369.
Siñca bhikkhu imaṃ nāvaṃ, sittā te lahumessati,
汲み出せ 比丘よ この 舟より 汲み出して 汝の 疾く/行く也
chetvā rāgañca dosañca, tato nibbānamehisi.
断ちて 貪を/と 瞋を/と 後に 涅槃に/行く也
(比丘よ、この舟より水を汲み出せ。汲み出したる後には、汝の舟は疾(と)く行くなり。貪(とん)と瞋(しん)とを断ちたる後は、その後には汝は涅槃に赴くなり。)
修行僧よ。この舟から水を汲み出せ。汝が水を汲み出したならば、舟は軽やかにやすやすと進むであろう。貪りと怒りとを断ったならば、汝はニルヴァーナにおもむくであろう。
siñca: siñcati の imp. 2sg.*1
siñcati: [√sic(a)]*2 注ぐ, 舟の水を汲み出す
bhikkhu: m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者 voc. sg.
√bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食
-u: 名詞・形容詞を形成する*3
imaṃ: ayaṃ の acc. sg. m.*4
ayaṃ: pron. これ, この
nāvaṃ: nāvā の acc. sg.
nāvā: f. 船, 舟
sittā: siñcati の pp. nom. sg. f.*5
te: tvaṃ の gen. sg.*6
tvaṃ: 汝, 君
lahumessati: lahuṃ*7 + essati
lahuṃ: adv. [lahu の acc.]*8 急速に
lahu: a. 軽き, 疾き
essati: eti の fut.*9
eti: [√i] 行く, 来る, 達する, 経験する*10
chetvā: chindati の ger.*11
chindati: [√chid, chind, ched] 切る, 断つ, 切断す
rāgañca: rāgaṃ*12 + ca
rāgaṃ: rāga の acc. sg.
rāga: m. [cf. rajati] 貪, 貪欲, 染; 染色, 色彩
rajati: [√raj, ranj(a), Sk. rañj] 染める
ca: conj. と, そして, また
dosañca: dosaṃ*13 + ca
dosaṃ: dosa の acc. sg.
dosa: m. 瞋, 瞋恚
tato: [ta の abl.]*14 それより, それ故に, その後
ta: pron. それ
nibbānamehisi: nibbānaṃ*15 + ehisi
nibbānaṃ: nibbāna の acc. sg.
nibbāna: n. [ni-vā*16-na] 涅槃, 寂滅
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *17
√vā: 行く, 吹く, 香る
-na: 名詞を形成する*18
ehisi: eti の fut.
370.
Pañca chinde, pañca jahe, pañca c'uttari bhāvaye,
五を 断つべし 五を 捨つべし 五を 又/更に 修すべし
pañca saṅg'ātigo bhikkhu ogha-tiṇṇo ti vuccati.
五を 執著を超越せる 比丘は 暴流を越えたる と 言はる
(五つを断つべし、五つを捨つべし、五つをまた更に修すべし。五つの執着を超越せる比丘は、暴流を越えたる者と言はる。)
五つ(の束縛)を断て。五つ(の束縛)を捨てよ。さらに五つ(のはたらき)を修めよ。五つの執著を超えた修行僧は、〈激流を渡った者〉とよばれる。
chinde: chindati の opt.*20
jahe: jahāti の opt.*21
jahāti: =jahati [√hā] 捨つ, 断ず*22
c'uttari: ca*23 + uttari
uttari: a. [<uttara] より上の, 超えたる adv. こえて, 更に
uttara: ① a. [udの比較級]*24 より上の, よりすぐれた, 北の, 北方の, 次の. ② [ud-tar*25-a] 超える
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*26
√tar(a): [Sk. tṛ] 浮く, こえる
-a: 名詞・形容詞を形成する*27
bhāvaye: bhāveti の opt.*28
bhāveti: [bhavati の caus.]*29 あらしむ, 修習す, 修す
bhavati: [√bhū]*30 ある, 存在する
saṅg'ātigo: saṅg'ātiga の nom. sg. m.
saṅga: m. [<√sanj(a), Sk. sañj] 着, 染着, 執着
√sanj(a): [Sk. sañj] 執着
atiga: a. [ati-ga] 超えたる, 打ち勝てる
ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*32
-ga: 主に形容詞を形成する*33
bhikkhu: nom. sg.
ogha-tiṇṇo: ogha-tiṇṇa の nom. sg. m.
ogha-tiṇṇa: 暴流を越えたる, 暴流を渡れる
ogha: m. 暴流, 流, 洪水
tiṇṇa: a. [tarati の pp.]*34 渡れる, 度脱せる, 超えたる
tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る
ti: ind. [iti の略] と, かく
vuccati: [√vac の pass.] *35 言われる
√vac(a): 言う, 話す