219.
Aññāya lokaṃ paramattha-dassiṃ
了知して 世を 最高の真理を見ある
oghaṃ samuddaṃ atitariya tādiṃ,
暴流を 大海を 越え渡りて 其の如き
taṃ chinna-ganthaṃ asitaṃ anāsavaṃ
其を 結縛を断ちたる 捕われざる 無漏の
taṃ vāpi dhīrā muniṃ vedayanti.
其を 或は/又 賢者等は 牟尼と 知る
(世を了知し、最高の真理を見あり、暴流や大海を越え渡りたるその如き者、結縛を断ち捕らはること無き無漏の者、そを或ひはまた賢者らは牟尼と知る。)
世間をよく理解して、最高の真理を見、激流を超え海をわたったこのような人、束縛を破って、依存することなく、煩悩の汚れのない人、──諸々の賢者は、かれを〈聖者〉であると知る。
aññāya: [ā-ñā*1 の ger.]*2 了知して, 開悟して
ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*3
√ñā: =jñā, jā 知る
lokaṃ: loka の acc. sg.
loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界
√lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める
-a: 名詞・形容詞を形成する*4
paramattha-dassiṃ: paramattha-dassin の acc. sg. m.
paramattha: [paraṃ*5-attha] 勝義諦
paraṃ: adv. [para の acc.]*6 さらに, 後に, 越えて
para: a. [par-a] 他の, 彼方の, 上の
√par(a): [Sk. pṝ] 持ち越す, 渡す, (他所に)達する, 達成する, 能う
attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判
√atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求
dassin: a. [das-ya*7-in] 見ある, 認める
√das(i): [Sk. dṛś] 見る
-ya: 中性名詞を形成する*8
-in: 所有形容詞を形成する*9
oghaṃ: ogha の acc. sg.
ogha: m. 暴流, 流, 洪水
samuddaṃ: samudda の acc. sg.
samudda: m. [saṃ*10-uda] 海, 大海, 海洋
saṃ-: =sam- pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*11
uda: =udaka: n. 水
atitariya: atitarati の ger.*12
atitarati: [ati-tarati] すぎ渡る, 超える
ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*13
tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る
tādiṃ: tādi の acc. sg. m.
tādi: a. [ta*14-di] そのような
ta: pron. それ
-di: 類似を意味する形容詞を形成する*15
chinna-ganthaṃ: chinna-gantha の acc. sg. m.
chinna: a. [chindati の pp.]*16 切断されたる, 切られたる
chindati: [√chid]*17 切る, 断つ, 切断す
gantha: m. [ganth-a] 縛, 繋, 繋縛
√ganth(a): [Sk. granth] 繋縛
asitaṃ: asita の acc. sg. m.
asita: a. [a-sita] 依止せざる, 独立の
a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不
sita: a. [si の pp.]*18 依止せる, 依存せる
√si: 結縛, 捕縛
anāsavaṃ: anāsava の acc. sg.
anāsava: a. [an-āsava] 漏なき, 無漏の
an-: =a- pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる
āsava: m. [ā-su-a*19] 漏, 流漏, 煩悩, 酒
√su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る
taṃ: ta の acc. sg. m.*20
ta: pron. それ
vāpi: vā + pi
vā: adv. conj. または, 或は
pi: =api adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも
dhīrā: dhīra の nom. pl.
dhīra: a. m. [dhī-ra] 堅固な, 賢き, 賢者, 慧者, 英賢
√dhī: 智, 知, 理解, 想像, 概念
-ra: 名詞・形容詞を形成する*21
muniṃ: muni の acc. sg.
muni: m. [mun-i] 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人
√mun(a): [Sk. muṇ] 誓約
-i: 名詞・形容詞を形成する*22
vedayanti: vedayati の pl.*23
vedayati: =vedeti [vindati の caus.]*24 知る, 感受す, 経験す; 知らしめる
vindati: [√vid(a)]*25 知る; 見出す, 所有す
220.
Asamā ubho dūra-vihāra-vuttino:
不等の 両者は 離れて暮らせる
gihi dāra-posī amamo ca subbato,
在家者は 妻を養へる 己が物無き 又 善行者は
para-pāṇa-rodhāya gihī asaññato,
他の生類の障碍を 在家者は 抑制せざる
niccaṃ munī rakkhati pāṇino yato.
常に 牟尼は 守る 生類を 其により
(離れ暮す両者は等しからず。在家者は妻を養へど、よく戒を守れる者は己が物とすること無し。在家者は他の生類の障碍を抑制すること無く、牟尼は常に抑制して生類を守る。)
両者は住所も生活も隔たっていて、等しくない。在家者は妻を養うが、よく誓戒を守るもの(主家者)は何物をもわがものとみなす執著がない。在家者は、他のものの命を害って、節制することがないが、聖者は自制していて、常に命ある物を守る。
asamā: asama の nom. pl. m.
asama: a. [a-sama] 無等の, 等しからざる
sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき
ubho: ubha の nom. dual.*26
ubha: pron. 両者
dūra-vihāra-vuttino: dūra-vihāra-vutti の nom. pl. m.*27
dūra-vihāra: 遠住
dūra: a. 遠き, 遠隔の
vihāra: m. [vi-har*28-a] 住, 住法; 精舎, 住処, 寺, 僧房
vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*29
√har(a): ある, 存在す
vuttin: =vuttika a. [vutti*30-in] 行為する, 生活する
vutti: f. [vu-ti*31] 行為, 生活, 慣習, やり方, 生活法
√vu: [Sk. vṛ] 抑制する, まもる, 行なう, 選択する
-ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*32
gihi: =gihī*33 nom. sg.
gihī: m. 家人, 在家信者
dāra-posī: dāra-posin の nom. sg. m.
dāra: m. 妻, 若い女
posin: a. [pus*34-in] 養育する, 被養の
√pus(a): [Sk. puṣ] 養育
-in: 所有形容詞・名詞を形成する*35
amamo: amama の nom. sg. m.
amama: a. [a-mama] 無我所の, 我執なき
mama: ahaṃ の gen. sg.*36 私の, 私のもの, 我所
ca: conj. と, そして, また
subbato: subbata の nom. sg. m.
subbata: a. m. [su-vata*37] 善行者, 善務者
su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて
vata: =bata m. n. 禁戒, 誓戒; [vatta と混用] 儀法, 善行, 浄行
para-pāṇa-rodhāya: para-pāṇa-rodha の dat. sg.*38
para-pāṇa: 他の生物
pāṇa: m. [pa-an*39-a] 生物, 有情, 生類, 生命
pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*40
√an(a): 呼吸する, 動き回る, 生きる
rodha: m. [rudh*41-a] 障碍, 停止, 止滅
√rudh(i): 妨げる, 止める, 逆らう, 維持する, 閉ざす, 包囲する
asaññato: asaññata の nom. sg. m.
asaññata: a. [a-saññata] 無制御の, 無抑制の
saññata: =saṃyata a. [saṃyamati の pp.]*42 抑制せる, 制御せる, 自制せる
saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す
yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す
niccaṃ: adv. [nicca の acc.]*43 常に
nicca: a. 常の, 常住の
munī: =muni nom. sg.
rakkhati: [√rakkh(a)] 護る, 守る, 守護す
pāṇino: pāṇin の dat. sg. m.*44
pāṇin: a. [pāṇa-in] 生命ある, 生物
yato: adv. [ya の abl.] そこから, なるが故に, 何となれば
ya: pron. rel. 所のもの