蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 185 (413. 414.)

413.

Candaṃ va vimalaṃ, suddhaṃ vippasannamanāvilaṃ,

月が  如く 垢穢無き 浄まれる 明浄となれる/濁り無き

nandī-bhava-parikkhīṇaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

歓楽の有を消尽せる      そを/我は 言ふ 婆羅門と

(曇り無き月が如く浄まり、明浄にして濁り無く、歓楽の有(う)を消尽せるを、そを我は婆羅門と言ふ。)

曇りのない月のように、浄く、澄み、濁りがなく、歓楽の生活の尽きた人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 candaṃ: canda の acc. sg.

  canda: m. 月

 va: =iva  indecl. 如く

 vimalaṃ: vimala の acc. sg. m.

  vimala: a. [vi-mala] 離垢の, 浄き

   vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*1

   mala: n. 垢, 垢穢

 suddhaṃ: suddha の acc. sg. m.

  suddha: a. [sujjhati の pp.]*2 浄き, 清浄の, 純粋

   sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*3 浄まる, 清まる

 vippasannamanāvilaṃ: vippasannaṃ*4 + anāvilaṃ

  vippasannaṃ: vippasanna の acc. sg. m.

   vippasanna: a. [vippasīdati の pp.]*5 明浄なる, 清浄の

    vippasīdati: [vi-pa*6-sad*7] 大いに喜ぶ, 明朗である, 清くある

     pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*8

     √sad(a): 楽しむ

  anāvilaṃ: anāvila の acc. sg. m.

   anāvila: a. [an-āvila] 濁りなき, 清き

    an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

    āvila: a. 混濁の, 濁った, 汚い

 nandī-bhava-parikkhīṇaṃ: nandī-bhava-parikkhīṇa の acc. sg. m.

  nandī-bhava-parikkhīṇa: a. 歓喜渇愛の有を遍尽せる=阿羅漢

   nandī: nandi f. 歓喜, 悦喜

   bhava: m. [bhū-a*9] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福

    √bhū: ある, 存す

   parikkhīṇa: a. [parikkhīyati の pp.]*10 消尽した, 滅尽した

    parikkhīyati: [pari-khī*11]*12 消尽す, 滅尽す

     pari-: pref. 円, 遍ねく, 完全に, 強意. 完全性などを意味する*13

     √khī: 消耗, 破壊

 tamahaṃ: taṃ*14 + ahaṃ

  taṃ: ta の acc. sg. m.*15

   ta: pron. それ

  ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*16

 brūmi: brūti の 1sg.*17

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.*18

  brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族

 

414.

Yo'maṃ palipathaṃ duggaṃ saṃsāraṃ mohamaccagā,

所の者/この 障害を  険路を  輪廻を  痴を/越えたる

tiṇṇo pāra-gato jhāyī anejo akathaṃkathī,

渡れる 到彼岸せる 禅定せる 不動の 疑ひ無き

anupādāya nibbuto, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.

執せずして 寂滅せる  そを/我は 言ふ 婆羅門と

(この障害、険路、輪廻、痴を越え、渡りて彼岸に到り、禅定し動ぜずして疑ふこと無く、執せずして寂滅せる者、そを我は婆羅門と言ふ。)

この障害・険道・輪廻(さまよい)・迷妄を超えて、渡りおわって彼岸に達し、瞑想し、興奮することなく、疑惑なく、執著することがなくて、心安らかな人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。

 yo'maṃ: yo + imaṃ*19

  yo: ya の nom. sg. m.*20

   ya: pron. rel. 所のもの

  imaṃ: ayaṃ の acc. sg. m.*21

   ayaṃ: pron. これ, この

 palipathaṃ: palipatha の acc. sg.

  palipatha: =paripatha, paripantha  m. [pari-path-a] 障碍, 険路; ぬかるみ, 染泥

   √path(a): 行く

 duggaṃ: dugga の acc. sg.

  dugga: m. n. a. [du-ga*22] 難路, 険路, 行き難き

   du-: =dur-  pref. 悪き. 難き

   -ga: 主に形容詞を形成する*23

 saṃsāraṃ: saṃsāra の acc. sg.

