268.
Na monena munī hoti, mūḷharūpo aviddasu,
否 寂黙により 牟尼 たり 昏迷の相の 無智の
yo ca tulaṃ va paggayha varamādāya paṇḍito.
所の者 然して 秤を 如く 取りたる いみじきを/取りたる 賢者
(寂黙によりて牟尼たること無し、昏迷の相の無智なるは。然して秤を取りたる者の如く(量り比べて)いみじきを取りたるは賢者なり。)
269.
Pāpāni parivajjeti sa munī, tena so muni,
諸悪を 完全に避く そは 牟尼 それ故 そは 牟尼
yo munāti ubho loke, muni tena pavuccati.
所の者 考ふ 両者を 世で 牟尼 それ故 言はる
(諸悪を完全に避くその者は牟尼なり、それ故にそは牟尼なり、世に於て両者を考量せる者は、それ故に牟尼と言はる。)
ただ沈黙しているからとて、愚かに迷い無智なる人が〈聖者〉なのではない。秤りを手にもっているように、いみじきものを取りもろもろの悪を除く賢者こそ〈聖者〉なのである。彼はそのゆえに聖者なのである。この世にあって善悪の両者を(秤りにかけてはかるように)よく考える人こそ〈聖者〉と呼ばれる。
na: adv. なし
monena: mona の ins. sg.
mona: n. [mun-a]*1 牟那, 牟尼, 寂黙, 智慧
√mun(a): 知る
munī: =muni m. 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人 nom. sg.
mūḷharūpo: a. mūḷharūpa の nom. sg. m.
mūḷha: =muddha a. [muyhati の pp. ]*2 愚昧の, 愚痴の, 昏迷せる
muyhati: [√muh] 愚昧となる
√muh(a): 昏迷
rūpa: n. 色, 物質, 肉体, 形相, 容姿, 像, 相, 画, 人形
aviddasu: a. [a-viddasu=aviññū] 無智の, 愚鈍の nom. sg. m.
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
viddasu: =vidvā a. m. 智者, 賢者
yo: ya の nom. sg. m.*3
ya: pron. rel. 所のもの
tulaṃ: tulā の acc. sg. m.
tulā: a. [tul-ā] f. 秤, はかり, はかりざお
√tul(a): 量る
-ā: 女性名詞を形成する*4
va: =iva indecl. 如く
paggayha: paggaṇhāti の ger.*5
paggaṇhāti: [pa-gaṇhāti] さしのベる, 摂受す, 策励す
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*6
gaṇhāti: =gaṇhati [√gah(a), Sk. grah]*7 取る, 捕える
varamādāya: varaṃ + ādāya*8
varaṃ: vara の nom. sg. n.
vara: a. m. n. すぐれた, 高貴の, 最上の; 恵与; 福利, 願望
ādāya: ādāti の ger.*9
ādāti: =ādiyati, ādeti [ā-dā] 取る
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*10
√dā: 施与
paṇḍito: paṇḍita の nom. sg. m.
paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者
pāpāni: pāpa の acc. pl.
pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人
parivajjeti: [pari-vajjati の caus.]*11 避ける, 回避す
pari-: pref. 円, 遍ねく, 完全に, 強意. 完全性などを意味する*12
vajjati: [√vajj(a), Sk. vṛj] 避ける
sa: =so ta の nom. sg. m.*13 それ, 彼
munāti: =maññati [√mun(a)] 知る, 考える
ubho: ubha の acc. dual. m.*14
ubha: pron. 両者
loke: loka の loc. sg.
loka: m. 世, 世間, 世界
tena: ta の ins. sg. m. n.*15 それによって, それ故に
ta: pron. それ
pavuccati: =pavuccate [pa-vuccati] 説かれる, 言われる
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*16
vuccati: [√vac の pass.] *17 言われる