417.
Hitvā mānusakaṃ yogaṃ, dibbaṃ yogaṃ upaccagā,
捨てて 人の 結縛を 天の 結縛を 越へし
sabba-yoga-visaṃyuttaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
全ての結縛より離れたる そを/我は 言ふ 婆羅門と
(人の結縛を捨てて、天の結縛を越へし、全ての結縛より離れたるを、そを我は婆羅門と言ふ。)
人間の絆を捨て、天界の絆を越え、すべての絆をはなれた人々、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
hitvā: =hitvāna [jahāti の ger.]*1 捨断して, 捨てて, 棄てて
jahāti: =jahati [√hā] 捨つ, 断ず*2
mānusakaṃ: mānusaka の acc. sg. m.
mānusaka: a. [=mānusa] 人の; 人類 f. mānusikā, n. pl. mānusikāni
yogaṃ: yoga の acc. sg.
yoga: m. [yuj*3-a] 軛, 束縛, 繋縛; 結合, 関係; 瑜伽, 瞑想, 観行, 修行, 努力
√yuj(a): 結合, 専心, 抑制, 慎み, 観行
-a: 名詞・形容詞を形成する*4
dibbaṃ: dibba の acc. sg. m.
dibba: a. 天の, 神の, 天的の
upaccagā: =upaccagā, upaccagaṃ [upātigacchati の aor.]*5 すぎ去った, 去った, 逃げた
upātigacchati: [upa-atigacchati*6] 超える, 征服す
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*7
atigacchati: [ati-gacchati] すぎ行く, 超える, まさる
ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*8
sabba-yoga-visaṃyuttaṃ: sabba-yoga-visaṃyutta の acc. sg. m.
sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの
visaṃyutta: =visaññutta a. [vi-saṃyutta] 離縛せる, 離繋せる者, 軛を離れたる
vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*10
saṃyutta: a. [saṃyuñjati の pp.]*11 結べる, 結合せる, 相応せる, 関係せる
saṃyuñjati: [saṃ-yuñjati] 結ぶ, 統一す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*12
yuñjati: [√yuj(a)]*13 軛す, 結合す; 努力す
tamahaṃ: taṃ*14 + ahaṃ
taṃ: ta の acc. sg. m.*15
ta: pron. それ
ahaṃ: pron. 私は, 私が nom. sg.*16
brūmi: brūti の 1sg.*17
brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる
brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.*18
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
418.
Hitvā ratiñca aratiñca, sīti-bhūtaṃ nirūpadhiṃ,
捨てて 喜楽を/と 不快を/と 清涼となれる 依著無き
sabba-lok'ābhibhuṃ vīraṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
一切世間に打ち勝てる 英雄を そを/我は 言ふ 婆羅門と
(喜楽と不快とを捨て、清涼となりて依著すること無き、一切世間に打ち勝てる英雄を、そを我は婆羅門と言ふ。)
〈快楽〉と〈不快〉とを捨て、清らかに涼しく、とらわれることなく、全世界にうち勝った英雄、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
ratiñca: ratiṃ + ca
ratiṃ: rati の acc. sg.
rati: f. [ram*19-ti] 楽, 喜楽
√ram(u): 遊ぶ, 喜ぶ
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*20
ca: conj. と, そして, また
aratiñca: aratiṃ + ca
aratiṃ: arati の acc. sg.
arati: f. [a-rati] 不楽, 不快
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
sīti-bhūtaṃ: sīti-bhūta の acc. sg. m.
sīti-bhūta: 冷静となれる, 清涼な
sīti-: [=sīta] 寒冷の
bhūta: a. [bhavati の pp.]*21 存在せる. 生物, 生類, 有類, 万物, 要素, 大種
bhavati: [√bhū]*22 ある, 存在する
nirūpadhiṃ: nirūpadhi の acc. sg. m.
nirūpadhi: =nirupadhi a. [ni*23-upadhi] 依止なき, 無依の, 依著なき, 生質なき
ni-: pref. 否, 無
upadhi: m. [upa-dhā*24-i] 依, 依著 (渴愛煩惱), 所依, 存在の基礎, 生の素質, 妻子等
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*25
√dhā: 持す
-i: 名詞・形容詞を形成する*26
sabba-lok'ābhibhuṃ: sabba-lok'abhibhū の acc. sg.
sabba-lok'ābhibhū: sabba-loka-abhibhū*27
sabba-loka: 一切世間
abhibhū: n. a. [abhi-bhū, cf. abhibhavati] 勝利, 征服せる
abhibhavati: [abhi-bhavati] 打ち勝つ, 征服す
abhi-: prep. 対して, 向って, 勝れて, 過ぎて
bhavati: [√bhū]*28 ある, 存在する
vīraṃ: vīra の acc. sg.
vīra: m. [√vīr-a] 英雄, 雄者, 勇者
√vīr(a): 勇壮である, 英雄的資質を見せる