蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 45 (83. 84.)

5. Cunda Sutta チュンダ (チュンダの経)

 sutta: [Sk. sūtra<siv] 経, 契経, 修多羅[九分教の一]; 戒経, 戒本 [=pāṭimokkha]; 糸, 繩墨

  √siv(u): 縫い合わせる, 集める

 

83.

"Pucchāmi muniṃ pahūta-paññaṃ,"

 問ふ   牟尼に   広慧者に

iti Cundo kammāra-putto,

と チュンダが 鍛冶工の息子が

"buddhaṃ dhammassāmiṃ vīta-taṇhaṃ

 覚者に    法主に    渇欲を離れたるに

dipad'uttamaṃ sārathīnaṃ pavaraṃ,

両足尊に     御者等の  最頂者に

kati loke samaṇā, tadiṅgha brūhi."

如何程か 世に 沙門等は 其をいざ 説き給へ

(「偉大な智慧ある牟尼に問ふ」と、鍛冶工の息子チュンダ。「覚者、法の主、渇欲を離れたる者、両足尊、御者等の内で最上の者に。世の沙門らは如何ほどあるか、そをいざ説き給へ」)

鍛冶工の子チュンダがいった、「偉大な知慧ある聖者・目ざめた人・真理の主・妄執を離れた人・人類の最上者・すぐれた御者に、わたくしはおたずねします。──世間にはどれだけの修行者がいますか? どうぞお説きください。」

 pucchāmi: pucchati の 1sg.*1

  pucchati: [√pucch(a), Sk. prach] 問う, 質問す, たずねる; 与える

 muniṃ: muni の acc. sg.

  muni: m. [mun-i] 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人

   √mun(a): [Sk. muṇ] 誓約

   -i: 名詞・形容詞を形成する*2

 pahūta-paññaṃ: pahūta-pañña の acc. sg.

  pahūta-pañña: 広慧者

   pahūta: a. [pahoti の pp.]*3 多くの, 広大の, 広長の

    pahoti: [pa-hoti] 生ずる, 発生する; 出来る, 可能である

     pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*4

     hoti: =bhavati  [√hū]*5 ある, 存在する

   pañña: a. [pa-ñā*6-a] 慧ある, かしこき, 智慧者

    √ñā: =jñā, jā  知る

 iti: indecl. かく, ~と, とて

 Cundo: Cunda の nom. sg. m.

 kammāra-putto: kammāra-putta の nom. sg.

  kammāra: m. 鍛工, 鍛冶屋, 金銀工

  putta: m. 子, 子息; 男児

 buddhaṃ: buddha の acc. sg.

  buddha: a. m. [bujjhati の pp.]*7 覚った, 目覚めたる, 覚知せる; 覚者, 仏陀, 仏

   bujjhati: =bodhati  [√budh(a)]*8 覚る, 目覚む

 dhammassāmiṃ: dhammassāmin の acc. sg.

  dhammassāmin: dhamma-sāmin*9  法主, 法王

   dhamma: [dhar*10-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

    √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

    -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*11

   sāmin: =suvāmin  m. 所有者, 支配者, 主人, 夫

 vīta-taṇhaṃ: vīta-taṇhā の acc. sg.

  vīta-taṇhā: 離愛の

   vīta: a. [vi-ita*12] 離れたる, なき

    vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*13

    ita: eti の pp.*14

     eti: [√i]*15 行く

  taṇhā: f. [Sk. tṛṣṇā] 渇愛, 愛, 愛欲

   tṛṣṇā: 渇き; 欲望, 貪欲

 dipad'uttamaṃ: dipad'uttama の acc. sg.

  dipad'uttama: dipada*16-uttama

   dipada: =dipādaka  m. [di-pada] 二足, 両足者, 人間

    di-: ニ, 両

    pada: n. [pad-a] 足; 足跡, 歩; 句, 語法; 場所

     √pad(a): 行く, 動く, 近づく, 得る, 道

     -a: 名詞・形容詞を形成する*17

   uttama: a. [ud の最上級*18] 最上の, 最高の

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*19

 sārathīnaṃ: sārathi の gen. pl.*20

  sārathi: m. [<sa-ratha] 御者, 調御者

   sa: =saha  prep. 共に, 有する, 同じ

   ratha: m. 車, 車駕

 pavaraṃ: pavara の acc. sg. m.

  pavara: a. [pa-vara] 最頂の, もっともすぐれた

   vara: a. m. n. すぐれた, 高貴の, 最上の; 恵与; 福利, 願望

 kati: interr. pron. [ka-ti] いくら, どれだけ(の数)

  ka: pron. inter. 誰? 何?

  -ti: 代名詞に付き様子を表わす副詞を形成する*21

 loke: loka の loc. sg.

  loka: m. 世, 世間, 世界

 samaṇā: samaṇa の nom. pl.

  samaṇa: m. [sam-ana] 沙門

   √sam(u): [Sk. śram] 勤息

   -ana: 名詞・形容詞を形成する*22

 tadiṅgha: ta-d*23-iṅgha

  ta: pron. それ

  iṅgha: interj. いざ

 brūhi: brūti の imper. 2sg.*24

  brūti: [√brū] 言う, 告げる, のベる

 

84.

"Caturo samaṇā na pañcamo'tthi, Cundā," ti bhagavā, "te te

 四の  沙門が 否 第五は/あり チュンダよ と 世尊は 汝より

āvi-karomi sakkhi-puṭṭho; magga-jino magga-desako ca,

明らかにす 証人として問われたるは 道の勝者 道の説示者 又

magge jīvati yo ca magga-dūsī."

