258.
Na tena paṇḍito hoti yāvatā bahu bhāsati,
否 其故 賢者 也 其故に 多く 説く
khemī averī abhayo paṇḍito ti pavuccati.
安穏なる 無怨の 無畏の 賢者 と 言はる
(多く説くが故に、それ故に賢者たること無し。安穏なる者、怨み無き者、畏れ無き者が賢者と言はる。)
多く説くからとて、そのゆえにかれが賢者なのではない。こころおだやかに、怨むことなく、恐れることのない人、──かれこそ〈賢者〉と呼ばれる。
na: adv. なし
tena: ta の ins. sg. m.*1 それによって, それ故に
ta: pron. それ
paṇḍito: paṇḍita の nom. sg. m.
paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者
hoti: =bhavati [√hū]*2 ある, 存在する
yāvatā: adv. [yāvat の abl.]*3 ~所のそれだけで, ~である限り
yāvat: =yāvant pron. rel. [ya*4-vat] 所のそれだけ
ya: pron. rel. 所のもの
-vat: =vant 所有形容詞を形成する*5
bahu: adv. 多く
bhāsati: [√bhās(a), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う
khemī: khemin の nom. sg. m.*6
khemin: a. [khema*7-in] 安穏なる, 平和を楽しむ
khema: a. n. 安穏なる, 平安の; 安穏 =涅槃
-in: 所有形容詞を形成する*8
averī: averin の nom. sg. m.*9
averin: a. [avera*10-in] 無怨の
avera: a. [a-vera] 怨みなき, 恚心なき
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
vera: n. 怨, 怨心, 怨恨, 敵意, うらみ
abhayo: abhaya の nom. sg. m.
abhaya: a. n. [a-bhaya] 無畏, 無怖
bhaya: n. m. [bhī-a*11] 怖, 怖畏, 恐怖
√bhī: 恐怖
ti: ind. [iti の略] と, かく
pavuccati: =pavuccate [pa-vac の pass.]*12 説かれる, 言われる
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*13
√vac(a): 言う, 話す
259.
Na tāvatā dhamma-dharo yāvatā bahu bhāsati,
否 其故に 法を持せる 其故に 多く 説く
yo ca appampi sutvāna dhammaṃ kāyena passati,
所の者 又 少なき/と雖も 聞きて 法より 身を以て 見る
sa ve dhamma-dharo hoti yo dhammaṃ nappamajjati.
そは 実に 法を持せる 也 所の者 法より 否/放逸となる
(多く説くが故に、それ故に如法の者たること無し。然(しか)して少なきと雖も法を聞きて身を以て(真理を)見る者、法より逸脱すること無き者、そは実に如法の者なり。)
多く説くからとて、そのゆえにかれが道を実践している人なのではない。たとい教えを聞くことが少なくても、身をもって真理を見る人、怠って道からはずれることの無い人──かれこそ道を実践している人である。
tāvatā: adv. [tāvat の abl.]*14 それだけ, そのために, かくて
tāvat: adv. [ta*15-vat] それだけ, それ程, まず
ta: pron. それ
dhamma-dharo: dhamma-dhara の nom. sg. m.
dhamma-dhara: 持法者
dhamma: [dhar*16-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*17
dhara: a. [dhar-a] 持つ, 保持する
-a: 名詞・形容詞を形成する*18
yo: ya の nom. sg. m.*19
ca: conj. と, そして, また
appampi: appaṃ*20 + pi
appaṃ: appa の acc. sg. n.
appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細
pi: =api adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも
sutvāna: suṇāti の ger.*21
suṇāti: [√su, Sk. śru]*22 聞く, 聴く
dhammaṃ: dhamma の abl. sg.*23
kāyena: kāya の ins. sg.
kāya: m. 身, 身体, 集まり
sa: =so ta の nom. sg. m.
ve: adv. 実に
nappamajjati: na + pamajjati*24
pamajjati: [pa-majjati] 酔う; 放逸となる, 我儘となる
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*25
majjati: [√mad(a)]*26 酔う; 夢中になる
*23:『真理のことば』訳注による