蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 163 (369. 370.)

369.

Siñca bhikkhu imaṃ nāvaṃ, sittā te lahumessati,

汲み出せ 比丘よ この 舟より 汲み出して 汝の 疾く/行く也

chetvā rāgañca dosañca, tato nibbānamehisi.

断ちて  貪を/と 瞋を/と 後に 涅槃に/行く也

(比丘よ、この舟より水を汲み出せ。汲み出したる後には、汝の舟は疾(と)く行くなり。貪(とん)と瞋(しん)とを断ちたる後は、その後には汝は涅槃に赴くなり。)

修行僧よ。この舟から水を汲み出せ。汝が水を汲み出したならば、舟は軽やかにやすやすと進むであろう。貪りと怒りとを断ったならば、汝はニルヴァーナにおもむくであろう。

 siñca: siñcati の imp. 2sg.*1

  siñcati: [√sic(a)]*2 注ぐ, 舟の水を汲み出す

 bhikkhu: m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者  voc. sg.

  √bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食

  -u: 名詞・形容詞を形成する*3

 imaṃ: ayaṃ の acc. sg. m.*4

  ayaṃ: pron. これ, この

 nāvaṃ: nāvā の acc. sg.

  nāvā: f. 船, 舟

 sittā: siñcati の pp. nom. sg. f.*5

 te: tvaṃ の gen. sg.*6

  tvaṃ: 汝, 君

 lahumessati: lahuṃ*7 + essati

  lahuṃ: adv. [lahu の acc.]*8 急速に

   lahu: a. 軽き, 疾き

  essati: eti の fut.*9

   eti: [√i] 行く, 来る, 達する, 経験する*10

 chetvā: chindati の ger.*11

  chindati: [√chid, chind, ched] 切る, 断つ, 切断す

 rāgañca: rāgaṃ*12 + ca

  rāgaṃ: rāga の acc. sg.

   rāga: m. [cf. rajati] 貪, 貪欲, 染; 染色, 色彩

    rajati: [√raj, ranj(a), Sk. rañj] 染める

  ca: conj. と, そして, また

 dosañca: dosaṃ*13 + ca

  dosaṃ: dosa の acc. sg.

   dosa: m. 瞋, 瞋恚

 tato: [ta の abl.]*14 それより, それ故に, その後

  ta: pron. それ

 nibbānamehisi: nibbānaṃ*15 + ehisi

  nibbānaṃ: nibbāna の acc. sg.

   nibbāna: n. [ni-vā*16-na] 涅槃, 寂滅

    ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *17

    √: 行く, 吹く, 香る

    -na: 名詞を形成する*18

  ehisi: eti の fut.

 

370.

Pañca chinde, pañca jahe, pañca c'uttari bhāvaye,

五を 断つべし 五を 捨つべし 五を 又/更に 修すべし

pañca saṅg'ātigo bhikkhu ogha-tiṇṇo ti vuccati.

五を 執著を超越せる 比丘は 暴流を越えたる と 言はる

(五つを断つべし、五つを捨つべし、五つをまた更に修すべし。五つの執着を超越せる比丘は、暴流を越えたる者と言はる。)

五つ(の束縛)を断て。五つ(の束縛)を捨てよ。さらに五つ(のはたらき)を修めよ。五つの執著を超えた修行僧は、〈激流を渡った者〉とよばれる。

 pañca: num. a. 五  acc.*19

 chinde: chindati の opt.*20

 jahe: jahāti の opt.*21

  jahāti: =jahati  [√hā] 捨つ, 断ず*22

 c'uttari: ca*23 + uttari

  uttari: a. [<uttara] より上の, 超えたる  adv. こえて, 更に

   uttara: ① a. [udの比較級]*24 より上の, よりすぐれた, 北の, 北方の, 次の. ② [ud-tar*25-a] 超える

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*26

    √tar(a): [Sk. tṛ] 浮く, こえる

    -a: 名詞・形容詞を形成する*27

 bhāvaye: bhāveti の opt.*28

  bhāveti: [bhavati の caus.]*29 あらしむ, 修習す, 修す

   bhavati: [√bhū]*30 ある, 存在する

 saṅg'ātigo: saṅg'ātiga の nom. sg. m.

  saṅg'ātiga: saṅga + atiga*31

   saṅga: m. [<√sanj(a), Sk. sañj] 着, 染着, 執着

    √sanj(a): [Sk. sañj] 執着

   atiga: a. [ati-ga] 超えたる, 打ち勝てる

    ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*32

    -ga: 主に形容詞を形成する*33

 bhikkhu: nom. sg.

 ogha-tiṇṇo: ogha-tiṇṇa の nom. sg. m.

  ogha-tiṇṇa: 暴流を越えたる, 暴流を渡れる

   ogha: m. 暴流, 流, 洪水

   tiṇṇa: a. [tarati の pp.]*34 渡れる, 度脱せる, 超えたる

    tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る

 ti: ind. [iti の略] と, かく

 vuccati: [√vac の pass.] *35 言われる

  √vac(a): 言う, 話す