蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 40 (81. 82.)

81.

"Gāthābhigītamme abhojaneyyaṃ,

 偈を唱えて得たるを/我の 食ふべからず

sampassataṃ, brāhmaṇa, n'esa dhammo,

正観せるの   婆羅門よ  否/是は  法

gāthābhigītaṃ panudanti buddhā,

偈を唱えて得たるを 退く  諸覚者は

dhamme satī, brāhmaṇa, vuttiresā.

法に  存せる 婆羅門よ  習ひは/是は

(偈を唱えて得たる物を我は食ふべからず。婆羅門よ、これは正観せる者の法にあらず。偈を唱えて得たる物を諸の覚者は退(の)く。婆羅門よ、この習ひは法にあるなり。)

詩を唱えて〔報酬として〕得たものを、わたくしは食うてはならない。バラモンよ、このことは正しくみる人々(目ざめた人々)のならわしではない。詩を唱えて得たものを、目ざめた人々(諸のブッダ)は斥ける。バラモンよ、定めが存するのであるから、これが(目ざめた人々の)生活法なのである。

 gāthābhigītamme: gāthābhigītaṃ*1 + me

  gāthābhigītaṃ: gāthābhigīta の acc. sg.

   gāthābhigīta: gāthā-abhigīta*2 偈を唱えて得たる (食)

    gāthā: f. [gā-thā] 偈, 偈頌, 伽陀, 偈経

     √: 称える, 歌う

     -thā: =-tha の女性形. 名詞を形成する*3

    abhigīta: a. [abhigāyati の pp.]*4 歌唱せる, 諷誦せる

     abhigāyati: abhi-gāyati

      abhi-: prep. 対して, 向って, 勝れて, 過ぎて

      gāyati: [√gā]*5 歌う

  me: ahaṃ の gen. sg.*6

 abhojaneyyaṃ: a-bhuj の opt. mid. 1sg.*7

  a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

  √bhuj(a): 食べる, 享受する, 楽しむ, 所有する

 sampassataṃ: sampassati の ppr. gen. pl. m.*8

  sampassati: [saṃ-passati] 見る, 正観す

   saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*9

   passati: [√pas(a), Sk. paś]*10 見る; 見出す, 知る

 brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族  voc. sg.

 n'esa: na*11 + esa

  na: adv. なし

  esa: eta の nom. sg. m.*12

   eta: pron. a. これ, それ

 panudanti: panudati の pl.

  panudati: [pa-nudati] 排除す, 除去す, 除く

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*13

   nudati: [√nud] 除く, 排除す

 buddhā: buddha の nom. pl.

  buddha: a. m. [bujjhati の pp.]*14 覚った, 目覚めたる, 覚知せる; 覚者, 仏陀, 仏

   bujjhati: =bodhati  [√budh(a)]*15 覚る, 目覚む

 dhamme: dhamma の loc. sg.  法に於て, 法に対して

  dhamma: [dhar*16-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

   √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

   -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*17

 satī: sat の nom. sg. f.*18  存在する, 善人, 淑女

  sat: =sant  a. [atthi の ppr.]*19 ありつつ, 存在の; 善なる

   atthi: [√as(a)]*20 ある, 存在する

 vuttiresā: vutti-r*21-esā

  vutti: f. [vu-ti*22] 行為, 生活, 慣習, やり方, 生活法  nom. sg.

   √vu: [Sk. vṛ] 行なう, 選択する

   -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*23

  esā: eta の nom. sg. f.*24

 

82.

Aññena ca kevalinaṃ mahesiṃ

他の  又  全き   大仙人に

khīṇ'āsavaṃ kukkucca-vūpasantaṃ,

漏の尽きたる  悪作の消滅せる

annena pānena upaṭṭhahassu,

食物と共に 飲物と共に 仕へよ

khettaṃ hi taṃ puññ'apekkhassa hotī" ti.

田   実に 其は 功徳を待望せるへの 也 と

(また全き大仙人、漏の尽き悪作の消滅せる者に、他の食物と飲物を捧げよ。そは功徳を待望せる者の為の実に田なり」と。)

全き人である大仙人、煩悩の汚れをほろぼし尽くし悪い行いを消滅した人に対しては、他の飲食をささげよ。けだしそれは功徳を積もうと望む者のための(福)田(でん)であるからである。

 aññena: añña の ins. sg.

  añña: a. pron. 他の, 異なる, 余他の

 ca: conj. と, そして, また

 kevalinaṃ: kevalin の acc. sg. m.*25

  kevalin: a. [kevala*26-in] 独存の, 純一の, 完全の

   kevala: a. 独一の, 独存の, 全部の, 完全の

   -in: 所有形容詞・名詞を形成する*27

 mahesiṃ: mahesi の acc. sg.

