蓮華草のブログ

ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫)

スッタニパータで学ぶパーリ語 125 (261-263.)

261.

Bāhusaccañ ca sippañ ca vinayo ca susikkhito

有識     又  技  又 慎み 又 善く学び得たる

subhāsitā  ca yā vācā, etaṃ maṅgalamuttamaṃ.

善く説かれたる 又 所の 語 是が 吉祥/上無き

(また有識(いうそく)、また技あること、またよくもて付きし慎み、またことばのよく説かれたること、これが上(かみ)無き吉祥なり。)

深い学識あり、技術を身につけ、身をつつしむことをよく学び、ことばがみごとであること──これがこよなき幸せである。

 bāhusaccañ: =bāhusaccaṃ*1

  bāhusaccaṃ: bāhusacca の nom. sg.

   bāhusacca: n. [bahu*2-suta-ya] 多聞, 博識

    bahu: a. 多くの, 多の

    suta: a. n. [suṇāti の pp.]*3 聞ける, 所聞, 聞, 天啓, ヴェーダ, 博聞

     suṇāti: [√su, Sk. śru]*4 聞く, 聴く

    -ya: 主に中性抽象名詞を形成する*5

 ca: conj. と, そして, また

 sippañ: =sippaṃ*6

  sippaṃ: sippa の nom. sg.

   sippa: n. [<sil] 技術, 技芸, 工巧, 職技; 職人

    √sil(a): [Sk. śil] 芸術, 技術, 創意, 創造, 賢明, 仕事, 労働, 儀式

 vinayo: vinaya の nom. sg.

  vinaya: m. [vi-nī-a*7] 調伏, 律, 毘尼, 毘奈耶, 律蔵

   vi-: 語根の意味を強調する*8

   √: 導く, 運ぶ, 治める, 統治する

   -a: 名詞・形容詞を形成する*9

 susikkhito: susikkhita の nom. sg. m.

  susikkhita: a. [su-sikkhita] 善く学べる

   su-: pref. よき, 善き, 良き, 妙(たえ)なる, 易き, 極めて

   sikkhita: a. [sikkhati の pp.]*10 学べる, 教わった

    sikkhati: [√sikkh(a)] 学ぶ, 学得す

 subhāsitā: subhāsita の nom. pl. m.

  subhāsita: a. [su-bhāsita] 善く説かれた, 善語

   bhāsita: a. n. [bhāsati の pp.]*11 語れる, 言える, 説ける; 言説, 所説

    bhāsati: [√bhās(u), Sk. bhāṣ] 話す, 語る, 言う; 照る, 輝く

 : ya の nom. sg. f.*12

  ya: pron. rel. 所のもの

 vācā: f. [vac*13-ā] 語, 言

  √vac(a): 言う, 話す, 示す

  : 女性名詞を形成する*14

 etaṃ: eta の nom. sg. n.*15

  eta: pron. a. これ, それ

 maṅgalamuttamaṃ: maṅgalaṃ*16 + uttamaṃ

  maṅgalaṃ: maṅgala の nom. sg.

   maṅgala: a. n. [maṅg-a-la] 吉祥の, 吉瑞の, 瑞祥, 祝祭, 祝典, 吉凶判断

    √maṅg: 行く, 動く, 美しく見える

    -la: 形容詞・名詞を形成する*17

  uttamaṃ: uttama の nom. sg. n.

   uttama: a. [ud の最上級*18] 最上の, 最高の

    ud-: pref. 上方に, 上に, 昇って, 前へ*19

 

262.

Mātā-pitu-upaṭṭhānaṃ putta-dārassa saṅgaho

父母に仕ふる事       妻子の     愛護

anākulā ca kammantā, etaṃ maṅgalamuttamaṃ.

混乱無き 又  業    是が 吉祥/上無き

(父母に仕ふること、妻子の愛護、また混乱無き業、これが上無き吉祥なり。)

父母につかえること、妻子を愛し護ること、仕事に秩序あり混乱せぬこと、──これがこよなき幸せである。

 mātā-pitu-upaṭṭhānaṃ: mātā-pitu-upaṭṭhāna の nom. sg.

  mātā: mātar の nom. sg.*20

   mātar: f. 母

   pitu: =pitar  m. 父, 父祖

   upaṭṭhāna: n. [upa-thā*21-na] 奉仕, 給仕, 隨侍, 看病, 現起

    upa-: pref. ~に, ~に向かって, 近くに, ~と一緒に, ~のそばで, ~のように,  ~まで, (apa と逆に)下に, 少なく*22

    √thā: [Sk. sthā] 立つ, 立ち止まる, 存在する, ある状態でいる

    -na: 名詞を形成する*23

 putta-dārassa: putta-dāra の gen. sg.

  putta: m. 子, 子息; 男児

  dāra: m. 妻, 若い女

 saṅgaho: saṅgaha の nom. sg.

  saṅgaha: m. [saṃ*24-gah-a] 摂, 摂取, 愛護, 聚会, 結集, 輯録, 蔵外の書

   saṃ-: pref. 共に, 沿って, 充分に, 完全に. 強意*25

   √gah(a): [Sk. gṛh] 取る, 受け入れる, 捕まえる, 奪う

 anākulā: anākula の nom. pl. m.

  anākula: a. [an-ākula] 混乱なき, 悩乱なき

   an-: =a-  pref. 否定を示す. 無, 非, 不. 母音の前では an となる

   ākula: a. 混乱せる

 kammantā: kammanta の nom. pl.

  kammanta: m. [kamma*26-anta] 業, 作業, 事業, 家業, 職業, 産業, 業務

   kamma: n. [kar*27-ma] 業, 行為, 作業, 家業, 羯磨, 儀式

    √kar(a): [Sk. kṛ] 為す, 作す, 成す

    -ma: 抽象名詞, 動作主名詞, 形容詞を形成する*28

   anta: m. 終極, 目的, 極限, 辺, 極端

 

263.

Dānañ ca dhamma-cariyā ca ñāta-kānañ ca saṅgaho

施与  又   法行    又  親族の  又  愛護

anavajjāni kammāni, etaṃ maṅgalamuttamaṃ.

不可非難の  行ひ   是が 吉祥/上無き

(また施与、また如法の行ひ、また親族の愛護、また難ぜらるべからざる行ひ、これが上無き吉祥なり。)

施与と、理法にかなった行いと、親族を愛し護ることと、非難を受けない行為、──これがこよなき幸せである。

 dānañ: =dānaṃ*29

  dānaṃ: dāna の nom. sg.

   dāna: n. [dā-na] 施, 布施, 施与

    √: 施与

 dhamma-cariyā: 法行  nom. sg.

  dhamma: [dhar*30-ma] m. n. 法, 教法, 真理, 正義

   √dhar(a): [Sk. dhṛ] 持す

  cariyā: f. [<car] 行, 行為, 所行

   √car(a): 行く, 動く, 彷徨う, 行ず

 ñāta-kānañ: =ñāta-kānaṃ*31

  ñātakānaṃ: ñātaka の gen. pl.

   ñātaka: m. [ñāta-ka] 親族, 親戚, 親類

    ñāta: a. [ñā の pp.]*32 知られた, 有名な, 理解する

     √ñā: 知る

    -ka: 名詞・形容詞を形成する*33

 anavajjāni: anavajja の nom. pl. n.

  anavajja: a. [an-avajja] 無罪の, 無過の

   avajja: a. n. 罪の, 非難さるべき, 罪, 過失

 kammāni: kamma の nom. pl