81.
"Gāthābhigītamme abhojaneyyaṃ,
偈を唱えて得たるを/我の 食ふべからず
sampassataṃ, brāhmaṇa, n'esa dhammo,
正観せるの 婆羅門よ 否/是は 法
gāthābhigītaṃ panudanti buddhā,
偈を唱えて得たるを 退く 諸覚者は
dhamme satī, brāhmaṇa, vuttiresā.
法に 存せる 婆羅門よ 習ひは/是は
(偈を唱えて得たる物を我は食ふべからず。婆羅門よ、これは正観せる者の法にあらず。偈を唱えて得たる物を諸の覚者は退(の)く。婆羅門よ、この習ひは法にあるなり。)
詩を唱えて〔報酬として〕得たものを、わたくしは食うてはならない。バラモンよ、このことは正しくみる人々(目ざめた人々)のならわしではない。詩を唱えて得たものを、目ざめた人々(諸のブッダ)は斥ける。バラモンよ、定めが存するのであるから、これが(目ざめた人々の)生活法なのである。
gāthābhigītamme: gāthābhigītaṃ*1 + me
gāthābhigītaṃ: gāthābhigīta の acc. sg.
gāthābhigīta: gāthā-abhigīta*2 偈を唱えて得たる (食)
gāthā: f. [gā-thā] 偈, 偈頌, 伽陀, 偈経
√gā: 称える, 歌う
-thā: =-tha の女性形. 名詞を形成する*3
abhigīta: a. [abhigāyati の pp.]*4 歌唱せる, 諷誦せる
abhigāyati: abhi-gāyati
abhi-: prep. 対して, 向って, 勝れて, 過ぎて
gāyati: [√gā]*5 歌う
me: ahaṃ の gen. sg.*6
abhojaneyyaṃ: a-bhuj の opt. mid. 1sg.*7
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
√bhuj(a): 食べる, 享受する, 楽しむ, 所有する
sampassataṃ: sampassati の ppr. gen. pl. m.*8
sampassati: [saṃ-passati] 見る, 正観す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*9
passati: [√pas(a), Sk. paś]*10 見る; 見出す, 知る
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族 voc. sg.
n'esa: na*11 + esa
na: adv. なし
esa: eta の nom. sg. m.*12
eta: pron. a. これ, それ
panudanti: panudati の pl.
panudati: [pa-nudati] 排除す, 除去す, 除く
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*13
nudati: [√nud] 除く, 排除す
buddhā: buddha の nom. pl.
buddha: a. m. [bujjhati の pp.]*14 覚った, 目覚めたる, 覚知せる; 覚者, 仏陀, 仏
bujjhati: =bodhati [√budh(a)]*15 覚る, 目覚む
dhamme: dhamma の loc. sg. 法に於て, 法に対して
dhamma: [dhar*16-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*17
satī: sat の nom. sg. f.*18 存在する, 善人, 淑女
sat: =sant a. [atthi の ppr.]*19 ありつつ, 存在の; 善なる
atthi: [√as(a)]*20 ある, 存在する
vuttiresā: vutti-r*21-esā
vutti: f. [vu-ti*22] 行為, 生活, 慣習, やり方, 生活法 nom. sg.
√vu: [Sk. vṛ] 行なう, 選択する
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*23
esā: eta の nom. sg. f.*24
82.
Aññena ca kevalinaṃ mahesiṃ
他の 又 全き 大仙人に
khīṇ'āsavaṃ kukkucca-vūpasantaṃ,
漏の尽きたる 悪作の消滅せる
annena pānena upaṭṭhahassu,
食物と共に 飲物と共に 仕へよ
khettaṃ hi taṃ puññ'apekkhassa hotī" ti.
田 実に 其は 功徳を待望せるへの 也 と
(また全き大仙人、漏の尽き悪作の消滅せる者に、他の食物と飲物を捧げよ。そは功徳を待望せる者の為の実に田なり」と。)
全き人である大仙人、煩悩の汚れをほろぼし尽くし悪い行いを消滅した人に対しては、他の飲食をささげよ。けだしそれは功徳を積もうと望む者のための(福)田(でん)であるからである。
aññena: añña の ins. sg.
añña: a. pron. 他の, 異なる, 余他の
ca: conj. と, そして, また
kevalinaṃ: kevalin の acc. sg. m.*25
kevalin: a. [kevala*26-in] 独存の, 純一の, 完全の
kevala: a. 独一の, 独存の, 全部の, 完全の
-in: 所有形容詞・名詞を形成する*27
mahesiṃ: mahesi の acc. sg.
mahesi: mahā-isi*28
mahā-: =mahant a. 大なる, 偉大の
isi: m. 仙, 仙人, 仙者, 仏, 聖者
khīṇ'āsavaṃ: khīṇ'āsava の acc. sg.
khīṇ'āsava: khīṇa*29-āsava 漏尽の, 漏尽者 [阿羅漢]
khīṇa: a. [khīyati の pp.]*30 尽きたる, 滅されたる
khīyati: [√khī の pass.]*31 尽きる, 亡ぶ, 失望す
√khī: 損亡, 破壊
āsava: m. [ā-su-a*32] 漏, 流漏, 煩悩, 酒
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*33
√su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る
-a: 名詞・形容詞をf形成する*34
kukkucca-vūpasantaṃ: kukkucca-vūpasanta の nom. sg. n.
kukkucca: n. [ku-kucca*35-a] 不行儀, 悪作, 後悔, 悔, 悔疑
ku: =ka いかなる; 悪き, 邪なる; 小さな
√kucc(a): [Sk. kuts] 悪口, 罵詈, 非難, 侮蔑
vūpasanta: a. [vūpasammati の pp.]*36 静まれる, 寂静の
vūpasammati: [vi-upasammati*37 の pass.] 静まる, 寂静となる, 寂止す, 寂滅す, 消滅す
vi-: 語根の意味を強調する*38
upasammati: [upasamati の pass.]*39 寂止す, 静まる
upasamati: [upa-sam]*40 静まる, 寂止す
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*41
√sam(u): [Sk. śam] 平安, 静寂
annena: anna の ins. sg.
anna: n. 食, 食物
pānena: pāna の ins. sg.
pāna: m. [pā-na] 飲物, 飲料
√pā: 飲む
-na: 名詞を形成する*42
upaṭṭhahassu: upaṭṭhahati の imper. mid. 2sg.*43
upaṭṭhahati: =upaṭṭhāti, upaṭṭhāti, upatiṭṭhati [upa-thā]*44 仕える, 看護する
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*45
√thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる
khettaṃ: khetta の nom. sg.
khetta: n. 田, 土地, 剎土, 国土
hi: adv. conj. 実に; 何となれば
taṃ: ta の nom. sg. n.*46
ta: pron. それ
puññ'apekkhassa: puñña*47-apekkhā の dat. sg.
puñña: n. 福, 善, 福徳, 功徳
apekkhā: =apekhā f. [apa-ikkh*48-ā] 期待, 待望, 欲求, 希望; 愛情
apa-: pref. ~から離れて, 損傷, 崇敬*49
√ikkh(a): [Sk. īkṣ] 見る, 見なす, 考慮する, 要する
-ā: 女性名詞を形成する*50