蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 146 (326. 327.)

326.

Idaṃ pure cittamacāri cārikaṃ,

この 以前には 心は/行へり 徘徊を 

yen'icchakaṃ yattha-kāmaṃ yathā-sukhaṃ,

欲せるそのままに 欲楽の趣く所へ 快きが如くに

tadajj'ahaṃ niggahessāmi yoniso,

それを/今/我は  抑ふ也  根元より 

hatthippabhinnaṃ viya aṅkusaggaho.

さかりのつきし象を の如く 象師が

(この心は以前にはさすらへり。欲するがまま、欲楽の趣く所へ、快きが如くに。それを今我は根元より抑ふなり。さかりのつきし象を鉤(かぎ)を持つ象師が抑ふる如く。)

この心は、以前には、望むがままに、欲するがままに、快きがままに、さすらっていた。今やわたくしはその心をすっかり抑制しよう、──象使いが鉤をもって、発情期に狂う象を全くおさえつけるように。

 idaṃ: ayaṃ の nom. sg. n.*1

  ayaṃ: pron. これ, この

 pure: adv. prep. [pura の loc.]*2 前に, 過去に

  pura: a. 前の, 前方の

 cittamacāri: cittaṃ*3 + acāri

  cittaṃ: citta の nom. sg.

   citta: n. [<cit] 心

    √cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂

  acāri: carati の aor.*4

   carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 cārikaṃ: cārika の acc. sg.

  cārika: =cāraka, cāraṇa  a. m. n. [car*5-ika] 旅行, 遊行, 徘徊

   -ika: 名詞・形容詞を形成する*6

 yen'icchakaṃ: yena*7 + icchakaṃ

  yena: ya の ins.*8  それをもって, そこから, ~の所に

   ya: pron. rel. 所のもの

  icchakaṃ: adv. [icchaka の acc.]*9 欲せるままに

   icchaka: a. [icchā*10-ka] 欲せる

    icchā: f. [<√is(a)]*11 欲求, 希求

    -ka: 動作主名詞・形容詞を形成する*12

 yattha-kāmaṃ: すきな所へ

  yattha: adv. [ya-tha]*13 所のその場所へ, ~の所へ

   -tha: 場所を表す副詞を形成する*14

  kāmaṃ: adv. [kāma の acc.]*15 むしろ, 勝手に

   kāma: m. n. [kam*16-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

    √kam(u): 欲す, 楽しむ

    -a: 名詞・形容詞を形成する*17

 yathā-sukhaṃ: 気楽に

  yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

   -thā: 副詞を形成する*18

  sukhaṃ: adv. [sukha の acc.]*19 快く

   sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福

    √sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる

 tadajj'ahaṃ: ta*20 + ajja*21 + ahaṃ

  ta: pron. それ

  ajja: adv. [Sk. adya] 今日, 現在

  ahaṃ: pron. 私は, 私が  nom. sg.*22

 niggahessāmi: niggaṇhāti の fut. 1sg.*23

  niggaṇhāti: [ni-gaṇhāti*24] 抑止す, 折伏す, 叱責す

   ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *25

   gaṇhāti: =gaṇhati  [√gah(a), Sk. grah]*26 取る, 捕える

 yoniso: adv. [yoni の abl.]*27 根源より, 根本的に, 如理に

  yoni: f. 胎, 子宮, 生; 起源, 原因

 hatthippabhinnaṃ: hatthippabhinna の acc. sg.

  hatthippabhinna: hatthi + pabhinna*28

   hatthi: =hatthin  m. [hattha*29-in] 手ある, 象, 牡象

    hattha: [har-ta*30] m. 手, 手掌; 肘 [長さの単位]

     √har(a): [Sk. hṛ] 取る

     -ta: 名詞を形成する*31

   pabhinna: a. [pabhindati の pp.]*32 破壊せる, 開花せる, さかりのついた, 発展せる

    pabhindati: [pa-bhindati] 破壞する, 破る

     pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*33

     bhindati: [√bhid(i)]*34 破る, 破壊す

 viya: adv. ~の如く

 aṅkusaggaho: aṅkusaggaha の nom. sg.

  aṅkusaggaha: [aṅkusa-gaha*35]  象師

   aṅkusa: m. 鉤

   gaha: m. [gah-a] 持つ者

    √gah(a): [Sk. gṛh, graha] 取, 執

 

327.

Appamāda-ratā hotha, sacittamanurakkhatha,

不放逸を楽しめる者 たれ 己の心を/御せ

duggā uddharath'attānaṃ, paṅke sanno'va kuñjaro.

