蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 48 (89. 90.)

89.

Chadanaṃ katvāna subbatānaṃ,

覆ひを    作して  善行者等の

pakkhandī kula-dūsako pagabbho,

大胆なる  家門を汚す  傲慢なる

māyāvī asaññato palāpo,

偽れる 自制せざる 駄弁せる

patirūpena caraṃ sa magga-dūsī.

相応を以て 行ひある 其は 道を汚す者

(善行者らの覆ひを作(な)して、図々しく、家門を汚し、傲慢にして、偽りを為し、自制すること無く、駄弁し、上辺(うはべ)を飾りて行なひある者、そは道を汚す者なり。)

よく誓戒を守っているふりをして、ずうずうしくて、家門を汚し、傲慢で、いつわりをたくらみ、自制心なく、おしゃべりで、しかも、まじめそうにふるまう者、──彼は〈道を汚す者〉である。

 chadanaṃ: chadana の acc. sg.

  chadana: n. [chad-ana] 蓋, 覆い, 屋蓋, 屋根, 覆障

   √chad(a): 覆う, 隠す

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*1

 katvāna: karoti の ger.*2

  karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*3 なす, 行う, 作る

 subbatānaṃ: subbata の gen. pl. m.

  subbata: a. m. [su-vata*4] 善行者, 善務者

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   vata: =bata  m. n. 禁戒, 誓戒; [vatta と混用] 儀法, 善行, 浄行

 pakkhandī: pakkhandin の nom. sg. m.*5

  pakkhandin: a. m. [pa-khand*6-in] 突入する, 大胆の, 突撃隊, 軍事探偵

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*7

   √khand(a): [Sk. skand] 行く, 動く

   -in: 所有形容詞・名詞を形成する*8

 kula-dūsako: kula-dūsaka の nom. sg. m.

  kula-dūsaka: 汚家の, 家を汚す者

   kula: n. [kul-a] 家, 良家, 族姓

    √kul(a); 蓄積する, 親族となる

    -a: 名詞・形容詞を形成する*9

   dūsaka: a. [dus*10-aka] 汚す, 破壞する, 汚行者

    √dus(a): [Sk. duṣ] 悪くなる, 駄目になる, 害を受ける

    -aka: 動作名詞・形容詞を形成する*11

 pagabbho: pagabbha の nom. sg. m.

  pagabbha: a. 大胆な, 傲慢な

 māyāvī: māyāvin の nom. sg. m.*12

  māyāvin: a. [māyā-in*13] 偽詐の, 誑者, 幻士, 幻術者

   māyā: f. 幻, 幻術, 誑, 誑惑, 神秘な格言

 asaññato: asaññata の nom. sg. m.

  asaññata: a. [a-saññata] 無制御の, 無抑制の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   saññata: =saṃyata  a. [saṃyamati の pp.]*14 抑制せる, 制御せる, 自制せる

    saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す

     yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す

 palāpo: palāpa の nom. sg. m.

  palāpa: m. [pa-lap*15-a] 駄弁, 談論, 駄呪

   √lap(a): 話す

 patirūpena: patirūpa の ins. sg.

  patirūpa: =paṭirūpa  a. [paṭi-rūpa] 適当の, ふさわしい, 像似の

   paṭi-: pref. prep. 反対に, 戻して, 逆方向に, 戻って, 返して, 向かって, 近くに*16

   rūpa: n. 色, 物質, 肉体, 形相, 容姿, 像, 相, 画, 人形

 caraṃ: carati の ppr. nom. sg. m.*17  行じつつある

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 magga-dūsī: magga-dūsin の nom. sg. m.*18

  magga-dūsin: 道を汚す者

   magga: m. [magg-a] 道, 道路, 正道

    √magg(a): [Sk. mṛg] 探し求める, 追跡する

   dūsin: a. m. [dus*19-in] 触嬈者 [悪魔]

 

90.

