蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 105 (219. 220.)

219.

Aññāya lokaṃ paramattha-dassiṃ

了知して 世を 最高の真理を見ある

oghaṃ samuddaṃ atitariya tādiṃ,

暴流を  大海を  越え渡りて 其の如き

taṃ chinna-ganthaṃ asitaṃ anāsavaṃ

其を 結縛を断ちたる 捕われざる 無漏の

taṃ vāpi dhīrā muniṃ vedayanti.

其を 或は/又 賢者等は 牟尼と 知る

(世を了知し、最高の真理を見あり、暴流や大海を越え渡りたるその如き者、結縛を断ち捕らはること無き無漏の者、そを或ひはまた賢者らは牟尼と知る。)

世間をよく理解して、最高の真理を見、激流を超え海をわたったこのような人、束縛を破って、依存することなく、煩悩の汚れのない人、──諸々の賢者は、かれを〈聖者〉であると知る。

 aññāya: [ā-ñā*1 の ger.]*2 了知して, 開悟して

  ā-: pref. へ, で, に向かって, の近くに, までに, の限り, から離れて, じゅうに*3

  √ñā: =jñā, jā  知る

 lokaṃ: loka の acc. sg.

  loka: m. [lok-a] 世, 世間, 世界

   √lok(a): 見る, 知る, 輝く, 求める

   -a: 名詞・形容詞を形成する*4

 paramattha-dassiṃ: paramattha-dassin の acc. sg. m.

  paramattha: [paraṃ*5-attha] 勝義諦

   paraṃ: adv. [para の acc.]*6 さらに, 後に, 越えて

    para: a. [par-a] 他の, 彼方の, 上の

     √par(a): [Sk. pṝ] 持ち越す, 渡す, (他所に)達する, 達成する, 能う

   attha: m. n. [atth-a] 義, 利益, 道理, 意味, 必要, 裁判

    √atth(a): [Sk. arth] 目的, 願望, 欲望, 義, 手段, 意味, 物, 事, 利益, 乞求

  dassin: a. [das-ya*7-in] 見ある, 認める

   √das(i): [Sk. dṛś] 見る

   -ya: 中性名詞を形成する*8

   -in: 所有形容詞を形成する*9

 oghaṃ: ogha の acc. sg.

  ogha: m. 暴流, 流, 洪水

 samuddaṃ: samudda の acc. sg.

  samudda: m. [saṃ*10-uda] 海, 大海, 海洋

   saṃ-: =sam-  pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*11

   uda: =udaka: n. 水

 atitariya: atitarati の ger.*12

  atitarati: [ati-tarati] すぎ渡る, 超える

   ati-: pref. 超えて, 横切って, 上に, 過ぎ去って, 非常に, とても (超過を表す)*13

   tarati: [√tar(a), Sk. tṛ] 渡る, 度脱す, こえる, 横切る

 tādiṃ: tādi の acc. sg. m.

  tādi: a. [ta*14-di] そのような

   ta: pron. それ

   -di: 類似を意味する形容詞を形成する*15

 chinna-ganthaṃ: chinna-gantha の acc. sg. m.

  chinna: a. [chindati の pp.]*16 切断されたる, 切られたる

   chindati: [√chid]*17 切る, 断つ, 切断す

  gantha: m. [ganth-a] 縛, 繋, 繋縛

   √ganth(a): [Sk. granth] 繋縛

 asitaṃ: asita の acc. sg. m.

  asita: a. [a-sita] 依止せざる, 独立の

   a-: pref. 否定を示す. 無, 非, 不

   sita: a. [si の pp.]*18 依止せる, 依存せる

    √si: 結縛, 捕縛

 anāsavaṃ: anāsava の acc. sg.

  anāsava: a. [an-āsava] 漏なき, 無漏の

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   āsava: m. [ā-su-a*19] 漏, 流漏, 煩悩, 酒

    √su: [Sk. sru] 流れる, 流れ出る

 taṃ: ta の acc. sg. m.*20

  ta: pron. それ

 vāpi: vā + pi

  : adv. conj. または, 或は

  pi: =api  adv. conj. も, 亦, いえども, けれども, たとい~でも

 dhīrā: dhīra の nom. pl.

  dhīra: a. m. [dhī-ra] 堅固な, 賢き, 賢者, 慧者, 英賢

   √dhī: 智, 知, 理解, 想像, 概念

   -ra: 名詞・形容詞を形成する*21

 muniṃ: muni の acc. sg.

  muni: m. [mun-i] 牟尼, 寂黙, 黙者, 賢人

   √mun(a): [Sk. muṇ] 誓約

   -i: 名詞・形容詞を形成する*22  

 vedayanti: vedayati の pl.*23

  vedayati: =vedeti  [vindati の caus.]*24 知る, 感受す, 経験す; 知らしめる

   vindati: [√vid(a)]*25 知る; 見出す, 所有す

 

220.

