蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 184 (411. 412.)

411.

Yass'ālayā na vijjanti, aññāya akathaṃkathī,

所の者/執著が 否 ある 了知して 疑ひ無き

amat'ogadhamanuppattaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

不死の境地に深入せる      其を/我は 言ふ 婆羅門と

(執着のあること無く、了知して疑ふこと無く、不死の境地に深入せるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

こだわりあることなく、さとりおわって、疑惑なく、不死の底に達した人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 yass'ālayā: yassa*1 + ālayā

  yassa: ya の gen. sg. m.*2

   ya: pron. rel. 所のもの

  ālayā: ālaya の nom. pl.

   ālaya: m. n. [ā-lī-a*3] 阿頼耶, 執著, 愛著, 所執処

    ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*4

    √: 著す

    -a: 名詞・形容詞を形成する*5

 na: adv. なし

 vijjanti: vijjati の pl.

  vijjati: [vindati の pass.]*6 見出される, 知られる, 存在す

   vindati: [√vid(a)]*7 知る; 見出す, 所有す

 aññāya: [ā-ñā*8 の ger.]*9 了知して, 開悟して

  ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*10

  √ñā: =jñā, jā  知る

 akathaṃkathī: akathaṃkathin の nom. sg. m.*11

  akathaṃkathin: a. [akathaṃkathā*12-in] 疑いなき

   akathaṃkathā: f. [a-kathaṃkathā] 疑いなきこと, 無疑

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

    kathaṃkathā: f. 疑惑, 猶予

   -in: 所有形容詞を形成する*13

 amat'ogadhamanuppattaṃ: amat'ogadhaṃ*14 + anuppattaṃ

  amat'ogadhaṃ: amat'ogadha の acc. sg. m.

   amat'ogadha: a. [amata*15-ogadha] 不死に深入せる

    amata: a. n. [a-mata] 不死の, 不死, 甘露, 涅槃

     mata: a. [marati の pp.]*16 死せる, 死者

      marati: [√mar(a), Sk. mṛ] 死す

    ogadha: a. [o-gāh の pp.]*17 入りたる

     o-: =ava-  pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*18

     √gāh(u): 飛びこむ, 深く入る, かき回す, 吸収される, 隠れる

  anuppattaṃ: anuppatta の acc. sg. m.

   anuppatta: =anupatta  a. [anupāpuṇāti の pp.]*19 到達せる, 得た

    anupāpuṇāti: [anu-pāpuṇāti] 到達す, 得る, 見出す

     anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*20

     pāpuṇāti: [pa-āp]*21 得る, 達す, 到達す

      pa-: pref. 前に, 先に, 強意

      √āp: 行き渡る, 漲る, 得る

 tamahaṃ: taṃ*22 + ahaṃ

  taṃ: ta の acc. sg. m.*23

   ta: pron. それ

  ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*24

 brūmi: brūti の 1sg.*25

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.*26

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 

412.

Yo'dha puññañca pāpañca ubho saṅgamupaccagā,

所の者/此界に 福/又 悪/又 両方への 執著を/超越せる

asokaṃ virajaṃ suddhaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

憂ひ無き 離塵の 清まれる  其を/我は 言ふ 婆羅門と

(此界で福と悪との両方への執著を超越し、憂ひ無く塵を離れ清まれるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

この世の禍福いずれにも執著することなく、憂いなく、汚れなく、清らかな人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 yo'dha: yo + idha*27

  yo: ya の nom. sg. m.*28

   ya: pron. rel. 所のもの

  idha: =idhaṃ  adv. ここに, 此界に

 puññañca: puññaṃ*29 + ca

  puññaṃ: puñña の acc. sg.

   puñña: n. 福, 善, 福徳, 功徳

  ca: conj. と, そして, また

 pāpañca: pāpaṃ*30 + ca

  pāpaṃ: pāpa の acc. sg.

   pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人

 ubho: ubha の acc. dual. m.*31

  ubha: pron. 両者

 saṅgamupaccagā: saṅgaṃ*32 + upaccagā

  saṅgaṃ: saṅga の acc. sg.

   saṅga: m. [sanj*33-a] 着, 染着, 執着

    √sanj(a): [Sk. sañj] 着す

  upaccagā: =upaccagaṃ  [upātigacchati の aor.]*34 すぎ去った, 去った, 逃げた

   upātigacchati: [upa-atigacchati*35] 超える, 征服す

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*36

    atigacchati: [ati-gacchati] すぎ行く, 超える, まさる

     ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*37

     gacchati: [√gam(u)]*38 行く

 asokaṃ: asoka の acc. sg. m.

  asoka: a. m. [a-soka] 無憂の, 不愁の; 無憂樹

   soka: m. [suc*39-ka] 愁, 憂, うれい

    √suc(a): [Sk. śuc] 愁, 憂

    -ka: 名詞・形容詞を形成する*40

 virajaṃ: viraja の acc. sg. m.

  viraja: a. [vi-raja] 離塵の, 塵を離れた

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*41

   raja: n. [raj-a] 塵, 塵垢, 不浄

    √raj: 貪, 染

 suddhaṃ: suddha の acc. sg. m.

  suddha: a. [sujjhati の pp.]*42 浄き, 清浄の, 純粋

   sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*43 浄まる, 清まる