18. Mala-vagga 汚れ (垢穢の章)
mala: n. 垢, 垢穢(くゑ)
vagga: m. 群, 品, 章
235.
Paṇḍu-palāso va dāni'si, yama-puris'āpi ca te upaṭṭhitā,
枯葉 の如く 今や/也 死王の使者/と雖も 又 汝に 現前せり
uyyoga-mukhe ca tiṭṭhasi, pātheyyampi ca te na vijjati.
死出の門に 又 立つ 行路の資糧/と雖も 又 汝に 否 存す
(汝はいまや枯葉の如くなり。死王の使者もまた汝の前に現れり。汝はまた死出の門に立つ。されど行路の資糧さへも汝に存すこと無し。)
汝はいまや枯葉のようなものである。閻魔王の従卒もまた汝に近づいた。汝はいま死出の門路に立っている。しかし汝には旅の資糧(かて)さえも存在しない。
paṇḍu-palāso: paṇḍu-palāsa の nom. sg.
paṇḍu-palāsa: 枯葉
paṇḍu: a. 黄色の, 黄白の
palāsa: m. n. パラ一サ樹, 蘇芳樹; パラ一サ鹿; 樹葉
va: [iva の略] indecl. 如く
dāni'si: dāni + asi*1
dāni: =idāni adv. 今, 今や
asi: atthi の 2sg.*2
yama-puris'āpi: yama-purisa + api*3
yama-purisa: 死王の使者
yama: m. 夜摩, 閻摩, 死王
purisa: m. 人, 男, 男子, 丈夫, 人間, 神我
api: adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも
ca: conj. と, そして, また
te: tvaṃ の dat. sg.*4
tvaṃ: 汝, 君
upaṭṭhitā: upaṭṭhita の nom. pl. m.
upaṭṭhita: a. [upaṭṭhāti の pp.]*5 供えられたる, 用意された, 現起せる, 現前せる
upaṭṭhāti: [upa-thā*6] 現われる, 起る
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*7
√thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる
uyyoga-mukhe: uyyoga-mukha の loc. sg.
uyyoga: m. [ud-yoga*8] 出発, 臨終
ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*9
yoga: m. [yuj*10-a] 軛, 束縛, 繋縛; 結合, 関係; 瑜伽, 瞑想, 観行, 修行, 努力
√yuj(a): 結合, 専心, 抑制, 慎み, 観行
-a: 名詞・形容詞を形成する*11
mukha: n. 口, 入口, 門; 顔, 面, 前面; 頂点
tiṭṭhasi: tiṭṭhati の 2sg.*12
tiṭṭhati: [√thā, Sk. sthā]*13 立つ, 住立す, 止まる, 存続す
pātheyyampi: pātheyyaṃ*14 + pi
pātheyyaṃ: pātheyya の nom. sg.
pātheyya: =pātheyyaka n. [patha*15-eyya] 路用の資, 路銀, 行路の糧食
patha: m. [path-a] 道, 路
√path(a): 行く
-eyya: 状態・性質を表わす名詞・形容詞を形成する*16
pi: =api
na: adv. なし
vijjati: [vindati の pass.]*17 見出される, 知られる, 存在す
vindati: [√vid(a)]*18 知る; 見出す, 所有す
236.
So karohi dīpamattano, khippaṃ vāyama, paṇḍito bhava,
そは 作せ 庇護所を/己れの 速やかに 努めよ 賢明 たれ
niddhanta-malo anaṅgaṇo, dibbaṃ ariya-bhūmiṃ upehisi.
垢穢を消除せるは 無穢なるは 天の 聖地に 到る也
(そは己れの庇護所を作(な)せ。速やかに努めよ。賢明たれ。垢穢を消除し無穢なる者は、天の聖地に到るなり。)
だから、自己のよりどころをつくれ。すみやかに努めよ。賢明であれ。汚(けが)れをはらい、罪過(つみとが)がなければ、天の尊い処に至るであろう。
so: ta の nom. sg. m.*19
ta: pron. それ
karohi: karoti の imp. 2sg.*20
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*21 なす, 行う, 作る
dīpamattano: dīpaṃ*22 + attano
dīpaṃ: dīpa の acc. sg.
dīpa: m. n. 洲, 洲渚, 島, 庇護所
attano: attan の gen. sg.*23
attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体
khippaṃ: adv. [khippa の acc.] *24 急速に
khippa: a. n. [khip*25-a] 急速なる; 投網
√khip(a): [Sk. kṣip] 投げる, 打つ, (腕や脚を)素早く動かす
vāyama: vāyamati の imp. 2sg.*26
vāyamati: [vi*27-ā-yam] 努力する, 励む, 勤む
vi-: 語根の意味を強調する*28
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*29
√yam(u): 抑制, 自制
paṇḍito: paṇḍita の nom. sg.
paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者
bhava: bhavati の imp. 2sg.*30
bhavati: [√bhū]*31 ある, 存在する
niddhanta-malo: niddhanta-mala の nom. sg. m.
niddhanta: a. [niddhamati の pp.]*32 消除せる, 除滅せる, 浄潔なる, 無垢の
niddhamati: [ni-dhamati*33] 消除す, 除去す, 捨てる
ni-: pref. 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*34
dhamati: [√dham(a), Sk. dhmā] 吹く, 鳴らす, 火を吹く
anaṅgaṇo: anaṅgaṇa の nom. sg. m.
anaṅgaṇa: a. [an-aṅgaṇa] 無穢の
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では anとなる
aṅgaṇa: n. [anj-ana] 穢, 煩悩
√anj: 塗る, 汚す
-ana: 名詞・形容詞を形成する*35
dibbaṃ: dibba の acc. sg. f.
dibba: a. 天の, 神の, 天的の
ariya-bhūmiṃ: ariya-bhūmi の acc. sg.
ariya: a. m. 聖なる, 神聖なる, 尊貴の, 聖者
bhūmi: f. 地, 土地, 大地, 國土, 階位
upehisi: upeti の fut. 2sg.
upeti: [upa*36-eti] 近づく, 到る
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*37
eti: [√i]*38 行く
237.
Upanīta-vayo ca dāni'si, sampayāto'si yamassa santike,
衰滅が齎されたる 又 今や/也 赴ける/也 死王の 近きに
vāso te n'atthi antarā, pātheyyampi ca te na vijjati.
家は 汝の 否/あり 中に 行路の資糧/と雖も 又 汝に 否 存す
(汝はまたいまや衰滅がもたらされたるなり。死王の近きに赴けるなり。中途に汝の家のあること無し。行路の資糧さへもまた汝に存すこと無し。)
汝の生涯は終りに近づいた。汝は、閻魔王の近くにおもむいた。汝には、みちすがら休らう宿もなく、旅の資糧も存在しない。
upanīta-vayo: upanīta-vaya の nom. sg. m.
upanīta: a. [upaneti の pp.]*39 もたらされたる, 結果せる, 与えられたる, 結論ある
upaneti: [upa-neti] 導く, 与える
neti: =nayati [√nī]*40 導く, 指導す, 結論に達す
vaya: m. 衰, 衰滅, 消亡, 壊
sampayāto'si: sampayāto + asi*41
sampayāta: a. [sampayāti の pp.]*42 進趣せる
sampayāti: [saṃ*43-payāti] 進み行く
saṃ-: pref. 共に, 正しく, 集まる, 同じ, 強意*44
payāti: [pa-yāti] 進発す, 出発す, 進む
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*45
yāti: [√yā] 行く, 至る
yamassa: yama の gen. sg.
santike: santika の loc. sg.
santika: n. [sa*46-antika] 付近, 面前
antika: a. 近い
vāso: vāsa の nom. sg.
vāsa: m. [vas*47-a] 住; 住所, 家; 状態
√vas(a): 住す
te: tvaṃ の gen. sg.*48
n'atthi: na*49 + atthi
atthi: [√as(a)]*50 ある, 存在する
antarā: adv. [antara の abl.]*51 その間に, 時々に
antara: a. n. prep. 内の, 中間の; 機会, 中間, 障碍
238.
So karohi dīpamattano, khippaṃ vāyama paṇḍito bhava,
そは 作せ 庇護所を/己れの 速やかに 努めよ 賢明 たれ
niddhanta-malo anaṅgaṇo, na puna jāti-jaraṃ upehisi.
垢穢を消除せるは 無穢なるは 否 再び 生れと老ひに 到る也
(そは己れの庇護所を作せ。速やかに努めよ。賢明たれ。垢穢を消除し無穢なる者は、再び生れと老ひとに到ること無し。)
だから、自己のよりどころをつくれ。すみやかに努めよ。賢明であれ。汚(けが)れをはらい、罪過(つみとが)がなければ、汝はもはや生と老いとに近づかないであろう。
puna: adv. conj. さらに, 再び
jāti-jaraṃ: jāti-jara の acc. sg.
jāti: f. 生, 誕生, 生れ, 血統, 種類
jarā: f. [jar-ā] 老, 老衰
√jar(a): [Sk. jṝ] 老いる
-ā: 女性名詞を形成する*52