  saṃsāra: m. [saṃ-sar*24-a] 輪廻, 流転

   saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*25

   √sar(a): [Sk. sṛ] 行く, 流れる

   -a: 名詞・形容詞を形成する*26

 mohamaccagā: mohaṃ*27 + accagā

  mohaṃ: moha の acc. sg.

   moha: m. [muh*28-a] 痴, 愚痴

    √muh(a): 痴

  accagā: atigacchati の aor.*29

   atigacchati: [ati-gacchati] すぎ行く, 超える, まさる

    ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*30

    gacchati: [√gam(u)]*31 行く

 tiṇṇo: tiṇṇa の nom. sg. m.

  tiṇṇa: a. [tarati の pp.]*32 渡れる, 度脱せる, 超えたる

   tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る

 pāra-gato: pāra-gata の nom. sg. m.

  pāra-gata: a. 彼岸に到れる

   pāra: n. a. [para*33-a] 彼岸, 彼方, 他の

    para: a. 他の, 彼方の, 上の

   gata: a. [gacchati の pp.]*34 行ける, 達せる, 関係せる; 様子, 姿

 jhāyī: jhāyin の nom. sg. m.

  jhāyin: a. m. [jhā-in*35] 禅定ある, 静慮する; 禅定者, 静慮者, 禅師

   √jhā: =jhe  考える

   -in: 所有形容詞を形成する*36

 anejo: aneja の nom. sg. m.

  aneja: a. [an-ej-a] 不動の, 無動著の, 無貪愛の

   √ej(a): 動く

 akathaṃkathī: akathaṃkathin の nom. sg. m.*37

  akathaṃkathin: a. [akathaṃkathā*38-in] 疑いなき

   akathaṃkathā: f. [a-kathaṃkathā] 疑いなきこと, 無疑

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

    kathaṃkathā: f. 疑惑, 猶予

 anupādāya: anupādiyati の ger.*39

  anupādiyati: an- + upādiyati

   upādiyati: [upa*40-ādiyati] 取る, 執取す, 執受す

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*41

    ādiyati: =ādāti, ādeti  [ā-dā] 取る

     ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*42

     √: 与える

 nibbuto: nibbuta の nom. sg.

  nibbuta: a. [nibbāti の pp.] 疲滅せる, 涅槃に達せる

   nibbāti: [ni-vā*43] 消火す, (煩悩を)消尽す

    ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *44

    √: 行く, 吹く, 滅する, 香る

*1:『実用パーリ語文法』動詞接頭辞 516. vi

*2:同上, 受動完了分詞 453.

*3:同上, 第三活用 374.

*4:同上, ニッガヒータ連声 42.

*5:同上, 受動完了分詞 459.

*6:同上, 子音連声 33.

*7:同上, 不規則動詞 √sad

*8:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*9:同上, 強調 110.

*10:同上, 受動完了分詞 461.

*11:同上, 子音連声 33.

*12:同上, 第三活用 374.

*13:同上, 動詞接頭辞 516. pari

*14:同上, ニッガヒータ連声 42.

*15:ta の曲用

*16:同上, ahaṃ の曲用 289.

*17:同上, 現在系統の活用 381.

*18:同上, 対格 598. (iii)

*19:同上, 母音連声 18.

*20:同上, ya の曲用 312.

*21:同上, 指示代名詞 305.

*22:同上, 子音連声 33.

*23:同上, kvi 接尾辞 584. ga

*24:同上, 強調 105.

*25:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*26:同上, 一次派生 576. a

*27:同上, ニッガヒータ連声 42.

*28:同上, 強調 105.

*29:同上, アオリスト 407.

*30:同上, 動詞接頭辞 516. ati

*31:同上, 不規則動詞 404.

*32:同上, 受動完了分詞 459. 注意

*33:同上, 強調 105.

*34:同上, 受動完了分詞 456.

*35:同上, 子音の挿入 28.

*36:同上, 一次派生 in

*37:同上, in で終わる形容詞 210.

*38:同上, 母音連声 17.

*39:同上, 動名詞 472. 同左, 動詞の構文 618. (vi)

*40:同上, 母音連声 17.

*41:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*42:同上, 動詞接頭辞 516. ā 注意

*43:同上, 子音連声 33. 注意 1.

*44:同上, 動詞接頭辞 516. ni