89.
Chadanaṃ katvāna subbatānaṃ,
覆ひを 作して 善行者等の
pakkhandī kula-dūsako pagabbho,
大胆なる 家門を汚す 傲慢なる
māyāvī asaññato palāpo,
偽れる 自制せざる 駄弁せる
patirūpena caraṃ sa magga-dūsī.
相応を以て 行ひある 其は 道を汚す者
(善行者らの覆ひを作(な)して、図々しく、家門を汚し、傲慢にして、偽りを為し、自制すること無く、駄弁し、上辺(うはべ)を飾りて行なひある者、そは道を汚す者なり。)
よく誓戒を守っているふりをして、ずうずうしくて、家門を汚し、傲慢で、いつわりをたくらみ、自制心なく、おしゃべりで、しかも、まじめそうにふるまう者、──彼は〈道を汚す者〉である。
chadanaṃ: chadana の acc. sg.
chadana: n. [chad-ana] 蓋, 覆い, 屋蓋, 屋根, 覆障
√chad(a): 覆う, 隠す
-ana: 名詞・形容詞を形成する*1
katvāna: karoti の ger.*2
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*3 なす, 行う, 作る
subbatānaṃ: subbata の gen. pl. m.
subbata: a. m. [su-vata*4] 善行者, 善務者
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
vata: =bata m. n. 禁戒, 誓戒; [vatta と混用] 儀法, 善行, 浄行
pakkhandī: pakkhandin の nom. sg. m.*5
pakkhandin: a. m. [pa-khand*6-in] 突入する, 大胆の, 突撃隊, 軍事探偵
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*7
√khand(a): [Sk. skand] 行く, 動く
-in: 所有形容詞・名詞を形成する*8
kula-dūsako: kula-dūsaka の nom. sg. m.
kula-dūsaka: 汚家の, 家を汚す者
kula: n. [kul-a] 家, 良家, 族姓
√kul(a); 蓄積する, 親族となる
-a: 名詞・形容詞を形成する*9
dūsaka: a. [dus*10-aka] 汚す, 破壞する, 汚行者
√dus(a): [Sk. duṣ] 悪くなる, 駄目になる, 害を受ける
-aka: 動作名詞・形容詞を形成する*11
pagabbho: pagabbha の nom. sg. m.
pagabbha: a. 大胆な, 傲慢な
māyāvī: māyāvin の nom. sg. m.*12
māyāvin: a. [māyā-in*13] 偽詐の, 誑者, 幻士, 幻術者
māyā: f. 幻, 幻術, 誑, 誑惑, 神秘な格言
asaññato: asaññata の nom. sg. m.
asaññata: a. [a-saññata] 無制御の, 無抑制の
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
saññata: =saṃyata a. [saṃyamati の pp.]*14 抑制せる, 制御せる, 自制せる
saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す
yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す
palāpo: palāpa の nom. sg. m.
palāpa: m. [pa-lap*15-a] 駄弁, 談論, 駄呪
√lap(a): 話す
patirūpena: patirūpa の ins. sg.
patirūpa: =paṭirūpa a. [paṭi-rūpa] 適当の, ふさわしい, 像似の
paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*16
rūpa: n. 色, 物質, 肉体, 形相, 容姿, 像, 相, 画, 人形
caraṃ: carati の ppr. nom. sg. m.*17 行じつつある
carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く
magga-dūsī: magga-dūsin の nom. sg. m.*18
magga-dūsin: 道を汚す者
magga: m. [magg-a] 道, 道路, 正道
√magg(a): [Sk. mṛg] 探し求める, 追跡する
dūsin: a. m. [dus*19-in] 触嬈者 [悪魔]
90.
