62.
Puttā m'atthi, dhanaṃ m'atthi, iti bālo vihaññati,
子等が 我に/有り 財が 我に/有り と 愚者は 悩まさる
attā hi attano n'atthi, kuto puttā, kuto dhanaṃ.
我は 実に 我に 否/あり 如何でか 子等が 如何でか 財が
(子らが我に有り、財が我に有り、と愚者は悩まさる。実に我は我がものならず。如何でか子が我がものならむ。如何でか財が我がものならむ。)
「わたしには子がある。わたしには財がある」と思って愚かな者は悩む。しかしすでに自己が自分のものではない。ましてどうして子が自分のものであろうか。どうして財が自分のものであろうか。
puttā: putta の nom. pl.
putta: m. 子, 子息; 男児
m'atthi: me*1 + atthi
me: ahaṃ の gen. sg.*2
ahaṃ: pron. 私は, 私が
atthi: [√as(a)]*3 ある, 存在する
dhanaṃ: dhana の nom. sg.
dhana: n. [dhan-a] 財, 財物, 財産
√dhan(a): 実る
-a: 名詞・形容詞を形成する*4
iti: indecl. かく, ~と, とて
bālo: bāla の nom. sg. m.
bāla: a. 愚なる, 愚痴の, 無知の; 若き, 新しき
vihaññati: [vihanati の pass.]*5 打たれる, 殺される, 脳害される
vihanati: [vi-hanati] 打つ, 殺害す
vi-: 語根の意味を強調する*6
hanati: [√han(a)] 殺す, 害す, 破壊す, 打つ
attā: attan の nom. sg.*7
attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体
hi: adv. conj. 実に; 何となれば
attano: attan の gen. sg.*8
n'atthi: [na*9-atthi] なし, 非存, 無
na: adv. なし
kuto: [ku の abl.] どこから, いかなる理由で
ku: =kā, ka いかなる; 悪き, 邪なる; 小さな
63.
Yo bālo maññati bālyaṃ, paṇḍito v'āpi tena so,
所の者 愚か 知る 愚鈍 賢者 如し/雖も 其故 其は
bālo ca paṇḍita-mānī, sa ve bālo'ti vuccati.
愚者 又 賢者と慢心せる 其は 実に 愚者/と 言はる
(愚鈍と知る愚者は、それ故にそは愚者と雖も賢者の如し。されど賢者と慢心せる愚者は、そは実に愚者と言はる。)
もしも愚者がみずから愚であると考えれば、すなわち賢者である。愚者でありながら、しかもみずから賢者だと思う者こそ、「愚者」であると言われる。
yo: ya の nom. sg. m.*10
ya: pron. rel. 所のもの
maññati: [√man(u)]考える, 思う, 思量す
√man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る
bālyaṃ: bālya の nom. sg.
bālya: n. 青年, 無知, 愚鈍, 弱点
paṇḍito: paṇḍita の nom. sg.
paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者
v'āpi: va + api*11
va: indecl. 如く
api: indecl. 亦, も亦, 恐らく, 雖も
tena: ta の ins. sg. m.*12 それによって, それ故に, それと共に
ta: pron. それ
so: ta の nom. sg. m.*13 それは, 彼は
ca: conj. と, そして, また
paṇḍita-mānī: paṇḍita-mānin の nom. sg. m.*14
mānin: a. [man*15-in] 慢心ある, 誇りをもつ
-in: 所有形容詞を形成する*16
sa: =so ta の nom. sg. m.*17
ve: adv. 実に
bālo'ti: bālo + iti*18
vuccati: [√vac の pass.] *19 言われる
√vac: 言う, 話す