蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 10 (19. 20.)

19.

Bahum pi ce saṃhitaṃ bhāsamāno, na takkaro hoti naro pamatto,

多く と雖も もし 具せるを 語りある  否 その行為者 也 人 放逸

gopo va gāvo gaṇayaṃ paresaṃ, na bhāgavā sāmaññassa hoti.

牛飼ひが 如く 牛達を 数へある 他の  否  分有者  沙門性の  也

(たとひ多く蔵せるを語りあると雖も、そを為さざるは、放逸なる者なり。他の牛を数へある牛飼ひが如く、沙門性を有せる者にはあらず。)

たとえためになることを数多く語るにしても、それを実行しないならば、その人は怠っているのである。──牛飼いが他人の牛を数えているように。彼は修行者の部類には入らない。

 bahum: =bahuṃ*1  adv. [bahu の acc.]*2 多く

  bahu: a. 多くの, 多の

 pi: =api  indecl. 亦, も亦, 恐らく, 雖も

 ce: conj. もし, 若し

 saṃhitaṃ: saṃhita の acc. sg. m.

  saṃhita: a. [sandahati の pp.]*3 伴える, 具せる

   sandahati: [saṃ*4-dhā]*5 共におく, 結ぶ, 整える

    saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に*6

    √dhā: 持す

 bhāsamāno:  bhāsamāna の nom. sg. m.

  bhāsamāna: bhāsati の ppr.*7

   bhāsati: [√bhās(a), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う

 na: adv. なし

 takkaro: takkara の nom. sg.

  takkara: m. [ta-kara*8] その作者

   ta: pron. それ

   kara: a. m. [kar-a] なす, 作す, 作る, 行う; 手

    √kar(a): [Sk. kṛ] なす, 作す, 作る

    -a: 名詞・形容詞を形成する*9

 hoti: =bhavati  [√hū] ある, 存在する*10

 naro: nara の nom. sg.

  nara: m. 人, 人々

 pamatto: pamatta の nom. sg. m.

  pamatta: a. [pamajjati の pp.]*11 放逸なる, 放縦の, 我儘の

   pamajjati: [pa-majjati] 酔う; 放逸となる, 我儘となる

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*12

    majjati: [√mad(a)]*13 酔う; 夢中になる

 gopo: gopa の nom. sg.

  gopa: m. 牧牛者

 va: indecl. 如く

 gāvo: go の acc. pl.*14

  go: m. 牛, 牡牛

 gaṇayaṃ: gaṇeti の ppr. nom. sg. m. *15

  gaṇeti: [√gaṇ(a)]*16 数える, 計算す; 注意す, 考慮す

 paresaṃ: para の gen. pl. m.*17

  para: a. 他の, 彼方の, 上の

 bhāgavā: bhāgavant の nom. sg.*18

  bhāgavant: a. [bhāga-vant] 分有する

   bhāga: m. [<bhāj] 部分, 配分, 領分, 領域, 時分, 方分

    √bhāj(a): [Sk. bhaj] 分ける, 分配する

   -vant: 所有形容詞を形成する*19

 sāmaññassa: sāmañña の gen. sg.

  sāmañña: n. [samaṇa*20-ya*21] 沙門性, 沙門位, 沙門法

   samaṇa: m. [sam-ana] 沙門

    √sam(u): [Sk. śram] 勤息

    -ana: 名詞・形容詞を形成する*22

   -ya: 名詞・形容詞を形成する*23

 

20.
Appam pi ce saṃhitaṃ bhāsamāno,

少し と雖も もし 具せるを 語りあるは

dhammassa hoti anudhamma-cārī,

法の     也  随法行者

rāgañ ca dosañ ca pahāya mohaṃ, sammappajāno suvimutta-citto

貪を と 瞋を と 捨てたる 痴を   正知者   よく心の解脱せる

anupādiyāno idha vā huraṃ vā, sa bhāgavā sāmaññassa hoti.

取著無き   此世に 或は 他世に 或は そは 分有者  沙門性の  也

(たとひ少し蔵せるを語りあると雖も、法に従う行者にして、貪と瞋と痴(三毒)を捨て、正知者にして心の解脱し、或いは此世に、或いは他世に取著無き者は、そは沙門性を有せる者なり。)

たとえためになることを少ししか語らないにしても、理法に従って実践し、情欲と怒りと迷妄とを捨てて、正しく気をつけていて、心が解脱して、執著することの無い人は、修行者の部類に入る。

 appam: adv. [appa の acc.]*24 少し

  appa: a. n. 少き, 些細の; 少量, 些細

 dhammassa: dhamma の gen. sg.

