蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 19 (45-47.)

45.

Sace labhetha nipakaṃ sahāyaṃ,

もし  得ば  賢明なる  朋友を

saddhiṃ-caraṃ sādhu-vihāri-dhīraṃ,

同伴者を     善く住せる智者を

abhibhuyya sabbāni parissayāni,

打ち勝ちて  一切に  諸難に

careyya ten'atta-mano satīmā.

歩むべし 其と/適意の 具念の

(もし、賢明なる朋友、善く住せる同伴者を得ば、一切の危難に打ち勝ちて、己が意に適いて具念なるその者と共に歩むべし。)

もしも汝が、〈賢明で協同し行儀正しい明敏な同伴者〉を得たならば、あらゆる危難にうち勝ち、こころ喜び、気をおちつかせて、かれとともに歩め。

 sace: conj. もし

 labhetha: labhati の opt. mid. sg.*1

  labhati: [√labh(a)] 得る

 nipakaṃ: nipaka の acc. sg.

  nipaka: a. m. 賢明の, 慎重なる, 智者

 sahāyaṃ: sahāya の acc. sg.

  sahāya: m. [saha-i-a*2] 朋友, 仲間, 僚友

   saha: prep. pref. 共に, 倶に

   √i: 行く

   -a: 名詞・形容詞を形成する*3

 saddhiṃ-caraṃ: saddhiṃ-cara の acc. sg. m.

  saddhiṃ: adv. 共に, ー緒に

  cara: a. m. [car-a] 歩行の, 密偵, 間諜

   √car(a): 行く, 動く, 彷徨う, 行ず

 sādhu-vihāri-dhīraṃ: sādhu-vihāri-dhīra の acc. sg. m.

  sādhu: a. adv. interj. [sādh-u] 善き, 善良の, 善人, 善く; 善い哉, 善哉, 何卒, どうぞ, 幸甚なり

   √sādh(a): 成功, 達成

   -u: 名詞・形容詞を形成する*4

  vihāri: =vihārin  a. [vi-har*5-in] 住者, 住ある

   vi-: 語根の意味を強調する*6

   √har(a): ある, 存在す

   -in: 所有形容詞・名詞を形成する*7

  dhīra: a. m. [dhī-ra] 堅固な, 賢き, 賢者, 慧者, 英賢

   √dhī: 智, 知, 理解, 想像, 概念

   -ra: 名詞・形容詞を形成する*8

 abhibhuyya: abhibhavati の ger.*9

  abhibhavati: [abhi-bhavati] 打ち勝つ, 征服す

   abhi-: prep. 対して, 向って, 勝れて, 過ぎて

   bhavati: [√bhū]*10 ある, 存在する

 sabbāni: sabba の acc. pl.

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

 parissayāni: parissaya の acc. pl.

  parissaya: m. n. 危難, 危険, 険難

 careyya: carati の opt.*11

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 ten'attamano: tena*12 + atta-mano

  tena: pron. [ta の ins. m. n. sg.]*13 それによって, それ故に

   ta: pron. それ

  atta-mano: atta-mana の nom. sg. m.

   atta-mana: 心にかなえる, 適意の, 悅意の

    atta: =attan  m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体

    mana: m. n. [man-a] 意, 心

     √man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る

 satīmā: satimant の nom. sg. m.*14

  satimant: a. [sati*15-mant] 具念の, 有念者

   sati: f. [sar*16-ti] 念, 憶念, 記憶, 正念

   -mant: =mat  所有形容詞を形成する*17

 

46.

No ce labhetha nipakaṃ sahāyaṃ

否 もし 得ば  賢明なる  朋友を

saddhiṃ-caraṃ sādhu-vihāri-dhīraṃ,

同伴者を     善く住せる智者を

rājā va raṭṭhaṃ vijitampahāya,

王が 如く 国を 制せるを/捨てたる

eko care khagga-visāṇa-kappo.