Ete ca paṭivijjhi yo gahaṭṭho sutavā ariya-sāvako sapañño,

此等を 又 看破しけり 所の 在家者は 多聞なる 聖声聞は 智慧ある

sabbe ne  tādisāti  ñatvā, iti disvā na hāpeti tassa saddhā,

一切の 其等を 其の如き/と 知りて 斯く 見て 否 失す 其の 信仰を

kathaṃ hi duṭṭhena asampaduṭṭhaṃ

如何でか 実に 邪心なるを以て 汚れ無きと

suddhaṃ asuddhena samaṃ kareyyā" ti

浄きと  不浄を以て 等しきと 為すべし と

(またこれらを看破しける、多聞にして智慧あり、聖なる声聞たる在家者は、一切のそれらはその如きと知り、斯く見てその信仰を失すること無し。実に如何でか邪心なるを以て汚れ無きと、不浄を以て浄きと等しきと為すべし」と。)

(かれらの特徴を) 聞いて、明らかに見抜いて知った在家の立派な信徒は、『かれら (四種の修行者) はすべてこのとおりである』と知って、彼らを洞察し、このように見ても、その信徒の信仰はなくならない。かれはどうして、汚れた者と汚れていない者と、清らかな者と清らかでない者とを同一視してよいだろうか。」

 ete: eta の acc. pl. m.*20

  eta: pron. a. これ, それ

 ca: conj. と, そして, また

 paṭivijjhi: paṭivijjhati の aor.*21

  paṭivijjhati: [paṭi-vijjhati] 貫通す, 通達す, 洞察す, 理解す

   vijjhati: [√vidh(a), Sk. vyadh]*22 射る, 貫く, 貫通す; 射られる

 gahaṭṭho: gahaṭṭha の nom. sg.

  gahaṭṭha: m. [gaha-ṭha*23] 在家者

   gaha: n. 家, 家居

   -ṭha: 立っている, 存在している, 続いている*24

 sutavā: sutavat の nom. sg. m.*25

  sutavat: =sutavant  a. [suta-vat] 聞を具せる, 博聞の, 多聞の

   suta: a. n. [suṇāti の pp.]*26 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞

    suṇāti: [√su, Sk. śru]*27 聞く, 聴く

   -vat: =vant  所有形容詞を形成する*28

 ariya-sāvako: ariya-sāvaka の nom. sg.

  ariya-sāvaka: 聖弟子, 聖声聞

   ariya: a. m. 聖なる, 神聖なる, 尊貴の, 聖者

   sāvaka: m. [su*29-a-ka] 声聞, 弟子

 sapañño: sapañña の nom. sg. m.

  sapañña: =sappañña  a. [sa-paññā*30-a] 有慧者, 具慧の

   sa: =saha  prep. 共に, 有する, 同じ

   paññā: f. [pa-ñā*31] 般若, 慧, 智慧

    √ñā: =jñā, jā  知る

   -a: 名詞・形容詞を形成する*32

 sabbe: sabba の loc. sg.

  sabba: a. n. 一切の, すべて, 一切のもの

 ne: =te  ta の acc. pl. m.*33

  ta: pron. それ

 tādisāti: tādisa*34 + ti

  tādisa: a. [ta*35-disa] その如き, そのような

   -disa: 類似を意味する形容詞を形成する*36

 ñatvā: ñā の ger.*37

 iti: indecl. かく, ~と, とて

 disvā: =disvāna  [dissati の ger.]*38 見て

  dissati: [√dis]*39 見える, 見られる

 na: adv. なし

 hāpeti: [jahāti の caus.]*40 退失す, 失う, 損失す, 捨てる

  jahāti: =jahati  [√hā]*41 捨つ, 断ず

 tassa: ta の gen. sg. m.*42

 saddhā: f. [śrad-dhā] 信, 信仰, 信心, 信用  acc. pl.*43

  śrad-: 真実, 信仰

  √dhā: 持す

 kathaṃ: adv. [ka-thaṃ] いかに, 何故に

  ka: pron. inter. 誰? 何?

