蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 97 (200-202.)

200.

Yadā ca so mato seti uddhumāto vinīlako

の時に 又 其は 死せる 臥す 膨張せる 青き

apaviddho susānasmiṃ, anapekkhā honti ñātayo.

棄てられたる  墓場に  心掛けざる  也  親類等は

(またそは死して臥す時、膨張し、青くなり、墓場に棄てられ、親類らも心掛けざるなり。)

また身体が死んで臥すときには、膨れて、青黒くなり、墓場に棄てられて、親族もこれを顧みない。

 yadā: adv. [ya-dā] ~の時に

  ya: pron. rel. 所のもの

  -dā: 時間を表す副詞を形成する*1

 ca: conj. と, そして, また

 so: ta の nom. sg. m.*2 それは, 彼は

  ta: pron. それ

 mato: mata の nom. sg. m.

  mata: a. [marati の pp.]*3 死せる, 死者

   marati: [√mar(a), Sk. mṛ] 死す

 seti: =sayati  [√sī, Sk. śī]*4 臥す, 横臥す, 就寝す, 住す

 uddhumāto: uddhumāta の nom. sg. m.

  uddhumāta: a. [uddhumāyati の pp.]*5 膨張せる, ふくれたる

   uddhumāyati: [ud-dhmā] ふくれる, 膨張す

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*6

    √dhmā: 吹く, 吹いて作る

 vinīlako: vinīlaka の nom. sg. m.

  vinīlaka: a. [vi-nīla-ka] 紺青の, 青ぶくれの, 青瘀, 青瘀相

   vi-: 語根の意味を強調する*7

   nila: a. [nil*8-a] 青, 藍, 青色の

    √nil(a): [Sk. ṇil] 青, 藍

   -ka: 名詞・形容詞を形成する*9

 apaviddho: apaviddha の nom. sg. m.

 apaviddha: a. [apa-vijjhati の pp.]*10 捨てられたる

  apa-: pref. ~から離れて, 損傷, 崇敬*11

  vijjhati: [√vidh(a), Sk. vyadh]*12 射る, 貫く, 貫通す; 射られる

 susānasmiṃ: susāna の loc. sg.

  susāna: n. 塚間, 塚墓, 墓, 墓場, 墓地

 anapekkhā: anapekkha の nom. pl. m.

  anapekkha: an- + apekkha

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   apekkha: a. [apa-ikkh*13-a] 期待せる, 待望せる, 欲求せる

    √ikkh(a): [Sk. īkṣ] 見る, 見なす, 考慮する, 要する

 honti: hoti の pl.

  hoti: =bhavati  [√hū]*14 ある, 存在する

 ñātayo: ñāti の nom. pl.*15

  ñāti: f. [ñā-ti] 親族, 親類, 親里

   √ñā: =jñā, jā  知る

   -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*16

 

201.

Khādanti naṃ supāṇā ca sigālā ca vakā kimī,

食ふ   其を 犬が 又 野干が 又 狼が 虫類が

kākā gijjhā ca khādanti, ye c'aññe santi pāṇayo.

烏が 鷲が 又  食ふ 所の 又/諸他が あり 生物が

(犬や野干や狼や虫類がこれを食らい、烏や鷲やその他これを食ふ生き物あり。)

犬や野狐や狼や虫類がこれをくらい、鳥や鷲やその他の生きものがこれを啄(ついば)む。

 khādanti: khādati の pl.

  khādati: [√khād(a)] 食ベる, 堅いものを食べる

 naṃ: =taṃ*17

  taṃ: ta の acc. sg. m.*18

   ta: pron. それ

 supāṇā: supāṇa の nom. pl.

  supāṇa: =supāna, suvāṇa  m. 犬

 sigālā: sigāla の nom. pl.

  sigāla: =siṅgāla  m. 野干, ジャッカル, 豺狼

 vakā: vaka の nom. pl.

  vaka: m. 狼, おおかみ

 kimī: kimi の nom. pl.*19

  kimi: m. 蛆虫, 虫類, 屍虫

 kākā: kāka の nom. pl.

  kāka: m. 烏, 鴉, からす

 gijjhā: gijjha の nom. pl.

  gijjha: =gaddha  m. 鷲, わし, はげたか

 ye: ya の nom. pl. m.*20

 c'aññe: ca + aññe

  aññe: añña の nom. pl.*21

   añña: a. pron. 他の, 異なる, 余他の

 santi: atthi の pl.*22

  atthi: [√as(a)]*23 ある, 存在する

 pāṇayo: pāṇin の nom. pl.*24

  pāṇin: a. [pāṇa-in] 生命ある, 生物

   pāṇa: m. [pa-an*25-a] 生物, 有情, 生類, 生命

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*26

    √an(a): 呼吸する, 動き回る, 生きる

   -in: 所有形容詞を形成する*27

 

202.

