389.
Na brāhmaṇassa pahareyya, n'āssa muñcetha brāhmaṇo,
否 婆羅門を 打つべし 否/是に 放つべし 婆羅門は
dhī brāhmaṇassa hantāraṃ, tato dhī yassa muñcati.
咄 婆羅門を 害す者に 其より 咄 其に 放つ
(婆羅門を打つべからず。この者に婆羅門は怒りを放つべからず。咄(とつ)、婆羅門を害す者に。それよりも、咄、その者に怒りを放つ者に。)
バラモンを打つな。バラモンはかれ(=打つ人)に対して怒りを放つな。バラモンを打つものには禍がある。しかし(打たれて)怒る者にはさらに禍がある。
na: adv. なし
brāhmaṇassa: brāhmaṇa の dat. sg.*1
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
pahareyya: paharati の opt.*2
paharati: [pa-harati] 打つ, 伐つ
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*3
harati: [√har(a), Sk. hṛ] 運ぶ, 持ち来る, 持ち去る, 除く, 奪う
n'āssa: na + assa*4
assa: ayaṃ の dat. sg. m.*5
ayaṃ: pron. これ, この
muñcetha: muñcati の opt. mid.*6
muñcati: [√muc(a)]*7 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ
brāhmaṇo: brāhmaṇa の nom. sg.
brāhmaṇa: m. 婆羅門, 婆羅門族
dhī: =dhi interj. 厭わしきかな, いやらしい
hantāraṃ: hantar の acc. sg. m.*8
hantar: m. [han-tar] 殺害者
√han(a): 殺す, 害す, 打つ, 壊す, 除去する, 制す
-tar: 動作主名詞を形成する*9
tato: adv. [ta-to] それより, それ故に, その後
ta: pron. それ
-to: 場所を表わす副詞を形成する*10
yassa: ya の dat. sg. m.*11
390.
Na brāhmaṇass'etadakiñci seyyo yadā nisedho manaso piyehi,
否 婆羅門にとり/是は/何も無き 優れた の時に 抑止 意の 可愛の
Yato yato hiṃsa-mano nivattati, tato tato sammatimeva dukkhaṃ.
其により 害意が 消失す 其により 寂止す/唯 苦は
(可愛の意の抑止のその時、婆羅門にとりてこれは何事も無きことには非ざりて、すぐれたるなり。害意の消失するにつれて、それによりて苦は寂止す。)
愛好するものから心を遠ざけるならば、このことはバラモンにとって少なからずすぐれたことである。害する意(おもい)がやむにつれて、苦悩が静まる。
brāhmaṇass'etadakiñci: brāhmaṇassa*12 + etad + akiñci
brāhmaṇassa: brāhmaṇa の dat. sg.
etad: eta の nom. sg. n.*13
akiñci: [a-kiñci] 何ものでもない, 何もない
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
kiñci: pron. [kiṃ*14-ci] 何ものか, 何でも
kiṃ: ka の nom. sg. n.*15 何, いかに, いかなる
-ci: 疑問代名詞に付いて不定代名詞を形成する*16
seyyo: seyya の nom. sg. n.
seyya: a. よりよき, よりすぐれた
yadā: adv. [ya-dā] ~の時に
ya: pron. rel. 所のもの
-dā: 時間を表す副詞を形成する*17
nisedho: nisedha の nom. sg. m.
nisedha: m. [ni-sidh*18-a] 防止, 抑止, 禁止
ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *19
√sidh(u): [Sk. ṣidh] 抑制する, 妨げる, 阻止する
manaso: manas の gen. sg.*20
manas: n. 意, 心
piyehi: piya の gen. pl. m.*21
piya: a. 愛, 可愛の, 所愛
yato: adv. [ya-to] そこから, なるが故に, 何となれば
-to: 場所を表わす副詞を形成する*22
hiṃsa-mano: hiṃsā*23-manas の nom. sg. m.
hiṃsā: f. [hiṃs-ā] 殺, 害
√hiṃs: 害
-ā: 女性名詞を形成する*24
nivattati: [ni-vat*25] 戻る, 逃げる, 消失す
ni-: pref. 否, 無
√vat(u): [Sk. vṛt] 存す
sammatimeva: sammati*26 + eva
sammati: [√sam(u), Sk. śam]*27 静まる, 寂止す, 休息す, 住む
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ, さえ, なお. 強意
dukkhaṃ: dukkha の nom. sg.
dukkha: a. n. [dukkh-a] 苦, 苦痛, 苦悩
√dukkh(a): [Sk. duḥkh] 苦, 苦痛, 不快, 困難, 不安
-a: 名詞・形容詞を形成する*28