蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 115 (258. 259.)

258.

Na tena paṇḍito hoti yāvatā bahu bhāsati,

否 其故 賢者  也 其故に 多く 説く

khemī averī abhayo paṇḍito ti pavuccati.

安穏なる 無怨の 無畏の 賢者 と 言はる

(多く説くが故に、それ故に賢者たること無し。安穏なる者、怨み無き者、畏れ無き者が賢者と言はる。)

多く説くからとて、そのゆえにかれが賢者なのではない。こころおだやかに、怨むことなく、恐れることのない人、──かれこそ〈賢者〉と呼ばれる。

 na: adv. なし

 tena: ta の ins. sg. m.*1  それによって, それ故に

  ta: pron. それ

 paṇḍito: paṇḍita の nom. sg. m.

  paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者

 hoti: =bhavati  [√hū]*2 ある, 存在する

 yāvatā: adv. [yāvat の abl.]*3  ~所のそれだけで, ~である限り

  yāvat: =yāvant  pron. rel. [ya*4-vat] 所のそれだけ

   ya: pron. rel. 所のもの

   -vat: =vant  所有形容詞を形成する*5

 bahu: adv. 多く

 bhāsati: [√bhās(a), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う

 khemī: khemin の nom. sg. m.*6

  khemin: a. [khema*7-in] 安穏なる, 平和を楽しむ

   khema: a. n. 安穏なる, 平安の; 安穏 =涅槃

   -in: 所有形容詞を形成する*8

 averī: averin の nom. sg. m.*9

  averin: a. [avera*10-in] 無怨の

   avera: a. [a-vera] 怨みなき, 恚心なき

    a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

    vera: n. 怨, 怨心, 怨恨, 敵意, うらみ

 abhayo: abhaya の nom. sg. m.

  abhaya: a. n. [a-bhaya] 無畏, 無怖

   bhaya: n. m. [bhī-a*11] 怖, 怖畏, 恐怖

    √bhī: 恐怖

 ti: ind. [iti の略] と, かく

 pavuccati: =pavuccate  [pa-vac の pass.]*12 説かれる, 言われる

  pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*13

  √vac(a): 言う, 話す

 

259.

Na tāvatā dhamma-dharo yāvatā bahu bhāsati,

否 其故に  法を持せる  其故に 多く 説く

yo  ca appampi sutvāna dhammaṃ kāyena passati,

所の者 又 少なき/と雖も 聞きて 法より  身を以て 見る

sa ve dhamma-dharo hoti yo dhammaṃ nappamajjati.

そは 実に 法を持せる  也 所の者 法より 否/放逸となる

(多く説くが故に、それ故に如法の者たること無し。然(しか)して少なきと雖も法を聞きて身を以て(真理を)見る者、法より逸脱すること無き者、そは実に如法の者なり。)

多く説くからとて、そのゆえにかれが道を実践している人なのではない。たとい教えを聞くことが少なくても、身をもって真理を見る人、怠って道からはずれることの無い人──かれこそ道を実践している人である。

 tāvatā: adv. [tāvat の abl.]*14 それだけ, そのために, かくて

  tāvat: adv. [ta*15-vat] それだけ, それ程, まず

   ta: pron. それ

 dhamma-dharo: dhamma-dhara の nom. sg. m.

  dhamma-dhara: 持法者

   dhamma: [dhar*16-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

    √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

    -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*17

   dhara: a. [dhar-a] 持つ, 保持する

    -a: 名詞・形容詞を形成する*18

 yo: ya の nom. sg. m.*19

 ca: conj. と, そして, また

 appampi: appaṃ*20 + pi

  appaṃ: appa の acc. sg. n.

   appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細

  pi: =api  adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 sutvāna: suṇāti の ger.*21

  suṇāti: [√su, Sk. śru]*22 聞く, 聴く

 dhammaṃ: dhamma の abl. sg.*23

 kāyena: kāya の ins. sg.

  kāya: m. 身, 身体, 集まり

 sa: =so  ta の nom. sg. m.

 ve: adv. 実に

 nappamajjati: na + pamajjati*24

  pamajjati: [pa-majjati] 酔う; 放逸となる, 我儘となる

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*25

   majjati: [√mad(a)]*26 酔う; 夢中になる