蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 13 (33. 34.)

33.

"Nandati puttehi puttimā," iti māro pāpimā,

喜ぶ 子を以て 子のあるは と 悪魔は 悪しき

"gomiko gohi tath'eva nandati, upadhī hi narassa nandanā,

牛あるは 牛を以て 斯く/唯 喜ぶ 諸依は 実に 人の 歓喜

na hi so nandati yo nirūpadhi."

否 実に 其は 喜ぶ 所の者 依著無き

(「子のある者は子を以て喜ぶ」と、悪しき悪魔は言へり。「牛ある者は牛を以て斯くただ喜ぶ。諸依は実に人の歓喜なり。実に依著無き者は喜ぶこと無し。)

悪魔パーピマンがいった、

 「子のある者は子について喜び、また牛のある者は牛について喜ぶ。人間の執著するもとのものは喜びである。執著するもとのもののない人は、実に喜ぶことがない。」

 nandati: [√nand(a)] 喜ぶ, 歓喜す

 puttehi: putta の ins. pl.

  putta: m. 子, 子息; 男児

 puttimā: puttimant の nom. sg. m.*1

  puttimant: a. [putta*2-i(連結母音)*3-mant] 子のある

   -mant: =mat  所有形容詞を形成する*4

 iti: indecl. かく, ~と, とて

 māro: māra の nom. sg. m.

  māra: m. [mar*5-a] 魔, 悪魔, 魔羅, 魔王, 死神

   √mar(a): [Sk. mṛ] 死ぬ, 殺す

   -a: 名詞・形容詞を形成する*6

 pāpimā: pāpimant の nom. sg. m.*7

  pāpimant: a. [pāpa*8-i(連結母音)*9-mant] 波旬, 悪しき者, 悪魔

   pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人

 gomiko: gomika の nom. sg. m.

  gomika: m. [go-ika*10] 牛の所有者, 牛主

   go: m. 牛, 牡牛

   -ika: 名詞・形容詞を形成する*11

 gohi: go の ins. pl.*12

 tath'eva: tathā*13 + eva

  tathā: adv. [ta-thā] かく, その如くに

   ta: pron. それ

   -thā: 様子の副詞を形成する*14

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意

 upadhī: upadhi の nom. pl.*15

  upadhi: m. [upa-dhā*16-i] 依, 依著 (渴愛煩悩), 所依, 存在の基礎, 生の素質, 妻子等

   upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*17

   √dhā: 持す

   -i: 名詞・形容詞を形成する*18

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 narassa: nara の gen. sg.

  nara: m. [nar-a] 人, 人々

   √nar(a): [Sk. nṝ] 人, 人間, 導く者

 nandanā: f. [nand-anā] 歓喜, 愉悦  nom. sg.

  √nand(a): 喜び, 満足

  -anā: [-ana の女性形] 名詞・形容詞を形成する*19

 na: adv. なし

 so: ta の nom. sg. m.*20 それは, 彼は

 yo: ya の nom. sg. m.*21

  ya: pron. rel. 所のもの

 nirūpadhi: nirupadhi  a. [ni-upadhi*22] 依止なき, 無依の, 依著なき, 生質なき

  ni-: pref. 否, 無

 

34.

"Socati puttehi puttimā," iti bhagavā,

憂う 子を以て 子のあるは と 世尊は

"gomiko gohi tath'eva socati, upadhī hi narassa socanā,

牛あるは 牛を以て 斯く/唯 憂う 諸依は 実に 人の 憂ひ

na hi so socati yo nirūpadhī" ti.

否 実に 其は 憂う 所の者 依著無き と

(「子のある者は子を以て憂ふ」と、世尊は言ひき。「牛のある者は斯くただ牛を以て憂ふ。諸依は実に人の憂ひなり。実に依著無き者は憂ふこと無し」と。)

師は答えた、

 「子のある者は子について憂い、また牛のある者は牛について憂う。実に人間の憂いは執著するもとのものである。執著するもとのもののない人は、憂うることがない。」

 socati: [√suc(a), Sk. śuc]*23 愁う, うれう, 悲しむ

 gohi: go の ins. pl.*24

  go: m. 牛, 牡牛

 socanā: =socana  n. f. [suc*25-anā] 憂愁

  √suc(a): [Sk. śuc] 愁う, 憂う

 nirūpadhī: nirūpadhi の nom. pl. m.*26