
pajjalita: a. [pajjalati の pp.]*33 燃えたる, 熾然の
pajjalati: [pa-jalati*34] かがやく, もえる, 熾然す
jalati: [√jal(a), Sk. jval] 燃ゆ, 輝やく
āhutī: āhuti の nom. pl.
āhuti: f. 供犠, 供祭, 祭祀
paggahitā: paggahita の nom. pl. f.*35
paggahita: a. [paggaṇhāti の pp.] さしのべたる, 策励せる
paggaṇhāti: [pa-gaṇhāti*36] さしのベる, 摂受す, 策励す
gaṇhāti: =gaṇhati [√gah(a), Sk. grah]*37 取る, 捕える
Atha kho bhagavā Sāvatthiyaṃ sapadānaṃ piṇḍāya caramāno
時に 実に 世尊は サーヴァッティーで 順に 托鉢を 行じ乍ら
yena Aggika-bhāradvājassa brāhmaṇassa nivesanaṃ
の所に 火に事ふるバーラドヴァージャの 婆羅門の 住居に
ten'upasaṃkami. Addasā kho aggika-bhāradvājo brāhmaṇo
其に/近づきけり 見けり 実に 火に事ふるバーラドヴァージャは 婆羅門は
bhagavantaṃ dūrato'va āgacchantaṃ.
世尊を 遠くより/正に 来ある
(さて、世尊はサーヴァッティーで次々(すぎすぎ)に托鉢を行じながら、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャの、その住居の所に近づきけり。実に婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャは、遠くより正に来ある世尊を見けり。)
さて師はサーヴァッティー市の中を托鉢して、かれの住居に近づいた。火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師が遠くから来るのを見た。
Sāvatthiyaṃ: Sāvatthī の loc. sg.*38
sapadānaṃ: adv. [sapadāna の acc.]*39 次第に
sapadāna: a. 次第の, 順次の
caramāno: carati の ppr. nom. sg. m.*40
carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く
yena: ya の instr.*41 それをもって, そこから, ~の所に
ya: pron. rel. 所のもの
Aggika-bhāradvājassa: Aggika-bhāradvāja の gen. sg. m.
nivesanaṃ: nivesana の acc. sg.
ten'upasaṃkami: tena*42 + upasaṃkami
upasaṃkami: upasaṃkamati の aor.*43
upasaṃkamati: upa- + saṃ- + kamati
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*44
kamati: [√kam(u), Sk. kram] 歩く, 行く, 来る, 入る, 影響す
addasā: dassati の aor.*45
dassati: [√das(i), Sk. dṛś]*46 見る, 認める, 理解す
Aggika-bhāradvājo: Aggika-bhāradvāja の nom. sg. m.
brāhmaṇo: brāhmaṇa の nom. sg.
bhagavantaṃ: bhagavant の acc. sg.*47
dūrato'va: dūrato + eva*48
dūrato: dūra の abl. sg. m.*49
dūra: a. 遠き, 遠隔の
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意 正に
āgacchantaṃ: āgacchati の ppr. acc. sg. m.*50
āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る
gacchati: [√gam(u)]*51 行く