Disvāna bhagavantaṃ etadavoca: "tatr'eva muṇḍaka, tatr'eva
見て 世尊を 斯く/言ひけり 其処に/唯 剃髪者よ 其処に/唯
samaṇaka, tatr'eva vasalaka tiṭṭhāhī" ti.
似非沙門よ 其処に/唯 賤民よ 止まれ と
(世尊を見て斯く言ひけり。「剃髪者よ、ただそこに。似非の沙門よ、ただそこに。賤民よ、ただそこに止まれ」と。)
そこで師にいった、「髪を剃った奴よ、そこにおれ。にせの〈道の人〉よ、そこにおれ。賤しい奴よ、そこにおれ」と。
disvāna: =disvā dissati の ger.*1 見て
dissati: [√dis]*2 見える, 見られる
bhagavantaṃ: bhagavant の acc. sg.*3
bhagavant: m. [bhaga-vant] 世尊, 薄伽梵, 仏
bhaga: m. [bhaj*4-a] 幸運, 福運
√bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕
-vant: =vat 所有形容詞を形成する*5
etadavoca: etad + avoca
etad: eta の acc. sg. n.*6
eta: pron. a. これ, それ
avoca: vatti の aor.*7
vatti: [√vac(a)]*8 言う, 語る, 説く
tatr'eva: tatra*9 + eva
tatra: =tattha adv. [ta-tra] そこに, そこで, そのとき
ta: pron. それ
-tra: 場所を表わす副詞を形成する*10
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意
muṇḍaka: =muṇḍa a. 剃頭の, 禿頭の voc. sg.
samaṇaka: m. [samaṇa-ka] 似而非(えせ)沙門, 貧沙門 voc. sg.
samaṇa: m. [sam-ana] 沙門
√sam(u): [Sk. śram] 勤息
-ana: 名詞・形容詞を形成する*11
-ka: 名詞・形容詞を形成する*12
vasalaka: =vasala m. 賎民; 売女 voc. sg.
tiṭṭhāhī: =tiṭṭhāhi*13
tiṭṭhāhi: tiṭṭhati の imper. 2sg.*14
tiṭṭhati: [√thā, Sk. sthā]*15 立つ, 住立す, 止まる, 存続す
ti: ind. [iti の略] と, かく
Evaṃ vutte bhagavā Aggika-bhāradvājaṃ brāhmaṇaṃ etadavoca:
斯く 言はれたる所 世尊は 火に事ふるバーラドヴァージャに 婆羅門に 斯く/言ひけり
"jānāsi pana tvaṃ, brāhmaṇa, vasalaṃ vā vasala-karaṇe vā
知る 然らば 汝は 婆羅門よ 賤民を 或は 賤民の所作を 或は
dhamme" ti.
理を と
(斯くの如く言はれたるところ、世尊は、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャに斯く言ひけり。「婆羅門よ、しからば汝は賤民を、或ひは賤民の為すところ、或ひはその理を知るや」と。)
そう言われたので、師は、火に事えるバラモン・バーラドヴァージャに言った、「バラモンよ。あなたはいったい賤しい人とは何かを知っているのですか? また賤しい人たらしめる条件を知っているのですか?」
evaṃ: adv. [eva の acc.]*16 かく, かくの如く
vutte: vutta の loc. sg. m.*17
vutta: a. [vuccati の pp.] 言われた, 説かれた
vuccati: [√vac の pass.]*18 言われる
√vac: 言う, 話す
bhagavā: bhagavat の nom. sg.*19
bhagavat: =bhagavant
Aggika-bhāradvājaṃ: Aggika-bhāradvāja の acc. sg.
aggika: a. [aggi-ka] 事火の, 拝火の
aggi: m. [agg-i] 火, 火神, 火天
√agg(a): [Sk. agni] 曲がりくねって動く
-i: 名詞・形容詞を形成する*20
brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
jānāsi: jānāti の 2sg.*21
jānāti: [√jā]*22 知る
pana: adv. conj. また, 然し, 然るに, 然らば, しかも
tvaṃ: 汝, 君 nom. sg.
brāhmaṇa: voc. sg.
vasalaṃ: vasala の acc. sg.
vā: adv. conj. または, 或は
vasala-karaṇe: vasala-karaṇa の acc. pl. m.
karaṇa: n. [kar-ana] 作すこと, なすもの, 所作. 遂行, 作格
√kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す
dhamme: dhamma の acc. pl.
dhamma: [dhar*23-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*24
"Na khvāhaṃ, bho, Gotama, jānāmi vasalaṃ vā vasalakaraṇe vā
否 実に/我は 君 ゴータマよ 知る 賤民を 或は 賤民の所作を 或は
dhamme, sādhu me bhavaṃ Gotamo tathā dhammaṃ desetu,
理を 何卒 我に 世尊は ゴータマは 其の如く 理を 示し給へ
yathāhaṃ jāneyyaṃ vasalaṃ vā vasalakaraṇe vā dhamme" ti.
