蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 15 (37. 38.)

37.

Mitte suhajje anukampamāno

朋友等を 親友らを 憐みあるは

hāpeti atthaṃ paṭibaddha-citto,

失う  義を  心の執せるは

etaṃ bhayaṃ santhave pekkhamāno

この 恐れを 親しみにある 観じ乍ら

eko care khagga-visāṇa-kappo.

独り 歩むべし 犀の角の為せる

(朋友や親友らを憐み、心の執しある者は、義を失う。親しみにあるこの恐れを観じながら、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)

朋友・親友に憐れみをかけ、心がほだされると、おのが利を失う。親しみにはこの恐れのあることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。

 mitte: mitta の acc. pl.

  mitta: m. n. 友, 友人, 朋友

 suhajje: suhajja の acc. pl.

  suhajja: m. 友人, 親友, 知己

 anukampamāno: anukampati の ppr. nom. sg. m.*1

  anukampati: [anu-kampati] 同情する, 憐れむ

   anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*2

   kampati: [√kamp] 震う, 動く, 動揺す

 hāpeti: [jahāti の caus.]*3 退失す, 失う, 損失す, 捨てる

  jahāti: =jahati  [√hā]*4 捨つ, 断ず

 atthaṃ: attha の acc. sg.

  attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

   √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

   -a: 名詞・形容詞を形成する*5

 paṭibaddha-citto: paṭibaddha-citta の nom. sg. m.

  paṭibaddha-citta: 染心, 執心

   paṭibaddha: a. [paṭibandhati の pp.]*6 結ばれたる, 執着せる

    paṭibandhati: [paṭi-bandhati] 抑止す, 拒絶す

     paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*7

     bandhati: [√badh(a)]*8 縛る, 結ぶ

   citta: n. [<cit] 心

    √cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂

 etaṃ: eta の acc. sg. n.*9

  eta: pron. a. これ, それ

 bhayaṃ: bhaya の acc. sg.

  bhaya: n. m. [bhī*10-a] 怖, 怖畏, 恐怖

   √bhī: 恐怖

 santhave: santhava の loc. sg.

  santhava: m. [saṃ*11-thava] 親交, 親愛

   sam-: =saṃ-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*12

   thava: (m.) [thu-a*13] 称賛

    √thu: [Sk. ṣṭu] 称える, 親しむ

 pekkhamāno: pekkhati の ppr. nom. sg. m.*14

  pekkhati: [pa-ikkhati*15] 見る, 観察す

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*16

   ikkhati: [√ikkh(a), Sk. īkṣ] 見る

 eko: eka の nom. sg. m.

  eka: a. num. 一, 一つ, 或る

 care: carati の opt.*17

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 khagga-visāṇa-kappo: khagga-visāṇa-kappa の nom. sg. m.

  khagga: m. 犀, さい

  visāṇa: n. 角, 象牙

  kappa: a. [kapp-a] 為せる

   √kapp(a): なす

 

38.

Vaṃso visālo'va yathā visatto

竹が  広き/正に 如く 絡める

puttesu dāresu ca yā apekhā,

子等に 妻等に 又 所の物 愛著は

vaṃsākaḷīro'va asajjamāno

筍が/正に    絡まざる

eko care khagga-visāṇa-kappo.

独り 歩むべし 犀の角の為せる

(子や妻等への愛著は、正に竹の枝葉が広く絡み合いたるが如し。絡み合うこと無き筍(たけのこ)が如く、独り歩むべし。犀の角の為せる如く。)

子や妻に対する愛著は、たしかに枝の広く茂った竹が互いに相絡むようなものである。筍が他のものにまつわりつくことのないように、犀の角のようにただ独り歩め。

 vaṃso: vaṃsa の nom. sg.

  vaṃsa: m. 竹, 竹棒戯; 種姓, 姓; 系統, 伝統, 歴史

 visālo'va: visālo + eva*18

  visālo: visāla の nom. sg. m.

   visāla: a. 広き, 広大な

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意

 yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

  ya: pron. rel. 所のもの

  -thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*19

 visatto: visatta の nom. sg. m.

  visatta: a. [vi-sajjati の pp.]*20 執着せる, もつれた

   vi-: 語根の意味を強調する*21

   sajjati: [√saj の pass.]*22 着す, 執着す; 躊躇す

 puttesu: putta の loc. pl.

  putta: m. 子, 子息; 男児

 dāresu: dāra の loc. pl.

  dāra: f. 妻, 若い女

 ca: conj. と, そして, また

 : ya の nom. pl. f.*23

 apekhā: =apekkhā  f. [apa-ikkh*24-ā] 期待, 待望, 欲求, 希望; 愛情  nom. pl.*25

  apa-: pref. ~から離れて, 損傷, 崇敬*26

  √ikkh(a): [Sk. īkṣ] 見る, 見なす, 考慮する, 要する

  : 女性名詞を形成する*27

 vaṃsākaḷīro'va: vaṃsākaḷīro + eva*28

  vaṃsākaḷīro: vaṃsākaḷīra の nom. sg. m.

   vaṃsākaḷīra: vaṃsa*29 + kaḷīra  筍(たけのこ)

    kaḷīra: m. 筍(たけのこ)

 asajjamāno: a-sajjati の ppr. nom. sg. m.*30

  a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不