37.
Mitte suhajje anukampamāno
朋友等を 親友らを 憐みあるは
hāpeti atthaṃ paṭibaddha-citto,
失う 義を 心の執せるは
etaṃ bhayaṃ santhave pekkhamāno
この 恐れを 親しみにある 観じ乍ら
eko care khagga-visāṇa-kappo.
独り 歩むべし 犀の角の為せる
(朋友や親友らを憐み、心の執しある者は、義を失う。親しみにあるこの恐れを観じながら、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)
朋友・親友に憐れみをかけ、心がほだされると、おのが利を失う。親しみにはこの恐れのあることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。
mitte: mitta の acc. pl.
mitta: m. n. 友, 友人, 朋友
suhajje: suhajja の acc. pl.
suhajja: m. 友人, 親友, 知己
anukampamāno: anukampati の ppr. nom. sg. m.*1
anukampati: [anu-kampati] 同情する, 憐れむ
anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで, ~より少なく, ~の結果, ~の下で*2
kampati: [√kamp] 震う, 動く, 動揺す
hāpeti: [jahāti の caus.]*3 退失す, 失う, 損失す, 捨てる
jahāti: =jahati [√hā]*4 捨つ, 断ず
atthaṃ: attha の acc. sg.
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
-a: 名詞・形容詞を形成する*5
paṭibaddha-citto: paṭibaddha-citta の nom. sg. m.
paṭibaddha-citta: 染心, 執心
paṭibaddha: a. [paṭibandhati の pp.]*6 結ばれたる, 執着せる
paṭibandhati: [paṭi-bandhati] 抑止す, 拒絶す
paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*7
bandhati: [√badh(a)]*8 縛る, 結ぶ
citta: n. [<cit] 心
√cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂
etaṃ: eta の acc. sg. n.*9
eta: pron. a. これ, それ
bhayaṃ: bhaya の acc. sg.
bhaya: n. m. [bhī*10-a] 怖, 怖畏, 恐怖
√bhī: 恐怖
santhave: santhava の loc. sg.
santhava: m. [saṃ*11-thava] 親交, 親愛
sam-: =saṃ- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*12
thava: (m.) [thu-a*13] 称賛
√thu: [Sk. ṣṭu] 称える, 親しむ
pekkhamāno: pekkhati の ppr. nom. sg. m.*14
pekkhati: [pa-ikkhati*15] 見る, 観察す
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*16
ikkhati: [√ikkh(a), Sk. īkṣ] 見る
eko: eka の nom. sg. m.
eka: a. num. 一, 一つ, 或る
care: carati の opt.*17
carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く
khagga-visāṇa-kappo: khagga-visāṇa-kappa の nom. sg. m.
khagga: m. 犀, さい
visāṇa: n. 角, 象牙
kappa: a. [kapp-a] 為せる
√kapp(a): なす
38.
Vaṃso visālo'va yathā visatto
竹が 広き/正に 如く 絡める
puttesu dāresu ca yā apekhā,
子等に 妻等に 又 所の物 愛著は
vaṃsākaḷīro'va asajjamāno
筍が/正に 絡まざる
eko care khagga-visāṇa-kappo.
独り 歩むべし 犀の角の為せる
(子や妻等への愛著は、正に竹の枝葉が広く絡み合いたるが如し。絡み合うこと無き筍(たけのこ)が如く、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)
子や妻に対する愛著は、たしかに枝の広く茂った竹が互いに相絡むようなものである。筍が他のものにまつわりつくことのないように、犀の角のようにただ独り歩め。
vaṃso: vaṃsa の nom. sg.
vaṃsa: m. 竹, 竹棒戯; 種姓, 姓; 系統, 伝統, 歴史
visālo'va: visālo + eva*18
visālo: visāla の nom. sg. m.
visāla: a. 広き, 広大な
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意
yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し
ya: pron. rel. 所のもの
-thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*19
visatto: visatta の nom. sg. m.
visatta: a. [vi-sajjati の pp.]*20 執着せる, もつれた
vi-: 語根の意味を強調する*21
sajjati: [√saj の pass.]*22 着す, 執着す; 躊躇す
puttesu: putta の loc. pl.
putta: m. 子, 子息; 男児
dāresu: dāra の loc. pl.
dāra: f. 妻, 若い女
ca: conj. と, そして, また
yā: ya の nom. pl. f.*23
apekhā: =apekkhā f. [apa-ikkh*24-ā] 期待, 待望, 欲求, 希望; 愛情 nom. pl.*25
apa-: pref. ~から離れて, 損傷, 崇敬*26
√ikkh(a): [Sk. īkṣ] 見る, 見なす, 考慮する, 要する
-ā: 女性名詞を形成する*27
vaṃsākaḷīro'va: vaṃsākaḷīro + eva*28
vaṃsākaḷīro: vaṃsākaḷīra の nom. sg. m.
vaṃsākaḷīra: vaṃsa*29 + kaḷīra 筍(たけのこ)
kaḷīra: m. 筍(たけのこ)
asajjamāno: a-sajjati の ppr. nom. sg. m.*30
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不