独り 歩むべし 犀の角の為せる

(もし、賢明なる朋友、善く住せる同伴者を得ざれば、制せる国を捨てたる王が如く、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)

しかしもしも汝が、〈賢明で協同し行儀正しい明敏な同伴者〉を得ないならば、譬えば王が征服した国を捨て去るようにして、犀の角のようにただ独り歩め。

 no: =na  adv. なし

 ce: conj. もし, 若し

 rājā: rājan の nom. sg.*18

  rājan: m. [rāj-an] 王, 国王

   √rāj(a): 輝く, 統治する, 首領となる

   -an: 名詞を形成する*19

 va: [iva の略] indecl. 如く

 raṭṭhaṃ: raṭṭha の acc. sg.

  raṭṭha: n. 国, 王国

 vijitampahāya: vijitaṃ*20 + pahāya

  vijitaṃ: vijita の acc. sg.

   vijita: a. n. [vijayati の pp.]*21 征服せる, 勝利の; 領土, 王国

    vijayati: =vijeti, vijinati  [vi-ji]*22 征服す, 打ち勝つ

  pahāya: [pajahati の ger.]*23 捨てて

   pajahati: =pajahāti  [pa-jahati] 捨てる, 捨断する, 断ずる

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*24

    jahati: =jahāti  [√hā]*25 捨つ, 断ず

 eko: eka の nom. sg. m.

  eka: a. num. 一, 一つ, 或る

 care: carati の opt.*26

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 khagga-visāṇa-kappo: khagga-visāṇa-kappa の nom. sg. m.

  khagga: 犀, さい

  visāṇa: n. 角, 象牙

  kappa: a. [kapp-a] 為せる

   √kapp(a): 為す

 

47.

Addhā pasaṃsāma sahāya-sampadaṃ,

真に    褒む    朋友を伴へるを

seṭṭhā samā sevitabbā sahāyā,

最上の 等しき 親近すべき 朋友等が

ete aladdhā anavajja-bhojī,

此等を 得ずして 罪無きを楽しめる

eko care khagga-visāṇa-kappo.

独り 歩むべし 犀の角の為せる

(我らは真に朋友を伴へることを褒め称ふ。最上の、または等しき、親近すべき朋友らが倶(とも)なるを。これらを得ずしては罪無きを楽しみ、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)

われらは実に朋友を得る幸せを讃(ほ)め称える。自分よりも勝れあるいは等しい朋友には、親しみ近づくべきである。このような朋友を得ることができなければ、罪過(つみとが)のない生活を楽しんで、犀の角のようにただ独り歩め。

 addhā: adv. 確かに, 真に

 pasaṃsāma: pasaṃsati の 1pl.*27

  pasaṃsati: [pa-saṃs] ほめる, 賞讃す

   √saṃs(a): [Sk. śaṃs] ほめる

 sahāya-sampadaṃ: sahāya-sampadā の acc. sg. m.

  sahāya-sampadā: 朋友の具足

   sampadā: f. [saṃ*28-pad-ā] 円足, 具足, 成就, 遂行, 結果

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*29

    √pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道

 seṭṭhā: seṭṭha の nom. pl. m.

  seṭṭha: a. 最上の, 最勝の, 殊勝の

 samā: sama の nom. pl. m.

  sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき

 sevitabbā: sevitabba の nom. pl. m.

  sevitabba: a. [sevati の grd.]*30 親近すベき, 応依付

   sevati: [√sev] 仕える, 従う, 依付す, 親しむ

 sahāyā: sahāya の nom. pl. m.

 ete: eta の nom. pl. m.*31

  eta: pron. a. これ, それ

 aladdhā: [a-laddhā] 得ずして

  a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

  laddhā: labhati の ger.*32

   labhati: [√labh(a)] 得る

 anavajja-bhojī: anavajja-bhojin の nom. sg. m.*33

  anavajja: a. [an-avajja] 無罪の, 無過の

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   avajja: a. n. 罪の, 非難さるべき, 罪, 過失

  bhojin: a. [bhuj*34-in] 食者, 受用者

   √bhuj(a): 食べる, 享受する, 楽しむ, 所有する

   -in: 所有形容詞・名詞を形成する*35