蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 41 (84-86.)

84.
Na atta-hetu, na parassa hetu, na puttam icche,

否 己れの為に 否 他の 為に 否 子を 欲すべし

na dhanaṃ, na raṭṭhaṃ,

否 財を  否 国を

nayicche adhammena samiddhim attano,

否/欲すべし 非法による  繁栄を  自己の

sa sīlavā paññavā dhammiko siyā.

其は 戒有る 智慧有る 如法の たるべし

(己れの為にも、他の為にも、子を欲すべからず。財を、国を、非法によれる自己の繁栄を欲すべからず。戒ありて智慧ある、如法の者たるべし。)

自分のためにも、他人のためにも、子を望んではならぬ。財をも国をも望んではならぬ。邪(よこしま)なしかたによって自己の繁栄を願うてはならぬ。(道にかなった)行ないあり、明かな智慧あり、真理に従っておれ。

 na: adv. なし

 atta-hetu: ind. 自分自身のために

  atta-: =attan  m. 我, 自

  hetu: m. [hi*1-tu] 因, 原因, 理由

   √hi: 促す

   -tu: 名詞を形成する*2

 parassa: para の gen. sg. m.

  para: a. 他の, 彼方の, 上の

 puttam: putta の acc. sg.

  putta: m. 子, 子息; 男児

 icche: icchati の opt.*3

  icchati: [√is(u), Sk. iṣ]*4 欲す, 欲求す, 求む

 dhanaṃ: dhana の acc. sg.

  dhana: n. [dhan-a] 財, 財物, 財産

   √dhan(a): 実る

   -a: 名詞・形容詞を形成する*5

 raṭṭhaṃ: raṭṭha の acc. sg.

  raṭṭha: n. 国, 王国

 nayicche: na + icche*6

 adhammena: adhamma の ins. sg.

  adhamma: m. [a-dhamma] 非法, 邪法

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   dhamma: [dhar*7-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

    √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

    -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*8

 samiddhim: samiddhi の acc. sg.

  samiddhi: f. [<samiddha] 成功, 繁栄

   samiddha: a. [samijjhati の pp.]*9 成功せる, 栄えた, 富める

    samijjhati: [saṃ*10-ijjhati] 栄える, 成功す

     saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*11

     ijjhati: [√idh(a), Sk. ṛdh]*12 成功す

 attano: attan の gen. sg.*13

  attan: m. [Sk. ātman] 我, 自己, 我体

 sa: =so  ta の nom. sg. m.*14

  ta: pron. それ

 sīlavā: sīlavant の nom. sg. m.*15

  sīlavant: a. [sīla-vant] 戒ある, 具戒者, 持戒者

   sīla: n. [sīl-a] 戒, 戒行, 習慣, 道徳

    √sīl(a): [Sk. śīl] 瞑想する, 熟慮する, 帰依する, 行ずる

   -vant: 所有形容詞を形成する*16

 paññavā: paññavant の nom. sg. m.*17

  paññavant: a. [pañña-vant] 具慧の, 慧ある

   pañña: a. [paññā の形容詞形] 慧ある, かしこき, 智慧者

    paññā: f. [pa-ñā*18] 般若, 慧, 智慧

     pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*19

     √ñā: =jñā, jā  知る

 dhammiko: dhammika の nom. sg. m.

  dhammika: a. m. [dhamma*20-ika] 如法の, 法師, 持法者

   -ika: 名詞・形容詞を形成する*21

 siyā: atthi の opt.*22  あるであろう, あれかし

  atthi: [√as(a)]*23 ある, 存在する

 

85.
Appakā te manussesu ye janā pāra-gāmino,

少なき 其等は 人々の間に 所の 人々 彼岸に到れる

ath'āyaṃ itarā pajā tīram ev'ānudhāvati.

