35.
Dunniggahassa lahuno yattha-kāma-nipātino,
抑止し難き 軽き 欲する所へ落つる
cittassa damatho sādhu, cittaṃ dantaṃ sukh'āvahaṃāvaha.
心の 調御は 善き 心は 調御されたる 楽をもたらす
(抑へ難く、軽く、欲する所へ落つる、その心の調御は善し。調御されたる心は、楽をもたらすものなり。)
心は、捉え難く、軽々(かろがろ)とざわめき、欲するがままにおもむく。その心をおさめることは善いことである。心をおさめたならば、安楽をもたらす。
dunniggahassa: dunniggaha の gen. sg. n.
dunniggaha: a. [du-niggaha*1] 抑止し難き
du-: pref. 悪き, 難き
niggaha: m. [ni-gah*2-a] 抑止, 折伏, 論破, 堕負, 叱責
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *3
√gah(a): [Sk. gṛh, graha] とる, 制圧する
-a: 名詞・形容詞を形成する*4
lahuno: lahu の gen. sg. n.*5
lahu: a. 軽き, 疾き
yattha-kāma-nipātino: yattha-kāma-nipātin の gen. sg. n.*6
yattha: adv. [ya-tha*7] 所のその場所へ, ~の所へ
ya: pron. rel. 所のもの
-tha: 場所を表す副詞を形成する*8
kāma: m. n. [kam*9-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲っす, 楽しむ
nipātin: a. [nipāta*10-in] 落下する, 就寝する
nipāta: m. [ni-pat*11-a] 落下, 降下; 不変詞; 集篇
√pat(a): 落ちる, 飛ぶ
-in: 所有形容詞を形成する*12
cittassa: citta の gen. sg.
citta: n. [<cit] 心
√cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂
damatho: damatha の nom. sg.
damatha: m. 調御, 調伏, 訓練
sādhu: a. adv. interj. [sādh-u] 善き, 善良の, 善人, 善く; 善い哉, 善哉, 何卒, どうぞ, 幸甚なり
√sādh(a): 成功, 達成
-u: 名詞・形容詞を形成する*13
cittaṃ: citta の nom. sg.
dantaṃ: danta の nom. sg. n.
danta: [dammati の pp.]*14 調御されたる, 訓練されたる
dammati: [√dam(u)] ならされる, おとなしくなる
sukh'āvahaṃ: sukh'āvaha の nom. sg. n.
sukh'āvaha: [sukha*15-āvaha] 楽をもたらす
sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福
√sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる
āvaha: a. [ā-vaha] もたらす
ā-: pref. prep. まで, から, 此方へ
vaha: m. [vah-a] 運ぶもの, 牽獣; 流水
√vah(a): 運ぶ, 持って来る
36.
Sududdasaṃ sunipuṇaṃ yattha-kāma-nipātinaṃ
極めて見難き 極めて微妙の 欲する所に落つる
cittaṃ rakkhetha medhāvī, cittaṃ guttaṃ sukh'āvahaṃ.
心を 守れ 智慧ある者等は 心は 守られたる 楽をもたらす
(極めて見難く、極めて微妙(みめう)の、欲する所に落つる、その心を、智慧ある者らは守れ。守られたる心は、楽をもたらすものなり。)
心は、極めて見難く、極めて微妙であり、欲するがままにおもむく。英知ある人は心を守れかし。心を守ったならば、安楽をもたらす。
sududdasaṃ: sududdasa の acc. sg. n.
sududdasa: a. [su-duddasa] 極めて見難き
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
duddasa: a. [du-das*16-a] 見難き, 難解の
du-: =dur- pref. 悪き. 難き
√das(i): [Sk. dṛś] 見る
sunipuṇaṃ: sunipuṇa の acc. sg. n.
sunipuṇa: a. [su-nipuṇa] 極めて微妙の
nipuṇa: a. [ni-puṇ-a] 微妙の, 巧妙の, 総敏の
√puṇ(a): 微妙
yattha-kāma-nipātinaṃ: yatthakāmanipātin の acc. sg. n.
cittaṃ: citta の acc. sg.
rakkhetha: rakkhati の imp. 2pl.*17
rakkhati: [√rakkh(a)] 護る, 守る, 守護す
medhāvī: medhāvin の nom. pl.*18
medhāvin: a. [medhā-in*19] 智慧ある, 賢き
medhā: f. [medh-ā] 慧, 智慧
√medh(a): 理解する, 交際する, 害する
-ā: 女性名詞を形成する*20
cittaṃ: citta の nom. sg.
guttaṃ: gutta の nom. sg. n.
gutta: a. [gopeti の pp.]*21 守られたる, 守護されたる
gopeti: [√gup(a) の caus.]*22 守る, 護る
√gup(a): まもる
sukh'āvahaṃ: sukh'āvaha の nom. sg. n.