蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 62 (散文 10.)

7. Vasala Sutta 賤しい人 (賤民の経)

 vasala: m. 賎民; 売女

 sutta: [Sk. sūtra<siv] 経, 契経, 修多羅[九分教の一]; 戒経, 戒本 [=pāṭimokkha]; 糸, 繩墨

  √siv(u): 縫い合わせる, 集める

 

Evaṃ me sutaṃ:

く 我が 所聞は

(我が聞ける所は斯くの如し。)

わたくしが聞いたところによると、──

 evaṃ: adv. かく, かくの如く

 me: ahaṃ の gen. sg.*1

  ahaṃ: pron. 私は, 私が

 sutaṃ: suta の nom. sg.

  suta: a. n. [suṇāti の pp.]*2 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞

   suṇāti: [√su, Sk. śru]*3 聞く, 聴く

 

Ekaṃ samayaṃ bhagavā Sāvatthiyaṃ viharati Jeta-vane

或る  時   世尊は サーヴァッティーに 住す ジェータ林に

Anātha-piṇḍikassa ārāme. Atha kho bhagavā pubbaṇha-samayaṃ

アナータピンディカの 園に 時に 実に 世尊は  午前に

nivāsetvā patta-cīvaraṃ ādāya Sāvatthiṃ piṇḍāya pāvisi. 

内衣を着け 鉢と上衣を  取りて サーヴァッティーに 托鉢に 入りけり

(ある時、世尊はサーヴァッティーのジェータ林、アナータピンディカの園に住す。その時世尊は午前に内衣を着け鉢と上衣を取りて托鉢のためにサーヴァッティーに入りけり。)

あるとき師(ブッダ)は、サーヴァッティーのジェータ林、〈孤独なる人々に食を給する長者〉の園におられた。そのとき師は朝のうちに内衣を着け、鉢と上衣とをたずさえて、托鉢のためにサーヴァッティーに入った。

 ekaṃ samayaṃ: adv. 一時, ある時

  ekaṃ: adv. [eka の acc. sg. m.*4]*5

   eka: a. num. 一, 一つ, 或る

  samayaṃ: adv. [samaya の acc. sg. m.]*6

   samaya: m. [saṃ*7-i-a*8] 時, 時期, 適時

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*9

    √i: 行く, 得達する

    -a: 名詞・形容詞を形成する*10

 bhagavā: bhagavat の nom. sg.*11

  bhagavat: =bhagavant  m. [bhaga-vat] 世尊, 薄伽梵, 仏

   bhaga: m. [bhaj*12-a] 幸運, 福運

    √bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕

   -vat: =vant  所有形容詞を形成する*13

 Sāvatthiyaṃ: Sāvatthī の loc. sg.*14

  Sāvatthī: f. 舎衛城 [コーサラ国の首都]

 viharati: [vi-har] 住す, 居住す

  vi-: 語根の意味を強調する*15

  √har(a): ある, 存在す

 Jeta-vane: Jeta-vana の loc. sg.

  Jeta-vana: n. 祇陀 (太子) の林, 祇陀林, 祇園

   vana: n. [van-a] 林; 欲林, 欲望

    √van(a): 欲する, 望む, 願う

 Anātha-piṇḍikassa: Anātha-piṇḍika の gen. sg. m.

  anātha: a. [a-nātha] 無怙の, 孤独の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   nātha: m. 主, 守護者, ナータ神, 依怙, 救護

  piṇḍika: piṇḍa*16 + -ika

   piṇḍa: m. 丸いもの, 球; 団食, 食物; 集団

   -ika: 名詞・形容詞を形成する*17

 ārāme: ārāma の loc. sg.

