蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 187 (417. 418.)

417.

Hitvā mānusakaṃ yogaṃ, dibbaṃ yogaṃ upaccagā,

捨てて  人の   結縛を  天の  結縛を  越へし

sabba-yoga-visaṃyuttaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

全ての結縛より離れたる    そを/我は 言ふ 婆羅門と

(人の結縛を捨てて、天の結縛を越へし、全ての結縛より離れたるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

人間の絆を捨て、天界の絆を越え、すべての絆をはなれた人々、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 hitvā: =hitvāna  [jahāti の ger.]*1 捨断して, 捨てて, 棄てて

  jahāti: =jahati  [√hā] 捨つ, 断ず*2

 mānusakaṃ: mānusaka の acc. sg. m.

  mānusaka: a. [=mānusa] 人の; 人類  f. mānusikā, n. pl. mānusikāni

 yogaṃ: yoga の acc. sg.

  yoga: m. [yuj*3-a] 軛, 束縛, 繋縛; 結合, 関係; 瑜伽, 瞑想, 観行, 修行, 努力

   √yuj(a): 結合, 専心, 抑制, 慎み, 観行

   -a: 名詞・形容詞を形成する*4

 dibbaṃ: dibba の acc. sg. m.

  dibba: a. 天の, 神の, 天的の

 upaccagā: =upaccagā, upaccagaṃ  [upātigacchati の aor.]*5 すぎ去った, 去った, 逃げた

  upātigacchati: [upa-atigacchati*6] 超える, 征服す

   upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*7

   atigacchati: [ati-gacchati] すぎ行く, 超える, まさる

    ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*8

    gacchati: [√gam(u)]*9 行く

 sabba-yoga-visaṃyuttaṃ: sabba-yoga-visaṃyutta の acc. sg. m.

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

  visaṃyutta: =visaññutta  a. [vi-saṃyutta] 離縛せる, 離繋せる者, 軛を離れたる

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*10

   saṃyutta: a. [saṃyuñjati の pp.]*11 結べる, 結合せる, 相応せる, 関係せる

    saṃyuñjati: [saṃ-yuñjati] 結ぶ, 統一す

     saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*12

     yuñjati: [√yuj(a)]*13 軛す, 結合す; 努力す

 tamahaṃ: taṃ*14 + ahaṃ

  taṃ: ta の acc. sg. m.*15

   ta: pron. それ

  ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*16

 brūmi: brūti の 1sg.*17

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.*18

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 

418.

Hitvā ratiñca aratiñca, sīti-bhūtaṃ nirūpadhiṃ,

捨てて 喜楽を/と 不快を/と 清涼となれる 依著無き

sabba-lok'ābhibhuṃ vīraṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

一切世間に打ち勝てる 英雄を  そを/我は 言ふ 婆羅門と

(喜楽と不快とを捨て、清涼となりて依著すること無き、一切世間に打ち勝てる英雄を、そを我は婆羅門と言ふ。)

〈快楽〉と〈不快〉とを捨て、清らかに涼しく、とらわれることなく、全世界にうち勝った英雄、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 ratiñca: ratiṃ + ca

  ratiṃ: rati の acc. sg.

   rati: f. [ram*19-ti] 楽, 喜楽

    √ram(u): 遊ぶ, 喜ぶ

    -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*20

  ca: conj. と, そして, また

 aratiñca: aratiṃ + ca

  aratiṃ: arati の acc. sg.

   arati: f. [a-rati] 不楽, 不快

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

 sīti-bhūtaṃ: sīti-bhūta の acc. sg. m.

  sīti-bhūta: 冷静となれる, 清涼な

   sīti-: [=sīta] 寒冷の

   bhūta: a. [bhavati の pp.]*21 存在せる. 生物, 生類, 有類, 万物, 要素, 大種

    bhavati: [√bhū]*22 ある, 存在する

 nirūpadhiṃ: nirūpadhi の acc. sg. m.

  nirūpadhi: =nirupadhi  a. [ni*23-upadhi] 依止なき, 無依の, 依著なき, 生質なき

   ni-: pref. 否, 無

   upadhi: m. [upa-dhā*24-i] 依, 依著 (渴愛煩惱), 所依, 存在の基礎, 生の素質, 妻子等

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*25

    √dhā: 持す

    -i: 名詞・形容詞を形成する*26

 sabba-lok'ābhibhuṃ: sabba-lok'abhibhū の acc. sg.

  sabba-lok'ābhibhū: sabba-loka-abhibhū*27

   sabba-loka: 一切世間

   abhibhū: n. a. [abhi-bhū, cf. abhibhavati] 勝利, 征服せる

    abhibhavati: [abhi-bhavati] 打ち勝つ, 征服す

     abhi-: prep. 対して, 向って, 勝れて, 過ぎて

     bhavati: [√bhū]*28 ある, 存在する

 vīraṃ: vīra の acc. sg.

  vīra: m. [√vīr-a] 英雄, 雄者, 勇者

   √vīr(a): 勇壮である, 英雄的資質を見せる