413.
Candaṃ va vimalaṃ, suddhaṃ vippasannamanāvilaṃ,
月が 如く 垢穢無き 浄まれる 明浄となれる/濁り無き
nandī-bhava-parikkhīṇaṃ, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
歓楽の有を消尽せる そを/我は 言ふ 婆羅門と
(曇り無き月が如く浄まり、明浄にして濁り無く、歓楽の有(う)を消尽せるを、そを我は婆羅門と言ふ。)
曇りのない月のように、浄く、澄み、濁りがなく、歓楽の生活の尽きた人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
candaṃ: canda の acc. sg.
canda: m. 月
va: =iva indecl. 如く
vimalaṃ: vimala の acc. sg. m.
vimala: a. [vi-mala] 離垢の, 浄き
vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する*1
mala: n. 垢, 垢穢
suddhaṃ: suddha の acc. sg. m.
suddha: a. [sujjhati の pp.]*2 浄き, 清浄の, 純粋
sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*3 浄まる, 清まる
vippasannamanāvilaṃ: vippasannaṃ*4 + anāvilaṃ
vippasannaṃ: vippasanna の acc. sg. m.
vippasanna: a. [vippasīdati の pp.]*5 明浄なる, 清浄の
vippasīdati: [vi-pa*6-sad*7] 大いに喜ぶ, 明朗である, 清くある
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*8
√sad(a): 楽しむ
anāvilaṃ: anāvila の acc. sg. m.
anāvila: a. [an-āvila] 濁りなき, 清き
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる
āvila: a. 混濁の, 濁った, 汚い
nandī-bhava-parikkhīṇaṃ: nandī-bhava-parikkhīṇa の acc. sg. m.
nandī-bhava-parikkhīṇa: a. 歓喜渇愛の有を遍尽せる=阿羅漢
nandī: nandi f. 歓喜, 悦喜
bhava: m. [bhū-a*9] 有, 存在, 生存, 繁栄, 幸福
√bhū: ある, 存す
parikkhīṇa: a. [parikkhīyati の pp.]*10 消尽した, 滅尽した
parikkhīyati: [pari-khī*11]*12 消尽す, 滅尽す
pari-: pref. 円, 遍ねく, 完全に, 強意. 完全性などを意味する*13
√khī: 消耗, 破壊
tamahaṃ: taṃ*14 + ahaṃ
taṃ: ta の acc. sg. m.*15
ta: pron. それ
ahaṃ: pron. 私は, 私が nom. sg.*16
brūmi: brūti の 1sg.*17
brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる
brāhmaṇaṃ: brāhmaṇa の acc. sg.*18
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
414.
Yo'maṃ palipathaṃ duggaṃ saṃsāraṃ mohamaccagā,
所の者/この 障害を 険路を 輪廻を 痴を/越えたる
tiṇṇo pāra-gato jhāyī anejo akathaṃkathī,
渡れる 到彼岸せる 禅定せる 不動の 疑ひ無き
anupādāya nibbuto, tamahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ.
執せずして 寂滅せる そを/我は 言ふ 婆羅門と
(この障害、険路、輪廻、痴を越え、渡りて彼岸に到り、禅定し動ぜずして疑ふこと無く、執せずして寂滅せる者、そを我は婆羅門と言ふ。)
この障害・険道・輪廻(さまよい)・迷妄を超えて、渡りおわって彼岸に達し、瞑想し、興奮することなく、疑惑なく、執著することがなくて、心安らかな人、──かれをわれは〈バラモン〉と呼ぶ。
yo'maṃ: yo + imaṃ*19
yo: ya の nom. sg. m.*20
ya: pron. rel. 所のもの
imaṃ: ayaṃ の acc. sg. m.*21
ayaṃ: pron. これ, この
palipathaṃ: palipatha の acc. sg.
palipatha: =paripatha, paripantha m. [pari-path-a] 障碍, 険路; ぬかるみ, 染泥
√path(a): 行く
duggaṃ: dugga の acc. sg.
dugga: m. n. a. [du-ga*22] 難路, 険路, 行き難き
du-: =dur- pref. 悪き. 難き
-ga: 主に形容詞を形成する*23
saṃsāraṃ: saṃsāra の acc. sg.
saṃsāra: m. [saṃ-sar*24-a] 輪廻, 流転
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*25
√sar(a): [Sk. sṛ] 行く, 流れる
-a: 名詞・形容詞を形成する*26
mohamaccagā: mohaṃ*27 + accagā
mohaṃ: moha の acc. sg.
moha: m. [muh*28-a] 痴, 愚痴
√muh(a): 痴
accagā: atigacchati の aor.*29
atigacchati: [ati-gacchati] すぎ行く, 超える, まさる
ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*30
gacchati: [√gam(u)]*31 行く
tiṇṇo: tiṇṇa の nom. sg. m.
tiṇṇa: a. [tarati の pp.]*32 渡れる, 度脱せる, 超えたる
tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る
pāra-gato: pāra-gata の nom. sg. m.
pāra-gata: a. 彼岸に到れる
pāra: n. a. [para*33-a] 彼岸, 彼方, 他の
para: a. 他の, 彼方の, 上の
gata: a. [gacchati の pp.]*34 行ける, 達せる, 関係せる; 様子, 姿
jhāyī: jhāyin の nom. sg. m.
jhāyin: a. m. [jhā-in*35] 禅定ある, 静慮する; 禅定者, 静慮者, 禅師
√jhā: =jhe 考える
-in: 所有形容詞を形成する*36
anejo: aneja の nom. sg. m.
aneja: a. [an-ej-a] 不動の, 無動著の, 無貪愛の
√ej(a): 動く
akathaṃkathī: akathaṃkathin の nom. sg. m.*37
akathaṃkathin: a. [akathaṃkathā*38-in] 疑いなき
akathaṃkathā: f. [a-kathaṃkathā] 疑いなきこと, 無疑
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
kathaṃkathā: f. 疑惑, 猶予
anupādāya: anupādiyati の ger.*39
anupādiyati: an- + upādiyati
upādiyati: [upa*40-ādiyati] 取る, 執取す, 執受す
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*41
ādiyati: =ādāti, ādeti [ā-dā] 取る
ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*42
√dā: 与える
nibbuto: nibbuta の nom. sg.
nibbuta: a. [nibbāti の pp.] 疲滅せる, 涅槃に達せる
nibbāti: [ni-vā*43] 消火す, (煩悩を)消尽す
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *44
√vā: 行く, 吹く, 滅する, 香る