又/この 他の 人々は 岸を 唯/共に走る

(人々の間に於て彼岸(ひがん)に到れる人々は少なし。然(さ)てはこの他の人々は、ただ此岸(しがん)を共に走る。)

人々は多いが、彼岸(かなたのきし)に達する人々は少ない。他の(多くの)人々はこなたの岸の上でさまよっている。

 appakā: appaka の nom. pl. m.

  appaka: a. [appa-ka] 少き, 微細の

   appa: a. n. 少き,些細の; 少量, 些細

   -ka: 強意. 動作主名詞・形容詞を形成する*24

 te: ta の nom. pl. m.*25

 manussesu: manussa の loc. pl.

  manussa: m. 人, 人間

 ye: ya の nom. pl. m.*26

  ya: pron. rel. 所のもの

 janā: jana の nom. pl.

  jana: m. [jan-a] 人, 人々

   √jan(a): 生まれる, つくられる

 pāra-gāmino: pāra-gāmin の nom. pl. m.*27

  pāra-gāmin: 彼岸に到れる

   pāra: n. a. 彼岸, 彼方, 他の

   gāmin: [gam*28-in] 行っている, 行く者, 導ける

    √gam: 行く

    -in: 所有名詞を形成する*29

 ath'āyaṃ: atha + ayaṃ*30

  atha: ind. 時に, また

  ayaṃ: pron. これ, この  nom. sg. m.

 itarā: itara の nom. pl. f.*31

  itara: a. 他の, 次の

 pajā: f. 人々  nom. sg.

 tīram: =tīraṃ*32  tīra の acc. sg.*33

  tīra: n. 岸

 ev'ānudhāvati: eva + anudhāvati*34

  eva: adv. が, こそ, のみ, だけ

  anudhāvati: [anu-dhāvati] 従い走る, 従う, 追跡す, 遂行す

   anu-: pref. 随いて, 次に, 順じて 従って, 倶に

   dhāvati: [√dhāv(u)] 走る, 流る

 

86. 
Ye ca kho sammadakkhāte dhamme dhamm'ānuvattino,

所の 又 実に 正しく告げられたる 法を  法に従順なる

te janā pāram essanti maccu-dheyyaṃ suduttaraṃ.

其等 人々は 彼岸に 到る 死の制せらるべき 極めて渡り難き

(されど実に法を正しく告げられたる法に従順なる者ら、それ等の人々は極めて渡り難き死の制せらるべき彼岸に到るなり。)

真理が正しく説かれたときに、真理にしたがう人々は、渡りがたい死の領域を超えて、彼岸(かなたのきし)に至るであろう。

 ca: conj. と, そして, また

 kho: adv. 実に

 sammadakkhāte: sammadakkhāta の acc. pl. m.

  sammadakkhāta: sammā + akkhāta*35

   sammā: adv. 正しく, 完全に

   akkhāta: akkhāti の pp.*36

    akkhāti: [ā-khā]*37 告げる, 話す

     √khā: [Sk. khyā] 告げる, 説く

 dhamme: dhamma の acc. pl.

 dhamm'ānuvattino: dhamm'ānuvattin の nom. pl. m.

  dhamm'ānuvattin: dhamma + anuvattin*38

   anuvattin: a. [anu-vat-in] 随起する, 従順なる

    √vat(u): [Sk. vṛt] 存す

 pāram: pāra の acc. sg.

 essanti: essati の pl.

  essati: eti の fut.*39

   eti: [√i] 行く, 来る, 達する, 経験する*40

 maccu-dheyyaṃ: maccu-dheyya の acc. sg.

  maccu: m. 死, 死神, 悪魔, 死王, 魔王

  dheyya: a. m. [dhā の grd.*41] 領域, 布置

   √dhā: 置く, 布す, 制圧する, つかむ

 suduttaraṃ: suduttara の acc. sg. m.

  suduttara: a. [su-duttara] 極めて越え難き, 極難度の

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   duttara: a. [du-tara*42] 渡り難き

    du-: pref. 悪き, 難き

    tara: a. [tar-a] 渡る, 度脱の

     √tar: [Sk. tṝ] 浮く, こえる