蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

ダンマパダで学ぶパーリ語 37 (76. 77.)

6. Paṇḍita-vagga 賢い人(賢者の章)

 paṇḍita: a. 賢き, 博学の, 賢智の. 賢者, 智者

 vagga: m. 群, 品, 章

 

76. 

Nidhīnaṃ va pavattāraṃ, yaṃ passe vajja-dassinaṃ,

宝蔵の  如く  説者に 所の者に 見えば 罪過を見ある

niggayha-vādiṃ medhāviṃ, tādisaṃ paṇḍitaṃ bhaje,

叱責者に      智慧ある その如き 賢者に  親近すべし

tādisaṃ bhajamānassa, seyyo hoti na pāpiyo.

その如きに 親近しあるに より善きが ある 否 より悪しきは

(宝蔵のありかを説く者にするが如く、罪過を見ある、智慧ある叱責者に見(まみ)ゆべかれば、その如き賢者に親近すべし。その如き者に親近しある者には、より善きがあり、より悪しきは無し。)

(おのが)罪過(つみとが)を指摘し過ちを告げてくれる聡明な人に会ったならば、その賢い人につき従え。──隠してある財宝のありかを告げてくれる人につき従うように。そのような人につき従うならば、善いことがあり、悪いことはない。

 nidhīnaṃ:  nidhi の gen. pl.*1

  nidhi: f. [ni-dhā*2-i] 伏蔵, 宝蔵, 財宝

   ni-:  外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で *3

   √dhā: 置く, 布す, 制圧する, つかむ

   -i: 名詞・形容詞を形成する*4

 va: =iva  indecl. 如く

 pavattāraṃ: pavattar の acc. sg.*5

  pavattar: m. 説者, 宣説者

 yaṃ: ya の acc. sg. m.*6

  ya: pron. rel. 所のもの

 passe: passati の opt.*7

  passati: [√pas(a), Sk. paś]*8 見る; 見出す, 知る

 vajja-dassinaṃ: vajja-dassin の acc. sg.

  vajja-dassin: 罪を認める者

   vajja: n. [vajjati の grd.*9] 罪, 罪過 (避けらるべき事)

    vajjati: [√vajj(a), Sk. vṛj] 避ける

   dassin: a. [das*10-in] 見ある, 認める

    √das: 見る

    -in: 所有形容詞を形成する*11

 niggayha-vādiṃ: niggayha-vādin の acc. sg.

  niggayha-vādin: 叱責者

   niggayha: niggaṇhāti の ger.*12

    niggaṇhāti: [ni-gaṇhāti*13] 抑止す, 折伏す, 叱責す

     gaṇhāti: =gaṇhati  [√gah(a), Sk. grah]*14 取る, 捕える

   vādin: a. [vad*15-in] 説者, 主張者, 論師

    √vad(a): 説く

 medhāviṃ: medhāvin の acc. sg.*16

  medhāvin: =medhin  a. [medhā-in*17] 智慧ある, 賢き

   medhā: f. [medh-ā] 慧, 智慧

    √medh(a): 理解する, 交際する, 害する

    : 女性名詞を形成する*18

 tādisaṃ: tādisa の acc. sg. m.

  tādisa: a. その如き, そのような

   ta: pron. それ   

 paṇḍitaṃ: paṇḍita の acc. sg.

 bhaje: bhajati の opt.*19

  bhajati: [√bhaj(a)] 親近す, 奉仕す

 bhajamānassa: bhajamāna の gen. sg. m.

  bhajamāna: bhajati の ppr. *20

   bhajati: [√bhaj(a)] 親近す, 奉仕す

 seyyo: seyya の nom. sg. m.

  seyya: a. よりよき,よりすぐれた

 hoti: =bhavati  [√hū]*21 ある, 存在する

 na: adv. なし

 pāpiyo: pāpiya の nom. sg. m.

  pāpiya: = a. f. [pāpa*22-iya] より悪き

   pāpa: a. n. 悪き, 悪, 悪人

   -iya: 抽象名詞を形成する*23

 

77.
Ovadeyy'ānusāseyya, asabbhā ca nivāraye,

教戒すべし/訓戒すべし 卑しきより 又 護るべし

sataṃ  hi so piyo hoti, asataṃ hoti appiyo.

善なるの 実に 其は 愛 也 不善なるの 也 非愛

(教戒すべし、訓戒すべし。また卑しきより護るべし。実にその者は善なる者らの愛する所なり。不善なる者らの愛さざる所なり。)

(他人を)訓戒せよ、教えさとせ。宜しくないことから(他人を)遠ざけよ。そうすれば、その人は善人に愛せられ、悪人から疎(うと)まれる。

 ovadeyy'ānusāseyya: ovadeyya + anusāseyya*24

  ovadeyya: ovadati の opt.*25

   ovadati: [o-vadati] 教誡す, 訓誠す

    o-: =ava-  pref. 下に, 離れて, 戻って, 外れて, 少なく. 軽視*26

    vadati: [√vad(a)] 言う, 説く, 告げる

  anusāseyya: anusāsati の opt.*27

   anusāsati: [anu-sāsati] 訓誡す, 教訓す

    anu-: pref. ~にちなんで, に沿って, にしたがって, の近くで, の後ろで,  ~より少なく, ~の結果, ~の下で*28

    sāsati: [√sās(a), Sk. śās] 教える, 命ず

 asabbhā: asabbha の abl. sg. n.*29

  asabbha: a. 無作法の, 卑しき

 ca: conj. と, そして, また

 nivāraye: nivāreti の opt.*30

  nivāreti: [ni-var の caus.]*31 防ぐ, 遮止す, 防護す

   √var(a): [Sk. vṛ] 抑制する, 覆う

 sataṃ: sat の gen. pl. m.*32

  sat: =sant  a. [atthi の ppr.]*33 ありつつ, 存在の; 善なる

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 so: ta の nom. sg. m.*34 それは, 彼は

 piyo: piya の nom. sg. m.

  piya: a. 愛, 可愛の, 所愛

 asataṃ: asat の gen. pl. m.

  asat: =asant  a. [a-sat] 存在せざる, 所有せざる, 不実の, 不善の, 不真の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

 appiyo: appiya の nom. sg.

  appiya: a. [a-piya*35] 不愛の, 不可愛の, 愛せざる, 怨憎の