蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 104 (217. 218.)

217.

Yad aggato majjhato sesato vā

所の 最上より 中より 残りより 或は

piṇḍaṃ labhetha para-datt'ūpajīvī,

食を   得べし  他の施しで暮せる

nālanthutunno  pi nipacca-vādī,

否/飽きて/褒む事/否 又 落として言ふ

taṃ vāpi dhīra muniṃ vedayanti.

其を 或は/又 賢者等は 牟尼と 知る

(その最上より、中より、或ひは残りの物より食を得べかる、他の施しで暮し、飽きて褒むこと無く、また謗ること無き者、そを或ひはまた賢者らは牟尼と知る。)

他人から与えられたもので生活し、(容器の)上の部分からの食物、中ほどからの食物、残りの食物を得ても、(食を与えてくれた人を)ほめることもなく、またおとしめて罵ることもないならば、諸々の賢者は、かれを〈聖者〉であると知る。

 yad: ya の nom. sg. n.*1

  ya: pron. rel. 所のもの

 aggato: agga の abl. sg. m.

  agga: a. 第一, 最高, 最上, 首位, 頂点

 majjhato: majjha の abl. sg. m.

  majjha: a. m. 中の, 中間の, 現在の; 中正の道, 中国

 sesato: sesa の abl. sg. m.

  sesa: m. [sis*2-a] 残余, 余り

   √sis(a): [Sk. śiṣ] 傷つける, 区別する, 残しておく, 節約する

   -a: 名詞・形容詞を形成する*3

 : adv. conj. または, 或は

 piṇḍaṃ: piṇḍa の acc. sg.

  piṇḍa: m. 丸いもの, 球; 団食, 食物; 集団

 labhetha: labhati の opt. mid. sg.*4

  labhati: [√labh(a)] 得る

 para-datt'ūpajīvī: para-datt'ūpajīvin の nom. sg. m.*5

  para-datt'ūpajīvin: [para-datta-upajīvin*6] 他の施で生活する人

   para: a. 他の, 彼方の, 上の

   datta: a. [dadāti の pp.]*7 与えられたる

    dadāti: [√dā]*8 与える, 施す

   upajīvin: a. [upa-jīvin] 依存する, 依って生活する

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*9

    jīvin: a. [jīv-in] 生命ある, 生存する

     √jīv(a): 生命

     -in: 所有形容詞・名詞を形成する*10

 nālanthutunno: na + alaṃ*11 + thutuṃ*12 + no

  na: adv. なし

  alaṃ: indecl. 適当なる, 当然の, 十分に, 満足して, 沢山だ

  thutuṃ: thavati の inf.*13

   thavati: [√thu]*14 ほめる, 賞讃す

  no: =na  adv. なし

 pi: =api  adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 nipacca-vādī: nipacca-vādin の nom. sg. m.*15

  nipacca: nipatati の ger.*16

   nipatati: [ni-patati] 倒れる, 倒礼[五体投地]す, 集合す

    ni-: 外に, 前へ, 下に, 中に, 下方に, 中で, 下で*17

    patati: [√pat(a)] 落ちる, 倒れる

  vādin: a. [vad*18-in] 説者, 主張者, 論師

   √vad(a): 説く, 言う, 叫ぶ

 taṃ: ta の acc. sg. m.*19

  ta: pron. それ

 vāpi: vā + pi

  : adv. conj. または, 或は

  pi: =api  adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 dhīrā: dhīra の nom. pl.

  dhīra: a. m. [dhī-ra] 堅固な, 賢き, 賢者, 慧者, 英賢

   √dhī: 智, 知, 理解, 想像, 概念

   -ra: 名詞・形容詞を形成する*20

 muniṃ: muni の acc. sg.

  muni: m. [mun-i] 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人

   √mun(a): [Sk. muṇ] 誓約

   -i: 名詞・形容詞を形成する*21  

 vedayanti: vedayati の pl.*22

  vedayati: =vedeti  [vindati の caus.]*23 知る, 感受す, 経験す; 知らしめる

   vindati: [√vid(a)]*24 知る; 見出す, 所有す

 

218.

Muniṃ carantaṃ virataṃ methunasmā,

誓約せる 行ぜる 離れたる 淫欲の交わりより

yo yobbane na upanibajjhate kvaci,

所の 若きに 否  著すべし  誰かに

madappamādā virataṃ vippamuttaṃ,

驕慢の放逸より  離れたる  解脱せる

taṃ vāpi dhīra muniṃ vedayanti.

其を 或は/又 賢者等は 牟尼と 知る

(うら若き誰かに著すべかること無き者、誓約し、行じ、淫欲の交わりより離れ、驕慢の放逸より離れ、解脱せるその者を、或ひはまた賢者らは牟尼と知る。)

淫欲の交わりを断ち、いかなるうら若き女人にも心をとどめず、驕りまたは怠りを離れ、束縛から解脱している聖者──かれを諸々の賢者は(真の)〈聖者〉であると知る。

 muniṃ: muni の acc. sg.

 carantaṃ: carati の ppr. acc. sg. m.*25

  carati: [√car(a)] 行く, 行ず, 歩く

 virataṃ: virata の acc. sg. m.

  virata: a. [viramati の pp.]*26 離れたる, 慎しめる

   viramati: [vi-ramati] 離れる, 止める, 慎しむ

    vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*27

    ramati: [√ram(u)] 楽しむ, 喜ぶ

     √ram(u): 遊ぶ, 喜ぶ, 性交渉を持つ

 methunasmā: methuna の abl. sg.

  methuna: a. n. 婬, 婬欲, 行欲, 交会

 yo: ya の nom. sg. m.*28

 yobbane: yobbana の loc. sg.

  yobbana: n. 青年, 青春

 upanibajjhate: upanibajjhati の opt. sg.*29

  upanibajjhati: [upanibandhati の pass.]*30 執著す, 固着す

   upanibandhati: [upa-ni-bandhati] 固く結ぶ,執着する

    bandhati: [√badh(a)]*31 縛る, 結ぶ

 kvaci: =kuvaci  adv. [kva-ci] どこかに, どこででも

  kva: =kvaṃ, kuva, kuvaṃ  adv. どこに

  -ci: 疑問代名詞について不定代名詞を形成する*32

 madappamādā: madappamāda の abl. sg. m.

  madappamāda: [mada-pamāda*33] 憍の放逸

   mada: m. [mad-a] 憍, 憍慢, 慢心

    √mad(a): 迷妄, 等閑, 忘却, 驕慢

   pamāda: m. a. [pa-mad*34-a] 放逸, 放逸なる

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*35

 vippamuttaṃ: vippamutta の acc. sg. m.

  vippamutta: a. [vi-pamutta*36] 脱せる, 自由となれる

   pamutta: a. [pamuñcati の pp.]*37 脱せる, 自由になれる

    pamuñcati: [pa-muñcati] 脱す, 解脫す, 出す, 放つ; 捨つ, 自由にす

     muñcati: [√muc(a)]*38 脱す, のがれる, 自由になる, 放つ