  -thaṃ: 代名詞に付いて様子の副詞を形成する*44

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 duṭṭhena: duṭṭha の ins. sg. m.

  duṭṭha: a. [dussati の pp.]*45 邪悪の, 瞋怒の, 悪心の

   dussati: [√dus(a), Sk. dviṣ]*46 怒る, 邪悪をもつ

 asampaduṭṭhaṃ: asampaduṭṭha の acc. sg. m.

  asampaduṭṭha: a- + sampaduṭṭha

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   sampaduṭṭha: sampadussati の pp.*47

    sampadussati: [saṃ*48-padussati] 汚れる, 罪を犯す

     saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*49

     padussati: [pa-dussati] 悪事をなす, 悪意がある

      pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*50

      dussati: [√dus(a), Sk. dviṣ]*51 怒る, 邪悪をもつ

 suddhaṃ: suddha の acc. sg. m.

  suddha: a. [sujjhati の pp.]*52 浄き, 清浄の, 純粋

   sujjhati: [√sudh(a), Sk. śudh]*53 浄まる, 清まる

 asuddhena: asuddha の ins. sg. m.

  asuddha: a. [a-suddha] 不清浄の, 不浄の

 samaṃ: sama の acc. sg. m.

  sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき

 kareyyā: =kareyya*54  karoti の opt.*55

  karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*56 なす, 行う, 作る

*1:『実用パーリ語文法』一次派生 ana

*2:同上, 動名詞 471. (iv)

*3:同上, 第六活用 378.

*4:同上, 子音連声 33. 注意 1.

*5:同上, in で終わる形容詞 210.

*6:同上, 子音連声 33.

*7:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*8:同上, 一次派生 in

*9:同上, 一次派生 576. a

*10:同上, 強調 105.

*11:同左, 一次派生 aka

*12:同上, in で終わる形容詞 210.

*13:同上, 子音の挿入 28.

*14:同上, ニッガヒータ連声 39.  同左, 受動完了分詞 456.

*15:同上, 強調 105.

*16:同上, 動詞接頭辞 516. pati, paṭi

*17:同上, at/ant で終わる形容詞 226. 注意 (a)

*18:同上, in で終わる形容詞 210.

*19:同上, 強調 105.

*20:eta の曲用

*21:同上, アオリスト 407.

*22:同上, 第三活用 374.

*23:同上, 子音連声 33.

*24:同上, kvi 接尾辞 584. ṭha

*25:同上, vat/vant で終わる形容詞 226.

*26:同上, 受動完了分詞 451.(i)

*27:同上, 第四活用 376.

*28:同上, 二次派生 581. vat/vant

*29:同上, 強調 110. 105.

*30:同左, 母音連声 17.

*31:同上, 子音連声 33.  同左, 母音連声 17.

*32:同上, 二次派生 581. a

*33:同上, 指示人称代名詞 292.

*34:同上, 子音連声 32.

*35:同上

*36:同上, 代名詞の派生語 339.

*37:同上, 動名詞 471. (v)

*38:同上, 動名詞 472. 注意 (c)

*39:同上, 第三活用 374.

*40:同上, 使役動詞 492. (vi)

*41:同上, 第一活用 371. (4)

*42:同上, 指示人称代名詞 292.

*43:同上, ā で終わる女性名詞 126.

*44:同上, 代名詞の派生語 347.

*45:同上, 受動完了分詞 453.

*46:同上, 第三活用 374.

*47:同上, 受動完了分詞 453.

*48:同上, ニッガヒータ連声 39.

*49:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*50:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*51:同上, 第三活用 374.

*52:同上, 受動完了分詞 453.

*53:同上, 第三活用 374.

*54:同上, 子音連声 32.

*55:同上, 現在系統の活用 381.

*56:同上, 第六活用 378.