84.
Na atta-hetu, na parassa hetu, na puttam icche,
否 己れの為に 否 他の 為に 否 子を 欲すべし
na dhanaṃ, na raṭṭhaṃ,
否 財を 否 国を
nayicche adhammena samiddhim attano,
否/欲すべし 非法による 繁栄を 自己の
sa sīlavā paññavā dhammiko siyā.
其は 戒有る 智慧有る 如法の たるべし
(己れの為にも、他の為にも、子を欲すべからず。財を、国を、非法によれる自己の繁栄を欲すべからず。戒ありて智慧ある、如法の者たるべし。)
自分のためにも、他人のためにも、子を望んではならぬ。財をも国をも望んではならぬ。邪(よこしま)なしかたによって自己の繁栄を願うてはならぬ。(道にかなった)行ないあり、明かな智慧あり、真理に従っておれ。
na: adv. なし
atta-hetu: ind. 自分自身のために
atta-: =attan m. 我, 自
hetu: m. [hi*1-tu] 因, 原因, 理由
√hi: 促す
-tu: 名詞を形成する*2
parassa: para の gen. sg. m.
para: a. 他の, 彼方の, 上の
puttam: putta の acc. sg.
putta: m. 子, 子息; 男児
icche: icchati の opt.*3
icchati: [√is(u), Sk. iṣ]*4 欲す, 欲求す, 求む
dhanaṃ: dhana の acc. sg.
dhana: n. [dhan-a] 財, 財物, 財産
√dhan(a): 実る
-a: 名詞・形容詞を形成する*5
raṭṭhaṃ: raṭṭha の acc. sg.
raṭṭha: n. 国, 王国
nayicche: na + icche*6
adhammena: adhamma の ins. sg.
adhamma: m. [a-dhamma] 非法, 邪法
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
dhamma: [dhar*7-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義
√dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す
-ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*8
samiddhim: samiddhi の acc. sg.
samiddhi: f. [<samiddha] 成功, 繁栄
samiddha: a. [samijjhati の pp.]*9 成功せる, 栄えた, 富める
samijjhati: [saṃ*10-ijjhati] 栄える, 成功す
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*11
ijjhati: [√idh(a), Sk. ṛdh]*12 成功す
attano: attan の gen. sg.*13
attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体
sa: =so ta の nom. sg. m.*14
ta: pron. それ
sīlavā: sīlavant の nom. sg. m.*15
sīlavant: a. [sīla-vant] 戒ある, 具戒者, 持戒者
sīla: n. [sīl-a] 戒, 戒行, 習慣, 道徳
√sīl(a): [Sk. śīl] 瞑想する, 熟慮する, 帰依する, 行ずる
-vant: 所有形容詞を形成する*16
paññavā: paññavant の nom. sg. m.*17
paññavant: a. [pañña-vant] 具慧の, 慧ある
pañña: a. [paññā の形容詞形] 慧ある, かしこき, 智慧者
paññā: f. [pa-ñā*18] 般若, 慧, 智慧
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19
√ñā: =jñā, jā 知る
dhammiko: dhammika の nom. sg. m.
dhammika: a. m. [dhamma*20-ika] 如法の, 法師, 持法者
-ika: 名詞・形容詞を形成する*21
siyā: atthi の opt.*22 あるであろう, あれかし
atthi: [√as(a)]*23 ある, 存在する
85.
Appakā te manussesu ye janā pāra-gāmino,
少なき 其等は 人々の間に 所の 人々 彼岸に到れる
ath'āyaṃ itarā pajā tīram ev'ānudhāvati.
又/この 他の 人々は 岸を 唯/共に走る
(人々の間に於て彼岸(ひがん)に到れる人々は少なし。然(さ)てはこの他の人々は、ただ此岸(しがん)を共に走る。)
人々は多いが、彼岸(かなたのきし)に達する人々は少ない。他の(多くの)人々はこなたの岸の上でさまよっている。
appakā: appaka の nom. pl. m.
appaka: a. [appa-ka] 少き, 微細の
appa: a. n. 少き,些細の; 少量, 些細
-ka: 強意. 動作主名詞・形容詞を形成する*24
te: ta の nom. pl. m.*25
manussesu: manussa の loc. pl.
manussa: m. 人, 人間
ye: ya の nom. pl. m.*26
ya: pron. rel. 所のもの
janā: jana の nom. pl.
jana: m. [jan-a] 人, 人々
√jan(a): 生まれる, つくられる
pāra-gāmino: pāra-gāmin の nom. pl. m.*27
pāra-gāmin: 彼岸に到れる
pāra: n. a. 彼岸, 彼方, 他の
gāmin: [gam*28-in] 行っている, 行く者, 導ける
√gam: 行く
-in: 所有名詞を形成する*29
ath'āyaṃ: atha + ayaṃ*30
atha: ind. 時に, また
ayaṃ: pron. これ, この nom. sg. m.
itarā: itara の nom. pl. f.*31
itara: a. 他の, 次の
pajā: f. 人々 nom. sg.
tīram: =tīraṃ*32 tīra の acc. sg.*33
tīra: n. 岸
ev'ānudhāvati: eva + anudhāvati*34
eva: adv. が, こそ, のみ, だけ
anudhāvati: [anu-dhāvati] 従い走る, 従う, 追跡す, 遂行す
anu-: pref. 随いて, 次に, 順じて 従って, 倶に
dhāvati: [√dhāv(u)] 走る, 流る
86.
Ye ca kho sammadakkhāte dhamme dhamm'ānuvattino,
所の 又 実に 正しく告げられたる 法を 法に従順なる
te janā pāram essanti maccu-dheyyaṃ suduttaraṃ.
其等 人々は 彼岸に 到る 死の制せらるべき 極めて渡り難き
(されど実に法を正しく告げられたる法に従順なる者ら、それ等の人々は極めて渡り難き死の制せらるべき彼岸に到るなり。)
真理が正しく説かれたときに、真理にしたがう人々は、渡りがたい死の領域を超えて、彼岸(かなたのきし)に至るであろう。
ca: conj. と, そして, また
kho: adv. 実に
sammadakkhāte: sammadakkhāta の acc. pl. m.
sammadakkhāta: sammā + akkhāta*35
sammā: adv. 正しく, 完全に
akkhāta: akkhāti の pp.*36
akkhāti: [ā-khā]*37 告げる, 話す
√khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く
dhamme: dhamma の acc. pl.
dhamm'ānuvattino: dhamm'ānuvattin の nom. pl. m.
dhamm'ānuvattin: dhamma + anuvattin*38
anuvattin: a. [anu-vat-in] 随起する, 従順なる
√vat(u): [Sk. vṛt] 存す
pāram: pāra の acc. sg.
essanti: essati の pl.
essati: eti の fut.*39
eti: [√i] 行く, 来る, 達する, 経験する*40
maccu-dheyyaṃ: maccu-dheyya の acc. sg.
maccu: m. 死, 死神, 悪魔, 死王, 魔王
dheyya: a. m. [dhā の grd.*41] 領域, 布置
√dhā: 置く, 布す, 制圧する, つかむ
suduttaraṃ: suduttara の acc. sg. m.
suduttara: a. [su-duttara] 極めて越え難き, 極難度の
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
duttara: a. [du-tara*42] 渡り難き
du-: pref. 悪き, 難き
tara: a. [tar-a] 渡る, 度脱の
√tar: [Sk. tṝ] 浮く, こえる