  ārāma: m. 園, 園林, 遊園, 公園, 僧園

 atha kho: そこで, 時に, さて

  atha: =atho  ind. 時に, また

  kho: adv. 実に

 pubbaṇha-samayaṃ: adv. [pubbaṇha-samaya の acc.]*18 午前に

  pubbaṇha: 午前

  samaya: m. [saṃ*19-i-a*20] 時, 時期, 適時

   √i: 行く, 得達する

 nivāsetvā: nivāseti の ger.*21

  nivāseti: [ni-vasati の caus.]*22 着衣す, 内衣を着る

   ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*23

   vasati: [√vas(a)] 着る

 patta-cīvaraṃ: patta-cīvara の acc. sg.

  patta-cīvara: 鉢と衣

   patta: m. n. 鉢, 器

   cīvara: n. 衣, 法衣

 ādāya: ādāti の ger.*24

  ādāti: =ādiyati, ādeti  [ā-dā] 取る

   ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*25

   √: 施与

 Sāvatthiṃ: Sāvatthī の acc. sg.

 piṇḍāya: piṇḍa の dat.*26  托鉢のために

  piṇḍa: m. 丸いもの, 球; 団食, 食物; 集団

 pāvisi: pavisati の aor.*27

  pavisati: [pa-vis] 入る

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*28

   √vis(a): [Sk. viś] 入る

 

Tena kho pana samayena Aggika-bhāradvājassa brāhmaṇassa

其の 実に 然して 時に 火に事ふるバーラドヴァージャの 婆羅門の

nivesane aggi pajjalito hoti āhutī paggahitā.

住居に 火が 灯されたる 也 供物が 手向けられたる

(然して実にその時、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャの住居には、火が灯され、供物が手向けられたるなり。)

そのとき火に事えるバラモン・バーラドヴァージャの住居には、聖火がともされ、供物がそなえられていた。

 tena: ta の ins. sg. m.*29  それによって, それ故に, それと共に

  ta: pron. それ

 kho: adv. 実に

 pana: adv. conj. また, 然し, 然るに, 然らば, しかも

 samayena: samaya の instr. sg.

 Aggika-bhāradvājassa: aggika-bhāradvāja の gen. sg. m.

  aggika: a. [aggi-ka] 事火の, 拝火の

   aggi: m. [agg-i] 火, 火神, 火天

    √agg(a): [Sk. agni] 曲がりくねって動く

   -ka: 名詞・形容詞を形成する*30

 brāhmaṇassa: brāhmaṇa の gen. sg.

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 nivesane: nivesana の loc. sg.

  nivesana: n. [ni-vis*31-ana] 居住, 住処

   √vis(a): [Sk. viś] 入る

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*32

 pajjalito: pajjalita の nom. sg. m.

  pajjalita: a. [pajjalati の pp.]*33 燃えたる, 熾然の

   pajjalati: [pa-jalati*34] かがやく, もえる, 熾然す

    jalati: [√jal(a), Sk. jval] 燃ゆ, 輝やく

 āhutī: āhuti の nom. pl.

  āhuti: f. 供犠, 供祭, 祭祀

 paggahitā: paggahita の nom. pl. f.*35

  paggahita: a. [paggaṇhāti の pp.] さしのべたる, 策励せる

   paggaṇhāti: [pa-gaṇhāti*36] さしのベる, 摂受す, 策励す

    gaṇhāti: =gaṇhati  [√gah(a), Sk. grah]*37 取る, 捕える

 

Atha kho bhagavā Sāvatthiyaṃ sapadānaṃ piṇḍāya caramāno

時に 実に 世尊は サーヴァッティーで 順に  托鉢を 行じ乍ら

yena Aggika-bhāradvājassa brāhmaṇassa nivesanaṃ

の所に 火に事ふるバーラドヴァージャの 婆羅門の  住居に

ten'upasaṃkami. Addasā kho aggika-bhāradvājo brāhmaṇo

其に/近づきけり  見けり 実に 火に事ふるバーラドヴァージャは 婆羅門は

bhagavantaṃ dūrato'va āgacchantaṃ.

