170.
"Katamantaṃ upādānaṃ, yattha loko vihaññati,
何れか/其は 執著は 其処で 世が 悩まさる
niyyānaṃ pucchito brūhi, kathaṃ dukkhā pamuccati"
出離を 所問の 言ひ給へ 如何にか 苦より 解き放たる
(「そこで世が悩まさるその執著とは何たるか。問はれたる出離を言ひ給へ。如何にしてか苦より解き放たる」)
「それによって世間が悩まされる執著とは何であるか? お尋ねしますが、それからの出離の道を説いてください。どうしたら苦しみから解き放たれるのでしょうか。」
katamantaṃ: katamaṃ*1 + taṃ
katamaṃ: katama の nom. sg. n.
katama: a. [ka-tama] いずれか, どちらか
ka: pron. inter. 誰? 何?
-tama: 男性語基について最上級を形成する*2
taṃ: ta の nom. sg. n.*3
ta: pron. それ
upādānaṃ: upādāna の nom. sg.
upādāna: n. [upa*4-ādāna] 取, 取著, 執着
upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように, ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*5
ādāna: n. [ā-dāna] 取, 執取, 取著
ā-: pref. 語根の意味を逆転させる*6
dāna: n. [dā-na] 施, 布施, 施与
√dā: 施与
-na: 名詞を形成する*7
yattha: adv. [ya-tha*8] そこへ, そこで
ya: pron. rel. 所のもの
-tha: 場所を表す副詞を形成する*9
vihaññati: [vihanati の pass.]*10 打たれる, 殺される, 脳害される
vihanati: [vi-hanati] 打つ, 殺害す
vi-: 語根の意味を強調する*11
hanati: [√han(a)] 殺す, 害す, 破壊す, 打つ
niyyānaṃ: niyyāna の acc. sg.
niyyāna: n. [ni-yā*12-na] 出発, 出離
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*13
√yā: 行く, 至る
pucchito: pucchita の nom. sg. m.
pucchita: a. [pucchati の pp.]*14 問われたる, 所問
pucchati: [√pucch(a), Sk. prach] 問う, 質問す, たずねる; 与える
brūhi: brūti の imper. 2sg.*15
brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる
kathaṃ: adv. [ka-thaṃ] いかに, 何故に
-thaṃ: 代名詞に付いて様子の副詞を形成する*16
dukkhā: dukkha の abl. sg.
dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩
√dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安
-a: 名詞・形容詞を形成する*17
pamuccati: pamuñcati の pass.*18
pamuñcati: [pa-muñcati] 脱す, 解脱す, 出す, 放つ; 捨つ, 自由にす
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19
muñcati: [√muc(a)]*20 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ
171.
"Pañca kāma-guṇā loke mano-chaṭṭhā paveditā,
五の 欲の種が 世に 第六の意が 知らされたる
ettha chandaṃ virājetvā evaṃ dukkhā pamuccati.
此処に 欲を 離貪せしめて 斯く 苦より 解き放たる
(「世には五種の欲あり、意は第六と知らしめられたる。ここに貪欲(とんよく)を離れたる後には、斯くの如く苦より解き放たる。)
「世間には五種の欲望の対象があり、意(の対象)が第六であると説き示されている。それらに対する貪欲を離れたならば、すなわち苦しみから解き放たれる。
pañca: num. a. 五 nom.*21
kāma-guṇā: kāma-guṇa の nom. pl.
kāma-guṇa: 妙欲, [五]種欲
kāma: m. n. [kam*22-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽
√kam(u): 欲す, 楽しむ
guṇa: m. 重, 種, 種類
loke: loka の loc. sg.
loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界
√lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める
mano-chaṭṭhā: mano-chaṭṭha の nom.*23
mano: =manas n. [man-as] 意, 心
√man(u): 思う, 考える, 見なす, 誇る, 知る
-as: 名詞を形成する*24
chaṭṭha: a. 第六の*25
paveditā: pavedita の nom. pl. m.
pavedita: a. [pavedeti の pp.]*26 知らされたる, 教えられた
pavedeti: [pa-vid の caus.]*27 知らせる, 説く
√vid(a): 知る
ettha: adv. [e-tha*28] ここに
e: eta の 語基*29
-tha: 場所を表す副詞を形成する*30
chandaṃ: chanda の acc. sg.
chanda: m. 欲, 志欲, 意欲
virājetvā: virājeti の ger.*31
virājeti: [virajjati の caus.]*32 貪欲を離れさす, 離貪さす
virajjati: [vi-rajjati] 離貪す, 離染す
vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*33
rajjati: [rajati の pass.]*34 染著する, 楽しむ
rajati: [√raj, Sk. rañj] 染める
evaṃ: adv. かく, かくの如く
172.
Etaṃ lokassa niyyānaṃ akkhātaṃ vo yathā-tathaṃ,
この 世の 出離が 告げられたる 汝らに 如実に
etaṃ vo aham akkhāmi, evaṃ dukkhā pamuccati"
是を 汝らに 我は 告ぐ 斯く 苦より 解き放たる
(この世の出離が汝らに如実に告げられたるなり。我はこれを汝らに告ぐ。かくの如く苦より解き放たる」)
世間の出離であるこの道が汝らに如実に説き示された。このことを、我は汝らに説き示す、──このようにするならば、苦しみから解き放たれるのである。」
etaṃ: eta の nom. sg. n.*35
eta: pron. a. これ, それ
lokassa: loka の gen. sg.
niyyānaṃ: niyyāna の nom. sg.
akkhātaṃ: akkhāta の nom. sg. n.
akkhāta: akkhāti の pp.*36
akkhāti: [ā-khā*37] 告げる, 話す
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*38
√khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く
etaṃ: eta の acc. sg.*39
vo: tvaṃ の acc. pl.*40
tvaṃ: 汝, 君
yathā-tathaṃ: =yathā-tathā adv. 如実に
yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し
-thā: 代名詞につき様子の副詞を形成する*41
tathaṃ: tathā の acc. sg.*42
tathā: adv. [ta-thā] かく, その如くに
akkhāmi: akkhāti の 1sg.*43
akkhāti: [ā-khā*44] 告げる, 話す
√khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く