Ete ca paṭivijjhi yo gahaṭṭho sutavā ariya-sāvako sapañño,
此等を 又 看破しけり 所の 在家者は 多聞なる 聖声聞は 智慧ある
sabbe ne tādisāti ñatvā, iti disvā na hāpeti tassa saddhā,
一切の 其等を 其の如き/と 知りて 斯く 見て 否 失す 其の 信仰を
kathaṃ hi duṭṭhena asampaduṭṭhaṃ
如何でか 実に 邪心なるを以て 汚れ無きと
suddhaṃ asuddhena samaṃ kareyyā" ti
浄きと 不浄を以て 等しきと 為すべし と
(またこれらを看破しける、多聞にして智慧あり、聖なる声聞たる在家者は、一切のそれらはその如きと知り、斯く見てその信仰を失すること無し。実に如何でか邪心なるを以て汚れ無きと、不浄を以て浄きと等しきと為すべし」と。)
(かれらの特徴を) 聞いて、明らかに見抜いて知った在家の立派な信徒は、『かれら (四種の修行者) はすべてこのとおりである』と知って、彼らを洞察し、このように見ても、その信徒の信仰はなくならない。かれはどうして、汚れた者と汚れていない者と、清らかな者と清らかでない者とを同一視してよいだろうか。」
ete: eta の acc. pl. m.*20
eta: pron. a. これ, それ
ca: conj. と, そして, また
paṭivijjhi: paṭivijjhati の aor.*21
paṭivijjhati: [paṭi-vijjhati] 貫通す, 通達す, 洞察す, 理解す
vijjhati: [√vidh(a), Sk. vyadh]*22 射る, 貫く, 貫通す; 射られる
gahaṭṭho: gahaṭṭha の nom. sg.
gahaṭṭha: m. [gaha-ṭha*23] 在家者
gaha: n. 家, 家居
-ṭha: 立っている, 存在している, 続いている*24
sutavā: sutavat の nom. sg. m.*25
sutavat: =sutavant a. [suta-vat] 聞を具せる, 博聞の, 多聞の
suta: a. n. [suṇāti の pp.]*26 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞
suṇāti: [√su, Sk. śru]*27 聞く, 聴く
-vat: =vant 所有形容詞を形成する*28
ariya-sāvako: ariya-sāvaka の nom. sg.
ariya-sāvaka: 聖弟子, 聖声聞
ariya: a. m. 聖なる, 神聖なる, 尊貴の, 聖者
sāvaka: m. [su*29-a-ka] 声聞, 弟子
sapañño: sapañña の nom. sg. m.
sapañña: =sappañña a. [sa-paññā*30-a] 有慧者, 具慧の
sa: =saha prep. 共に, 有する, 同じ
paññā: f. [pa-ñā*31] 般若, 慧, 智慧
√ñā: =jñā, jā 知る
-a: 名詞・形容詞を形成する*32
sabbe: sabba の loc. sg.
sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの
ne: =te ta の acc. pl. m.*33
ta: pron. それ
tādisāti: tādisa*34 + ti
tādisa: a. [ta*35-disa] その如き, そのような
-disa: 類似を意味する形容詞を形成する*36
ñatvā: ñā の ger.*37
iti: indecl. かく, ~と, とて
disvā: =disvāna [dissati の ger.]*38 見て
dissati: [√dis]*39 見える, 見られる
na: adv. なし
hāpeti: [jahāti の caus.]*40 退失す, 失う, 損失す, 捨てる
jahāti: =jahati [√hā]*41 捨つ, 断ず
tassa: ta の gen. sg. m.*42
saddhā: f. [śrad-dhā] 信, 信仰, 信心, 信用 acc. pl.*43
śrad-: 真実, 信仰
√dhā: 持す
kathaṃ: adv. [ka-thaṃ] いかに, 何故に
ka: pron. inter. 誰? 何?
-thaṃ: 代名詞に付いて様子の副詞を形成する*44
hi: adv. conj. 実に; 何となれば
duṭṭhena: duṭṭha の ins. sg. m.
duṭṭha: a. [dussati の pp.]*45 邪悪の, 瞋怒の, 悪心の
dussati: [√dus(a), Sk. dviṣ]*46 怒る, 邪悪をもつ
asampaduṭṭhaṃ: asampaduṭṭha の acc. sg. m.
asampaduṭṭha: a- + sampaduṭṭha
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
sampaduṭṭha: sampadussati の pp.*47
sampadussati: [saṃ*48-padussati] 汚れる, 罪を犯す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*49
padussati: [pa-dussati] 悪事をなす, 悪意がある
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*50
dussati: [√dus(a), Sk. dviṣ]*51 怒る, 邪悪をもつ
suddhaṃ: suddha の acc. sg. m.
suddha: a. [sujjhati の pp.]*52 浄き, 清浄の, 純粋
sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*53 浄まる, 清まる
asuddhena: asuddha の ins. sg. m.
asuddha: a. [a-suddha] 不清浄の, 不浄の
samaṃ: sama の acc. sg. m.
sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき
kareyyā: =kareyya*54 karoti の opt.*55
karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*56 なす, 行う, 作る