Sutvāna buddha-vacanaṃ bhikkhu paññāṇavā idha,

聞きて   覚者の語を    比丘は  智慧ある 此界に

so kho naṃ parijānāti, yathā-bhūtaṃ hi passati.

其は 実に 其を 知悉す   如実に  何となれば 見る

(此界に覚者の語を聞きたる智慧ある比丘、そは実にそを知悉す。何となればそは如実に見る。)

この世において智慧ある修行者は、覚った人(ブッダ) の言葉を聞いて、このことを完全に了解する。何となればかれは、あるがままに見るからである。

 sutvāna: suṇāti の ger.*28

  suṇāti: [√su, Sk. śru]*29 聞く, 聴く

 buddha-vacanaṃ: buddha-vacana の acc. sg.

  buddha-vacana: 仏語

   buddha: a. m. [bujjhati の pp.]*30 覚った, 目覚めたる, 覚知せる; 覚者, 仏陀, 仏

    bujjhati: =bodhati  [√budh(a)]*31 覚る, 目覚む

   vacana: n. [vac-ana] 言, 語, 命令語

    √vac(a): 言う, 話す, 示す

    -ana: 名詞・形容詞を形成する*32

 bhikkhu: m. [bhikkh-u] 比丘, 苾芻, 乞者, 乞食者

  √bhikkh(a): [Sk. bhikṣ] 乞求, 乞食

  -u: 名詞・形容詞を形成する*33

 paññāṇavā: paññāṇavant の nom. sg. m.*34

  paññāṇavant: a. [paññāṇa-vant] 慧を有する, かしこき

   paññāṇa: n. [pa-ñāṇa*35] 識知, 慧智, 標識, 標相

    ñāṇa: n. [ñā-na] 智, 智慧

     -na: 名詞を形成する*36

 idha: =idhaṃ  adv. ここに, 此界に

 kho: adv. 実に

 parijānāti: [pari-jānāti] 暁了す, 遍知す

  pari-: pref. 円, 遍ねく, 完全に, 強意. 完全性などを意味する*37

  jānāti: [√jā]*38 知る

 yathā-bhūtaṃ: adv. [yathā-bhūta の acc.]*39 如実に

  yathā: adv. [ya-thā] ~の如くに, ~の如し

   -thā: 様子の副詞を形成する*40

  bhūta: a. [bhavati の pp.]*41 存在せる.  生物, 生類, 有類, 万物, 要素, 大種

   bhavati: [√bhū]*42 ある, 存在する

 hi: adv. conj. 実に; 何となれば

 passati: [√pas(a), Sk. paś]*43 見る; 見出す, 知る

*1:『実用パーリ語文法』代名詞の派生語 345.

*2:同上, 指示人称代名詞 292.

*3:同上, 受動完了分詞 454.

*4:同上, 現在系統の活用 393. 394.

*5:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*6:同上, 動詞接頭辞 516. ud

*7:同上, 動詞接頭辞 519.

*8:同上, 強調 105.

*9:同上, 二次派生 581. ka

*10:同上, 受動完了分詞 453.

*11:同上, 動詞接頭辞 516. apa

*12:同上, 第三活用 374.

*13:同上, 母音連声 21.

*14:同上, 不規則動詞 511.

*15:同上, i で終わる女性名詞 133.

*16:同上, 一次派生 ti

*17:同上, 指示人称代名詞 295.

*18:同上, 指示人称代名詞 292.

*19:同上, i で終わる男性名詞 131.

*20:同上, 関係代名詞 312.

*21:同上, 代名詞的に曲用する形容詞 353.

*22:同上, 不規則動詞 510.

*23:同上

*24:同上, in で終わる形容詞 210.

*25:同上, 母音連声 19.

*26:同上, 動詞接頭辞 516. pa

*27:同上, 二次派生 581. in

*28:同上, 動名詞 470. 注意 (a)

*29:同上, 第四活用 376.

*30:同上, 受動完了分詞 453.

*31:同上, 第三活用 374.

*32:同上, 一次派生 ana

*33:同上, 一次派生 u

*34:同上, vat/vant で終わる形容詞 230.

*35:同上, 子音連声 33.

*36:同上, 一次派生 na

*37:同上, 動詞接頭辞 516. pari

*38:同上, 第五活用 377.

*39:同上, 格形副詞 532. 対格

*40:同上, 代名詞の派生語 347.

*41:同上, 受動完了分詞 451. (i)

*42:同上, 第一活用 371. (3)

*43:同上, 第三活用 374.