蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 62 (131. 132.)

131.

Sukha-kāmāni bhūtāni yo daṇḍena vihiṃsati,

安楽を求むる 生類等を 所の者 笞杖により 害ふ

attano sukhamesāno, pecca so na labhate sukhaṃ.

己の 幸福を/求めあるは 逝きて そは 否 得る 安楽を

(安楽を求むる生類等を笞杖(ちぢゃう)によりて害ひ、己れの安楽を求めある者、そは逝きて安楽を得ること無し。)

生きとし生ける者は幸せをもとめている。もしも暴力によって生きるものを害するならば、その人は自分の幸せをもとめていても、死後には幸せが得られない。

 sukha-kāmāni: sukha-kāma の acc. pl. n.

  sukha-kāma: 楽を欲する

   sukha: a. n. [sukh-a] 楽, 安楽, 幸福

    √sukh(a): 幸福にする, 喜ばせる

    -a: 名詞・形容詞を形成する*1

   kāma: m. n. [kam*2-a] 欲, 愛欲, 欲念, 欲情, 欲楽

    √kam(u): 欲っす, 楽しむ

 bhūtāni: bhūta の acc. pl. n.

  bhūta: a. [bhavati の pp.]*3 存在せる. 生物, 生類, 有類, 万物, 要素, 大種

   bhavati: [√bhū]*4 ある, 存在する

 yo: ya の nom. sg. m.*5

  ya: pron. rel. 所のもの

 daṇḍena: daṇḍa の ins. sg.

  daṇḍa: m. 杖, 棒, むち, 琴のばち, 罰, 刑罰, 罰金

 vihiṃsati: [vi-hiṃsati] 害す, 悩ます, 因らせる

  vi-: 語根の意味を強調する*6

  hiṃsati: [√hiṃs(a), Sk. hiṃs] 害す, 殺す

 attano: attan の gen. sg.*7

  attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体

 sukhamesāno: sukhaṃ*8 + esāno

  sukhaṃ: sukha の acc. sg.

  esāno: esāna の nom. sg. m.

   esāna: esati の ppr.*9

    esati: [ā-iṣ*10] 求む, 探す, 努力す

     ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*11

     √is(a): [Sk. iṣ] 望む, 求める, 欲する

 pecca: [pa-i*12 の ger.]*13 過ぎ去りて, 死後に

  pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*14

  √i: 行く

 so: ta の nom. sg. m.*15 それは, 彼は

  ta: pron. それ

 na: adv. なし

 labhate: labhati の mid.*16

  labhati: [√labh(a)] 得る

 sukhaṃ: sukha の acc. sg.

 

132.

Sukhakāmāni bhūtāni yo daṇḍena na hiṃsati,

安楽を求むる 生類等を 所の者 笞杖により 否 害ふ

attano sukhamesāno, pecca so labhate sukhaṃ.

己の 幸福を/求めあるは 逝きて そは 得る 安楽を

(安楽を求むる生類等を笞杖によりて害ふこと無く、己れの安楽を求めある者、そは逝きて安楽を得る。)

生きとし生ける者は幸せをもとめている。もしも暴力によって生きるものを害しないならば、その人は自分の幸せをもとめているが、死後には幸せが得られる。