難処より 引き上げよ/己を   泥に 没せる/如く 象が

(不放逸を楽しめる者らたれ。己れの心を御せ。難処より己れを引き上げよ。泥に没せる象のする如く。)

つとめはげむのを楽しめ。おのれの心を護れ。自己を難処から救い出せ。──泥沼に落ちこんだ象のように。

 appamāda-ratā: appamāda-rata の nom. pl. m.

  appamāda: m. [a-pamāda]*36 不放逸

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   pamāda: m. [pa-mad*37-a] 放逸

    √mad(a): 迷妄, 等閑, 忘却

  rata: a. [ramati の pp. ]*38 楽しめる, 愛好せる

   ramati: [√ram(u)] 楽しむ, 喜ぶ

 hotha: hoti の imp. 2pl.*39

  hoti: =bhavati  [√hū] ある, 存在する*40

 sacittamanurakkhatha: sacittaṃ*41 + anurakkhatha

  sacittaṃ: sacitta の acc. sg.

   sacitta: n. [sa-citta] 自心

    sa: pron. 自己, 自ら

  anurakkhatha: anurakkhati の imp. 2pl.*42

   anurakkhati: [anu-rakkhati] 守る, 守護する, 保護する

    anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*43

    rakkhati: [√rakkh(a)] 護る, 守る, 守護す

     √rakkh(a): [Sk. rakṣ] 守護, 制御, 統治, 回避, 注意

 duggā: dugga の abl. sg.

  dugga: m. n. a. [du-ga*44] 難路, 嶮路, 行き難き

   du-: pref. 悪き, 難き

   -ga: 主に形容詞を形成する*45

 uddharath'attānaṃ: uddharatha*46 + attānaṃ

  uddharatha: uddharati の imp. 2pl.*47

   uddharati: [ud-dharati] 揚げる, 上げる, 取り除く, 引き抜く

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*48

    dharati: [√dhar(a), Sk. dhṛ] 保持す, 持続す, 存続す

  attānaṃ: attan の acc. sg.*49

 paṅke: paṅka の loc. sg.

  paṅka: m. 泥, 汚泥, 泥土, 泥地

 sanno'va: sanno + iva*50

  sanno: sanna の nom. sg. m.

   sanna: a. [sīdati の pp.]*51 沈んだ, 没せる

    sīdati: [√sad, Sk. śad]*52 沈む, 没す

  iva: indecl. 如く

 kuñjaro: kuñjara の nom. sg.

  kuñjara: m. 象

*1:『実用パーリ語文法』指示代名詞 307.

*2:同上, 格形副詞 532.

*3:同上, ニッガヒータ連声 42.

*4:同上, 語根アオリスト 409.

*5:同上, 強調 105.

*6:同上, 一次派生 578. ika

*7:同上, 母音連声 17.

*8:同上, ya の曲用 312.

*9:同上, 格形副詞 532.

*10:同上, 子音連声 31.

*11:同上, 不規則動詞 404.

*12:同上, 一次派生 ka

*13:同上, 子音連声 33.

*14:同上, 副詞的派生語 346.

*15:同上, 格形副詞 532.

*16:同上, 強調 105.

*17:同上, 一次派生 576. a

*18:同上, 代名詞の派生語 347.

*19:同上, 格形副詞 532.

*20:同上, 子音の挿入 28.

*21:同上, 母音連声 17.

*22:同上, 人称代名詞 289.

*23:同上, 未来時制 433.

*24:同上, 子音連声 33.

*25:同上, 動詞接頭辞 516. ni

*26:同上, 現在系統の活用 401. 注意 (c)

*27:同上, 格形副詞 532. 奪格

*28:同上, 子音連声 33.

*29:同上, 母音連声 17.

*30:同上, r の同化 80.

*31:同上, 一次派生 ta

*32:同上, 受動完了分詞 459.

*33:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*34:同上, 第二活用 373.

*35:同上, 子音連声 33.

*36:同上, 子音連声 33.

*37:同上, 強調 105.

*38:同上, 受動完了分詞 456.

*39:同上, 不規則動詞 511.

*40:同上

*41:同上, ニッガヒータ連声 42.

*42:同上, 現在系統の活用 381.

*43:同上, 動詞接頭辞 516. anu

*44:同上, 子音連声 33.

*45:同上, kvi 接尾辞 584. ga

*46:同上, 母音連声 17.

*47:同上, 現在系統の活用 381.

*48:同上, 動詞接頭辞 516. ud

*49:同上, attan の曲用 154.

*50:同上, 母音連声 26.

*51:同上, 受動完了分詞 459.

*52:同上, 不規則動詞 404.