  dhamma: [dhar-ma]*25 m. n. 法, 教法, 真理, 正義

   √dhar(a):  [Sk. dhṛ] 持す

   -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*26

 anudhamma-cārī: anudhamma-cārin の nom. sg.*27

  anudhamma-cārin: 随法行者

   anudhamma: n. [anu-dhamma] 随法, 如法

    anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*28

   cārin: a. [car-in] 歩める, 為せる

    √car(a): 行く, 行ず

    -in: 所有形容詞を形成する*29

 rāgañ: =rāgaṃ*30  rāga の acc. sg.

  rāga: m. [cf. rajati] 貪(とん), 貪欲, 染; 染色, 色彩

   rajati: [√raj, ranj(a), Sk. rañj] 染める

 ca: conj. と, そして, また

 dosañ: =dosaṃ*31  dosa の nom. sg.

  dosa: m. 瞋(しん), 瞋恚(しんい)

 pahāya: [pajahati の ger.]*32 捨てて

  pajahati: =pajahāti  [pa-jahati] 捨てる, 捨断する, 断ずる

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*33

   jahati: =jahāti  [√hā]*34 捨つ, 断ず

 mohaṃ: moha の acc. sg.

  moha: m. [muh*35-a] 痴, 愚痴

   √muh(a): 痴: m. 痴, 愚痴

 sammappajāno: sammappajāna の nom. sg.

  sammappajāna: [sammā*36-pa-jāna] 正知者

   sammā: adv. 正しく, 完全に

   pa-: pref. 前に, 先に, 強意

   jāna: a. [cf. jānāti] 知ある, 理解ある, 知るべき

    jānāti: [√jñā, jā, ñā] 知る*37

 suvimutta-citto: suvimutta-citta の nom. sg.

  su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

  vimutta: a. [vimuñcati の pp.]*38 解脱せる, 解脱者

   vimuñcati: vi- + muñcati

    vi-: 語根の意味を強調する*39

    muñcati: [√muc(a)]*40 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ

  citta: n. [cit-a*41] 心

   √cit(a): 思考, 認識, 知性, 理解, 心, 魂

 anupādiyāno: anupādiyāna の nom. sg.

  anupādiyāna: a. [an-upādiyāna] 取著なき

   an- = a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では anとなる

   upādiyāna: upādiyati の ppr.*42

    upādiyati: [upa*43-ādiyati] 取る, 執取す, 執受す

     upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*44

     ādiyati: =ādāti, ādeti  [ā-dā] 取る

      ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*45

      √: 与える

 idha: adv. ここに, 此界に

 : adv. conj. または, 或は

 huraṃ: adv. 他界に, 他世に

 sa: =so  ta の nom. sg. m.*46

*1:『実用パーリ語文法』ニッガヒータ連声 39.

*2:同上, 格形副詞 532.

*3:同上, 受動完了分詞 452. (i) 注意

*4:同上, ニッガヒータ連声 39.

*5:同上, 現在系統の活用 391.

*6:同上, 動詞接頭辞 516. saṃ

*7:同上, 現在分詞 447.

*8:同上, 子音連声 33.

*9:同上, 一次派生 576. a

*10:同上, 不規則動詞 511.

*11:同上, 受動完了分詞 453.

*12:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*13:同上, 第三活用 374. 同左, y の同化 74.

*14:同上, 特殊な名詞 150.

*15:同上, 現在分詞 441.

*16:同上, 第七活用 379.

*17:同上, 代名詞的に曲用する形容詞 353.

*18:同上, vat/vant で終わる形容詞の曲用 230.

*19:同上, 二次派生 vā

*20:同上, 二次派生 580. (iv)

*21:同上, y の同化 71.

*22:同上, 一次派生 ana

*23:同上, 二次派生 581. ya

*24:同上, 格形副詞 532.

*25:同上, r の同化 80. (iv)

*26:同上, 一次派生 578. ma

*27:同上, in で終わる形容詞 210.

*28:同上, 動詞接頭辞 516. anu

*29:同上, 一次派生 in

*30:同上, ニッガヒータ連声 39.

*31:同上, ニッガヒータ連声 39.

*32:同上, 動名詞 472.

*33:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*34:同上, 第一活用 371. (4)

*35:同上, 強調 105.

*36:同上, 子音連声 35.

*37:同上, 第五活用 402. 注意 (a)

*38:同上, 受動完了分詞 453.

*39:同上, 動詞接頭辞 519.

*40:同上, 第二活用 373.

*41:同上, 子音連声 33.

*42:同上, 現在分詞 447.

*43:同上, 母音連声 17.

*44:同上, 動詞接頭辞 516. upa

*45:同上, 動詞接頭辞 516. ā 注意

*46:ta の曲用