如くに/我の 知るべかる 賤民を 或は 賤民の所作を 或は 理を と
(「君、ゴータマよ、実に我は賤民を、或ひは賤民の為すところ、或ひはその理を知らず。乞ひ願はくは、世尊、ゴータマは我にその如く理を示し給へ。我の知るべかる如くに、賤民を、或ひは賤民の所作を、或ひは理を」と。)
「ゴータマさん(ブッダ)。わたくしは人を賤しい人とする条件をも知っていないのです。どうか、わたくしが賤しい人を賤しい人とさせる条件を知り得るように、ゴータマさんはわたくしにその定めを説いてください。」
na: adv. なし
khvāhaṃ: kho*25 + ahaṃ
kho: adv. 実に
ahaṃ: pron. 私は, 私が
bho: interj. [bhavant の voc.]*26 君よ, 友よ.[バラモンが相互に用いる, 同僚または目下の者への呼称, 目上の者に対しては bhanteを用いる]
gotama: m. [go-tama] 瞿曇, 喬答摩 [釈迦族の姓, 釈尊を指すこと多し] voc. sg.
go: m. 牛, 牡牛
-tama: 男性語基について最上級を形成する*27
jānāmi: jānāti の 1sg.*28
sādhu: a. adv. interj. [sādh-u] 善き, 善良の, 善人, 善く; 善い哉, 善哉, 何卒, どうぞ, 幸甚なり
√sādh(a): 成功, 達成
-u: 名詞・形容詞を形成する*29
me: ahaṃ の dat. sg.*30
bhavaṃ: bhavat の nom. sg. m.*31
bhavat: =bhavant pron. [bhavati の ppr.]*32 尊, 尊師, 尊者, 勝存者
tathā: adv. [ta-thā] かく, その如くに
-thā: 様子の副詞を形成する*33
dhammaṃ: dhamma の acc. sg.
desetu: deseti の imper. sg.*34
deseti: [disati の caus.]*35 示す, 指示す, 教示す, 懺悔す
disati: [√dis(a), Sk. diś] 示す, 指す
yathāhaṃ: yathā + ahaṃ*36
yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し
ya: pron. rel. 所のもの
ahaṃ: nom. sg.
jāneyyaṃ: jānāti の opt.*37
"Tena hi, brāhmaṇa, suṇāhi, sādhukaṃ manasi-karohi,
其を以て 実に 婆羅門よ 聞け 善く 注意せよ
bhāsissāmī" ti. "Evam, bho," ti kho Aggika-bhāradvājo
言ふなり と 斯く 君よ と 実に 火に事ふるバーラドヴァージャは
brāhmaṇo bhagavato paccassosi. Bhagavā etadavoca:
婆羅門は 世尊に 答へけり 世尊は 斯く/言ひけり
(「されば実に、婆羅門よ、聞け。よく注意せよ。我は言ふなり」と。「その如くに、君よ」と、実に、婆羅門、火に事ふるバーラドヴァージャは世尊に答へけり。世尊は斯く言ひけり。)
「婆羅門よ、ではお聞きなさい。よく注意なさい。わたくしは説きましょう。」
「どうぞ、お説きくください」と、火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師に答えた。師は説いていった、
tena: ta の ins. sg. m.*38 それによって, それ故に, それと共に
hi: adv. conj. 実に; 何となれば
suṇāhi: suṇāti の imper. 2sg.*39
suṇāti: [√su, Sk. śru]*40 聞く, 聴く
sādhukaṃ: adv. [sādhuka の acc.]*41 善く
sādhuka: a. [sādhu-ka] 善き, 十分なる
manasi-karohi: manasi-karoti の imper. 2sg.*42
manasi-karoti: 作意す, 注意す
manasi: manas の loc. sg.*43
manas: n. [man-as] 意, 心
√man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る
-as: 名詞を形成する*44
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*45 なす, 行う, 作る
bhāsissāmī: =bhāsissāmi*46
bhāsissāmi: bhāsati の fut. 1sg.*47
bhāsati: [√bhās(u), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う; 照る, 輝く
Aggika-bhāradvājo: Aggika-bhāradvāja の nom. sg. m.
brāhmaṇo: brāhmaṇa の nom. sg.
bhagavato: bhagavat の dat. sg.*48
paccassosi: =paccassosuṃ [paṭi-assosi*49] paṭissuṇāti の aor.*50
paṭissuṇāti: [paṭi-suṇāti*51] 同意する, 応諾する, 答える
paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*52
suṇāti: [√su, Sk. śru]*53 聞く, 聴く