道で 生く 所の者 又 道を汚す者

(「四の沙門ありて、第五のあること無し、チュンダよ」と、世尊。「汝より問われたる我は明らかにす。道によれる勝者と道の説示者、道に生く者と道を汚す者なり」)

師(ブッダ)は答えた、「チュンダよ。四種の修行者があり、第五の者はありません。面と向かって問われたのだから、それらをあなたに明かしましょう。──〈道による勝者〉と〈道を説く者〉と〈道において生活する者〉と及び〈道を汚す者〉とです。」

 caturo: catu の nom. m.*25

  catu: num. a. 四

 na: adv. なし

 pañcamo'tthi: pañcamo + atthi*26

  pañcamo: pañcama の nom. m.*27

   pañcama: =pañcamaka  a. [pañca-ma] 第五の

    pañca: num. a. 五

    -ma: 序数を形成する*28

  atthi: [√as(a)]*29 ある, 存在する

 Cundā: =Cunda*30 voc. sg.

 ti: ind. [iti の略] と, かく

 bhagavā: bhagavat の nom. sg.*31

  bhagavat: =bhagavant  m. [bhaga-vat] 世尊, 薄伽梵, 仏

   bhaga: m. [bhaj*32-a] 幸運, 福運

    √bhaj(a): 尊崇, 崇拝, 敬慕

   -vat: =vant  所有形容詞を形成する*33

 te: tvaṃ の abl. sg.*34

  tvaṃ: 汝, 君

 āvi-karomi: āvi-karoti の 1sg.*35

  āvi-karoti: 明らかならしむ

   āvi: adv. 明瞭に, 露わに, 明顕に

   karoti: [√kar(a), Sk. kṛ]*36 なす, 行う, 作る

 sakkhi-puṭṭho: sakkhi-puṭṭha の nom. sg. m.

  sakkhi-puṭṭha: 証人として問われたる

   sakkhi: m. [sa*37-akkhi] 証人

    sa: =saha  prep. 共に, 有する, 同じ

    akkhi: n. 眼

   puṭṭha: pucchati の pp.*38  尋問せる

    pucchati: [√pucch(a), Sk. prach] 問う, 質問す, たずねる; 与える

 magga-jino: magga-jina の nom. sg. m.

  magga-jina: 道による勝者

   magga: m. [magg-a] 道, 道路, 正道

    √magg(a): [Sk. mṛg] 探し求める, 追跡する

  jina: =jita  a. [jayati の pp.]*39 打ち勝てる, 征服せる

   jayati: [√ji]*40 勝つ, 征服す

 magga-desako: magga-desaka の nom. sg. m.

  magga-desaka: 道の説示者

   desaka: a. n. [dis*41-aka] 指示, 教示, 教訓

    √dis(a): [Sk. diś] 示す, 指す

    -aka: 動作名詞・形容詞を形成する*42

 ca: conj. と, そして, また

 magge: magga の loc. sg.

 jīvati: [√jīv(a)] 生きる, 生存する

 yo: ya の nom. sg. m.*43

  ya: pron. rel. 所のもの

 magga-dūsī: magga-dūsin の nom. sg. m.*44

  magga-dūsin: 道を汚す者

   dūsin: a. m. [dus*45-in] 触嬈者 [悪魔]

    √dus(a): [Sk. duṣ] 悪くなる, 駄目になる, 害を受ける

    -in: 所有形容詞・名詞を形成する*46

*1:『実用パーリ語文法』現在系統の活用 381.

*2:同上, 一次派生 i

*3:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*4:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*5:同上, 不規則動詞 511.

*6:同上, 子音連声 33.  同左, 母音連声 17.

*7:同上, 受動完了分詞 453.

*8:同上, 第三活用 374.

*9:同上, 子音連声 33.

*10:同上, r の同化 80. (iv)

*11:同上, 一次派生 ma

*12:同上, 母音連声 19.

*13:同上, 動詞接頭辞 516. vi

*14:同上, 受動完了分詞 452. (i)

*15:同上, 現在系統の活用 390.

*16:同上, 母音連声 17.

*17:同上, 一次派生 576. a

*18:同上, 比較級・最上級 238.

*19:同上, 動詞接頭辞 516. ud

*20:同上, i で終わる男性名詞 131.

*21:同上, 代名詞の派生語 351.

*22:同上, 一次派生 ana

*23:同上, 子音の挿入 28.

*24:同上, 現在系統の活用 381.

*25:同上, 基数 257.

*26:同上, 母音連声 26.

*27:同上, 序数 276.

*28:同上, 序数 274.

*29:同上, 不規則動詞 510.

*30:同上, 子音連声 32.

*31:同上, at/vat/mat で終わる名詞 167.

*32:同上, 派生 572.

*33:同上, 二次派生 581. vat/vant

*34:同上, 人称代名詞 290. tvaṃ の曲用

*35:同上, 現在系統の活用 381.

*36:同上, 第六活用 378.

*37:同上, 母音連声 17.

*38:同上, 受動完了分詞 453.

*39:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*40:同上, 第一活用 371 (3)

*41:同上, 強調 105.

*42:同左, 一次派生 aka

*43:同上, ya の曲用 312.

*44:同上, in で終わる形容詞 210.

*45:同上, 強調 105.

*46:同上, 一次派生 in