蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 86 (170-172.)

170.

"Katamantaṃ upādānaṃ, yattha loko vihaññati,

何れか/其は   執著は   其処で 世が 悩まさる

niyyānaṃ pucchito brūhi, kathaṃ dukkhā pamuccati"

出離を   所問の 言ひ給へ 如何にか 苦より 解き放たる

(「そこで世が悩まさるその執著とは何たるか。問はれたる出離を言ひ給へ。如何にしてか苦より解き放たる」)

「それによって世間が悩まされる執著とは何であるか? お尋ねしますが、それからの出離の道を説いてください。どうしたら苦しみから解き放たれるのでしょうか。」

 katamantaṃ: katamaṃ*1 + taṃ

  katamaṃ: katama の nom. sg. n.

   katama: a. [ka-tama] いずれか, どちらか

    ka: pron. inter. 誰? 何?

    -tama: 男性語基について最上級を形成する*2

  taṃ: ta の nom. sg. n.*3

   ta: pron. それ

 upādānaṃ: upādāna の nom. sg.

  upādāna: n. [upa*4-ādāna] 取, 取著, 執着

   upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*5

   ādāna: n. [ā-dāna] 取, 執取, 取著

    ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*6

    dāna: n. [dā-na] 施, 布施, 施与

     √: 施与

     -na: 名詞を形成する*7

 yattha: adv. [ya-tha*8] そこへ, そこで

  ya: pron. rel. 所のもの

  -tha: 場所を表す副詞を形成する*9

 vihaññati: [vihanati の pass.]*10 打たれる, 殺される, 脳害される

  vihanati: [vi-hanati] 打つ, 殺害す

   vi-: 語根の意味を強調する*11

   hanati: [√han(a)] 殺す, 害す, 破壊す, 打つ

 niyyānaṃ: niyyāna の acc. sg.

  niyyāna: n. [ni-yā*12-na] 出発, 出離

   ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*13

   √: 行く, 至る

 pucchito: pucchita の nom. sg. m.

  pucchita: a. [pucchati の pp.]*14 問われたる, 所問

   pucchati: [√pucch(a), Sk. prach] 問う, 質問す, たずねる; 与える

 brūhi: brūti の imper. 2sg.*15

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 kathaṃ: adv. [ka-thaṃ] いかに, 何故に

  -thaṃ: 代名詞に付いて様子の副詞を形成する*16

 dukkhā: dukkha の abl. sg.

  dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩

   √dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安

   -a: 名詞・形容詞を形成する*17

 pamuccati: pamuñcati の pass.*18

  pamuñcati: [pa-muñcati] 脱す, 解脱す, 出す, 放つ; 捨つ, 自由にす

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19

   muñcati: [√muc(a)]*20 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ

 

171.

"Pañca kāma-guṇā loke mano-chaṭṭhā paveditā,

五の  欲の種が  世に  第六の意が  知らされたる

ettha chandaṃ virājetvā evaṃ dukkhā pamuccati.

此処に 欲を 離貪せしめて 斯く 苦より 解き放たる

(「世には五種の欲あり、意は第六と知らしめられたる。ここに貪欲(とんよく)を離れたる後には、斯くの如く苦より解き放たる。)

「世間には五種の欲望の対象があり、意(の対象)が第六であると説き示されている。それらに対する貪欲を離れたならば、すなわち苦しみから解き放たれる。

 pañca: num. a. 五  nom.*21

 kāma-guṇā: kāma-guṇa の nom. pl.

  kāma-guṇa: 妙欲, [五]種欲

   kāma: m. n. [kam*22-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

    √kam(u): 欲す, 楽しむ

    guṇa: m. 重, 種, 種類

 loke: loka の loc. sg.

  loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界

   √lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める

 mano-chaṭṭhā: mano-chaṭṭha の nom.*23

  mano: =manas  n. [man-as] 意, 心

   √man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る

   -as: 名詞を形成する*24

  chaṭṭha: a. 第六の*25

 paveditā: pavedita の nom. pl. m.