Asamā ubho dūra-vihāra-vuttino:

不等の 両者は  離れて暮らせる

gihi  dāra-posī amamo ca subbato,

在家者は 妻を養へる 己が物無き 又 善行者は

para-pāṇa-rodhāya gihī asaññato,

他の生類の障碍を 在家者は 抑制せざる

niccaṃ munī rakkhati pāṇino yato.

常に  牟尼は 守る  生類を 其により

(離れ暮す両者は等しからず。在家者は妻を養へど、よく戒を守れる者は己が物とすること無し。在家者は他の生類の障碍を抑制すること無く、牟尼は常に抑制して生類を守る。)

両者は住所も生活も隔たっていて、等しくない。在家者は妻を養うが、よく誓戒を守るもの(主家者)は何物をもわがものとみなす執著がない。在家者は、他のものの命を害って、節制することがないが、聖者は自制していて、常に命ある物を守る。

 asamā: asama の nom. pl. m.

  asama: a. [a-sama] 無等の, 等しからざる

   sama: a. 同じ, 同ーの, 平等の, 正しき, まさしき

 ubho: ubha の nom. dual.*26

  ubha: pron. 両者

 dūra-vihāra-vuttino: dūra-vihāra-vutti の nom. pl. m.*27

  dūra-vihāra: 遠住

   dūra: a. 遠き, 遠隔の

   vihāra: m. [vi-har*28-a] 住, 住法; 精舎, 住処, 寺, 僧房

    vi-: pref. ばらばらに, 離れて, ~なしに. 分離, 相違, 分散を意味する. 強意*29

    √har(a): ある, 存在す

  vuttin: =vuttika  a. [vutti*30-in] 行為する, 生活する

   vutti: f. [vu-ti*31] 行為, 生活, 慣習, やり方, 生活法

    √vu: [Sk. vṛ] 抑制する, まもる, 行なう, 選択する

    -ti: 女性動作・動作主名詞を形成する*32

 gihi: =gihī*33  nom. sg.

  gihī: m. 家人, 在家信者

 dāra-posī: dāra-posin の nom. sg. m.

  dāra: m. 妻, 若い女

  posin: a. [pus*34-in] 養育する, 被養の

   √pus(a): [Sk. puṣ] 養育

   -in: 所有形容詞・名詞を形成する*35

 amamo: amama の nom. sg. m.

  amama: a. [a-mama] 無我所の, 我執なき

   mama: ahaṃ の gen. sg.*36 私の, 私のもの, 我所

 ca: conj. と, そして, また

 subbato: subbata の nom. sg. m.

  subbata: a. m. [su-vata*37] 善行者, 善務者

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   vata: =bata  m. n. 禁戒, 誓戒; [vatta と混用] 儀法, 善行, 浄行

 para-pāṇa-rodhāya: para-pāṇa-rodha の dat. sg.*38

  para-pāṇa: 他の生物

   pāṇa: m. [pa-an*39-a] 生物, 有情, 生類, 生命

    pa-: pref. 前に, 先に, 強意. 始動を意味する*40

    √an(a): 呼吸する, 動き回る, 生きる

  rodha: m. [rudh*41-a] 障碍, 停止, 止滅

   √rudh(i): 妨げる, 止める, 逆らう, 維持する, 閉ざす, 包囲する

 asaññato: asaññata の nom. sg. m.

  asaññata: a. [a-saññata] 無制御の, 無抑制の

   saññata: =saṃyata  a. [saṃyamati の pp.]*42 抑制せる, 制御せる, 自制せる

    saṃyamati: [saṃ-yamati] 抑制す, 自制す

     yamati: [√yam(u)] 自制す, 抑制す

 niccaṃ: adv. [nicca の acc.]*43 常に

  nicca: a. 常の, 常住の

 munī: =muni  nom. sg.

 rakkhati: [√rakkh(a)] 護る, 守る, 守護す

 pāṇino: pāṇin の dat. sg. m.*44

  pāṇin: a. [pāṇa-in] 生命ある, 生物

 yato: adv. [ya の abl.] そこから, なるが故に, 何となれば

  ya: pron. rel. 所のもの