  mahesi: mahā-isi*28

   mahā-: =mahant  a. 大なる, 偉大の

   isi: m. 仙, 仙人, 仙者, 仏, 聖者

 khīṇ'āsavaṃ: khīṇ'āsava の acc. sg.

  khīṇ'āsava: khīṇa*29-āsava  漏尽の, 漏尽者 [阿羅漢]

   khīṇa: a. [khīyati の pp.]*30 尽きたる, 滅されたる

    khīyati: [√khī の pass.]*31 尽きる, 亡ぶ, 失望す

     √khī: 損亡, 破壊

   āsava: m. [ā-su-a*32] 漏, 流漏, 煩悩, 酒

    ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*33

    √su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る

    -a: 名詞・形容詞をf形成する*34

 kukkucca-vūpasantaṃ: kukkucca-vūpasanta の nom. sg. n.

  kukkucca: n. [ku-kucca*35-a] 不行儀, 悪作, 後悔, 悔, 悔疑

   ku: =ka  いかなる; 悪き, 邪なる; 小さな

   √kucc(a): [Sk. kuts] 悪口, 罵詈, 非難, 侮蔑

  vūpasanta: a. [vūpasammati の pp.]*36 静まれる, 寂静の

   vūpasammati: [vi-upasammati*37 の pass.] 静まる, 寂静となる, 寂止す, 寂滅す, 消滅す

    vi-: 語根の意味を強調する*38

    upasammati: [upasamati の pass.]*39 寂止す, 静まる

     upasamati: [upa-sam]*40 静まる, 寂止す

      upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*41

      √sam(u): [Sk. śam] 平安, 静寂

 annena: anna の ins. sg.

  anna: n. 食, 食物

 pānena: pāna の ins. sg.

  pāna: m. [pā-na] 飲物, 飲料

   √: 飲む

   -na: 名詞を形成する*42

 upaṭṭhahassu: upaṭṭhahati の imper. mid. 2sg.*43

  upaṭṭhahati: =upaṭṭhāti, upaṭṭhāti, upatiṭṭhati  [upa-thā]*44 仕える, 看護する

   upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*45

   √thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる

 khettaṃ: khetta の nom. sg.

  khetta: n. 田, 土地, 剎土, 国土

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 taṃ: ta の nom. sg. n.*46

  ta: pron. それ

 puññ'apekkhassa: puñña*47-apekkhā の dat. sg.

  puñña: n. 福, 善, 福徳, 功徳

  apekkhā: =apekhā  f. [apa-ikkh*48-ā] 期待, 待望, 欲求, 希望; 愛情

   apa-: pref. ~から離れて, 損傷, 崇敬*49

   √ikkh(a): [Sk. īkṣ] 見る, 見なす, 考慮する, 要する

   : 女性名詞を形成する*50

*1:『実用パーリ語文法』ニッガヒータ連声 39.

*2:同上, 母音連声 22.

*3:同上, 一次派生 tha

*4:cf. 同上, 受動完了分詞 461. √

*5:同上, 第三活用 374.

*6:同上, ahaṃ の曲用 289.

*7:同上, 現在系統の活用 381.

*8:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)

*9:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*10:同上, 第三活用 374.

*11:同上, 母音連声 17.

*12:eta の曲用

*13:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*14:同上, 受動完了分詞 453.

*15:同上, 第三活用 374.

*16:同上, r の同化 80. (iv)

*17:同上, 一次派生 ma

*18:同上, at/ant で終わる形容詞 226.

*19:同上, 不規則動詞 510.

*20:同上

*21:同上, 子音の挿入 28.

*22:同上, 子音連声 33.

*23:同上, 一次派生 ti

*24:eta の曲用

*25:同上, in で終わる男性名詞 136.

*26:同上, 母音連声 17.

*27:同上, 一次派生 in

*28:同上, 母音連声 21.

*29:同上, 母音連声 17.

*30:同上, 受動完了分詞 458. (ii)

*31:同上, 受動動詞 483. (i)

*32:同上, 強調 110.

*33:同上, 動詞接頭辞 516. ā

*34:同上, 一次派生 576. a

*35:同上, 母音連声 17.

*36:同上, 受動完了分詞 453.

*37:同上, 母音連声 19.

*38:同上, 動詞接頭辞 519.

*39:同上, 受動動詞 483. (iii)

*40:同上, 第三活用 374.

*41:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*42:同上, 一次派生 na

*43:同上, 現在系統の活用 381.

*44:同上, 現在系統の活用 390. 注意 (c)

*45:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*46:同上, 指示人称代名詞 294.

*47:同上, 母音連声 17.

*48:同上, 母音連声 21.

*49:同上, 動詞接頭辞 516. apa

*50:同上, 名詞の女性語基 184.