蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 18 (35. 36.)

35.
Dunniggahassa lahuno yattha-kāma-nipātino,

抑止し難き    軽き  欲する所へ落つる

cittassa damatho sādhu, cittaṃ dantaṃ sukh'āvahaṃāvaha.

心の   調御は  善き  心は 調御されたる 楽をもたらす

(抑へ難く、軽く、欲する所へ落つる、その心の調御は善し。調御されたる心は、楽をもたらすものなり。)

心は、捉え難く、軽々(かろがろ)とざわめき、欲するがままにおもむく。その心をおさめることは善いことである。心をおさめたならば、安楽をもたらす。

 dunniggahassa: dunniggaha の gen. sg. n.

  dunniggaha: a. [du-niggaha*1] 抑止し難き

   du-: pref. 悪き, 難き

   niggaha: m. [ni-gah*2-a] 抑止, 折伏, 論破, 堕負, 叱責

    ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *3

    √gah(a): [Sk. gṛh, graha] とる, 制圧する

    -a: 名詞・形容詞を形成する*4

 lahuno: lahu の gen. sg. n.*5

  lahu: a. 軽き, 疾き

 yattha-kāma-nipātino: yattha-kāma-nipātin の gen. sg. n.*6

  yattha: adv. [ya-tha*7] 所のその場所へ, ~の所へ

   ya: pron. rel. 所のもの

   -tha: 場所を表す副詞を形成する*8

  kāma: m. n. [kam*9-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

   √kam(u): 欲っす, 楽しむ

  nipātin: a. [nipāta*10-in] 落下する, 就寝する

   nipāta: m. [ni-pat*11-a] 落下, 降下; 不変詞; 集篇

    √pat(a): 落ちる, 飛ぶ

   -in: 所有形容詞を形成する*12

 cittassa: citta の gen. sg.

  citta: n. [<cit] 心

   √cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂

 damatho: damatha の nom. sg.

  damatha: m. 調御, 調伏, 訓練

 sādhu: a. adv. interj. [sādh-u] 善き, 善良の, 善人, 善く; 善い哉, 善哉, 何卒, どうぞ, 幸甚なり

  √sādh(a): 成功, 達成

  -u: 名詞・形容詞を形成する*13

 cittaṃ: citta の nom. sg.

 dantaṃ: danta の nom. sg. n.

  danta: [dammati の pp.]*14 調御されたる, 訓練されたる

   dammati: [√dam(u)] ならされる, おとなしくなる

 sukh'āvahaṃ: sukh'āvaha の nom. sg. n.

  sukh'āvaha: [sukha*15-āvaha] 楽をもたらす

   sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福

    √sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる

   āvaha: a. [ā-vaha] もたらす

    ā-: pref. prep. まで, から, 此方へ

    vaha: m. [vah-a] 運ぶもの, 牽獣; 流水

     √vah(a): 運ぶ, 持って来る

 

36.
Sududdasaṃ sunipuṇaṃ yattha-kāma-nipātinaṃ

極めて見難き 極めて微妙の 欲する所に落つる

cittaṃ rakkhetha medhāvī, cittaṃ guttaṃ sukh'āvahaṃ.

心を  守れ  智慧ある者等は 心は 守られたる 楽をもたらす

(極めて見難く、極めて微妙(みめう)の、欲する所に落つる、その心を、智慧ある者らは守れ。守られたる心は、楽をもたらすものなり。)

心は、極めて見難く、極めて微妙であり、欲するがままにおもむく。英知ある人は心を守れかし。心を守ったならば、安楽をもたらす。

 sududdasaṃ: sududdasa の acc. sg. n.

  sududdasa: a. [su-duddasa] 極めて見難き

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   duddasa: a. [du-das*16-a] 見難き, 難解の

    du-: =dur-  pref. 悪き. 難き

    √das(i): [Sk. dṛś] 見る

 sunipuṇaṃ:  sunipuṇa の acc. sg. n.

  sunipuṇa: a. [su-nipuṇa] 極めて微妙の

   nipuṇa: a. [ni-puṇ-a] 微妙の, 巧妙の, 総敏の

    √puṇ(a): 微妙

 yattha-kāma-nipātinaṃ: yatthakāmanipātin の acc. sg. n.

 cittaṃ: citta の acc. sg.

 rakkhetha: rakkhati の imp. 2pl.*17

  rakkhati: [√rakkh(a)] 護る, 守る, 守護す

 medhāvī: medhāvin の nom. pl.*18

  medhāvin: a. [medhā-in*19] 智慧ある, 賢き

   medhā: f. [medh-ā] 慧, 智慧

    √medh(a): 理解する, 交際する, 害する

    : 女性名詞を形成する*20

 cittaṃ: citta の nom. sg.

 guttaṃ: gutta の nom. sg. n.

  gutta: a. [gopeti の pp.]*21 守られたる, 守護されたる

   gopeti: [√gup(a) の caus.]*22 守る, 護る

    √gup(a): まもる

 sukh'āvahaṃ: sukh'āvaha の nom. sg. n.