  pavedita: a. [pavedeti の pp.]*26 知らされたる, 教えられた

   pavedeti: [pa-vid の caus.]*27 知らせる, 説く

    √vid(a): 知る

 ettha: adv. [e-tha*28] ここに

  e: eta の 語基*29

  -tha: 場所を表す副詞を形成する*30

 chandaṃ: chanda の acc. sg.

  chanda: m. 欲, 志欲, 意欲

 virājetvā: virājeti の ger.*31

  virājeti: [virajjati の caus.]*32 貪欲を離れさす, 離貪さす

   virajjati: [vi-rajjati] 離貪す, 離染す

    vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*33

    rajjati: [rajati の pass.]*34 染著する, 楽しむ

     rajati: [√raj, Sk. rañj] 染める

 evaṃ: adv. かく, かくの如く

 

172.

Etaṃ lokassa niyyānaṃ akkhātaṃ vo yathā-tathaṃ,

この  世の 出離が 告げられたる 汝らに 如実に

etaṃ vo aham akkhāmi, evaṃ dukkhā pamuccati"

是を 汝らに 我は 告ぐ 斯く 苦より 解き放たる

(この世の出離が汝らに如実に告げられたるなり。我はこれを汝らに告ぐ。かくの如く苦より解き放たる」)

世間の出離であるこの道が汝らに如実に説き示された。このことを、我は汝らに説き示す、──このようにするならば、苦しみから解き放たれるのである。」

 etaṃ: eta の nom. sg. n.*35

  eta: pron. a. これ, それ

 lokassa: loka の gen. sg.

 niyyānaṃ: niyyāna の nom. sg.

 akkhātaṃ: akkhāta の nom. sg. n.

  akkhāta: akkhāti の pp.*36

   akkhāti: [ā-khā*37] 告げる, 話す

    ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*38

    √khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く

 etaṃ: eta の acc. sg.*39

 vo: tvaṃ の acc. pl.*40

  tvaṃ: 汝, 君

 yathā-tathaṃ: =yathā-tathā  adv. 如実に

  yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

   -thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*41

  tathaṃ: tathā の acc. sg.*42

   tathā: adv. [ta-thā] かく, その如くに

 akkhāmi: akkhāti の 1sg.*43

  akkhāti: [ā-khā*44] 告げる, 話す

   √khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く

*1:『実用パーリ語文法』ニッガヒータ連声 39.

*2:同上, 比較級・最上級 238.

*3:同上, 指示人称代名詞 292.

*4:同上, 母音連声 17.

*5:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*6:同上, 動詞接頭辞 516. ā 注意

*7:同上, 一次派生 na

*8:同上, 子音連声 33.

*9:同上, 代名詞の派生語 346.

*10:同上, 受動動詞 483. (iii)

*11:同上, 動詞接頭辞 519.

*12:同上, 子音連声 33.

*13:同上, 動詞接頭辞 516. ni

*14:同上, 受動完了分詞 451. (ii)

*15:同上, 現在系統の活用 381.

*16:同上, 代名詞の派生語 347.

*17:同上, 二次派生 581. a

*18:同上, 受動動詞 483. (iii)

*19:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*20:同上, 第二活用 373.

*21:同上, 基数 262.

*22:同上, 強調 105.

*23:同上, 序数 276.

*24:同上, 一次派生 as

*25:同上, 序数 275.

*26:同上, 受動完了分詞 452. (ii)

*27:同上, 使役動詞 491. (i)

*28:同上, 子音連声 33.

*29:同上, 指示代名詞 304.

*30:同上, 代名詞の派生語 346.

*31:同上, 動名詞 471. (vi)

*32:同上, 使役動詞 491. (i)

*33:同上, 動詞接頭辞 516. vi

*34:同上, 受動動詞 483. (iii)

*35:同上, 指示代名詞 299.

*36:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*37:同上, 子音連声 35.

*38:同上, 動詞接頭辞 516. ā

*39:同上, 指示代名詞 299.

*40:同上, tvaṃ の曲用 290.

*41:同上, 代名詞の派生語 347.

*42:同上, 格形副詞 532.

*43:同上, 現在系統の活用 381.

*44:同上, 子音連声 35.