世尊を    遠くより/正に 来ある

(さて、世尊はサーヴァッティーで次々(すぎすぎ)に托鉢を行じながら、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャの、その住居の所に近づきけり。実に婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャは、遠くより正に来ある世尊を見けり。)

さて師はサーヴァッティー市の中を托鉢して、かれの住居に近づいた。火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師が遠くから来るのを見た。

 Sāvatthiyaṃ: Sāvatthī の loc. sg.*38

 sapadānaṃ: adv. [sapadāna の acc.]*39 次第に

  sapadāna: a. 次第の, 順次の

 caramāno: carati の ppr. nom. sg. m.*40

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 yena: ya の instr.*41 それをもって, そこから, ~の所に

  ya: pron. rel. 所のもの

 Aggika-bhāradvājassa: Aggika-bhāradvāja の gen. sg. m.

 nivesanaṃ: nivesana の acc. sg.

 ten'upasaṃkami: tena*42 + upasaṃkami

  upasaṃkami: upasaṃkamati の aor.*43

   upasaṃkamati: upa- + saṃ- + kamati

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*44

    kamati: [√kam(u), Sk. kram] 歩く, 行く, 来る, 入る, 影響す

 addasā: dassati の aor.*45

  dassati: [√das(i), Sk. dṛś]*46 見る, 認める, 理解す

 Aggika-bhāradvājo: Aggika-bhāradvāja の nom. sg. m.

 brāhmaṇo: brāhmaṇa の nom. sg.

 bhagavantaṃ: bhagavant の acc. sg.*47

 dūrato'va: dūrato + eva*48

  dūrato: dūra の abl. sg. m.*49

   dūra: a. 遠き, 遠隔の

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意  正に

 āgacchantaṃ: āgacchati の ppr. acc. sg. m.*50

  āgacchati: [ā-gacchati] 来る, 近づく, 帰る

   gacchati: [√gam(u)]*51 行く

*1:『実用パーリ語文法』ahaṃ の曲用 289.

*2:同上, 受動完了分詞 451.(i)

*3:同上, 第四活用 376.

*4:同上, eka の曲用 255.

*5:同上, 格形副詞 532.

*6:同上

*7:同上, ニッガヒータ連声 42.

*8:同上, 強調 110.

*9:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*10:同上, 一次派生 576. a

*11:同上, at/vat/mat で終わる名詞 167.

*12:同上, 派生 572.

*13:同上, 二次派生 581. vat/vant

*14:同上, ī で終わる女性名詞 139.

*15:同上, 動詞接頭辞 519.

*16:同上, 母音連声 17.

*17:同上, 二次派生 581. ika

*18:同上, 格形副詞 532.

*19:同上, ニッガヒータ連声 42.

*20:同上, 強調 110.

*21:同上, 動名詞 471. (vi)

*22:同上, 使役動詞 491. (i)

*23:同上, 動詞接頭辞 516. ni

*24:同上, 動名詞 472. (iv)

*25:同上, 動詞接頭辞 516. ā 注意

*26:同上, a で終わる男性名詞 122. 注意 (a)

*27:同上, アオリスト 407.

*28:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*29:同上, 指示人称代名詞 292.

*30:同上, 二次派生 581. ka

*31:同上, 強調 105.

*32:同上, 一次派生 ana

*33:同上, 受動完了分詞 451. (ii)

*34:同上, 子音連声 33.

*35:同上, 受動完了分詞 464,

*36:同上, 子音連声 33.

*37:同上, 現在系統の活用 401. 注意 (c)

*38:同上, ī で終わる女性名詞 139.

*39:同上, 格形副詞 532.

*40:同上, 反射分詞 447.

*41:同上, ya の曲用 312.

*42:同上, 母音連声 17.

*43:同上, アオリスト 407.

*44:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*45:同上, アオリスト 409. 410.

*46:同上, 第三活用 374.

*47:同上, at/vat/mat で終わる名詞 166.

*48:同上, 母音連声 26.

*49:同上, a で終わる形容詞 200.

*50:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)

*51:同上, 不規則動詞 404.